fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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新年、明けましておめでとうございます。
今年も、fate/little bitchをよろしくお願いいたします。


無毀の聖剣

全投影、連続層写(ソードバレルフルオープン)!」

降り注ぐ剣の豪雨。迫るは名だたる神剣魔剣名剣。犇めくように猛突する剣の軍勢の狙いは、ただ1騎だけのサーヴァントだった。

黒い霧に包まれた、騎士甲冑のサーヴァント。狂戦士(バーサーカー)のクラスで召喚された湖の騎士ランスロットは、その剣の群れを一切の恐れ無く飛び込んだ。

壁にすら見えた剣の驟雨。そのあるはずの無いほんのわずかな間隙を縫うように、黒い騎士が駆ける。時に黒い中華剣で叩き落しながらも、皮一枚、一歩間違えれば即死しかねない死の黒雨を切り抜ける。

本来であれば、ランスロットという英霊を相手に取る戦術としては、宝具を無数に投影して射出するのは悪手としか言いようがない。それは、クロ本人が最も能く知るところだった。

『騎士は徒手にして死せず』。あらゆる武具を己の宝具とする無双の騎士、その精強の具現たる宝具を持つランスロットは、天敵ですらある。

だが、敵がその宝具の持ち主であることを理解し、またアーチャークラスのサーヴァントとして召喚されたクロならば、対応の仕方は十分にあった。

「どうしたの? ちゃんと良い武器取らないと、死んじゃうわよ?」

クロは全弾躱して見せたランスロットへと、邪気たっぷりの嫣然を向けた。ランスロットは何も答えず、襤褸になった干将の剣先を掲げた。

第一段階、クリア。チェシャな笑い顔の裏で、クロは冷や汗をかいていた。

現時点で、綱渡りのような戦いだった。ランスロットが剣を掴む寸前で、剣を爆破させて腕をもぎ取る。言うは易し、だが実行するのはかなり困難だった。

剣を、掴む。ランスロットのその動作は、はっきり言って千里眼持ちのクロですら、目視することさえ困難だった。

戦術を直視し、戦略を俯瞰する。英霊エミヤの力能、その全てを引き摺り出してようやく成し得た戦いだった。

しかも、これでまだ一歩目。そうして、藤丸の言葉が正しいならば、次の一手こそが敵の全力に他ならない。

《クロ、来るよ!》

パスの向こうで、藤丸が悲鳴に近い声を上げた。

まるで、その声が合図であるかのように。

騎士を覆っていた、黒い霧が文字通り霧散する。澄み切るように霧が掻き消えると、黒光りする鎧が顔を覗かせた。

墨のように艶やかないで立ち。清廉な気風すら感じる佇まい騎士の手から、刃毀れした干将が零れ落ちた。

宝具2種を封印した。

騎士は徒手にして死せず(ナイト・オブ・オーナー)』。それに加え、あの霧の宝具『己が栄光の為でなく(フォー・サムワンズ・グロウリー)』。この二つの宝具を封印することで起動する第三宝具が、ランスロットには存在する。

それこそが、第二段階。真の切り札を切らせることこそ、必勝への一手。

―――ランスロットの手に、剣が現れる。禍々しいまでに黒く染まったそれは、魔剣としか言いようのない代物だ。だが、それは本来魔剣になど身を窶すものではなかった。その来歴から魔剣の属性を持ったとしても、神造兵装の一角を担う聖剣の荘厳さは決して損なわれることは無い。

英霊エミヤの裡にすら存在しない最強の幻想(ラスト・ファンタズム)。『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』にすら匹敵する、円卓の騎士ランスロットの剣。

その、真名は―――。

瞬間。

《クロ!》

「トレース!」

条件反射よりはるかに早く、双剣を投影する。両手に握りこんだ黒白の双剣を、振り向きざまに背後へと叩き込み―――。

双剣が、弾け飛んだ。クロの目をもってしても影すら見えない速度で以て背後に回り込んだランスロットが、その剣を振るったのだ。

目にもとまらぬ速さ。そんな陳腐な表現そのものとしか言いようのない俊敏さだった。

投影開始(トレース・オン)―――並列(ダブル)強化完了(オーバーエッジ)!」

瞬時に、次の剣を作り出す。干将莫耶、その刀身を極限まで洗練させた強化態を瞬時にランスロットへと撃ち込む。

もし並大抵のサーヴァントであるならば、剣を振り抜いた隙をつくように放たれた剣戟に容赦なく両断されていただろう。あるいは一線級のサーヴァントとて、防御するだけで精一杯の攻撃だった。

だが、ランスロットは、防御などしなかった。回避行動すらとらなかった。騎士はただ、神速で放たれた干将莫耶の白刃を、指だけで取っていた。

驚愕している暇は無かった。挨拶代わりとばかりに、ランスロットの左手に握られた聖剣が、玄翁さながらに振り下ろされる。喰らえば薪割りさながらに左右に叩き割られるであろうそれを、何故かクロは躱せていた。

本当にギリギリ。何故か咄嗟に背後へと飛び退くことが、できた。あの態勢での回避など到底不可能だったのに、この身は躱して見せた。

答えは明白だ。不可能を可能にする膨大な魔力リソース。サーヴァントという存在を縛る絶対命令権、令呪。藤丸は、ただ今の一撃を躱させるためだけに令呪を使用した。

投影(トレース)―――完了(オフ)!」

次の投影からの斬撃も、クロエ・フォン・アインツベルというスペックを遥かに上回る速度での投影-斬撃だった。それもまた、令呪による攻撃。この1秒未満の瞬間に、2画目を斬った。

鋏で斬りこむように疾駆する双剣の一撃。ランスロットのそれに及ぶ速度ですらある攻撃は、間違いなくランスロットの首を刎ね、胴体を抉るはずだった。

だが、当然のように、そうはならなかった。尋常などという言葉を置き去りにした神速の機動でもって、クロの懐へと飛び込んだ。

その危機的状況でさえ、ランスロットは回避行動すらとらなかった。一足でクロスレンジに侵入するなり、騎士甲冑の殴打がクロの顔面に激発した。

ただの徒手格闘による左のストレートに過ぎない、それだけの攻撃。それだけの攻撃だというのに、宝具の一撃のそれにすら匹敵する。人間を超える怪異だけが有する怪力、それにすら匹敵する膂力が、その拳にはあった。決して耐久値に優れないクロにとっては、そんな攻撃ですら、直撃するのは致命的だった。

だが、己のダメージを一切気にしていなかった。勝ちさえすれば、どれだけ致命傷を負っても問題ない。サーヴァント戦において、死ぬ以外は掠り傷に過ぎないことを彼女はよく理解していた。

故に、クロは殴られた衝撃と同時に背後に飛び退きながら双剣を投擲。ランスロットが剣で双剣を叩き落す隙をついて、瞬時に己が切り札を投影する。

左手に現出する弓。そしてもう一つ、右手に迸る捻じれた魔剣。最も頼りとする宝具を投影すると同時に、即座に左手の甲へと矢を添え、弓へと番えた。

「―――『偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)』!」

一杯まで張り詰めた弦を、その真名とともに解き放つ。

対軍宝具に匹敵する破壊が空間ごと捻じ切りながら黒い騎士を飲み込む。Aランクに匹敵するその破壊を防御する手段は決して少なく、またどれだけ優れたサーヴァントだったとしても正面から捻じ伏せるのは生半可なことではない。そして、ランスロットには防御系の宝具は無く範囲攻撃を押し切るだけの宝具は無い。あの聖剣は確かに想像を絶するが、この一撃だけはどうやったって回避できない―――!

在るのは確信。至近から放たれた音速すら超えた螺旋の矢は、過たずにランスロットを捻じ切る。

―――ランスロットは、奇妙なことに、その矢をよけようとすらしなかった。【無窮の武練】を持つランスロットにとって、如何な至近距離での砲撃だったとしても、それを見切り、なんらかの行為をすることが自然であった。だが、ランスロットは何もしなかった。それどころか地面を蹴り上げると、その矢に立ち向かうように猪突した。

この時、クロは一つ誤解をしていた。【無窮の武練】というスキルを獲得する兵が、どれだけ想像を絶する強さを持つのか。そしてその無双の剣士が携える剣、最強の聖剣の姉妹剣がどれほどの強度のもとに成立する幻想なのか。彼女は彼女なりに最大限の警戒をしたはずだったが、それでもまだ、ランスロットという英霊の底には届かなかった。

ランスロットは、迫りくる対軍宝具へと、無造作に剣を掲げた。黒光りする魔剣、荘厳さすら感じさせる邪悪な刀身に、ぞわりと亡霊染みた魔力が漏出した。

果断なく、騎士甲冑が軋みを上げる。苦悶の叫喚を張り裂けながら、ランスロットは両の手に握る怨霊じみた魔力を纏う剣を掬い上げる要領で振り抜いた。

その動作は、酷く単純だった。ただ剣を構えて、振り抜くのみ。それだけの動作で放たれた一太刀が、螺旋剣に直撃した。

そうして、当たり前のように、聖剣は螺旋剣を叩き切った。空間を捻じ切る烈風を轢断し、衝撃をかき消す。死の具現ですらあった暴風を切り裂いて、最強の聖剣は破壊そのものを捻じ伏せた。

強すぎ(チート)じゃない、あんなの―――!」

馬鹿げている。何もかもが馬鹿げている。真名解放したAランクの宝具を斬り伏せるなど、どれだけ強力なサーヴァントとてできるはずがない。

だが、現実は、そこに在った。ランスロットは剣の一太刀でカラドボルグを叩き伏せ、そしてあの尋常じゃない速度でクロの近接格闘戦領域まで侵入し、汚濁そのものですらある魔力を纏った剣を振るった。

これが、湖の騎士の強さ、だった。回避するだけで令呪を使用し、まともに打ち合うだけでも令呪を使わされた。一人ひとりが無双を誇る円卓の騎士にあり、最強の座に君臨するランスロット卿(サー・ランスロット)と、聖剣『無毀なる湖光(アロンダイト)』の強さだった。

アロンダイトがクロの身体を捉える。既に回避は不可能、防御など当然不可能。1秒などという長時間すらかけずに、その聖剣は、少女の肢体を轢断した。

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