fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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64話が短かったので、続けて65話です




狂言交錯

 「しかし、これは一体なんなんだ?」

 そうぼやいたのは、灰斑葦毛の馬上に跨るライネスもとい、彼女の肉体を器とする司馬懿だった。白磁の陶器を思わせる端正な面持ちを不可解に顰め、疑念にかられるように首を振るたび、プラチナブロンドの髪が金の糸が揺れるように閃く。傍目で見れば耽美的で芸術的な身振りではあったが、本人としてはただただ疑念だけが鬱勃とする状況だった。

 戦況が動いたのは、リツカが率いる本隊が敵との遭遇戦を本格的な戦闘に発展させて、30分もした後のことだった。

 エトナ火山からじわりと出現したゴーレムの軍勢が、一路索敵部隊を救出するために進軍を開始したのである。

 カルデアからの報告を聞いた司馬懿はまず途方に暮れ、そして首を捻り、眉間に皺を寄せた。

 敵の動きは、あまりに緩慢としか言いようが無かった。救援に動くにしては、判断が遅い。既にリツカは陣形を形成し、敵を包囲殲滅する体制を整えている。救援に駆け付けたところで、既に戦力が撃滅されている可能性が高い。さらには包囲殲滅後、再度陣形を形成した敵が逆に増援のゴーレム部隊を迎撃・撃砕する可能性すらある中、敵の動きを理解することは、司馬懿という人物の理解の範囲を超えていた。

 なにがしかの奇策を用意している。そう見るのが適切と判断した司馬懿は、少数の騎兵とクロエ、トウマを派遣。敵増援を側背から強襲させ敵を分断する策を講じた。

 本来であれば大戦力で敵を撃破するべきところであり、普段の司馬懿であればそうしたに違いない。だがこの時ばかり、司馬懿は敵の戦術を読み切れなかった。それゆえに、敵の出方を見るつもりだったのである。トウマたちにも徒に敵の撃破に奔ることなく、ある程度戦ったら一端引くように指示を出していた。

 だが、蓋を開けてみれば、敵の増援は瞬く間に殲滅させられたのである。牽制のための横撃に過剰に反応したゴーレムたちはそのまま反転攻撃に移り、そうして各個撃破の後に壊滅したのである。

 (言っておくけど、宝具を使ったりはしてないから)

 空中投影される通信映像の向こうで、クロは困惑とも言い訳ともとれる言葉を話している。表情は少しだけ怒り気味のようだった。敵の暴挙に対する困惑が3割、無謀さへの怒気が5割。敵の意図を捉えきれない苛立ちが2割といった表情である。

 「まぁなんだ、そろそろ戻ってきてくれ」

 と通信に言いかけた司馬懿だったが、結局その指示を出すことはなかった。エトナ火山から出撃したゴーレムたちが、同じ進路と速度を取り、再度攻勢をかけてきたのである。ご丁寧に、戦力数すら同じままに。

 「悪い、もう少し敵の出方を見てくれないか。あまり殺しきらずにな」

 司馬懿が口にした言葉は、全く以て知性を感じさせない指示だった。秀才の極致ともいうべき名軍師が出すにはあまりに素朴であり、また覇気のない指示である。

 (別にいいけど。騎士様(エクィテス)たちはなんか喜んでるし)

 「既得権益者というのは、いつだって呑気なものさ」

 指示を出す方にも覇気が無ければ、また指示を受ける方にも覇気などなかった。実際、クロに返答を返したのは司馬懿ではなくライネスであったところが、何よりの証拠だった。

 散文的ですらない日常会話レベルの連絡を終えると、司馬懿はただただ途方に暮れたように、戦闘が行われているであろう方角を振り仰いだ。

 

 

 「倒しきらずに、って言われてもこれじゃあね」

 栗毛の駿馬に跨ったクロは、冷ややかに背中に跨る人物に言った。言われた人物は、と言えば、まともに言葉も発せぬまま、肉食獣に追い回された後の小動物みたいに痙攣していた。

 「情けないわねぇ。もっと怖い目にあってるじゃない」

 振り落とされないようにがちりとクロに抱き着いた少年……マスターであるトウマは、騎馬の戦闘機動で三半規管がめちゃめちゃになっており、ただただ涙と唾液を垂れ流していた。仮にも2つの特異点を攻略した人間とは思えない、無様な醜態である。

 最も、これは仕方のないことである。全く乗馬の経験のない素人がいきなり早駆けの騎馬に跨る……しかも馬具の類すら無く騎乗するなどというのは、尋常じゃないなどという言葉で言い表せない奇態であった。

 無論、クロエ・フォン・アインツベルンにも乗馬の経験は一切なかったが、そこはサーヴァントという存在者の性質が成せるもの。本来弓兵では持ちえないクラススキル、【騎乗】を所持しているが故、クロは生前の経験など全く関係なく、騎馬を操れた。個体としての馬の性質や操作性を理解し、あまつさえコミュニケーションを取り得る。名騎手(ジョッキー)とすら呼べる技倆は当然彼女の生前の営みには存在せず、にも関わらずまるで自分のことのように行使する。奇怪極まりないこの出来事を、しかし当然のように受容する。サーヴァントとして召喚されるとは、このような尋常でない事態を自然と受容することでもあった。

 騎馬に跨ったまま黒い洋弓を構えたクロの姿は、正しく遊牧民というべき姿だった。ノマドの如くに尾花栗毛の駿馬を走らせたクロは騎上から矢を射かけてゴーレムを打ち倒し、肉薄するゴーレムは投影したハルバードで打ち砕き、轢殺する。敵勢力の7割をクロが撃破し、残り3割はローマ軍のエクィテスが討ち取るという構図を、かれこれ3度繰り返していた。

 重装歩兵と異なり、軍事的エリートに属する騎士階級たちの奮戦は、クロも目を見張るところだった。本来スリーマンセルが常道になりつつあった対ゴーレム戦闘にあって、騎士たちは1人で1体のゴーレムを撃破していたのである。そして軍事的エリート階級という身分もあってか、ぽっと出で、且つ傍目には少女でしかないクロが軍事的指揮権を行使することを、ごく自然に受け入れた。葛藤が無かったわけではないらしいが、その主観的葛藤を論理的正当性に置き換え、落としどころを見つけ得る点が、彼らをエリートたらしめたのである。

 「敵は何を考えて居るのでしょう」

 クロの横に騎馬を並べた兵士は、うんざりしたように言った。最初の戦闘でこそ勝利に歓呼を上げていたが、それも2度目までである。3度目にもなると、勝利の余韻より遥かに徒労感が増す。大なり小なりあるが、20人の騎兵たちは皆、敵の無為な猪突に閉口していたのである。

 「どう思う、トーマ?」

 クロは特に益するものがないとわかっていたが、我が主へと声を向けた。彼にはサーヴァントに対する知見にこそ豊富だが、それ以外のことは基本的にからっきしなのだ。そして何より、トウマは返答できる状況になかった。未だクロの背中にしがみつくしかできない少年は、「わかんない」と情けなくも短い返答を漏らしただけだった。

 並んだ騎士が胡乱な目をトウマに向けていた。サーヴァントであり、超常の力を振るうクロへの畏敬は既に備えているが、その少女の背で何の役にも立っていない16歳の若造に対して、はてどんな感情を持てばいいのか。自分たちでも、測りかねた様子である。

 ただ、そんなトウマを揶揄できるほど、クロも騎士たちも現状を能く理解していないのである。無為な救援行為を繰り返す有り様は、はっきり言って愚劣としか言いようがない。戦力の逐次投入という愚策も併せて、敵の意図は未だに不鮮明なのだ。

 勁い用兵とは即ち、的確に、迅速に、まとまった戦力を動かすことに極まる。敵の行動は、それとは正反対だ。それを愚劣と言わず、一体何と表現するのか。素人でもわかる愚劣を働く敵の意図は、一体何なのか。

 (トウマくん、クロちゃん聞こえてるかな)

 と、網膜の裡に通信映像が浮かんだ。モニター越しに浮かんだロマニの顔は、しかし緊張を含んだ表情をしていた。

 (あと5分後、また別な戦闘集団が来るようだ)

 「また?」

 (あぁ。でも今回はちょっと毛色が違うようだ。規模こそ変わらないが、サーヴァントの反応がある。注意した方が良い)

 クロは、背後でうなだれる少年を一瞥した。肩越しに見えた少年は、相変わらずやつれた顔をしているが、この時はしっかりとクロを見返した。

 いよいよ敵は本腰を入れてきた、と見るべきだろう。弓を掴む手に微かに力を入れながらも、やはりクロは逡巡する。

 どうして、今更にサーヴァントを投入してくるのか。しかもこの局地戦に投入する意味は何なのか。

 そうして2瞬ほど思案してから、クロは小さく首を横に振った。考えても詮の無いことと思い直すと、栗毛の馬を翻し、騎士たちを振り仰いだ。

 「また敵が来るわ」騎兵たちの間に、明らかにうんざりという言葉が相応しい情動が惹起した。だが、クロは続けて口にした。「次の戦闘群にはサーヴァントがいるらしいの」

 瞬間、ざわりと戦きが惹起する。顔を見合わせ合う騎兵たちは、明らかに動揺を覚えた様子だ。

 当然である。今でこそ味方として膂力を振るっているが、そもそもローマ帝国を危機に陥れたのは、敵のサーヴァントの強大さだった。それが、まさに牙を剥かんとしている。恐れを感じない方が無理というものであった。

 だが、それでも引き下がらないのが彼らである。幼少期から騎乗の訓練を積み、国から公馬を賜る騎士(エクィテス)たちにとって、恐れる弱さはあれど、引き下がる卑劣の持ち合わせはなかった。まして、サーヴァントとはいえ、年端もいかない少女が殺し合いに身を投じるというのである。どうして、矛を下げ、逃げ帰ることができようか。

 そんな決然とした表情を見、クロは複雑に情動を惹き起こした。

 彼らの決心は軍事的ロマンチシズムとは一線を画した、倫理的な先駆的決意であろう。それに冷笑を浴びせられるほど、クロは豊かな感受性の持ち主ではなかった。

 「いい、次の戦いは基本、逃げに徹するわよ」

 だから、クロは先立って宣言した。

 「差し出口を挟むけど」言葉を引き継いだのは、クロの背中に顔を青くしながらしがみつく少年だった。「敵のサーヴァントがどんな性能でどれくらい強いかわからないから、様子見ながら後退。場合によってリツカさんたちと合流して迎撃する方が、いいかなぁと」

 一気に声を吐き出すと、ぐだり、とトウマはクロの背に顔を埋めた。

 「トーマの言う通り、敵の出方を見るべきね」クロは背中の重量を感じながら言った。「敵のサーヴァントの方が強力だった場合、私じゃ手に負えないこともあるわ」

 騎士たちは、思わずといったように互いに顔を見合わせた。彼らにとり、クロという人物の精強さはまさしく人外の域にあったからだ。

 だが、単純なステータスで考えた場合、クロは決して強力なサーヴァントではないのだ。近現代の英霊としては高めのステータスではあっても、古代の英霊と比すれば非力としか言いようがない。単純な筋力値で言っても、クロはDしかない一方で、例えば冬木で出会ったヘラクレスなどはA+に達する。到底、太刀打ちできる敵ではない。

 クロの懸念は、レイシフト直後の戦闘に姿を見せていた、あの女武者だ。バーサーカー、というクラスからは想像もできない武芸の冴えを感じさせた。絨毯爆撃さながらに見舞った宝具の連射を当然のように掻い潜り、斬り伏せて見せた撤退戦での技倆。あれは正しく、その時代最強の武芸者が有するものだった。

 そのスキルに、クロは身に覚えがある。

 【無窮の武練】

 オルレアンで、あの湖の騎士が振るったスキルだ。それと同じか否かは不明だが、少なからず、それに類するものを、あのバーサーカーは所持している 。

 合理的推論というより、第六感にも似た洞察。クロの持つスキル【心眼】は、経験的事実から合理性にたどり着く帰納的なのものでなく、天性の勘によって、洞察される演繹的なものだった。

 仮に、あのバーサーカーがランスロットと同格の強さであった場合、勝ち目はないに等しい。ランスロットに勝利できたのは、クロ自身がランスロットと以前戦闘したことがあり、さらにトウマの”原作知識”があったからだ。逆に言えばそれらが無ければ対策など立てようもなく、そうなったとき、単純なステータスの差は露骨な戦力差として現れるだろう。

 「いい、下手に戦っちゃ駄目よ。逃げる時は逃げる! いいわね」

 騎兵たちが皆頷くのを確認してから、クロは栗毛の馬の頭を敵が来る方角へと向かわせた。

 「投影、開始(トレース・オン)

 言祝ぐように、クロが魔術を作動させる。

 分類上シングルアクションに近い魔術だが、その実態は大きく異なる。その呪文は、実際のところは呪文などではない。彼女───というより、彼女の核を形成する英霊は、その魔術を行使するのに何ら呪文を必要としない。故にその言語動作は、ルーティンに近かった。

 薄い桜色の唇が蠱惑的に蠢動する。言語が象られると同時、彼女の脳内に明瞭な輪郭を伴った武装が浮上する。

 朱色の、魔槍。英霊クー・フーリンが振るう、放てば心臓を必ず抉る因果逆転の魔槍。

 そして、クロが大脳古皮質の奥底で基本骨子を想定したときには、既に完了していた。特異的な投影魔術(グラディエーション・エア)は完了し、彼女の手の中に、太古の幻想(ノーブル・ファンタズム)が顕現していた。

 「投影、変形(トレース・ダブル)我が骨子は捻じれ狂う(I am the bone of my sowrd)───」

 連続して、彼女は投影魔術から流出した術式を起動させる。彼女では固有結界の再現は不可能だが、そこから派生する魔術であればその全ての運用を可能とする。宝具の強化から変形に至るまで、クロエ・フォン・アインツベルンは、かの英霊の持つ技能を再現し得る。

 ───そうして、クロの手に最終的に残ったのは、赤い一本の矢であった。つい先ごろまで、彼女の躯体の倍ほどもあった長槍は、深紅の矢へと姿を変えていた。

 矢を、黒い洋弓に番える。矢じりと弦が軋みあい、左手の甲に堅い矢箆が触れた。

 狙いは上空。抜けるような穹窿に鏃の切っ先を向けた。

 「───『偽・鏖殺槍(ブリューナクⅡ)』!」

 そうして解放された真名は、光の御子が振るう赤き呪槍と同じ銘を有していた。

 クロエ・フォン・アインツベルンの為し得るほとんどの魔術は、核を形成する赤い弓兵の英霊の技能を根幹とする。翻って言えば、彼女は英霊エミヤの二番煎じでしかない。

 それは、彼女自身がよくよく心得ていることだった。そして同時に、クロは向上心が高かった。オリジナルの彼女(イリヤスフィール)と比しても、また彼女から分離した彼女(イリヤス)と比しても、こと戦闘技能に限り、彼女は自らを恃み、また卓越させること怠りない。即ち、彼は英霊エミヤ(おにいちゃん)遺産(戦い方)をただ食いつぶすように転用する以上に、自らに最適化させ続けている。

 まさに今彼女が撃ち放った宝具は、彼女の手によって改竄(かいぞう)された伝承の、一つだった。

 クー・フーリンが振るう赤い呪槍ゲイ・ボルグ。穿てば因果を逆転し、必ず心臓を貫くその槍の欠点は、射程の短さにある。逆転すべき因果が発生しえない長距離戦において、ゲイ・ボルグはただの槍に過ぎない。また運動性能に長けるサーヴァントが敵であった場合においても、すぐさま射程外に逃げられれば、文字通り無用の長物と化す。 

 クー・フーリン本人であればともかく、ステータス上決して優秀とは言い難く、また小柄故槍の扱いに不得手のクロには、使いにくい宝具であるのも事実だった。

 ならば、ゲイ・ボルグを己に使いやすく改造すればいい。槍ではなく、自らが得手とする武装へ。アーチャーのクラスに相応しい、射れば心臓を狙い追尾誘導する呪いの矢。原典ほど強力な因果逆転こそないものの、高い運動性能を以て目標を必殺する矢は、投影コストの低さを想えば便利な宝具だ。長射程という点ではフルンディングに劣るが、1~2km程度での迎撃には便利だった。

 クロの手を離れた呪いの矢は、愚直なまでに穹を翔ぶ。既に獲物は定められ、後はただその穂先に心の臓を抉るのみ。

 極限まで単機能化された幻想は、ただ一つの結果だけを求め、1km先に迫ったサーヴァントを刳り貫いた。

 はず、だった。

 ───ふと、クロは異様な違和感を覚えた。何かがおかしい、と思った少女は、次の瞬間愕然とした。

 右手は、未だ矢を掴んでいた。黒い洋弓は空に構えたまま、呪いの矢は手から離れていない。数舜前の「射た」感覚は残りながらも、未だ自身はその行為を為していなかった。

 いや、それだけではない。妙に心臓がざわつく。全身の毛穴が嗚咽するように開いている。視界がぶれている気がする。手が、震える。延髄に焼き鏝をねじ込まれるような頭痛が炸裂する。

 混乱一歩手前の情動。ざわざわと全身の肌が粟立ちながらも、完全に不定の混乱には陥らなかった。彼女の冷徹なまでの戦術眼が己の理性を立て直した……わけではない。

 「クロ!」

 彼女の理性と良識を奮い立たせたのは、背中にしがみつく少年の鋭い気宇の声だった。

 「宝具だ、なんだかわかんないけど、敵の宝具の効果ってだけだ!」

 酩酊するような視界の中。臓腑からこみあげてくる嘔吐感を抑えつけ、クロは番えた矢を今度こそ撃ち放った。

 間違いなく、今度は矢が飛び去った。怒張の弦から解放された朱色の矢は音速にも匹敵する速度で相対距離1kmを踏破する。4秒未満で彼我距離を零に詰めた必殺の矢は、過たずに敵を刺し穿った。

 はず、だった。

 およそ半瞬。間違いなく射たという弓兵としての直観が閃くのに遅れ、ほんの僅か。首を擡げた疑義に、クロは怖気にも似た不快感を惹起させる。

 まだ振り切っていない。敵の宝具だかスキルは、確実に自分を蝕んでいる。

 脳裏に過る対魔の宝具。だが脳裏を空転するだけ空転した虚像は、瞬く間に思考から霧散していく。

 何かが変だという感覚だけが鬱勃とのたうち、でも何が変かすらも不鮮明に溶けていく。胸郭を押し上げ肋骨を破砕するほどの動悸が肺を打ち、全身の汗腺から絶対零度の脂汗が滲んでいく。

 「クロ、敵だ!真後ろにいる(チェック・シックス) !」

 混濁する五感の中、厭に鮮明に響く声。見知ったようなそうでもないような声の赴くままに、右手に投影した矢の切っ先を背後へと突き立てた。

 空を切る鏃。一瞬の後に五指を貫いた感触は、しかし酷く硬質だった。

 「っと、間一髪って奴だねこれは」

 耳朶を衝いた声は酷く輪郭が毀れていたが、にも関わらず、何故かクロの脳内にざくりと突き刺さった。

 「全く、七面倒臭いやり口は凡夫のお義兄様らしいな!」

 立て続けに頭蓋を揺らす空色の声。嗜虐性すら感じさせる声が響くと同時、視界を真紅の双眸が閃いた。

 「『混元一陣(かたらずのじん)───!」

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