fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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炎は静まり灯は続く(終)

佐々木小次郎―――もとい。

無銘の剣士は、その光景に、内心照れのような苦笑を浮かべた。

相対する赤い剣士。己が人生をかけて殺し合うべき相手の武装は、双剣だった。

運命の悪戯、というにはやや趣味が悪い。あるいは運命というよりは怨念というか、宿痾の類だろうか。佐々木小次郎の相手としては、確かに相応しい。

だが、そんな過去の話など、今や些末事に過ぎない。いや、未来すらどうでもいい。過去も未来も、ただこの瞬間だけは消え去った。今と今だけが激突するこの瞬間こそが、真理だった。

駆ける、歪の疾駆。瞬きの間すらなく双剣使いに肉薄した無銘の剣士は、地面に水平に構えた長刀を、右へと薙ぎ払った/真上から振り下ろした/左から撃ち込んだ。

絶技、秘剣『燕返し』。無銘の剣士を佐々木小次郎にまで引き上げる、凄絶なる剣技。並行世界から物干し竿の2振りを引き出すことで、全く同時の三連打を実現する、ただ名前のない剣士の太刀筋だった。

躱す術は一つしかない。空間転移で背後に回る、それだけだ。その前後で両手に持った中華剣を投擲。既に周囲に散らばった剣も併せて、あの時の再現をするつもりだろう。

無銘の剣士は、その後どうするか全く考えていない。あの時と同じように『燕返し』で飛来する剣をまず撃ち落とし、さらなる迎撃で必中必殺の『燕舞い』を撃ち込む。セイバークラスのステータスだからこそ放てる、連続での『燕返し』2連打。それも彼女はあの時と同じように、相討ちさながらに躱して―――その後どうなるかは、ただ己の闘争心のままに剣を振るのみ。

唯、あるのは裸形の身体性の露回。何者でもない、ただ剣を振るう者同士の純粋な剣のぶつかり合い。それだけを求めて、ただ、剣士は剣士としての狂えるような義務感を叩きつけた。

灼熱の前頭葉。凍てつくような本能。だからこそというべきか、無銘の剣士は、刀が少女の体躯を切り裂く刹那の間隙に、奮えるような疑念を察知する。

ぐにゃ、と双剣が形を変える。少女の手にした中華剣が刹那で衣を変え、その裡から白銀の刃が覗く。

その刀の銘を、知っている。少女が両手に握る双剣の銘を、おそらくこの世界の誰よりも知っている。

和泉守藤原兼重、そして了戒。

それが、その2振りの刀の、銘だった。

ぶつかり合う刃。無銘の剣士が左右から放った二閃と和泉守藤兼重、了戒が相克する。忽ちに破砕される2対の刃。砕けた金属が差し込む陽を反射しながらマナへと溶け消え、霧散する。

だが、本当ならば、そこで終いだったはずだ。残り、1本の太刀筋が少女の頭頂から股まで一刀で切り裂き、そこで終了だった、はずなのだ。

僅かな歪みの故か。本来全く同時のはずの剣閃がコンマ数秒遅れた。微かに刀身が歪んでいた故の、ほんの僅かな誤差であり。そしてそれが、致命傷だった。

振り下ろされた長刀を迎撃せんと、少女の手に骨子が放出される。その間隙まで予測していたが故の、それは先の後で放たれる一撃。

そうして現れた刀に、1人農村奥地の山の懐に生きた剣士は見惚れてしまった。

あなや。

その刀の銘も、知らぬわけがない。何故ならばそれは、先ほどと同じだからだ。佐々木小次郎が宿敵、天下無双の剣士が振るった三振りの刀の、一つ。

その銘は―――。

ぶつかり合う2振りの剣閃。あったかもしれない、けれども無銘の剣士には決して起こらなかったはずの、それは新たな英雄伝承の開闢。

戯れにも見えた。

死闘にも見えた。

今と今がぶつかり合う伝説の一幕。

折れる長刀、切り裂く直刀。砕けた伝備前長船長光の刀身が霏々と舞い、深紅の村時雨が鮮やかに滴った。

 

 

 

 

 

 

「えーと、次かな」

クロはタブレット端末に目を落としながら、きょろきょろと周囲を見回した。

彼女はまだ、カルデアの施設には疎かった。初めて召喚されてから、実はまだ数日しか立っていない。

初回の召喚は、冬木だった。いつの間にかよくわからない洋館に墜落して、藤丸の元にかけつけて、ただ勢いのまま、特異点Fを修復した。

あの日から、オルレアンのレイシフトまで1週間と経っていない。その間も諸々の調整で、とても施設内をのんびりと歩き回る機会など無かった。

―――最も、今回とて、そう余暇があるわけでは無い。次の特異点へのレイシフトに向けて、技術的な観点から、幾ばくかの余暇が与えられたに過ぎない。

その時間、実に2日。特異点の踏破という大事業の後にしてはあまりにも細やかな余暇であり……年若き少年少女に対してカルデアという組織が絞り出せる、最大限の猶予だった。

「ここ、かしら」

はた、とクロは足を止めた。

無機的な通路。電子ロックがかかった自動ドアの電子パネルには、メディカルルームの文字が浮かんでいた。それと、ラミネートされた注意書きに、ゴシック調で書かれた「節電中!」の文字。

壁のタッチスクリーンに触れる。特にパスワードは無く、気の抜けた電子音だけを響かせる。だが開かない。む、と眉を潜ませたクロは、知ったことかと手を翳す。魔力を通すや、プシュっと音を立ててドアがスライドした。

つん、と消毒の臭気が鼻腔に触れる。入ってすぐ右手の事務用のデスクは、普段はロマニが居る場所だ。今は、居ない。恐らく管制室でダ・ヴィンチと次の特異点について話をしているはずだった。

病床の数は僅かに3つ。それも当然、重傷者はまた別に治療室があり、ICU・MCUなどの設備も医療区画内に集中している。ここは、あくまで軽い体調不良などを扱う部屋。言ってしまえば、学校の保健室のようなものだった。

そのベッドの一角。間仕切りのカーテンの向こうに、誰かの影が透けて見えた。

カーテンを開ける。

しゃ、とレールの上をキャスターが転がり、するりとカーテンが開いた。

「あ、クロ」

少年の無防備な顔が、彼女を出迎えた。

立華藤丸(タチバナトウマ)。クロのマスターを務める16歳の少年の顔には疲労が滲んでいたけれど、それでも今の少年の顔は、年齢以上に幼く見える。

此処は、戦場ではない。張り詰めた緊張は不要で。ただ。無邪気な安堵を噛みしめているようだった。

「何してたの?」

「ん? まぁ、特に何ってわけじゃあないけど」

藤丸は少し決まり悪そうな照れ笑いを浮かべると、肩を竦めた。そんな少年の肩越しに、クロはベッドに横たわる躯体を、見た。

―――綺麗な人、だと思った。

艶の善い、栗色の髪。眉目秀麗、という言葉がこの上なく似合う少女だった。ただ一つ、その麗しい少女には酷く不似合いな物々しい眼帯だけが、違和感を惹起させずにはおかなかった。

Aチーム、唯一の生き残り。Aチームのマスター候補が悉くミンチにされた中、ただ一人、幸運にも生き残ったマスターの一人。

名前はそう―――。

「結果報告、かな?」

「何それ?」クロも、デスクの脇にあった丸椅子を持ってくると、藤丸の隣に座った。「オルレアンのってこと?」

「そう。あと、冬木のも」

照れたように頭をかいた藤丸は、そして、ちょっと申し訳なさそうに眉を寄せた。

「リツカさんはともかくさ。俺なんかより、この人とか、Aチームの人だったら、もっと上手く特異点を修復出来たのかなぁって思うんだよ」

だから、と藤丸は両手を膝の上に置いた。決然と彼女を見る目は、子供じみていたけれど。

「でも、俺がやるしかないからさ。せめて、ここまで来ましたよって。本当に戦うべきで、きっと戦いたかった人に伝えておきたくて」

クロは、少年の姿を見上げた。ふぅん、と小さく口元を緩めた少女は、「いいんじゃない」と口にした。

「でも、私はトーマの意見には反対」

「え?」

「そんなに卑下しなくてもいいんじゃない? ベストだったは、わかんないけど。でも、ベターな戦いは、できてたんじゃないかしら」

「そう、かな?」

少し、藤丸はぎこちなさそうに言った。あまり実感は無いらしい。そうかな、ともう一度呟いたトウマの表情は、決して晴れやかではない。

―――決して、クロは無思慮に藤丸を批評したわけではなかった。あのランスロットとの戦闘で、躊躇いなく令呪を2つ切った判断力と胆力。そして、佐々木小次郎との最後の決戦での洞察力。

『原作知識』があるから、と少年はいつも控えめに言う。だが、知識はそれだけでは武器になり得ない。戦術レベルでどの知識が活用できるか迅速に判断出来るのは、天性の勘が成せる業に他ならない。

「でも、良いと思う。どこまで来たよって言うのは」

「かな」

「そっちの方が、安心して寝てられるでしょ―――この人も」

ね、とクロは少女の方を見やった。

すうすう、と深い息を繰り返す少女―――オフェリア・ファムルソローネの静かな寝顔は、控えめにも賛同を示しているようにも見えた、気がした。

 

「―――で?トーマ。花なんて持ち込んじゃって。もしかして、気がありますよってアピールとかだったりするわけ?」

琥珀をたたえた瞳が、ベッドサイドに丁寧に活けられた紫色の花を見とめるや否や、にんまりと歪む。それはさながら獲物を狙う狩人(恋バナに食らいつく乙女)の如し。

「違うからっ!俺が来たときにはありましたし?!」

純朴な高校生男子こと立華藤丸の手札に、運命を切り開くカードがあるはずもなく。ガラスの花器を手にとっては「水少ないし変えてくるから!」などと不審な挙動で逃れようと試みた―――

「おっと、トウマ少年。その花はその活け方で合ってるんだよ。」

不意に、トウマの肩を艶やかな声が触れる。まだ聞きなれない、それでも印象深い柔和且つどこか芯のある声はレオナルド・ダ・ヴィンチのものだ、という確信があった。

振り返れば、やはり彼の目は、中/高と美術の授業で見かけた顔が、朗らかな笑みを作っていた。

「合ってるって、やけに水少ないですけど?」

手元の花器を見やる。トウマに花活けの経験があるかといえば、無くは無いが皆無と言っていい。盆や正月で田舎の祖父母の家に行ったとき、何度か仏壇の花を整えたことがあった。

「アネモネの茎は中が空洞だからね」ふわふわとレオナルドの手先が宙をなぞる。それを合図に宙に映像ウィンドウが立ち上がると、アネモネの育成方法を記載したウェブサイトが浮かび上がる。おまけに、同時に別ウィンドウで展開した映像には、アネモネの断面図もあった。しっかり水につけてしまうと、浸かった茎が腐ってすぐにとろけてしまうのさ」

「あっ、これアネモネだったんすね」

「なんだい少年、アネモネってことも分からなかったのかい。君たちの国の言葉を借りるなら、風情が足りないな。」

「風情って言われても、日本の一般の高校生男子なんてみんなこんなもんだと思いますけど」トウマは少し口を曲げた。一瞥してアネモネの花かどうか同定するのは、多分一般教養ではないと思う。「これは、えっと、ダヴィンチさんが?」

「その質問に対してはノーだし、今のは不合格だよ少年。私のことは親愛の情を込めて、ダヴィンチちゃんと呼びたまえ。」

「えっと、じゃあ、ダヴィンチ、ちゃん。」

「及第点かな」ふふん、と何故か自慢げなダヴィンチちゃん。自然物そのものといったかんばせ、その薄ピンク色の口唇に指を添えると、「そして想像するにこの後の君の質問はこうだろう?"じゃあ誰が"ってね。」

「そういう言い方をするってことは、誰がって知ってるわけですよね?」

「あぁ、知っているとも」

自信たっぷりに、ダヴィンチちゃんは言う。

だが、何故だろう、と思った。いや、あるいは必然だろうか、とも思った。いつも自信満々な声色で、まことしやかに物事を語る彼女? なだけに、僅かに陰った口調は酷く歪だった。

 

「なんせ私は万能の人(ウォモ・ウニヴェルサーレ)だからね。もちろん、教えないけれど。そんなことしたら、それこそ風情がないだろう?」

 

「そういうもんですかね。」

そういうものさ、と応えるダヴィンチちゃんは、もう普段の様子に戻っていた。というより、先ほどの違和感が単なる勘違いだろうか。探るようなトウマの視線を知ってか知らずか、ダヴィンチちゃんははたはたとスカートの裾を直した。

「ま、特異点を二つ越えたとはいえ、君とクロエくんはまだまだカルデアに関しては新参者だからね。スタッフもそう多くはないんだし、ゆっくり人間関係ってものを知っていけば自然と知るときが来るでしょう」

そう言うダヴィンチちゃんの表情は、優しさが9割ほどで、残り1割はどこか、探るような目だった。正直に懐に差し込むようで居ながら、不快感を思わせない、調和のとれた顔。万能の天才という言葉と女性的な表情が、不可思議に溶解し合っているようだった。

「じゃっ、私はこの辺りで。何せ私は天才だからね、計器の調整にブリーフィング、礼装のメンテナンスと大忙しなのさ。」

 

 

 

 

よっこらせ、とレオナルドはドアを閉める。本当は自動ドアなのだが、電力消費削減のため、館内のあらゆる機器が節電状態だ。実際、医務室にはラミネートされた張り紙に、全く非芸術的に「節電中!」の文字が刺々しく踊っている。不満を漏らしたいのはやまやまだが、電力その他資材を頓に消費する立場にあるだけに、レオナルドもあまり強くは言えなかったりする。

「とかなんとか言ったものの」

艶やかな髪をかき回す。はてな、と小首を傾げると、レオナルドは誰も居ない通路を見回した。

「私も案外、知らなかったりするんだけどねぇ。」

 

 

 

 

「マシュ・キリエライト、無事に復帰しました!」

びし、と綺麗な敬礼一つ。照れ半分誇らしげ半分といった溌剌の顔のマシュは、いたって健康そのものといったように見えた。

「おー、早かったね。もう大丈夫なのかい?」

「はい、至って好調です! 戦術行動に一切の支障はありません」

むん、と荒い鼻息をついてみせる。元気そうだね、と微笑ましく頷いて見せると、「流石はDr.ロマンってとこかい?」

「もちろん。って言いたいところだけど、今回の予後の良さは間違いなく応急処置が良くできてたからだと思うよ」

「そういえば、リツカちゃん、植物科(ユミナ)の出身なんだっけ?」

「あれ、伝承科(ブリシサン)ってデイビッドから聞いてたけど、まぁどっちにしろ、所属していたわけじゃあないみたいだよ。元々、時計塔への編入も最近だったし、彼女」

「ま、どちらにせよ彼女の功績ってことなわけね」

ロマニは肩身狭そうに苦笑いをしてみせた。臨時の所長代行を務めているけれど、彼の本業は医務の管理だ。

藤丸立華(フジマルリツカ)。19歳という若さを感じさせない落ち着いた物腰と、相反するように子供っぽい雰囲気を奇妙なバランスで両立させている、マシュのマスターだった。

彼女の在り方は、複雑だ。あらゆる情動が混交する洗練された彼女の在り方は、ある意味で無垢なマシュにはまだ、複雑で理解しにくいものだった。

「―――あ。そういえば」

「ん、なんだい?」

応えるロマニ。ダ・ヴィンチも眉を上げ、マシュを見返した。

「先輩はその、ドイツ語圏の方ではないですよね?」

「そうだね、純粋な日本人だったと思うけど」

「なんだい―――いや、そういうことか」

独り、納得したようにダ・ヴィンチは目を伏せた。それも一瞬、朗らかに笑って見せると、「マリア、だろう?」と口にした。

「はい。先輩はマリーさんのことを、マリア、と呼んでいました。それが、何故なのかな、と」

あぁ、と吐息にも近い相槌を打ったのは、ロマニだった。

「簡単なことさ」

重い嘆息と一緒に絞り出したダ・ヴィンチの声は、ともすれば、それなのに、温和にも響いた。

その時のダ・ヴィンチの顔は、簡単に言って、印象的だった。そして、その顔の意味は、やっぱりまだ、マシュには理解し難かった。

「あの子にとって、マリー、は特別な呼び名でね」すん、と彼女は鼻を鳴らした。

「女の子らしい名前だから―――って。オルガマリーのことを、そう呼んでたんだ」

 

 

 

 

 

風が、吹いている。青く膨らむような、爽やかな涼風。すんすん、と風の薫りを味わった男は、どっかりと岩塊に腰かけていた。

艶のいい長髪が、風に揺れている。そよ風に揺らぐ柳の如き男は、飄々とした顔だ。掴みどころの無い、そして何故か垢抜けない佇まいだった。

「あら」

そんな男の肩を、声が叩いた。男は振り返りもせず、むしろ身動ぎすらしなかった。

「小次郎はん、随分とまぁご壮健な様子やねぇ」

からから。笑うような声に、小次郎も鼻笑いを返すばかりだ。

飄然と座り込み男は、その実立つことすらできなかった。剣の一閃が奔る身体からは血が滲んでいた。滲んでいた、などというのは、至って控えめな表現だった。

「おや。そちらも随分お楽しみだったようだ」

「別嬪さんやろ?死に化粧がえろう上手でねぇ」

ちょこなん、と男の隣に座った幼い風采の少女も、酷い有り様だった。

そもそも、頭が捥げていた。自身の両腕に抱かれた双角戴く少女の顔は、底抜けの温和さを湛えていた。その他……無事なところが見当たらない。単純な傷であれば、男よりも遥かに酷かった。

果たして、この鬼を相手にここまで戦える者は一体何なのだろう。ふと過った考えを、されど男はさっさと捨てた。今更どうでもいいことだったし、何より―――。

「なんや、楽しそうな顔やねぇ」

くすくす、と言ったように、鬼が笑う。そうかもなぁ、と適当に返事をしながらも、確かに。

男は、満足していた。男のあまりに軽薄で虚ろな人生を満たして余りある感慨が、確かに在ったのだ。

「随分小さい刀」

「あぁこれか。いや。これは、まぁ。土産みたいなものだな?」

鬼は興味ありげに、男の手元にある刀を眺めていた。男は子供が玩具を見せびらかすように、だいぶ短くなった太刀を持ち上げた。

陽光を反射させる焔の如き刀身。佐々木小次郎の銘を冠していた無銘の剣士は、幼子のように無邪気な顔で見つめていた。

贋作(なまくら)ではあったが、偽物(なまくら)には過ぎた土産よなぁ」

 

 

 

 

 

 

 

少女は、空を見上げていた。

無限の穹窿には、奇妙な光の帯が広がっている。少女の目は、その帯を、奇妙な期待を満たした目で見ていた。

と、少女の傍に、どろりと影が落ちる。黒い影依(シャドーロール)に身を包んだ影法師は、疲弊しているように蹲った。

少女の手が、影法師を撫でる。哀惜にも似た手触り。奇妙に痙攣した黒い影は、砂城が崩れるように、忽ちに霊体へと身を溶かす。

「ごめん、ありがとう。マイフレンド」

瀕死の重傷だった。一歩間違えれば、ここで彼を喪っていた。最初の一歩で失うにはあまりに大きく、だが、予想外の出来事に思わず動いてしまった。

軽率の極みとしか言いようがない。きっと不要な行為だった。だが、それでも彼女は、どうしようもなく、微かに莞爾と顔を軋ませた。




これにて第一章、完結になります。

佐々木戦でクロがこっそり投影した了戒、実は抜いたかどうかすら分かってない刀だったりするわけですが。
彼なら例え見たことがなくとも、本人でなくとも、何か運命を感じ取ってくれるんじゃないかなぁ、と。


それでは、第二章でお会いしましょう。
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