ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot 作:高杉祥一
・ NEW EARTH ERA 29『亀甲部隊前へ』
ゾイドワイルドZERO NEARLY EQUAL第三話・第四話。
新地球歴29年、帝国辺境の河川交易都市ノイエントランスは群を脱走した兵達による野盗集団バルバロスに包囲されていた。
世界に背を向け、日々の糧を求めて彷徨う暴力の群れに立ち向かうのは、実戦経験無き帝国軍ノイエントランス守備隊。しかし彼らは市街地を壊滅させられながらも、市民達を市の中心部である中州に避難させることに成功していた。
籠城戦を繰り広げる彼らを追い詰めるバルバロス。そこへ、市のさらに外部から帝国軍本隊の増援が到着した。わずか三機のバズートルだが、疲弊しつつあった守備隊に彼らは新たな動きを生み出していく。
軍人は誰のために、なんのために戦うのか。若者達、玄人達、そして落伍者達の想いが燃え盛る都市に交錯する。
新地球歴三一年 九月二六日 一五三一時
熱海市跡地郊外 伊豆スカイライン跡
討伐部隊は熱海に橋頭堡を築き、伊豆半島の付け根を横断し沼津にも拠点を設けた上で南アルプスの正統真帝国戦線勢力圏に突入する算段を立てていた。
直線距離では短い熱海・沼津間ではあったが、その間には山地に近づいていることを予感させる峠もある。二拠点間の移動に用いられるのは二一世紀に運行していた高速鉄道のトンネル跡とされ、物資の揚陸と同時進行ですでに先遣隊は沼津入りしている。
当然敵勢力圏に近づくため、進路と沼津の拠点予定地周辺には防御戦力も配備されている。戦力を誇示できる正面、襲撃を警戒すべき側面と厚く戦力が配備されたが、
「ここは眺めばっか良くて後は暇だよなー……」
気の抜けた声が、崩れつつある峠道に響いた。伊豆半島へと続くその道は熱海・沼津間の最高地となる稜線に沿っており、彼らはその稜線越しに沼津方向に睨みをきかせている。
だが実際には周囲に他の隊の姿は無い中で、彼らと三機のバズートルは退屈な時間を過ごしていた。
「兵隊は暇なのが仕事であるべきだって言ってませんでしたっけ? キリング隊長」
「それは事実だ。だがそれに付随する退屈、これは由々しき労働問題である。そうだろ?」
「まー確かに。お陰で軍隊に入ってからしりとり強くなりましたしねー……」
バズートルの装甲シェルを開き、直接言葉を交わす三人の軍人達。男二人に女一人。隊列中央機体は側面に『1』の刻印を持ち、その操縦席にふんぞり返った男の姿を見せていた。
第七開拓兵団に帝国軍から派遣されてきた部隊の一つが彼らだった。隊長ダニエル・キリング曹長に率いられたバズートル小隊。機甲戦力の一端としてここまで進軍に同行してきた兵達だ。
しかしバズートルは火力は高いが機動性に劣る機種であり、進軍が基礎のこの作戦ではここまで活躍の場を得られずにいた。ルート防衛の局面でようやく、という場面が今日この場所であったが、残念ながらキリング達が配置された場所は戦闘の気配は薄そうであった。
「くっそ、なまじ見通しはいいからよそでなんか起きたら見えるだけになりそうなのは泣けるな。アタミもヌマヅも射程外だもんなあ……」
「なんでここに配備されたんです? 我々」
「この真下を高速鉄道の線路跡が通ってるんだよ。シンカンセンだったかなんかだ」
「シン、カ……進化?」
ピンとこない様子の部下二人に、キリングも深くは追究はしない。兵としての遠征は観光旅行ではないのだ。現地のことで頭に叩き込むんでいることは少ない。
とはいえキリング達は割と俗っぽいタイプの軍人達であり、退屈なのは願い下げでもある。故にここへの配備は彼らにとって大問題であった。
「キリング曹長、こうしてよくわからない土地をあちこち連れ回されると軍人とは……? という気分になりますね」
「なんだクラップ、勝手知ったる帝国本土での戦いをご所望か? 末期戦か去年みたいな内乱をご所望?」
「いやそういうわけではなくて」
部下の男の方であるクラップは、キリングの意地悪な応じ方に苦笑しつつ言葉を続ける。
「人の息吹の絶えた土地で戦っていると、帝国軍人として国民と陛下を守る初心を忘れてしまいそうになるってことですよ。
それに開拓兵団の任務も帝国の外に人類の住める場所を作ることだし、相手は真帝国系の新国家樹立を目指す集団だしで」
「この前戦ったノイエントランスだって俺達が着いた頃には瓦礫の山だっただろうに」
「でもあそこには守備隊の人達や市民もいたじゃないですか」
クラップの言うことはキリングにも理解できることではある。だがキリングは彼らの隊長としての視点を持っていた。
「けれどな、軍隊が派遣されるってことはここでの出来事が遠からず帝国の、俺達が知る町並みに影響を及ぼすことだって証拠でもあるだろうよ。現に奴らが奪っていったのは去年地球を滅ぼしかけたゼログライジスだぜ?」
「そう……なんですが、そこに実感を感じられないのがこの景色なんですよね……」
話は堂々と巡る。いまいち士気が低い部下の姿に、キリングも気だるげに視線を熱海側の斜面下へと向けた。そこには物資陸揚げ中の拠点があり、
「事件の発端を見た実験ゾイド乗りはまだあっちにいるんだっけ。そのぐらいこの一件に関わってりゃ話は別なんだろうがなあ」
ぼやきは高地の風に乗って散っていく。故に麓の熱海に届くわけもないのだが、ふとキリングは遠く見える廃墟と仮設施設の間で人々が慌ただしく動いている様子に気付いた。
「んんん……なんだ?」
人の動きに加え、耳を澄ませばサイレンも鳴っているように聞こえる。緊急事態を告げるもののはずだが、外部の防衛部隊である自分達の方が気付くのが遅く、そして連絡も無いとなれば拠点内部の出来事かもしれない。
「周りに事情知ってる奴いねえかな……。なんか動いてる部隊いねえ?」
「どうでしょうねえ」
「うーん……あ隊長、あっちあっち」
辛気くさい話に加わらず、明後日の方角を見て暇を潰していた女性隊員が何かを見つけていた。現在地から南側、斜面の中程のようだ。
「スティレイザーが見えます。どこの部隊ですかね」
「――ん? この山中に射程の短いスティレイザー?」
部下トランパの視線を追ったキリングは、道無き緑の斜面に確かにスティレイザーの姿を見つけた。そしてその巨体は、斜面での機動に向いていないにも関わらず全力で疾走していた。
その向きは熱海方面。そしてそのフリルに装備された対空砲とレーザーが戦闘のために前方展開されていた。
「様子がおかしいよなあ……!」
身を乗り出したキリングが双眼鏡でスティレイザーを捉えようとした。その途端、黒い影がその視線を横切る。
木々の合間から飛び立つ機影は小柄だが、翼を備えた飛行可能なゾイド。その両腕に備えられた鎌と、頭部に比して巨大な複眼型バイザーが特徴的だった。
「キルサイス! 真帝国が使っていた――ってことは奴らか!?」
真帝国最大の攻勢であった首都ネオゼネバス占拠の際に猛威を振るったのがそのゾイドだ。小型ながらに高い格闘性能と飛行能力、そして人員に劣る真帝国に物量を与える遠隔操作機能によって当時の合同軍は大いに苦しめられた。
今ここにかつての戦いは再現されようというのか。
「クラップ、トランパ! 俺達は反転し熱海拠点の救援に向かうぜ! 状況が状況だ、独自の判断で行動す――」
る、とキリングは命令を下そうとした。しかしその瞬間、通信チャンネルが開く電子ノイズが通信機から漏れ出す。
『――熱海守備隊応答せよ。こちらは富士・御殿場基地よりグロース司令の指示で急行中の部隊である』
「あ? あのスティレイザーからか? 騙されねえぞこの野郎」
『スティレイザーは我が部隊の戦力ではないな。
我々は北から接近中だ。緊急事態につき、我が隊の指揮下で各員熱海拠点への救援に向かわれたし。各隊位置を報告せよ』
一切遠慮の無い男の声にキリングはちらりと北を見る。すると、確かに自分達が陣取る道に沿って北から接近する影もあった。
キリングが手にする双眼鏡を覗けば、その先頭に見えるのは特徴的な背びれを背負ったゾイド、ディメパルサー。そしてその背後に続く機体を見て、キリングは唸った。
「へえ……ああいうのが出てくるならさすがに本物か。じゃあ仕方ない。
二人とも、我が隊は連中の指揮下に入るぜ。――こちらはダニエル・キリング曹長。バズートル小隊を率いている。そちらは?」
キリングの問いに、北から接近する部隊を率いるディメパルサーからは変わらぬ声音で応答が飛んでくる。
『ペーター・シールマン中尉だ。
我々は第4989小隊。ご存じの方も多いのではないかな。不本意なことだが』