fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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強襲、迅雷

 「やあ、シバイ殿。いや、君はライネスの方かな。さっきのはすごくよかったね、君が最後の弱点を探り当てたんだろう」

 「どっちも正解。司馬懿殿は気が滅入ったそうだよ、さっきのを見て」

 「そうだろうね」

 「みんなは?」

 「無事だよ。アサシンはダメだったが、あれは元よりそのつもりだったのだろう」

 「そうか。どうあれ悪いことをしてしまった。それと、君にも無理をさせた」

 「エルメロイの家名は、そこまで落ちぶれちゃあいないってことさ」

 「エルメロイ。エルメロイか。しかし君のお兄さんも物好きだな。私をわざわざ頼るなんて」

 「君も、『出師表』で召喚された口なのか」

 「ありがたいことに。君のお兄さんにはよくしてもらったよ」

 「こちらこそ。天才(バカ)の面倒を見てくれたんだろう?」

 「見て貰ったのはこちらのほうさ───どうやら、ここまでのようだな」

 「もう行くのかい。気が早い」

 「英国紳士は時間に正確であるべきだし、潔くあるべきさ」

 「そんな幼女の姿で言われてもな。悪魔の時と言いギャップがデカいよ」

 「あぁそうだ。悪魔と言えば」

 「なんだ?」

 「トウマ少年に伝えておいてくれ。悪魔は名前が好きなんだよ、と」

 「他に何かあるか?」

 「いや、大丈夫。もう刻限だから、逝くよ」

 「うーん。サーヴァント同士の別れの挨拶というのはどういうべきなのだろうね? 元気でね、というのはおかしいだろうし。こんな状況でもなければ、また会おうというのも不吉だな」

 「おセンチでなければなんでもいいさ」

 「そういわれてもなぁ、ジャック」

 「……」

 「ジャック? ジャック。ジャック───」

 「───」

 

 ※

 

 酷く、その死に体は醜悪だった。

 四肢末端は焦げ落ちると同時に腐敗し、腹部も黒く変色した臓器が顔を覗かせていた。剥き出しになった脊椎からは、不気味な液が滴っていた。

 焦点の合わない瞳孔。手を翳し、瞼を下ろしたライネスは、如何にも鼻白んだような身振りをしてみせた。

 「挨拶も出来できないのか。グレイだって、最初の時もそれくらいはできたさ」

 対象を喪失した発話。さわ、と吹いた青白い潮風が白い髪を浚い、そうしてジャック・ザ・リッパーの体躯も崩れ落ちていった。

 ───いや、どうだっただろうか。もしかすると、あの子も最初は挨拶すらできなかっただろうか。

 掌に残る、黝い燐光。握ろうとしたときには既に光を失い、大気(マナ)へと溶けていった。

 「いいだろう、最初は一般的なマナーの講義だ。特別に私が教えてやるから、早く来るがいいさ」

 詮の無い言語だった。気恥ずかしさと後悔と、哀愁。どれにも同定され得ない情動は、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテという人生に、あまり惹起したことのないものだった。

 やれやれ。そんな、らしくない演技とともに声を吐き出す。焼け付きそうな目に点眼をしてから、ライネスはいつも通りの口調で言った。

 「すまないんだが、ちょっと変わってくれるかな。ちょっと」

 (あぁ、構わんよ)

 ───司馬懿はごく自然に、表に顔を出した。同じ身体を共有する身として、ライネスの心情は漠然とだが理解している。理解しているが故、司馬懿は特に何も言わなかった。

 さて、と思い直した時だった。

 (あ、繋がった!)

 耳朶を衝くような悲鳴。面前に投影された通信映像の向こう、目を白黒させたロマニの顔が迫った。

 (敵襲だ! ローマが襲われてる!)

 

 ※

 

 その日はごく自然な一日だった。首都で皆の帰りを待ち続ける、ルーティンにも似た日々。ブーディカは軍団の整備に勤しみ、マシュはストイックなトレーニングを続ける。そんな日々の中、少し違ったことがあった。

 早朝。甘い宇宙(ソラ)色の穹窿の果てが僅かに焼け始めた、涼やかな茜色。ざわりと肌寒さを感じながらの起床は3週間に届こうとしている。身体に馴染み始める習慣化の中、マシュはいつものように定時の連絡をした。

 「おはようございます」

 (よおマシュか。定時連絡だよな、ちょっと待ってろ、司令官と交代するから)

 モニター越し、ずんぐりした男が席を立つ。今日の当直はムニエルさんか、と内心に呟いていると、ロマニが代わりに席に座った。

 (やあマシュ、おはよう。調子はどうだい?)

 眠たげな様子を隠そうともせず、目やにだらけの顔で歯磨きをしながらの応答だった。

 「不調はありません、好調です」ちょっとだけ、マシュは言い淀んだ。「すみません、早朝に」

 (うん、バイタルデータもいつもと変わらない。疲労度もない)ロマニは歯ブラシを咥えたまま、手元のモニターを見下ろしていた。(まぁそちらは気にせず。指示したのはこちらだからね)

 うんうん、と物分かり善さげに頷くロマニ。実際のところ寝ぼけて首を上下させただけなのか不明だが、にへら、と柔和にほどけた笑みは得も言われぬ安堵を惹起させる。

 (コラ、ロマン! そんな姿で通信に出るんじゃあないって言ってるだろ)

 (あーごめん、確かに)

 (ほらほらどいたどいた。向こうで顔を洗って、きちんと整容しておいで。それとムニエル! 私が居るんだからロマンを起こすな!)

 しっし、と追い出されたロマニの代わりに座ったのは、艶のいい黒髪の女性だった。

 女性。そのセックス(ジェンダー)分配が正しいのか果たして不明な人物、キャスター、レオナルド・ダ・ヴィンチは、ボロボロの見た目だったロマニとは対照的に、完全な美質を誇っていた。

 (いやあごめんね、朝からお見苦しいものを)

 「いえ、私は別に」

 てへ、と笑って見せるダ・ヴィンチに、マシュはただ肩を竦めた。

 前線で戦っている身として実感は皆無であるが故、少人数のスタッフで裏方(オペレーション)を継続する労力は想像の埒外にある。普段のシフトは7人で運営しているところを常時3人から4人、最悪2人で行っている実態は、直感的に異様であることは理解していた。特に出ずっぱりになっているロマニの身体疲労は、慮るだけで気絶しそうなほどだ。

 (まぁ気にしなさんな。実際命がけの君たちに比べれば、こっちはただ疲れるだけだからね)

 ダ・ヴィンチは至って平気な様子だ。実際のところロマニ以上に労働しているはずの彼女が元気そうなのは、サーヴァントだからという以上の精神力の為せる業だろう。あるいは、そう見せないことが英霊レオナルド・ダ・ヴィンチという在り方なのか。

 (アダムとやらとの戦闘もこれからみたいだしね。それが終わったら、最後の決戦ってとこなのかな)

 何気なく、ダ・ヴィンチは言う。マシュもいつもと変わらない様子で頷き返して見せるが、内心では緊張を惹き起こさないわけにはいかなかった。

 決戦。そうなれば、今度こそ戦闘に出ることになる。とはいえ、それをやっとの出番と見做すだけの蛮勇はマシュにはない。役に立たなきゃという義務感が第一にあるが、それもその実は役に立てるのか、という不安の裏返し。さりとて義務感も義務感で正しく在立する、二重の情動の加速だった。

 マシュ、という少女の特質は、圧し潰されそうな自らの情動の中それを顔に出さない点にある。生まれというよりは、その後の発育のせいだろうか。マシュは感情的発露が乏しいというより、その手段に敏くなかった。

 (ねぇマシュ、前の話覚えてるかな)

 だから、ダ・ヴィンチのそれはごく自然な会話であったけれど、その実は産婆のような優しさだった。優しさ、というには迂遠で、それでいて距離がある。同情、と呼ばれる、感情とは微妙にズレた社交性。

 (あれだよ、前に話した強化案のこと)

 記憶の淵から引っ張り上げた言葉が、口を衝いて出る。そうそう、とモニター越しにダ・ヴィンチが頷いた。

 (ペーパープランが現実になりそうでさ)

 「オルテナウス、でしたか?」

 (そうそう、流石に覚えが良いねマシュは)

 ダ・ヴィンチは朗らかに笑う。何か確認するようにモニターに目を落としてから、何かを拾った。

 カード、のようだった。サイズはタロットと同程度だろうか。自然、マシュの目はカードに目が行った。

 鎖に縛られた囚人のような人物が描かれた、奇妙なカード。苦悶に囚われたが如き罪人の姿に、何故かオルレアンで見た黒き聖女の姿が重なった。敵に回り、最後に身を翻した、あの純悪なる黒竜の聖女を、想起させた。

 (まぁ本音を言えば、まだ実験段階以前なのは変わらないんだけど。でもこれが実現したら、君の助けになると思うんだ。全領域対応型霊子強化外骨格、オルテナウス・ストライク───)

 謡うような美声がざらついたのは、その瞬間だった。否、正確にはざらつきすらない唐突な断線。ぶちりと切れた無線の声に、まずマシュはぽかんとした。

 特異点、という不安定な仮説的歴史と繋がりを持ち続けるのは技術的に容易ではない。無線が途切れることは日常茶飯事……とまではいかないが、そう珍しいことでもない。これまでの定時連絡で、そもそも繋がらないこともあったのだから。殊に西暦60年という現在。オルレアンに比べればはるかに神代に近い古代ローマは、それだけ難易度が高い。

 だから、まずマシュは今回もそうだと思った。

 だが直後、マシュは自室の席から立ち上がった。楽観的な観測だけで動くべきではない。これは意図的なジャミング、と判断する。

 霊基起動。認識と同時に騎士甲冑と盾を現出させ、勢いドアから飛び出した。

───飛び出して、マシュは絶句した。

 廊下に広がる真っ赤な海。噴き出したばかりの血の海は、比喩でも何でもなく血液が作った水溜まりだった。

 転がる首、腕、足。こぼれ出た内臓。幾人もの人間が折りたたまれた、もつ煮込みハンバーグ。

 あまりにあっさりと具現した地獄。紅蓮の地獄に当たり前のように佇むそれは、しかし、その光景にはあまりに不似合いだった。

 黒い髪を長く伸ばした貴人。麗らかで嫋やかな、古式ゆかしい女性だった。

 地獄には天使がいる。高き天より堕落した、輝ける天使。明星の名を持つ熾天使。

これは、それだ。この世に顕現した地獄を住処とする、麗しき天使。携えた刀にべたりとついた血糊すらも化粧にする怪物。

 バーサーカー。この特異点の初戦で合間見たサーヴァントだった。

 言葉はない。ひたり、と据え付けた眼差しがマシュをただ捉えただけ。ただそれだけだというのに、マシュは嘔吐しかけた。

 魔力や神気などない、ただただ純粋な戦闘意欲。殺意あるいは闘気をあてられただけで、マシュは気絶しかけた。それだけの格の違いがあることを、マシュは───というより、マシュの身体に残留した英霊の霊基は理解した。嘔吐しなかったのは、早朝で胃が空だったという、それだけの理由だった。代わりにせりあがった胃の粘液が、咽頭を焦がした。

 まさしくそれは蛇睨みの様相。マシュは身動ぎ一つも許されず、ただバーサーカーが刀を構える様を見ているだけしかなかった。

 「誅罰、執行」

 死ぬ。間違いなく、死ぬ。紛れはない。あの刀が振り下ろされれば、それで終いだと、細胞の一かけらまでもが確信した。

 振り下ろされる刃、痙攣する身体。首が斬り飛ばされる光景を幻視しながら、マシュは最後まで行動しきれなかった。

 ずしゃ。

 「───っぶなぁ!」

 間、一髪。

 首を刎ね飛ばすはずだった一刀は寸でのところで迎撃された。

 銀の剣。黄金の柄をもつそれは、何故か冬木で見た星剣の観念を惹起させる。

 だが、直感的に理解する。その剣はかの星の聖剣には決して届かない二流の剣。勝利を約束されざる剣と共に飛び込んだ朱色の猪突は、この一撃においてはバーサーカーの一撃を上回った。

 踏鞴を踏むバーサーカー。さらに横薙ぎの一撃を撃ち込むその騎影は───。

 「ブーディカさん!?」

 「マシュ、ここはいいからアンタはネロ公のとこに行きな!」

 でも、と続く声は吃るしかなかった。

 横薙ぎの一閃を当然のように返す刃で弾き返すバーサーカー。さらに袈裟切り掬い上げ上段からの振り下ろし、刀による剣戟は文字通り息を吐かせぬ猛攻だった。

 事実、ブーディカには呼吸する暇すらない。全ての剣戟に黄金の剣を重ね合わせて、必殺を捌き切ったブーディカの技量は達人の域。だが、英霊の座に召される英雄たちの戦う能力は、達人であることがデフォルト。達人の域にあるということは、ことサーヴァントの戦いにおいては「並み」であることと同意である。ブーディカは元より個々人の技量ではなく軍勢の指揮で勇名を馳せた英雄。このタイプの英雄は、個人技においてはあくまで並みにとどまる。良くも悪くもブーディカは、いわゆる並みのサーヴァントなのである。そんな並みに過ぎないブーディカにとって、あのバーサーカーと正面切って戦うことは自殺行為以外の何物でもない。マシュは、そこまで理解した。

 そして、ブーディカの死まで理解した。さらに、ブーディカの指示の意味も理解した。あのライダーは自らの死が避けられないことを十分に知悉した上で、さらには生半可にマシュが介入したところで諸共に死ぬことまで悟る。それ故の逃避指示。さらにはこの強襲戦の敵戦略まで洞察したブーディカの指示は、嵐の王(ワイルドハント)として恐れられる荒ぶる伝承とはそぐわない怜悧な判断だった。マシュはそこまで、理解した。

 「でも!」

 だが、その判断ができるのは歴戦を経た戦闘者のみ。戦場の哲学的・普遍的直観を納得し、行動を起こせるのはさらに一握り。蛮勇纏う勇者の気質は、アプリオリにマシュには存在しない。ましてアポステリオリにも存在しない。それ故に、マシュが倫理的躊躇を抱くのは当然だった。

 「良いから行け!」

 響く怒声、痙攣する身体。不意に視界に跳んだ車輪がマシュの胴体を打ち付けるや、軽々と彼女の矮躯を轢き飛ばした。

 「あとでまた会おう、マシュ! まだアンタには故郷の料理、教えてないしね!」

マシュには返事をする余裕もなかった。こみあげた寒気のような吐き気を下唇ごと噛み殺し、マシュはただ、地獄から逃避した。

 

 

 頭首腋窩腹部股間大腿部、狙う剣戟は須らく必殺。それが一秒未満、幾重にも重なって襲い掛かる様は恐怖以外の何物でもない。

 さらにバーサーカーの太刀筋は異様の一言だった。どれだけ速い太刀筋であろうと、それだけならば馴致による対応は難しくない。英霊に至るほどの傑物ならばなおさらである。

 だが、ブーディカをして、その剣戟は予測不可能だった。速さの質が違うのだ。単純な速度に優れるわけでもなく、ただただそれは速度と呼ぶに異質な何か。剣と刀が交錯する速度に左程の差はないのに、何故か迅く上回る打撃。

 たかだか数秒ほどの戦いだというのに、既に重ねた剣戟の数は50を超えた。さらに加速度的に増す金属音をかき消すような真名解放の声は、実際のところ───。

「『約束されざる勝利の剣(ソード・オブ・ブディカ)』!」

 音を上げたのと、同義だった。

 淡い黄金に煌めく刀身。収束するオドが刀身に宿り、次の瞬間無数の純粋魔力弾と化して通路を埋め尽くす。

 だが一歩、バーサーカーの動作は早かった。眉一つ動かさず、ブーディカの予備動作から攻撃を予測。異様な速度で地面を蹴り上げて後退した。

 『約束されざる勝利の剣』。その真名解放は、端的に言えば無数の魔力弾を同時に扇状にばら撒く、いわゆる散弾(キャニスター)に相当する。一発一発は低火力ながら、至近で多数直撃すればサーヴァントと言えども致命傷足り得る宝具への対応として、バーサーカーのそれは理に適っていた。

 無論、バーサーカーほどの洞察力ならそこまで読むのは織り込み済み。ここは距離を取り戦いの流れを緩めることこそが、ブーディカの狙いだった。だから彼女はバーサーカーが後退したほんの束の間だけ、息を抜いた。

 その間、僅かにしてコンマ数秒。隙というにはあまりに短い間隙。だが、ブーディカが息を吸いかけた刹那、彼女は息を詰まらせた。

 後退しかけたバーサーカーは、ブーディカのその仕草を正しく理解した。そうして理解した後の動作は、正しく怪物だった。

 床を砕くほどに足首がグリップをかける。ぐい、と腰を落とした次の瞬間、蒼古たる女武者の体躯が跳んだ。

 素人目には、その魔力弾は壁としか思えない。回避するにはさらに後退して、壁の密度を薄くするしかない。だのにバーサーカーは飛び込んだ。

 バーサーカーには見えている。強靭なまでの理性は、常人には壁にしか見えない魔力弾の雨の間隙を正確に理解する。

 縫うような繊細さでありながら、その猪突は瀑布の如くに激烈だった。間隙に滑り込みながら回避不能の一撃を刀で弾き返し、バーサーカーはあっさりとブーディカの近接格闘戦領域を侵略した。

 バーサーカーが刀を逆袈裟に叩きつける。

 ブーディカの対応は一瞬───否、半瞬。否、そのさらに半瞬だけ遅れた。隙とすら呼べない隙だが、バーサーカーを相手には致命的過ぎる遅さだった。

 「『約束されざる守護の車輪(チャリオット・オブ・ブディ)』───」

 弦月の如き銀光が騎影を切り裂いた。

 ぶしゅ、と赤黒い汁が噴き出す。咄嗟の回避など当然間に合わず、肩口から侵入した太刀は胸郭を切断し腹部まで抉りぬいた。

 文字通り、意識が切断しかけた。刀で斬られたというより、もはや巨大な戦斧で叩き切られたかの如く衝撃。かろうじて身体が両断されなかったのは、苦し紛れの回避が功を奏したからだった。

 だがそれも、死期が僅かに延びただけのこと。時間にすれば数分程度のことだろう。

 今更に顕現する戦車の車輪。バーサーカーとブーディカの間に割り込む3つの車輪に阻まれたバーサーカーは、今度こそ確かに後退した。

 いや、そうではないのだろう。これは見切り。放っておけば勝手に消滅するライダーに追撃の手を加える必要はない、という判断だった。

 ───だがそれこそがブーディカの必殺だった。

 車輪の数は本来4つ。顕現させた数は3。残る1つは顕現させなかったのはなく、全く別な意図と場所を以て顕現させた。

 その場所こそはバーサーカーの背後。女武者を挟み込む形で具現した車輪は、擦過もすれずにバーサーカーの背後に逸れていった魔力弾を綺麗に全弾跳ね返した。

 そっくりそのまま、無数の魔力弾が反射する。バーサーカーは自らの刀に映った明滅でそれを悟ったが、同時に別なことにも思い至った。

 車輪はバーサーカーを挟み込むように顕現している。ならば回避したとて同じこと、次は正面からの乱打に襲われる。そして次は背後から───。

 無間地獄。招き入れたものを消滅するまで封殺する殺戮空間。ライダーとして召喚されたブーディカの奥底に沈殿する荒魂の発露、咄嗟の反撃だった。

 もう自分は持たない。それは自明。だが、自分だけでは死んでやらない───!

 「悪いけど、道連れになってもらうよバーサーカー!」

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