fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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御形サンから改めて擦り合わせのため、トウマ君とリツカさんのキャライメージが送られてきました。

某宇宙的恐怖TRPGのキャラシートで。

なんでさ


鬱金香は赤に咲く

「敵、じゃあないみたいよ?」

開口一番が、それだった。

クロに引き連れられて現れたセイバーのサーヴァント。砂金のような長い髪に華やかな風采の人物は、丁寧にも頭を下げた。

「まぁ、貴方は」

「知ってる人、マリア?」

「ええ、知古―――というわけではありませんが、よく知る人物です。そうでしょう、シュヴァリエ・デオン?」

「覚えておいででしたか。光栄です、王妃」

粛然と、デオンと呼ばれたサーヴァントは片膝をついた。厳かながら自然な振舞は、騎士という言葉に相応しいものに思えた。

しかし―――また、知らないサーヴァントだな、と思った。それに、シュヴァリエ・デオン―――よくわからない。

《18世紀フランスの外交官、ね。スパイだったりもしたみたいよ。解剖学上は男性だけれど、内面性は女性であると主張した人物としても有名かしら》

《いわゆるLGBT―――ってもの、かな》

《まぁ、多分? マリーとは活躍時期がズレてるけど、面識はあったみたいね》

マリーの知り合い、ということはフランス革命前後の人物というわけだ。温和そうな見た目ながら、外交官・スパイであった、ということは、相当なキレ者、なのだろうか。トウマは、まじまじとデオンを見つめた。

「私の顔に、何か?」

「え、いや、なんでも」

「ふふ。貴方が綺麗だから見惚れてしまったのでしょう、トーマ?」

トウマは照れるように赤面した。端的に、彼はそういうことに慣れていなかった。涼しい顔でトウマを見つめ返すデオンとは、対照的だった。

「貴方も召喚されていたのね、デオン。心強いわ」

マリーがデオンの手を差し出す。親愛に満ちた彼女の手に対して、しかし、デオンは首を横に振った。

「王妃。残念ながら、私は、あの黒い魔女のサーヴァントなのです」

不意に、空気が凍りつく。デオンの背に立っていたクロはすかさず双剣を投影し、剣の切っ先をその背に向けた。

黒いジャンヌ・ダルクが召喚したサーヴァント。即ち、あの場に居た最後の1騎、ということだろう。ならば言うまでもなく、デオンは、敵だ。

「ならどうしてノコノコ出てきたのかしら? 貴方一人で、私たちを倒せるってわけ?」

「赤い双剣使い、確かに私はあなた方の味方ではないが―――また、敵ではないんだ」

「ふぅん―――身体は支配されても心までは差し出さない、ってこと?」

クロは黒い剣を向けながら、品定めするようにデオンの背を睨みつける。何か不審な動きを見せれば、すぐさま背に剣を突き立てるだろう。そう思わせるだけの鋭い視線だった。

だが、デオンはクロの視線に動じる気配は無い。外交官として生きた彼あるいは彼女にとって、威圧的な視線はむしろ日常のものだった・

「いい譬えをするね、君は。君の言う通り、私は、あなた方に情報を持ってきました。黒いジャンヌの戦力と―――そして、それに対抗しうるサーヴァントの情報を」

 

 

 

 

「つまり、敵のサーヴァントの総数は―――現状、6騎と」

「そうです。先ほど居合わせた5騎―――私とエリザベート、酒呑童子、佐々木小次郎、そしてジャンヌ・ダルク。そしてオルレアンに1騎、バーサーカーのサーヴァント―――湖の騎士ランスロットの6騎です。本来はアーチャー―――アルゴノーツの勇士、麗しのアタランテも居たのですが、彼女は、耐えきれなくなった。我らに反旗を翻し―――既に、討ち取られています」

淡々と、デオンは語る。見ほれるような美貌にも関わらず、知悉を感じさせるその語り口調は、流石に外交官として戦ってきただけのことはある、と思わせるものだった。

それにしても、デオンのもたらした情報は、トウマには眩暈のするものだった。

先ほどの5騎だけでも強大だというのに、さらにもう1騎までいる。しかも、あのランスロット、だ。

【聖者の数字】発動下のガウェインすら打倒し得る、当代随一の武芸者にのみ付与される【無窮の武練】だけでも強力だが、さらにその宝具―――『騎士は徒手にして死せず(ナイト・オブ・オーナー)』が組み合わさることで、その強力さは底抜けだ。手に持ったあらゆる武具を宝具にし、己のものとする宝具―――間違いなく、クロの、天敵だ。奥の手の『無毀なる湖光(アロンダイト)』も含め、自陣営でこれに対抗しうるサーヴァントが、果たして存在するのか。トウマはただ、途方に暮れた。

「そして―――邪竜、ファブニールと」

続くリツカの声に、デオンは、無言で頷いた。

黒いジャンヌの勢力は、サーヴァント6騎だけではない。それに加え、幻想種の頂点に君臨する竜種の中でもさらに強力なファブニールを従えている―――それが、デオンのもたらした情報の全容だった。

ファブニール。最早説明すら不要の存在、だろう。かの英雄ジークフリートをして、どうやって勝ったかすら覚えていないという強力無比な存在。ただでさえ強力なサーヴァントたちに加え、そんな化け物がいて、勝ち目などあるのだろうか。ただただ困惑したトウマはリツカの顔を伺ったが、彼女も、ただ眉を顰めるばかりだった。

少なからず、今自分たちが有する戦力では、勝ち目がない。そんな認識に至ったのか、リツカは、ふう、と脱力するように溜息を吐いた。

「それで、対抗しうるサーヴァント、というのは?」

「簡単な話さ。邪竜ファブニールを討つに足る英雄は、聖女でも、貴人でもない。竜を打ち倒すのは“竜殺し(ドラゴンスレイヤー)”、と相場は決まっているだろう?」

「それって、まさか」

思わず、トウマは身を乗り出した。蛇のように抜け目ない不敵な笑みを浮かべたデオンは、意味深に頷いた。

「そのまさかさ。このフランスの地に、かの大英雄ジークフリートが召喚されている」

肌が、粟立った。

Fate/Apocryphaに登場する黒のセイバー。決して本人の登場回数は多くなかったけれど、あのカルナを相手に一歩も引かない強さは間違いなく本物だ。

「まぁ、トーマはその英雄様とお知り合いなのかしら?」

「え゛っ」

「だって、とっても嬉しそうですもの」

にこり、とマリーが笑顔を浮かべた。悪意など微塵もない笑みだった。

《ちょっと、トーマ》

じとり、とクロが睨みつけてくる。トウマが、いわゆる『諸々の知識』を持っていることは基本、秘匿情報だった。

「いや、その―――ほら、まぁ、有名じゃないですカ?」

「そうなの?」

「はい。リヒャルト・ワーグナーの『ニーベルンゲンの指輪』はとても有名です。タチバナ先輩の故郷の日本でも、文庫本が出版されていたりしますよ」

「アニメのキャラクター名で使われたりもするしね。日本なら有名じゃない?」

熱心に説明するマシュに対し、さらりとクロは付け加えた。なんとなくクロを見るのが怖く、トウマは見ないようにした。

「ふぅん? 知識として未来のことは知っていますけれど、やっぱりどうしても実感は無いのですよね。ねぇ、ジャンヌ?」

「え? えぇ、まぁそうですね」

ジャンヌは、曖昧に返事をした。

トウマは、なんだかそんなジャンヌの素振りが、奇妙だった。英霊の座に記憶の持越しはない。あるいは記憶でなく記録としての持ち込みでしかないのなら、彼女にとって、あの聖杯大戦の記憶は小説の1ページほどの感慨しかないのだろうか? そもそも、この時間は聖杯大戦より前なのだろうか、後なのだろうか?

「ところで」リツカは、わざとらしく咳払いをした。「その、ジークフリートが居る場所は?」

「リヨン。かつてリヨンと呼ばれた都市に彼の英雄は居る」

そう、とリツカは頷いた。手慰みに鼻頭を撫でながら、リツカは思案気に虚空を眺めた。

それも、1秒。僅かな思案の後、リツカはデオンを見返した。

「わかった。リヨンに行こう」

リツカの視線に、デオンも頷きを返す。穏やかなながら油断ならないその微笑が、妙に、トウマの脳裏に焼き付いた。

「あぁ―――それと、もう一つ、お伝えすることが」

 

 

 

 

「―――以上です、竜の魔女よ。彼の者たちはリヨンに向かいました。ジークフリートを求めて合流する手筈となっています」

「そう。ご苦労様、シュヴァリエ・デオン?」

片膝をついたまま、デオンは顔を上げた。玉座に鎮座する冷たい肌の魔女の目がぶつかったが、彼あるいは彼女は、その視線を真正面から見据えた。

「貴方のその目は私の好みです。高きものを敬いながら、それでいて大胆不敵なその目。そうして寝首をかいてきたのでしょう? 私も気を付けないと、どんな目に合うかわかりませんね?」

「お戯れを。それとも我が忠誠に曇りなきこと、再び示す必要がおありでしょうか?」

「いいえ、不要です。未だ勝手のわからぬ私の代わりにオルレアンを攻め滅ぼし、シャルル7世の首を刎ねた貴方のことは、とても信頼していますよ?」

黒衣のジャンヌは、愉快そうに嗤った。デオンも涼しく応じると、立ち上がった。

「リヨン、か。確か、あの仮面の暗殺者(アサシン)ごと、そなたが滅ぼした街であったな?」

「なぁにその言い方。人を暴漢みたいに、酷い人やねぇ、小次郎はんは。ぎょうさん分裂するから、ちょっと遊んでみただけやないの。 勝手に壊れてまう方が悪いと思わん?」

背後から、2人の声が耳朶を打った。

振り返るまでもない。【気配遮断】に極めて近似したスキルにより、セイバーの身でありながら音も無く忍び寄る剣士。そしてバーサーカーの身でありながら、風雅さすら感じさせる声。佐々木小次郎と、酒呑童子だ。

「貴方たちはオルレアンで待機です。まだ傷は癒えていないのでしょう? 今回は、湖の騎士とエリザベートに出てもらいます。

それと、と付け加えたジャンヌは、大儀そうに玉座から立ち上がった。どこからともなく現れた闇夜が外套に代わり、彼女の痩躯を覆った。

「彼の竜を出します。ここで、彼らを諸ともに滅ぼしましょう―――そして、主へと高らかな凱歌を捧げましょう!」

 

 

 

 

 

 

その街に、影が居た。

全身を外套に覆った、黒い剣士。亡霊のようなサーヴァントは、粉々に打ち砕かれた街に、佇んでいた。

既に闇夜の落ちた街を、するするとサーヴァントは闊歩する。人間が殺し尽くされた街は酷く静かで、音も無い亡霊の僅かな足音すら聞こえてくるようだった。

破壊の後からして、サーヴァント同士の戦闘が行われたのは自明。しかも、複数騎が入り乱れての戦闘だった。戦闘の趨勢は片方が劣勢で、だが上手く逃げおおせた―――といったところだろうか。

黒い剣士はそこまで理解しかけたところで、ふと足を止めた。

月光を何かが反射させた。

何故か、それは気になった。気になって、剣士は思わずその光の下に這い寄った。

―――剣、だった。瓦礫の中に、剣が埋もれていた。

剣士は、奇妙に身動ぎした。狼狽えるように身動ぎしながらも、それを、そっと手に取った。

質朴と洗練が同居する、名剣だった。およそ刃毀れを知らぬその剣の名を、剣士は、知っていた。

「何か見つけた?」

不意に、声が耳朶を叩いた。

振り返ると、黒い服の少女が立っていた。脱色したかのような白髪に、褐色の肌の少女は、無邪気な無表情をうっすらと浮かべていた。

「あのアーチャーの魔術。投影、だったかな。随分マイナーな魔術を使う」

傍に立った少女は男の持つ剣を品定めすると、ふぅん、と鼻を鳴らした。

「魔術師、というより異能の類か」

酷く素っ気なく言う。剣から興味を失った少女は、噴水の縁へと座り込んだ。

「いいよ、そんな畏まらなくて」少女は酷く呑気に言った。「まだ一番目だし。まだ、よくわからないことばかりだから」




タイトルの鬱金香は"うこんこう"と読みます。チューリップですね。かっこつけました。
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