fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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これにて第二章、終幕にございます。


星は振れ、(ソラ)へ堕つ(終)

 数日後

 人理保障機関フィニス・カルデア管制室にて

 

 「第二特異点も修復完了、か」

 コンソールを叩きながら、ロマニ・アーキマンは小さく呟いた。

 特異点の修復、という吉事の熱はない。どこかの誰かみたいに一つ結びの髪をかき回したロマニは、ぎしりと背もたれに実を預けた。

 「お疲れ様でした」

 「うんお疲れ、ゆっくり休んでね」

 休憩に入るスタッフを見送る男の脳裏には、全く別なものが廻っていた。

 あの時、スタッフ総出でサポートに駆り出していながらも、音声だけはきちんと拾っていた。

 「フラウロス」

 薄い、瞑目。手袋をとったロマニは、指輪の挟まった手を、天井に翳した。

 あの時見た景色が、指輪に重なる。

 あの時。聖杯戦争の終極、眼を喪う最後に目撃したあの光景。燃え尽きる世界の果て。誰かが、こちらを見返したような、あの景色───。

 「やあ、随分暇そうじゃあないか」

 聞きしった声が、頭を小突いた。お、と身体を起こしたロマニは、「まぁほどほどにね」と応えた。

 隣のオペレーター席に座った外見上美的な人物───レオナルド・ダ・ヴィンチは、いつものように朗らかな顔をしていた。

 「レフのことかい?」

 「彼を倒したら終わりになったらいいなぁ、とか思ってたんだけどねぇ。」

 「あと5個か、特異点。あれかな、レフは四天王でも最弱……なんて話になるんだろう?」

 「いや数あわなくない?」

 「七二天王」

 「多すぎるし、絶対何人かキャラ被りしてる」

 てへ、と舌を出すレオナルド。肩を竦めたロマニはすっかり冷えたコーヒーを飲むと、先の長さと、亡くした視界に残留する不気味さに、喉を鳴らした。

 「そういえば、また出たのかい」

 「うん? あぁ、さっき君の研究室に届けたよ。今度はセイバーのカードだった。なんなんだろうね、特異点修復の度に召喚室に落ちてるカードは───っと、あともう一人」

 「やほ」

 「うわ!?」

 ひょこ、と唐突に差し込む影。仰け反りすぎて転倒しかけた瞬間、ひやりとした感触がロマニの身体を抱擁した。

 砂金を解きほぐしたかのような髪。ビスクドールみたいな白い肌、空色の目。おとなしくしていれば誰しも目を惹くであろう少女の姿は、間違いなく───。

 「サーヴァント。司馬懿。呼ばれてないけどきてやったよ」

 まぁ、今はライネスだけど。

 そう付け加えた金の髪の少女は、端正な顔をいたずらっぽいサキュ顔に紙縒った。

 おそるおそる、背後を振り返る。自分を抱きかかえる水銀を見、ロマニはただただ目を白黒させた。

 「え、いやだって聖召石のストックはもう」

 「義兄様(おにいさま)に頼まれてね。乗り掛かった舟だから助けてやれ、とのことだよ。世話焼きは相変わらずだ」

 よろよろと姿勢を直されたロマニはレオナルドとライネスを見比べて。やっぱり、ただただ途方に暮れていた。

「これからよろしく、オルガマリーの後釜さん?」

 

 

 その日、マシュ・キリエライトは急いでいた。

 普段施設の廊下を走ることなんてないのだけれど、その日だけは走っていた。途中、医務室の前でトウマとぶつかって、互いに最近のトレーニングメニューについて話をしたりしながら、一路向かうのは食堂である。

 息も切らさず食堂に飛び込んだマシュは、すぐに見つけた。

 食堂の一室、端っこに(たむろ)する一団。ギャーギャーと喚き声を上げる3人の内、赤銅色の髪の1人が手を上げた。

 「おーいマシュ、こっちこっち」

 そんなにデカい声を出さなくても、もちろんわかっている。それでもその声───先輩の顔にきゅっと身体を竦めたマシュは、はい、と応えた。

 「正直紅茶の何がおいしいわけよ。コーヒーの方がマシじゃあない?」

 「コーヒーなんて泥水だろうに。それをわかるんだよ」

 立て続けに罵詈雑言をぶつけ合う他2人。犬猿のように見えて2人は楽しくて互いを罵倒していることは、既に周知のことだった。 

 「エナドリ最強なんだよなあ」

 「死ねバカ」

 「味覚雑魚に発言権なんてないわよ」

 「ヒドイヨ」

 挨拶とでも言うように飛び交う罵倒。

 いそいそと椅子の一つに座ったマシュが思い浮かべたのは、果たして誰だっただろう。開いた手に視線を落としたマシュは、静かにテーブルの上の菓子を自分の元に引き寄せた。

 ちらと、横目でリツカを見る。おぉんおぉんと泣き真似をしていたリツカはマシュの視線に気が付くと、奇怪な声をあげてマシュの懐に飛び込んだ。

 「2人が私を苛めるよゥ」

 胸に顔を埋めてくる赤銅色の髪の先輩。相変わらず熾烈な言語的闘争を嗜む2人をなんとなく意識しながら、マシュは、遠慮がちに、思いのほか小さな身体の先輩を抱き返した。

 視界に擦過する、あの時の顔。傷のように血を浴びた顔に、マシュは、指先が震えるのを感じた。

 「先輩、私」

 ほ、と上目遣いで顔を上げてくる先輩。きょとんとしたアホ面に言いかけた言葉に口唇を強張らせたマシュは、むに、と一度自分の頬をつねった。

 「わ、私は緑茶も良いと思います!」

 「おーっとここで新勢力の登場だァ!」

 「砂糖とミルク山盛り緑茶、結構いいわよね。魔法少女アニメでやってた」

 「いや君も味覚雑魚じゃねーか! え、ホント? ウソだよね? ねぇ?」

 まだ、ちょっとよく、わからないけれど。

 でも、こんな時間も、いいなぁ、なんて───。

 

 

 ……第二特異点セプテム

 決戦の地、にて

 

───修復されゆく特異点。草原のただなかに、赤い剣が屹立する。

 異界より来る、隕鉄の剣。星の大海より降臨した階。その柄に、男の手が触れる。

 浅黒い肌の男は異星の剣を手にかける。そのまま草原より剣を引き抜くと、泥濘の眼差しを闇黒のソラへと向けた。




神話礼装ネロが出したくて2章書きました。
誤字脱字の報告や感想等ございましたら、お気兼ねなくお申しつけください。

既に三章は執筆済みですので、しばし時間を置いてからまた投稿していきたいと思います。
それでは、第二章ご愛読いただきまして、改めてありがとうございました。
第三章『大洋群雄頌歌オケアノス-恋煩いの流星矢(アルテミス・アーチ)-』、乞うご期待くださいませ。
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