fate/little bitch ~煉鉄の小悪魔~   作:七草探偵事務所

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幕間、百合の花

 眼下で弾ける白濁の飛沫。打ち寄せる波を打ち砕きながらも、その小高い岸壁そのものも、僅かに削り取られていく。大いなる自然の循環をそこに見て取ることもできれば、あるいは刑事ドラマで何故か選ばれる場所でもある断崖の上。

 彼女は、今回はどこか気だるげな様子で海のうねりを眺めていた。崖の淵に座り込み、足を曝す彼女。齢にすれば16か17ほどだろう。朽ちた神木を思わせる白い髪に、痩せた荒野の土を思わせる浅黒い肌。爛れるような赤い目にいつもの活気はなく、やはりしょぼくれている。

 「ふむ、マスターはどうしたのかな」

 そんな彼女を眺める、黒い影。腰ほどで手を組む影が1人に対して、「さぁな」とどこかやけっぱちに応えるもう一人の影は、何か巨大な車輪めいたものを背負っている。

 「大方、目当てがはずれたんだろうさ」

 さらに1人。唾棄するような声は侮蔑的でもあり、同情的でもある声を吐き出した1人に合わせ、あとの2人はさらに遠くからそんな光景を眺めている。

 計、5人。まっくろ黒すけのフードが寄り集まってひそひそ話をする様は、はっきり言うと珍妙だった。それこそ、ハロウィーンの仮装集団が集まっているかのような珍奇さがある。

 「アーチャー、お主機嫌を取ってきたらどうだ。次の機会が本命だとな」

 「あ゛ぁ゛!? なんで俺がそんなことしなきゃならねぇンだ!」

 「暇だろ、君。その怒りっぽい性格のままに突っかかっていったらいい」

 「殺されてぇようだなランサー」

 「僕はいつでも受けて立つけど? でもいいのかい、神性持ちが僕に叶う道理はないよ? しかもほら、槍と弓だとクラス相性が」

 「それはゲームの話じゃねえか。ここは現実だ」

 「ほう、喧嘩なら儂も混ぜてくれんか。殺なら相性も関係あるまい」

 「殺は0.8倍補正がね。槍を見習った方がいいよ」

 「ええいやめんか、脳筋莫迦どもが! 見習うなら慎み深いライダーを見習えい!」

 「……あの、俺のことは引き合いに出さなくていいんで……お歴々と比べたら……」

 ───喧々諤々、悲喜交々。わちゃわちゃする黒い影5騎の他方、残り1騎が彼女の背後に立った。

 黒い影の奥に、淡く浮かぶ金の双眸。その冷ややかな色に反して温暖な風の目は、黒い影が終ぞ灯さなかったはずの反転色だった。

 「マスター」

 小さく、白髪の少女が身動ぎする。風に靡いた白い髪の隙間から、赤い目が覗いた。

 「この特異点は」

 彼女は、立ち上がった。軽々とした動作に一寸前の倦怠さはなく、両手を挙げて伸びをする動作はいつもの彼女のそれだった。

 「今回は”見”に回る。やっぱり、記録と何か違う」

 快活、といった口ぶり。挑戦的な眼差しは、歴戦のセイバーすら気圧される。それだけに、この赤い目は犀利だった。

 「助けないのですか」

 「要らないよ、私の力は。何があっても、あの人は目の前の壁を乗り越える。たとえ神でも獣でも、先輩を止めることはできないから。そういう星の元に居る人なの。誰の、何の支えも無くね」

 それは、確かな信頼。自信を込めて言う己がマスターの口ぶりに、セイバーは花のような逡巡を幻視する。

 記憶の淵に佇む、いつか見た景色。花薫るような鉄の匂いに、思わずセイバーは痙攣発作を起こしそうになる。

 「セイバー?」

 「いえ」セイバーは首を横に振った。「私事ですので」

 「ふぅん?」

 彼女は幾ばくかの関心を示す目を向けた。清廉な騎士の口ぶりとも思えず、さりとて踏み込むことはせず。自らに忠誠を誓うセイバーの好きにさせることにした。そんな目だ。

 「あ、そうだ」

 「はい?」

 「あのアーチャー、アナタに任せるよ」

 「よろしいのですか。いえ、私が言い出したことですが」

 「それもプライベート?」

 彼女は朗らかに笑って見せる。畏縮するように小さく肩を竦めるセイバーの仕草にニコニコしながら、彼女は黒いフードをなでなでした。

 「あの、そういうのは……」

 「ごめんごめん、つい可愛くて。いいなぁ、セイバー。私の物になればいいのに」

 わしゃわしゃ。ローブの中に手を入れて髪を撫でつける様は、大型猫類とでも戯れるようである。だが、その言葉の物言いは何か突き放すよう。笑みを浮かべる顔の無邪気さに反したその冷たさの意味を一番よく知っているのは、セイバー自身だった。

 「でもあのマスターには気を付けて。アーチャーも危険だけど、一番気にしなきゃいけないのはあのマスター。理由は」

 「えぇ、十分承知しています。最弱こそ最強に至る、最速の途だと」

 ぽかん、と目を丸くするマスター。一瞬後、白髪の少女は強かな嫣然を浮かべて見せた。

 脳裏に浮かぶ影。郷愁に近いものに、セイバーはただ、少女然とした微笑に表情を綻ばせた。

 「おや、こんなところに珍しい」

 「あぁ? なんだこりゃ。ただの草じゃねぇか」

 「百合の花だよ。そんなこともしらないのかい、英霊の癖に。英霊の座も随分安くなったものだねぇ。ねぇ、ライダー?」

 「あぁ!?」

 「あの、ホント俺を引き合いにだすのは……知ってましたけど」

 「テメエ!」

 「これ落ち着かんか。折角の百合が散ってしまう」

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