ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot 作:高杉祥一
・スティレイザー
スティラコサウルス種の大型ゾイドをベースとした、帝国軍が誇る強力な兵器ゾイドである。
近似種として広く普及するトリケラドゴスと比較されることが多い本機だが、比較者はある点に気付くだろう。即ち、本機はガンソードや対空砲、ショートレーザーガンといった攻撃兵装はもちろんのこと、全身に配置されたリアクティブアーマー、多彩な兵装を支える動力源ハイパワーアキュムレーターといった特筆すべき点全てが人工物である点である。
キャノンブル、バズートルという先発機には原型種の特性を活かした装備、部位が存在し機体性能の無視できない部分を占めていたが、本機はその傾向が異なる。金属生命体ゾイドの肉体を加工し意図を持って設計された機械獣と化す、惑星Zi由来の設計思想を色濃く受け継ぎ新地球歴の地球上で実現せしめたのが本機種であると言えよう。
最新科学技術で実装されたショートレーザーガン四門と速射性と破壊力を両立したAZ2連装対空砲による火力は機体前方を容易に制圧し、金属の体躯を持つゾイドに多大な影響を与える電撃端子による接近戦で蹂躙する本機は、新地球歴における理想的な重ゾイドである。
しかしそれだけのスペックを実現する上で、スティラコサウルス種の強靱なボディと、武装配置に影響する身体突端部の多さ――何より『蓄積データが多く転用も容易いスティラコサウルス種ゾイドである』という点が欠かせないことは新地球歴の現状を表わす一面でもある。
新地球歴三一年 九月二六日 一五三八時
熱海市跡地
談笑していたリンとウェインライトがその放送を聞いたのは突然のことだった。まずサイレンがかかり、そして討伐部隊の通信部隊員がアナウンスを行う。
『只今揚陸作業現場より侵入者の報がありました。保安要員以外は所定の持ち場で警戒待機をお願いします。
保安部隊は対象の情報を確認後――』
「あら、スパイでしょうか」
ウェインライトはあっけらかんと呟く。降って湧いた事態にも動じないのは流石は将軍の妻という立場か。
「ウェインライトさん、緊急事態です……。安全な場所へ」
「ゾイドライダーとゾイドのそばは安全だと思いますが?」
「それは……」
ウェインライトはリンの実力を買ってくれているようだ。それはグロースからの伝聞のためだろうか。
自信を深めてきたリンだが、他人から頼りにされることは思わぬ事態であった。
自分よりも実力が高い相手から可愛がられるように話しかけられるのとは違う。庇護すべき、戦う力を持たない者からの視線。それを受けて、リンは一瞬狼狽した。
しかしそこに唸り声が降ってくる。背後からのそれは、アカツキライガーがリンに向けたものだ。戦う意欲と、なにかを庇護しようという意思の籠もったその声音に、リンは頷きを返す。
「――はい、私が守ります。
でもここにいたのではダメですね。一緒にライガーにどうぞ。まずは避難からです」
リンの促しにウェインライトは微笑みで頷き、そしてアカツキライガーも自ら頭を下げて操縦席を近づけてくる。
アカツキライガーに乗り始めた当初に使い、最近は慣れて放置している搭乗用ラダーを引き出してウェインライトに促す。元軍人なら使ったことはあるだろうかと思慮を巡らせると、そこに思考を寸断するように爆音が轟いた。
「……! 侵入者、では……!?」
爆音は熱海の郊外側から轟いてくる。拠点周囲の防衛陣地群の内側だ。敵がそれらを突破してきているならば、迎撃は遅れるだろう。
拠点側で即応出来るゾイドも少ない。その内の一体がアカツキライガーだが、まずはウェインライトを退避させなくては。
「リン准尉? 私は大丈夫です」
先に乗り込ませていたウェインライトが操縦席から合図を送ってくる。リンはライガーの脚と肩の装甲を蹴って駆け上がった。
「全速で安全な場所まで向かいます。そこから私は戦闘に、ですね」
「敵もゾイドでしょうか」
「思わぬことですがそのようです。どこから現われたのか……」
言葉を交わしながらアカツキライガーを反転させるリン。するとその頭上をいくつかの影が通過していった。
翼を持ち、しかし人の上半身にも似た前半部を持つ小型ゾイド。
「キルサイス! やはり正統真帝国戦線……?」
「あら、グロースさんが見ていた資料では供給源が断たれて向こうには渡っていないはずの機体ですが……」
意外な事情が漏れ聞こえてくる中、リンはライガーを発進させる。頭上をすれ違ったキルサイスを追うような形で、壕が用意された軍港部へ。
その軍港部では停泊や遊弋しているネーバルサウルス艦隊が動き出して対空砲火を上げているが、キルサイス部隊は廃墟を盾に巧みに低空に侵入している。背後から飛びかかりたい気持ちを抑え、リンはライガーに活を入れて走らせた。
しかしそこへ、横の町並みから何かを蹴散らす破壊音も届いてくる。重量ある存在がコンクリートを蹴散らして疾走する轟きだ。リンとライガーがそちらにはっと視線を向けた途端、その存在は廃墟をぶち抜いてリン達が走る道に合流してくる。
現われるカーキ色はスパークを纏っている。そして吹き飛ぶ瓦礫を避けてアカツキライガーが飛び退けば、甲高い叫びがリン達に浴びせかけられた。
「……スティレイザー!?」
帝国軍の大型兵器ゾイドだ。強力かつ制圧力が高いレーザー火器に加え、接近戦で強力なインパクト力を誇る電撃端子付きのフリルシールドで武装した高出力機である。
帝国軍のゾイドの中でも比較的高級機。真帝国での運用実績もあったが、その後追い組織にまで用いられているとは。リンは歯噛みする。
「正統真帝国戦線……どこまで戦力を持っている!?」
スピーカーを起動し、リンは相手に声を放った。問いかけに応じて動きを止めるならよし、こちらの反応に愉悦なり高揚なりで油断を得ればそれもよしという算段だ。
そして結果は前者の反応だった。スティレイザーは四肢を張りライガーに向けて吠え、そして敵もスピーカーで声を上げてくる。
『はあああ!? 正統とか自分で名乗るような連中と一緒にしないで下さいね!?』
やたらヒステリックな女の声が周囲に轟く。その甲高さにリンとウェインライトは目を白黒させた。
「連中……?」
正統真帝国戦線を突き放すようなその口振りを思わず反芻したリンは、ライガーの首の動きでそれに気付いた。スティレイザーの体側に刻まれたそのマークは帝国の紋章を交差する剣で支えたもの。正統真帝国戦線の機体には無いものだった。
「別の組織!?」
『そうその通り。ここで名乗りを上げておきましょうか』
女の声に合わせ、スティレイザーは四つの足でひび割れたアスファルトを踏みしめる。そしてキルサイス達が襲撃する物資集積地との間に立ちはだかり、
『私達は「継続真帝国評議会」。現在の帝国の行く末を憂い、真に正しい帝国の有り様を実現しようとするのが私達ですわ』
「他にもそんな組織が……。
正統真帝国と手を組んでいるんですか!?」
『だからあんな奴らと一緒くたにしないで下さいまし!』
女は声を荒げる。そしてスティレイザーはアカツキライガーめがけ突進の足音を上げた。
『私達は高貴なる精神を堕落した帝国社交界の外に保存する真の貴族!
戦闘隊長クエンティーナ・ハバロフ! 参ります!』
雲間の稲光のようなスパークを走らせて迫るフリル。壁面か砦かとも思えるようなその接近に、リンは操縦席の後ろにいるウェインライトへ叫んだ。
「――しっかり掴まっていてください!」
戦闘は避けられない。だがそれならばウェインライトのような存在を守らなければならない。
それは真帝国の後継を称する者達が言う小難しい理屈よりもシンプルで、確実な理屈である。リンはそう思う。
新地球歴三一年 九月二六日 一五四五時
熱海市跡地
突然の敵襲に対応したのはリンだけではなかった。陸揚げされたコンテナ群を傍らに、空を舞う黒い影に立ち向かう灰色のゾイドが一体。
「ブルーダーさん! 大丈夫ですかあ!」
そしてその傍らには民族衣装のストールを羽織った少女が、コンテナの陰からインカムを押さえて灰色のゾイドに呼びかけている。
少女の不安げな視線の先で、灰色のゾイド――ハンターウルフ"エコー"は背負った対空砲を振りかざし、キルサイスごと虚空を射貫いている。操縦は当然、ブルーダーによるものだ。
『ユイン、俺達は大丈夫だ。そして君は危ない。早く避難するんだ』
「いや、でも……!」
おろおろと視線を巡らせる少女ユイン。戦闘の中で身動きが取れないわけだが、同時に目の前のエコーに生じている不備に対する不安も大きかった。
エコーは肩部装甲にミサイルポッドを懸架しているが、今そこには空のランチャー部しか存在しない。
整備中であったエコーの装備は不完全だ。グロースに同行し御殿場に向かったララーシュタインにこの地を任されていたが、拠点外周防御から戻っていたタイミングであった。
だがブルーダーとエコーは果敢だ。元々極限環境である高山で戦ってきた一人と一体は、多少の逆境など気にかけない。ユインはそれを間近で目撃した一人だ。
もう一人であるララーシュタインがこの遠征を用意したのに対し、ユインはブルーダー達を知る者としてその生活を支えるために同行した。
だがユインはブルーダーとエコーの戦いそのものは支えられない。かつても、今も。
「ブルーダーさん……!」
『ユイン、心配することはない。
俺達は負けないし……』
ブルーダーの言葉と共に、エコーの対空砲が機関部からの放熱のためにコッキングする。金属音が響き作動停止する火力を見て、上空のキルサイス達は急降下攻撃に転じ始めた。
だがそれを待ち構えるエコーは揺るぎもしない。ブルーダーの声も同じだ。
『君の支えは俺達の力になっている……!』
対空砲と共に展開していたレゾカウルの間で、エコーのワイルドブラストを支えるタービンが屹立していく。
『山がちな土地が近い。本気を出せる……。
そしてここまでコンディションを保てたのは間違いなくユインがいたからこそだ』
「ぶ、ブルーダーさん、それって……」
なんかプロポーズっぽくないですかと場違いに思ってしまうのは、最近周囲の兵から暇つぶしにと渡される雑誌だとかの内容のせいだろうか。ともあれブルーダー達はこの戦闘の中で主導権を握っている。
空に向けて放たれるワイルドブラストの音波プレッシャーが、降下に移ろうとしていたキルサイス達を周囲にはたき落としていった。
「『山鳴り』……!」
ブルーダー達が主戦場としていた雪山では、雪崩を巻き起こすのに使われていたワイルドブラストだ。戦場を一掃するその威力は、空に向けて放たれる今でも変わりはない。
ひとときキルサイスの影に覆われていた空が晴れていく。だがその日差しの中でエコーが首を振れば、周囲からは戦闘の音が響いてくるし、一際大きな金属音はこちらに向かってきつつある。
『地上戦力もいるか?』
ブルーダーが疑問すると同時に、コンテナ群の外縁で宙に舞うものがあった。さらに周囲に飛ぶスパークと咆声。
そして一瞬の間を置いて姿を現わすのは、突進するスティレイザーを抑え込もうとするアカツキライガーの姿だった。
『リン准尉!? その相手は一体……』
『ブルーダー少尉、この人達は正統真帝国戦線とは別の組織です! 私達の警戒網をすり抜けてきたところから見てきっと規模は小さい――。
ここでこの大型機を倒せば掣肘をくわえることができるはずです』
『そうはいきますかって話ですのよっと……!』
爪を立てるアカツキライガーを、スティレイザーは電撃混じりの身震いで吹き飛ばした。さらにレーザーの掃射がライガーを追い立て、そして照準の視線はブルーダーとエコーも見据える。
『ハンターウルフ・タイプ? そちらも強敵のようですね……。
まとめて相手して差し上げますわ……!』
前足でアスファルトを掻き、スティレイザーは闘争心を剥き出しに二機のゾイドを見渡した。
眼前で展開するスペクタクルに、ユインは息を呑むしかない。その一方でエコーが勢いよく振り返り、ブルーダーの声が通信に乗る。
『白兵戦……まずい! ユイン、逃げろ! これは確実に巻き込まれるぞ!』
点で穿ち合う空と地の射撃戦とは違う、ゾイドの巨体と武装が工作する格闘戦が周囲にまき散らす被害は大きい。薄い外板で作られたコンテナの陰に隠れているだけではひとたまりも無いだろう。
すでに取り返しのつかない事態の中だ。ユインがはっと我に返ると、その視線はスティレイザーのものと噛み合った。
二体の肉食獣型ゾイドを相手に奮い立つスティレイザーの視線。しかしそれはユインの姿を認めると不意に動きを緩めた。
「えっ……?」
その変化にユインが違和感を覚えた途端、鳴り響く女の声も勢いを欠いて舌打ちした。
『なんで子供がこんなところにいるんですか……。さっさとどこかに行きなさい』
襲撃者とは思えないような言葉。だが次の瞬間には、襲撃者はその攻撃性を取り戻している。
『非戦闘員を連れて最前線にいるとは、開拓兵団だか屯田兵だか知りませんが戦う者の風上にも置けませんね。半分は兵隊ではないということですか?』
呆れたような声音と共に、スティレイザーは鼻先のガンブレードをアカツキライガーとエコーに突きつける。
『主戦力を撃破して勢いを挫こうと言うのなら、あなた方も同じように狙われる立場であることを自覚することですね。
さあ戦いなさい! この一戦がどちらにとっても戦略を左右する戦いですわよ!』
スティレイザーが頭部を振り乱しながら全身を突進で放つ。アカツキライガーとエコーは左右に跳び、ユインから遠ざかっていく。
そしてスティレイザーはそれを追ってターンする。その姿は無防備なユインの前に立ちはだかって守るかのようであったが、しかしユインはそこにブルーダーとエコーのような守りの意思を感じられない。
そこにあるのはただただ戦闘への意欲のみ。邪魔者として背後に置かれたユインの前で、スティレイザーは左右の二大ゾイドに視線を飛ばし、レーザーの掃射を飛ばす。
『世界を動かすのは力ある者です……!』
重苦しい足音を立て、スティレイザーが駆け出す。その狙いはまず、ここまで交戦を続けてきたアカツキライガーだ。
『戦いに真摯でない者から、私達が排除して差し上げましょう!』
暴力が意思に手綱を引かれ、若き獅子に襲いかかる。その一瞬を、ユインは目撃した。