fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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土曜日更新、最近間に合っておらず申し訳ありません……


窮兎、竜を噛む

「酒呑童子は問題ありませんね。ランスロットは押され気味ですか。まぁ大丈夫でしょう、まだ切り札は切っていないようですし。あの生意気なガキ一匹、すぐに始末できるでしょうね」

ジャンヌ・ダルクは、歌うように言った。塗り固めた蝋のような肌に、琥珀のような目のジャンヌ・ダルクは、酷く楽し気に見えた。

「そして貴方。私の残りカスとして召喚されたに過ぎない目糞鼻糞。私が貴方を殺して、外の陽動の連中もファヴニールが焼き殺せば全てが完了します。この人理は崩壊し、主の御心を損なう人類(馬鹿ども)は残らず死滅する。主の嘆きは、ここに癒されるのですよ」

変わらず、ジャンヌ・ダルクは楽しげだった。大手を振るって見せる仕草は酷く芝居がかり、愉悦に歪む顔は道化師(ピエロ)めいていた。

「―――最初、私はよくわからなかったのです」

ぴくりと、ジャンヌ・ダルクの身体が硬直した。ジャンヌはそんな黒衣の聖女を見据えながらも、彼女には、戦う意思のようなものは一切なかった。

「冒涜的な言葉を繰り返す貴方を、私は理解できなかった。私の皮を被る何者かが黒幕に違いない、とも思いました。ですが違う。貴方の言葉は確かに冒涜的ですが、そこに主を謗る言葉は無い。むしろ貴女は、主の御心に応えようとしていました。貴女は、深く主を愛しておられますね?」

「黙れ」

「私にはその在り方が理解できませんでした。今でも完全に理解できているとは思えません。ですが! ()()()。その在り方を、この心で理解できました」

「黙れ!」

「黒衣の聖女、竜の魔女。貴女は、ジャンヌ・ダルク(わたし)別側面(オルタナティブ)ですね?」

「黙れっつってんのが聞こえねぇのかハナクソ女が!」

ジャンヌ・ダルクが旗を振り抜いた。それに合わせるようにジャンヌも旗を重ね合わせる。

タイミングは同じ振り抜く速度も同じ。しかし、二人の膂力には、決定的な差があった。不完全な召喚に過ぎないジャンヌに対して、ジャンヌ・ダルクのそれは強力な核により強化された、完全なジャンヌのそれを上回るものだった。

拮抗は1秒すら保たれなかった。すぐに押し負けたジャンヌは、まるで金属バットで小動物を殴り殺した時のように呆気なくぶっ飛ばされて、壁面に激突した。

「なんなんですかアンタは。正気ですか、アンタが言おうとしてることは―――」

「もちろん、正気ですよ。私はいたって正常です。私と同じ貴女なら、わかるでしょう?」

旗を支えに、ジャンヌは立ち上がった。平然としながらも、とんでもない力だ、と思った。ただ旗で殴っただけと言うのに、ちょっとした宝具すら上回る火力だった。さっきの宝具の撃ち合いの時と言い、奇妙なほどに強い。正規召喚された自分とて、この出力には敵わない。

「わかりました。ではアンタの望み通りに、ここでその身体! 髪の毛残さずに灰にしてやりましょう」

ならば―――。

疑念は確信に。だとすれば、この事件の裏に誰が居るかも、およそ確定できる。そして、この別側面という絶無の存在も、理解できる。

―――狙うは一撃。ジャンヌ・ダルクの核へと、深い一撃を叩き込むのみ。

「これは憎悪によって磨かれた我が魂の咆哮―――!」

「行きますよ―――アヴェンジャー」

 

 

 

 

 

 

数分前。

「ねぇ、君なんで攻撃してこないのさ」

佐々木小次郎を非難する声は、しかしなんとも言い難い雰囲気が詰まっていた。非難に見えて、それは当惑であり、同時に確信であり、安堵でもあった。最早非難の形だけをとっているようなものだった。

「別におかしなことはないだろう。私の剣はどうやら其方には届かん。そして、其方の剣も私には届かん。互いに千日手だ。で、あれば。ここは互いに何もせず、のんびり休息を取るのが正解というものであろう」

「まぁ、そうだけど」

どこか納得いかない様子ながら、佐々木小次郎のすぐ隣で、アストルフォは頬を膨らませた。小次郎と同じように、座るのにちょうどいい感じの岩くれを持ってきて、二人で並んで座っていた。何をするでもなく、である。傍目には、とても敵対する者同士の素振りには見えなかった。というより、あのアストルフォすら、この状況には困惑していた。

「だって君の仕事はあの竜を守ることなんだろう? だったら戦わなきゃなんじゃあないのかな」

「私が剣を抜けば、其方はまたあの宝具を出すだろう? そしたら私にはどうしようもない。私は任務に赴いた。だが優れたセイバーに阻まれ、任務を遂行できなかった。それだけの話だ」

「ちょっといい気分になった」

アストルフォはそういうと、腰から剣を抜刀した。

細身の、白い剣だ。いかにも西洋剣、といった様子のそれを、アストルフォはさも真剣に、ぶんぶんと振った。

「ボクはセイバーだからね、そうセイバー。日本の大剣豪もおののくほどの、セイバーなのだ!」

「ソウダネ」

小次郎は脊髄反射で応えた。あきらかに隙だらけの剣の振りも特に何も言わず、考えるのをやめていた。

ならさっさと私を倒してみればいいのに、と思ったりもしなくはなかったが、言うだけ不毛なのは既によくわかっていた。

「そういえば、なんでコジロウはあのセンスの悪いジャンヌに味方するの?」アストルフォはすぐにつまらなそうに剣をしまうと、特段興味もなさそうに言った。「あのボクとキャラ被りしてたアーチャー。ほら、アタランテだっけ? 彼女は、ジャンヌを裏切ったじゃない」

非難がましい基調は、そこにはない。仮にもシャルルマーニュ12勇士の一人として、騎士物語の一人として、悪しきものに与する者の心情を問うだけの素朴な質問であり、また単なる暇つぶしの問いでしかなかった。

はて、どうしたものか、と思う。アストルフォの言葉は、単なる暇つぶしの言葉に過ぎないようだった。だから、小次郎もテキトーな言葉を並べ立てて、同じように時間を消費すればいい、とも思った。

だが。

「恥ずかしい話だが、あいにくと拙者、生前は燕しか斬ったことがなくてな。まぁそれ以外、特に斬りたいと思ったものも特には無かったが」

「ふぅん?」アストルフォは、足元の石ころを手にしていた。小次郎の話には、さほどの関心を寄せている風ではなかった。

「たまさか呼ばれたので来てみたら魔女の使いっぱしりよ。特に人理だなんだというのも興味も無くてなぁ。たまには人を斬ってみるか、と思って、使いっぱしりを続けている」

「何それ? 随分テキトーな人だなぁ!」アストルフォは目を丸くした。「ボクと同じくらいテキトーだよ」

「そうさなぁ。だが、人を斬っても左程面白くもなし、いっそ竜でも斬る方になればよかったが」

ちょっと、考えてみる。

飛竜を斬り、地竜を斬る。なんならあの悪竜も斬ってみる。やってやれないことはないだろう、何せあの燕を堕としたのだから。もうなんでも斬れる。

「なら今からボク達の味方になればいいじゃない」

「いやいや。確かにあの女子はどこに出しても恥ずかしくない悪人だが、それでも拙者の主だ。義理は通さねばなるまいよ」

「テキトーなのに真面目だなぁ」

「それに―――」

言いかけて、小次郎は、想起する。

赤い衣に身を包んだ、小さな少女。己の秘剣を躱して見せた双剣使いの弓兵。

もし。もし、この名前も無くし、鳥を斬ることしかできなかった剣士の、第二の生に意味があるとするならば。

「あ、やばいかも」

ぴょん、とアストルフォは軽やかに跳ねた。立ち上がったアストルフォの眼差す先、邪竜と2騎のサーヴァントが凌ぎを削りあっていた。

「行くのか?」

「止めないの?」

「止めるも何も、拙者には其方のあのうるさい宝具を突破する術など無かろう」

「義理とかなんとか言ってたくせに」

「義理は通すとも。通した結果、拙者は力及ばず、其方が助けに行くのを阻止することはできなかった。非力なサーヴァントだった、と首を垂れるだけのことよ。軟弱者ですまない」

「ホント、君はびっくりするくらいテキトーで大真面目だなぁ!」

「言ったであろう。人理などどうでもいいと。人理を守るのも壊すのも、私にはなんというか、どうでもいいことなのだ」

アストルフォは呆れにも似た驚嘆に目を点にすると、じゃあ行くよ、言葉を残して、ぴょんぴょんと跳ねていった。

あまりに無防備な背中を、小次郎は見送った。一息に踏み込み、剣を放てば容易く両断できそうな背中を眺めた後、小次郎は、ゆっくりと立ち上がった。

すん、と鼻を鳴らす。静かな微笑を湛えると、小次郎は背後を丐眄した。

ぽつねんと佇む大聖堂。きっとそこで、答えに出会う。確信にも似た予感を惹起させた無銘の剣士は、焼け爛れた荒野を一人、疾走した。

 

 

 

 

「―――『破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)』!」

アストルフォはどこからともなく取り出した分厚い本を広げるとともに、その宝具の銘を高らかに宣言した。

迫る火焔。摂氏数千度の炎がアストルフォを焼き尽くすよりわずかに早く、開いた本のページが沸き上がる泉のように吹き上がる。

無数に散らばる紙片。ただの紙切れにしか見えないそれは、一見すれば火竜の吐息の前ではあまりにも頼りなく見えた。

だが。

「―――!」

それは、誰の驚嘆だっただろう。あるいは炎を放った悪竜だったか、それとも竜殺しの剣士のものだったか。

たかが紙切れの束に見えたそれは、灼熱の獄炎を当然のように防御して見せた。

『破却宣言』。ある魔女より譲り受けし、あらゆる魔術を打破する魔導の書。所持するだけで高ランクの対魔力を発現させる魔導書、その真名解放は、対軍宝具レベルの魔術攻撃すら無効化する防御力を発揮し得る。

竜の炎、その火力は想像を絶する。対軍宝具を超え、対城宝具すら手が届く力を誇る。だがそれが純粋な魔力の投射ではない魔術的攻撃である限りにおいて、『破却宣言(キャッサー・デ・ロジェスティラ)』の防御範囲(ストライクゾーン)になり得る。

まして、この書は数多の魔道を破戒する万能の書。魔力を介した炎の攻撃くらい、防げない方がおかしいってもんじゃあないか―――!

―――あるいは打算。

―――あるいは賢しら。

―――あるいは強運。

―――あるいは企投。

アストルフォの知悉と言う名の蛮勇の通りに、魔道の書は火竜の吐息と拮抗した。

「―――まぁそう上手くはいかない、かな」

かに、見えた。

「アーちゃん!?」

聞き知った声が、背後で耳朶を打つ。次第に遠ざかる彼女の声は、アストルフォの目論見通りにブラダマンテがジークフリートを連れて離脱している証左であり―――同時に、自身の霊基ごと焼かれる苦悶の証左ですらあった。

ある別な世界において、Aランクの対軍宝具に匹敵する火力の連射すら防ぎきって見せたアストルフォの宝具の防御性能は、防御系の宝具の中では最優といって良い。だが、相対する攻撃は、およそ「攻撃」と呼ばれる行動様式において頂点に位置する火竜の攻撃。かの騎士王の聖剣にすら匹敵するブレス。その攻撃の大半を減退させることは可能だったが、完全に防御しきることは不可能だった。

―――以て、あと2秒。

アストルフォは、冷静に判断する。騎兵(ライダー)の時よりもある程度の理性を有する剣士(セイバー)の彼は、炭化し始めた自分の体躯を把握しながらも、これでいいんだと思った。

ブラダマンテの宝具でも、恐らくその身を犠牲にすれば防御できただろう。だが、後がない。ライダークラスの所以足るブラダマンテの宝具は、まだ温存しなければならない。同じ宝具を有する者として、その有用性はよく知っていた。

だから、アストルフォは自分が死ぬことにした。ごく簡単な戦略的思考のもとに、その戦術的判断を下した。

自分の死に、アストルフォはさしたる関心を持っていなかった。それは英霊だからというのではなく、生前からだった。

でも、それだけでなく。

アストルフォは、自分の目の前で友達が死ぬのは、見たくなかった。自分は死んでもいいけれど、自分の非力のせいで誰かが目の前で朽ちることは、勘弁してほしかった。

この特異点に召喚されて、何度かそうした目にあった。仲間だった、名前も知らないアサシンを死なせた。味方になってくれたアーチャーを死なせた。そうして、あの王妃サマも。

だから、もう勘弁してほしかった。ある意味逃避にも似た情動だなぁ、とアストルフォはよく理解していた。だから全然自分は格好良くないなぁ、とも思った。

「あっ―――つい、なぁ!」

苦い感情が残る。後悔にも似た情動。英霊になってもこんなことを味わうんだなぁと思いながら、でもそれが人間なんてものなのさ、とアストルフォはいたって前向きに、その後悔を掬し―――残るコンマ数秒に、全霊を叩きつける。

「じゃあ、あとは任せたよ―――さぁさご期待に応えて最後にもう一発、狂々転々(くるくるくるくる)、多めに活躍し(やっ)ちゃおう!」

小剣を、引き抜く。艶やかなほどの抜刀とともに、白銀の刀身が鞭のように唸った。

そうして、アストルフォは灰煙になった。

燃え尽きる間際に、ちょっと思った。

ちょっと、格好悪くてもいいのさ。だってボクは可愛いし、それで世の中釣りあいが取れるってもんだからね!




12月,1月はちょくちょく投稿ペースが遅くなるかもしれません。
ご承知おきいただけますと幸いでございます。

また、下記Twitterにて投稿時にツイートを流しておりますので、よろしければアラート(?)代わりにでもご覧くださいませ。
https://twitter.com/thisis_okayu
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