fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~ 作:七草探偵事務所
ロマニ・アーキマンは、とにかく急いでいた。
御年26歳。まだまだ若い自負はあるけれど、25を超えたあたりで
この事件が始まって、はや半年を経ようとしている。あと数日で年を超え、2016年を迎えようとしている。
この半年の間、常に考えていたことがある。国際医師免許を持つ身として当然の矜持として思考しながら、人間になってからというのもついぞ臆病に身構え逃避していた、その現実。その現実と、向かい合う時が、来たのだ。
途中、血相を変えてのたのた走る姿にぎょっとするスタッフを脇目に、やっとこさ彼は辿り着いた。
扉の前に、見知った顔。医務係として詰める看護師も、疲労困憊のロマニの姿を認めるや、ぎゃあぎゃあと喚きながら、早く来いとジェスチャーしている。
結局は扉の前で派手にすっころんで頭頂部を強打しながら、ロマニはゾンビみたいに這いずっていく。看護師に脇を抱えられて立ち上がったロマニは、自動ドアに張り付けてある取っ手を引いた。べり、と両面テープが剥がれる情けない音が耳朶に触れる。
デスク上のモニターを一瞥する。使用登録が済んでいるのは3床。内、2床は今も健気にバイタルデータを拾っていて、2人が目を覚まさない以外は健康であることを示している。
残り1床。バイタルデータ途絶を示す赤いポップアップが立ち上がり、警告表示を示していた。
思わず、たじろいだ。ロマニ・アーキマンの目は既にその現実を直視していた。
医務室のエアーコントロールが人感センサーに従って、微かに風を強くする。漏れた微風に揺れて、間仕切りのカーテンが撓んだ。
LEDライトから降り注ぐ光を逆光に、白いカーテンにシルエットを刻む人の影。
身動ぎした人影は、恐る恐る、と、カーテンをあけた。
ロマニ・アーキマンは生来からして感情の動きに対する耐性が無いに等しかったので、その時は声を発することすらままならなかった。ただ、やっとこさ理解し始めた現実を飲み込み始めた。
彼女の名を呼んだのは、看護部長を務めていたスタッフだった。
はい、と応える栗色の髪の彼女。彼女もまだ処理しきれない感情にたじろぎながら、ぎこちなく、恥ずかし気に、えくぼを作ってはにかんだ。
※
「うん。終わった。私の出番はなかったよ。リップがいるなんて聞いてなかったけど……そう、最初の時の。そそっかしいんじゃあないかな。じゃあ、リップも連れていくってことでいいのかな。うん、わかった。
ティアマトはまだ大丈夫? そう、よかった。早く探してあげないと」
……終焉の炎に焼かれ、崩落する監獄の最中。
「じゃあ、急ぐね」
蠢く混沌は、静かに、
「BB」
これにて断章Ⅱ終幕です。
以前4章最終話の際に「5章までは大分かかりそう」と申し上げておりました。一応5章前半はほぼ書き終わったので、投稿しようと思えばできる段階には入っております。ただ5章中編・後編書き終わってから投稿したいという気分なので、時間はかかってくるかなと思います。
万が一エタらざるを得ない事由が発生した場合には観切りで5章前半だけの投稿とかもあるかもしれませんが、ともかく気長にお待ちいただけたら幸いです。
それでは、改めて5章でお会いできるのを楽しみにしております。