fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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しばらく時間を置くと申しました。

嘘でした。
折角なので、仕事はじめまでちまちま投稿しようかと思います。


第3章 大洋群雄頌歌オケアノス~恋煩いの流星矢(アルテミス・アーチ)
重く静かに、夢のような


 私は、あの日のことを絶対に忘れないだろう。

 煌めく朝焼け、黄金の陽を照り返す、穏やかな海原。凪ぎを孕んだ蒼いわだつみの上、振り返る姿が目に焼き付く。

晴れがましい顔は少年のよう。それでいて、長い刻を経た壮年は胸を締め付けるようですらあった。

 私は、あの日のことを、絶対に忘れないだろう。

 たとえこの世界の全てが、夢のように消滅してしまったとしても。

 貴方の姿を信じて、私は、きっと時間すら超えていく───。

 

 ※

 

 「あら、いつの間に」

 ひょい、と体躯が持ち上がる。

 薄暗く揺らぐ視界の中、きゅう、と鳴いたフォウは自分を抱き上げる、ぱっとしない黒髪の少年を見下ろした。

 立華藤丸(たちばなとうま)。年齢16だという少年は、特段見目が良くも悪くもない顔立ちをしている。ゆるふわにまとめた黒い短髪は、せめて今風にしようとした、なけなしのファッションセンスであろうか。それとも寝ぐせか判断はつきかねるが、温和さを感じさせる下がり気味の眉尻と緩く結んだ口唇とそのなけなしのファッションセンスの不調和は、却ってこの少年の在り方を思わせた。

 「あれ、鍵閉まってたよなぁ?」

 独語のように呟いたトウマは、フォウを抱えたまま個室の入り口の方を見やる。さりとて特段確認するでもなくフォウを地面に下ろすと、トウマは再び元の態勢に───個室に備え付けのデスクに着いた。

 「ミ?」

 「んー、まぁ勉強、みたいな」

 デスクに向かうトウマが、ちらとフォウを見下ろしてくる。薄暗がりの中、ぽかりと開いたデスクライトに照らされたトウマの顔は、何故か、泣いているように見えた。

だが、気のせいだ。ふわ、とあくびと同時に涙が漏れただけらしい。照れのように後ろ髪をかき回したトウマは、「気休めだけど」とデスクに向き直る。

 「俺、あんま役に立ってないからさ」ぐるり、とトウマは周囲を見回した。「個室とかもらって、良い暮らしさせてもらってるのに」

 「フォウ?」

 「いやさ、異世界転生って普通さ、原作知識とか駆使してチートなことするもんじゃん」

 噛みしめる、沈黙。そこから先は何も言わなかったが、続く言葉は自明だった。フォウフォウ、と応えた小動物の頭を撫でつけた少年の顔は、暗がりでよくわからなかった。

 「まぁヘラクレスとかランスロット相手は、うまく行ったけど。でもクロが頑張ってくれただけだから。ローマの時だって、最後はネロが凄かっただけだよ」

 「フォウフォウ」

 「あのおっさんの言う通り、俺は女の子の後ろでイキってるクソガキだよ」鬱々と、思い出すようにトウマは口にした。「弱くてもいい、って言われてもなぁ」

 どさり、と背もたれに身体を預ける。天を仰ぐ。ひょこん、と膝の上に乗り、続いてデスクの上に飛び乗ったフォウは、ごちゃごちゃと広がるデスクの上を流し見る。

 デスクトップ型のPCとタブレット、それと実物の本。本自体はカルデアのレクリエーションルームの時代小説だ。

 目元を強めに擦りつけるトウマは、まぁまぁ眠たげだ。煌々とライトに照らされた顔は、しわくちゃのアルミホイルみたいにやつれていた。

 「フォウ」

 「いや、いいよ。そろそろやめようかと思ってたし」

 「フォウフォーウ」

 「いやだから……ってそっちはダメ」

 デスクから勢いよく跳躍しようとしたフォウが宙を舞ったのは実に一瞬。がし、と背中から掴まれたフォウは「フィー!」と悲鳴を上げた。

 むんずと抱きかかえられたフォウは、不満そうに眼下を見やった。

 ベッドにちょこなん、と横たわる人影。すうすうと寝息を立てるハト麦色の肌の少女は、カルデアの施設内、しかも居住区画だというのに戦闘時の霊衣を展開していた。

 「疲れてるからさ」

 「ミー」

 不満げに、フォウは身動ぎした。トウマの手から脱出すると、しぶしぶといったように「ビィ」と鳴いた。

 フォウとて、物事の道理はわかっている。霊衣展開時の魔力消費は左程とは言えないにしても、それでも無駄な消費であることに変わりはない。特に戦闘にシビアな経済観念を持つクロは、そういった雑味は好まない。

つまり、そういうことだ。そんな気が回らないほどに疲労して寝落ちするほどに、クロは疲弊している、ということだった。

 「マシュのためなんだって」

 「フォー?」

 「いや俺もよくわかんないんだけど」

 「フォウ……」

 「まぁでもマシュの新しい戦い方、イリヤっぽいからかな」

 言って、トウマはゆっくり立ち上がった。うーん、と伸びをしたトウマは布団を綺麗に直すと、漠と佇立した。

 思案げな後ろ姿。身長133cmの女の子を見下ろす身長176cmの少年の背は、酷く、小さく見えた。

 

 ※

 

 クロエ・フォン・アインツベルンが目を覚ました最初の感想は、ともかく疲労が酷いなということだった。

 「んにー……」

 目元をごしごし。ふわ、とあくびも一つ。延びも一つすると、ぽけーっと部屋を見回す。

 薄暗い部屋。デスクの上でぽかりと開く灯は小さく、部屋全体を照らすには及ばない。さしてまぶしくもない灯を漠と眺めたクロは、ベッドに横たわるもう一人を見下ろした。

すやすや。健やかな寝息を立てる、黒髪の少年。マスター、立華藤丸は側臥の姿勢で静かに寝息を吐いている。

 ライトの逆光になっているせいもあって、影になった少年の顔はよく見えない。手を伸ばして軽く顔に触れると、微かに身動ぎしただけだった。

 彼女にとって、これはただの日課。マスターとサーヴァント同士の身体的接触は、サーヴァントの身体状況を整える役目を持つ。わかりやすく言えば、自律神経を整えるような。そんな意味合いだ。必要というよりプラスアルファ的な行為ではあるが、さして手間もかからずコンディションを整えられるならやるに越したことはない。

───無論、それ以上でも以下でもある他意は多分にあるのだけれども。

 黒い髪に、触れてみる。手櫛をしてもがさつかない手触りは、案外手入れがされている。まだ垢抜けない顔立ちは、童顔であることも相まって、酷く幼く感じる。

 クロは、その顔立ちに、何故か胸をざわつかせた。黒い髪を指先で弄りながら、甘く締め付ける不定の情動に口を強く結ぶ。

 嘆息が、漏れる。きゅっと結んだ下唇を上歯で噛みしめた彼女は、あの時のエクリチュールを反芻した。

 不幸なアトラスのふりは───。

 ロゴスが舌先を上滑る。名状しなかったはずの情動が、クロエという存在者の存在、最果ての淵源から顔を覗かせている。

 指先が、顔を滑る。眉間を擽り鼻先を掠めた細い指は、そうして薄い唇に軽く触れた。

 渇いた唇。そうして柔らかなトウマの唇を爪先でなぞった彼女は、静かに、身体を横たえた。

 両腕を、延ばす。小さなマスターの頭を自分の裡に抱いた彼女は、また、非自我という名の深淵(ピュプノス)に誘われて、堕ちていく。出典不明の情動の坩堝、現存在の存在の尖端へと。

 

 

 「マシュってさぁ、結構マッチョだよな」

 見つめ返してくる黒い眼差し。眠たげにハムとチーズのホットサンドを頬張る藤丸立華(フジマルリツカ)は、ライネス・エルメロイ・アーチゾルテの言葉にただただ頷きを返した。

 紅茶を一口。保存用の嗜好品でお供もやはり携帯用の菓子でしかないが、それでもないよりは十分マシだ。はむ、とフルーツサンドを頬張ったライネスは、気品のあるかんばせを優雅に綻ばせた。

 「クロエと模擬戦した後、普通にトレーニングしてた気がするんだけど」

 「やる気があるのはいいことだね」

 むしゃむしゃとホットサンドを蝕むリツカ。どろどろに溶けたチーズが皿の上に水溜まりを作っているのもお構いなく、エナジードリンクに口をつける。特に疲労があるわけでもないのにそれを飲料する悪癖は相変わらずで、ライネスは若干閉口していた。ずるずる音を立てて飲み下す様のはっきり言って品はない。品などどこかに捨ててきたかのようである。

 「他人事みたいに言う」

 「他人事でしょ、実際」

 リツカは特別頓着も無く、さらりとそんなことを言う。突き放した風にも聞こえる彼女の物言いは、とはいえ善く内心を現しているのだろう。情愛のある放任というのは、多分こういうことを言う。なんとなく義理の兄の顔を思い浮かべたライネスは、まぁね、と小さく肩を竦めた。

 リツカの人物像は、魑魅魍魎渦巻く魔術協会の総本山、時計塔の荒波を乗りこなしたライネスをして、あんまりよくわからない。のほほん、とした風采の通りにのほほんとしているけれど、あれは仮面に過ぎない。いや、仮面(ペルソナ)というよりは人格(ペルソナ)。別にそののんびりしたありかたが偽というわけでもなく、あれもまた偽りない本性なのだろう。だが、たとえのんびり屋な性格が本性だったとして。それだけで彼女の本性全てが組みつくせるわけでも、やはりない。のんびりした人格に、表裏一体のように棲みつくもう一つの顔。天才的な知性と決断力、判断力を有した顔もやはり、藤丸立華という人間に統覚されるペルソナの一つである。

 どうしてそんな才覚を有しているのか。にもかかわらず、何故こうも自堕落なのか。ホットサンドを口の中に詰め込む姿は、食い意地をはった幼児にしか見えないのだが……。セプテムからやってきたライネスには、彼女の戦う姿を思い出さずにはいられない。

 「いやこれ旨い。もう一個食べて良いかな……でもな」

 「頼んでみたら。ニナちゃんなら大丈夫だろうさ」

 「すんませーんこれも一個くださーい!」

 食堂でデカい声を出すリツカ。厨房から返ってくる補給科の返答にニコニコしながら身体をゆらゆら揺らす姿は、やっぱ子供じみている。

 欲望に素直な人物である。ある意味で魔術師らしいと言えば魔術師らしいようにも思えるが、どちらかと言えば魔術使いの類だろう。ライネス自身はそういった輩に特段偏見はないが、やはり珍しいと言えば珍しい。

───そう言えば、彼女の来歴は時計塔の人物だった、とカルデアのライブラリにあった気がする。日本の新興魔術師の家系から全体基礎科(ミスティール)に編入、その後特に日の目も見ずに植物科(ユミナ)動物科(キメラ)考古学科(アステア)降霊科(ユリフィス)、法政科となんとなくたらい回しにされた結果、何故か伝承科(ブリシサン)に入らされて、最後に行きついたのが───。

 天体科(アニムスフィア)

 その流れから何となく政治的背景を推し量れるのは、やはりエルメロイ家の次期当主として当然の知略か。民主主義派から追い出された彼女を貴族主義派に引き入れたのは、間違いなくアニムスフィア。成績を見れば特段特筆したところのない彼女の本質───サーヴァントのマスターとしての適性を察知して引き込んだのだろう。

 彼女の学部たらい回しも、こうしてみると意味が見えてくる。酷暑環境下での少人数での長期戦闘行為、しかも相手は歴史的遺物となると───。

 ()()らしい、優れた見識だな、と思う。ライネスは脳裏に浮かぶ銀の髪の少女の姿に、奇怪な情動に囚われた。既にこの世界から去ってしまった彼女に対して、ライネスが言うべきことはない。ましてサーヴァントとして、司馬懿の依り代として時空すら超えて召喚された彼女には何も言う資格も、ない。いや、逆、なのだろうか。時空間すら乗り越えて自分が来てしまったことには、多分、何かがある。

 でも、それは些末な感傷に浸ることじゃあない。飲み終えた紅茶のカップ───公的機関に備え付けにしては品のいい白磁のティーカップを見下ろしたライネスは、ふふん、と小さく鼻を鳴らした。

 飾り気はない、質朴なデザイン。備品と言えば備品で通じるそれは、涙ぐましい努力を感じる。全く、と口元を緩めることにしたライネスは、運ばれてきたホットサンドに目をキラキラさせる赤銅色の髪の少女をまじまじと眺めた。

 「次はどんな特異点かなぁ」

 まるでピクニックにでも行くみたいな、能天気な口ぶり。エナジードリンク2本目を飲む彼女の目は、一切たりとも揺れていない。

 「リツカ」

 「ほえ?」

 「ちゃんと健康診断、受けるんだよ」

 「アッハイ」

 (おーい、みんないるかい? 次の特異点の座標、特定完了したから、管制室に来てくれないか)

 

 ※

 

 「やぁみんな、集まったね」

 管制室の一画。椅子に座ったままのロマニ・アーキマンの表情は、なんとなく気まずげだった。後頭部の髪をかき回しては苦い笑い顔を浮かべている。ちらちら視線を向ける先には、プラチナブロンドの髪をさらりと流した女性───ライネス・アーチゾルテ・エルメロイがそれはもうにこやかな顔をしていた。

 「改めての紹介だけども」

 「ゴー……いや、サーヴァントか。真名は司馬懿、クラスはライダー。よろしく頼むよ」

 小綺麗に顔に張り付いた笑顔のまま、スカートの裾とちょこんと摘まんで見せる。おー、と何故か感心したように拍手するマシュは、きらきらした目で見つめていた。

 かく言うトウマも、つんと澄ましたライネスの横顔を同じような目で眺めていた。理由ははっきりとわからない───トウマの知識量では不明だが、要するに彼女は特異点の聖杯によって召喚されたサーヴァントではなかったらしい。そうして彼女の魔眼を使って上手い事レイシフト紛いの行為でカルデアに来たんだとか。

 まぁ、トウマとしてはどうでもいいことではある。いや気になるけれども、それよりも新しい仲間が増えたことの心強さは、やっぱりある。しかも原作キャラ。前作主人公が続編主人公を助けにくる的な心強さがある。

 まぁ、ライネスというキャラクターの存在自体は知らなかったわけだけれども。

 「制服、善く似合ってるんじゃないかしら?」

 「まぁ、たまにはこういうのもいいかな」

 くるりとその場で回転してみせるライネス。ひらひらとひらめくプリーツのスカートを眺めるライネスの顔は、完全に満足はしていないようだ。はたはたとユニフォームの裾をはたくと、「まぁ、これで私もお仲間ってことかな」と呟いた。

 「でもあんまり期待しないでくれよ? 正直、身体スペックは並の人間と変わらないからな」

 「マジでか」

 「マジだ。なんならトリムマウも、今はマシュに預けているからな、魔術にはド素人のお兄さんにもろくに抵抗できないぞ。暴行事件が起きそうになったら全力でマシュかクロエに助けを呼ぶから、その時は頼むよ」

 「はい! マシュ・キリエライト、不埒な暴漢が現れたら全力で撃退します!」  

 ライネスは我がごとながら、素知らぬ顔で鼻を鳴らして見せる。何故か溌剌と応えたマシュは多分よく理解していないんだろう。他方、クロは珍しく表情の取捨選択ができなかったらしく、曖昧な顔を浮かべただけだった。

 ……なんというか。こういう時野郎1人というのは厳しいものがある、と思う。傍目から見れば羨ましい光景なのかもしれないが……とにかく距離感が難しい。

 今のタイミング、果たして下ネタで乗っかるべきだったのかどうなのか。気ごころ知れた高校の友達とかなら仮借なく何か言ってもいいのだけれど、この面々だと果たしていって良いものやら。側頭部の刈上げを手慰みになでながら、曖昧な顔で笑うリツカとなんともなしに視線を交わした。

 ギャルゲー主人公の気苦労が、幾ばくかわかり始めていたトウマである。

 「そもそも、司馬懿としての力は腕力じゃなくて頭脳なわけだし。単純に、現地にレイシフトできる人員が増えただけでもありがたいよ……おかげでモニターの作業も必要最低限で済むしね」

 目元を擦りながら、ロマニが言う。リツカと同じエナジードリンクを椅子のドリンクホルダーから引っ張り上げると、ちびりと一口含んだ。

 「さてと、それじゃあ本題に入ろうかな」

 ホルダーにアルミ缶を戻すと、ロマニはなんだか鈍い動作で身を翻すと、管制室の下段へと降りていく。

 階段状にデスクが並び、それぞれスタッフが作業する様はなんとなく大学の講義室を思わせる。オープンキャンパスでの光景をそれとなく思い出しながら、トウマはきょろきょろとロマニの背を追う。普段は管制室に立ち入ることは滅多にないが故、ここでの光景は新鮮だ。

 階段を降りれば、それはすぐ目の前だ。

 疑似地球環境モデル・カルデアス。支柱に戴く赤い矮星の如き惑星は、ぼんやりと明滅しながら暗い管制室を照らしている。かつては、これは地球と同じように青かったらしい。いや、そもそもカルデアの外の地球は、こんな風に赤く焼けていると言う方が正確か。どちらにせよ、あまり見ていて気持ちのいいものではないな、と思う。何せ、この赤い星に、彼女は今もって還元され続けているのだから。

と、小さな呟きのような声が耳朶を打つ。ライネスが嘆息を吐いたらしい、盗み見るように一瞥を向けると、さして関心があるでもないように、ぼんやりとこの赤い星を見上げていた。

 「結局、今のところは何もわからずじまいだ」

白衣のポケットに手を突っ込んだまま、ロマニは赤い星を見上げた。自分とさして身長が変わらない赤毛の大人の背に何を感じて良いのか、トウマにはまだよくわからない。

 「レフは倒したし、ネロ帝からも第二の聖杯はいただいた。無事に特異点は修復できたといってもいいんだけれど、根本的には何も解決してないからね」

 「あの肉の柱みたいな? フラウロス、だっけ。ゲーティアの」

 「そうだね。古代の王が使役したとされる、72柱の悪魔たち。アレは確かに、自分をその内の一柱だと名乗った」

 さらさらと当たり前のように会話するリツカとロマニ。うんうんと頷くマシュも何を言っているのかは理解している、ということか。

 トウマとしては―――なんか最近読んだ資料にそんなものがあった気がするなぁ、くらいの感覚だった。

 「ごめん、あそこで私たちがちゃんと捕縛できてたら」

 「いや、それは仕方ない。もしできたとしても、果たして口を割ったかどうか」

 肩を小さくするクロに、ロマニは努めて朗らかだった。

 「あの影のサーヴァント。あれも実際不明だ。アレが何なのか、そっちも今のところ解析できてない。できてないけど、でもアレが強大であることは間違いない。霊基規模からすれば、通常のサーヴァントを遥かに上回る数値が検出されてるし―――あんなのが割って入ってきたら、ひとたまりも無いよ」

 「実際、私たちじゃあ手も足も出なかったしね」

 不機嫌さと決まりの悪さを混ぜ合わせたように、ライネスは眉を寄せる。思案気にも見えたけれど、むしろあの顔は思案しようにも材料がない不快感を露わにした顔だ。舌打ちこそしなかったけれど、ライネスは綺麗なプラチナブロンドの髪をかきあげると、鼻息を吐いた。

 「古代の王が使役したとされる悪魔を名乗る肉の柱。そしてそれを助けたあの影のサーヴァントたち。果たして仲間なのか、それとも利害関係が一致しているだけの無関係者なのか。悪魔の名は騙りにすぎないのか、それともかの王に関係するのか。影のサーヴァントが何故あんなにも強大な力を持っているのか。わからないことだらけなんだ、今は」

 ロマニは相変わらず朗らかな顔をしていたが、思わず全員が押し黙ってしまった。

 当然だ。2つの特異点を修復することだって、はっきり言ってギリギリだった。どこで失敗してもおかしくなかった。そんな旅があと最低5度も控えているというのに、未だ何も判明しないという現状。憂を抱かない方がどうかしている。サーヴァントとして召喚されたクロとライネスですら口を閉ざすような状況なのだ。ましてマシュやトウマなど、ただ不安を増大させるのは当然だった。

 「まぁ、前途多難なんですねぇ」

 ただし、一名。リツカは、特段の感情も込めずに言った。

 「ホント呑気だなぁ、君は」

 「えーそれ褒めてる?」

 「どっちかというと貶してるんじゃないかしら」

 呆れるライネスとクロに対して、リツカは場違いなまでの大らかさだ。えへへ、と勘違いの照れ笑いを浮かべると、「考えたって仕方ないことは仕方ないから」と言った。

 「最善を尽くすために思考することと、困難を前に悲嘆に暮れることは別なことでしょ」

 「いやまぁ、そうだろうけど」

 歯切れ悪く応えたライネスは、ちょっと気まずさげに前髪を弄る。むう、と照れたように唸ると、眉間に酷く深い皺を刻んだ。どこかで、見たような皺だなと思う。

 「リツカちゃんの言う通りだ。今考えても仕方ないことは、考えないに限る。それよりも、今考えるべきは当面の課題、三つ目の特異点。時代は16世紀半ば。場所は───見渡す限りの大海原だ」

 

 ※

 

 アンサモンプログラム スタート

 霊子変換を開sss始 しま、す。

 指定座標を設定。

 人理定礎値:D……

 修正

 人理定礎値 を 推定:A++ に更新

 

 全工程 完了(クリア)

 グランドオーダー 実証 開、始しま、




あけましておめでとうございます。昨年はご愛顧のほど、ありがとうございました。多分ネット小説としては色々と読みにくい部類の小説だと思うので、読んでいただいている方々には大変感謝しております
気難しい小説だなぁと思いつつも感想とかいただけると、作者はきっと喜ぶかと思われます。誤字報告とかも兼ね、お気兼ねなく申し付けくださいませ


それでは、今年も本作「fate/little bitch」を好き放題書いていく所存ですので、よろしくお願いいたします

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