ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・真帝国
 新地球歴30年に帝国内部で発生したクーデターは、帝国軍将官ジョナサン・V・シーガル准将によって率いられ、前帝の血を引くハンナ・メルビル少尉が存在したことにより皇位継承権の面からも帝国の国体を得ようと画策したものであった。そのためか、シーガル准将は自分達を真帝国と呼称している。
 しかし実際の所シーガル准将は皇位継承を正しく行うことを求めていた帝国王家の信奉者というわけではなく、軍内でも強硬路線を取る派閥の長として融和路線を取る帝国並びに帝国議会に反抗を試みたというのが動機と見られている。現にシーガル准将は真帝国蜂起以前にジェノスピノが国際共同管理下に置かれる切っ掛けとなった侵攻事件(アルドリッジ少佐事件)を引き起こしており、ハンナ・メルビルの存在を自身の技術的ブレーンであったフランク・ランド博士から伝えられたのはその後のことである。
 シーガル准将の真帝国という存在はこのようにタカ派の暴走と単純に見ることが出来る。しかしそれは、融和・対話路線での治世が多くの妥協や不和の蓄積を生み、その蓄積がシーガル准将という存在から吹き出したということでもある。
 現に真帝国事件以前の二大国の国境地帯では小競り合いが常態化していた。明確に解決されぬまま放置されていた問題は多くあったはずであり、そしてそれらは今でも燻り続けている。
 真帝国の後継を称する様々な組織が出現する裏には、そのような面に気付いてしまった者達の思いも少なからず存在するだろう。


NEW EARTH ERA 31 9/26 15:51

新地球歴三一年 九月二六日 一五五一時

熱海市跡地

 

 西日が差し込む廃墟とコンテナの連なりの中で、大型ゾイドを挟み二体の猛獣が疾走していた。

 リンのアカツキライガー、ブルーダーのハンターウルフ"エコー"共にスティレイザーの重装甲を貫いて致命打を与えるに足る威力は持ち合わせている。だがその一撃を放つための間を、スティレイザーは周囲に振りまくレーザーと巨体のプレッシャーで作らせない。

「これが重戦闘ゾイドの力……!」

 リンはアカツキライガーが背負う武装ユニットから機関砲を放つが、スティレイザーはそれをフリルで受け止めて距離を詰めてくる。阻止できない攻撃では射貫かれず、射貫かれるほどの攻撃なら隙を突けるという達観を感じさせる機動だ。

『踊って下さるとは風流ですが、それでは私どもの思うがままですのよ』

 突き込まれるガンブレードを横様に跳んで躱したアカツキライガーから、リンは一瞬周囲の空を見た。対空砲火が渦巻く空には、その合間にキルサイスの飛翔が続いている。

 そしてそのキルサイス達はこの熱海に陸揚げされたコンテナから武装や物資を搬送パレットや梱包ごと引きずり出し、そそくさと背を向けて空中を離脱して行く。それこそがハバロフ達継続真帝国評議会なる組織の戦術目標であることは明らかだった。

『貴族主義者が盗人紛いなことを……恥ずかしくはないのか』

 アカツキライガーへの距離を詰めるスティレイザーに対し、背後からブルーダーのエコーが突撃を仕掛ける。操縦席に牙を剥く低い軌道の跳躍がライナーとして襲いかかっていくが、しかしそこでスティレイザーはその尾をスコーピアのように突き上げてエコーの腹に叩き込んだ。

 打ち上がったエコーは宙で身を回して廃墟の上に着地するが、流石に細身に撃ち込まれた威力に傾いでいた。

『少なくとも……俺が見ている貴族はこんな真似は唾棄すべきものと見ているがな』

『はっ! あのララーシュタイン家の御曹司のことですか!

 与えられた立場に甘んじている方は言うこともご立派ということですねっ!』

 振り向き際に放たれた対空砲の射撃が、エコーが着地した廃墟の中程に直撃して倒壊を促す。崩れ落ちる屋上からエコーは次の攻撃地点に跳び、リンは隙を見出しアカツキライガーを飛び退かせようと操縦レバーを引いた。

 だが巨体のスティレイザーは対空砲の発射反動をものともせずに、さらに身を回してアカツキライガーに向き直ってくる。

「くっ……済みませんウェインライトさん! まだちょっと降ろせないです……!」

「困りましたねえ……。

 メーターどんどん回ってしまいますね?」

「タクシーじゃないですよ!」

 レーザーの乱射が横殴りの雨のように襲いかかってくる中、アカツキライガーはなんとか突き込みよりも長く跳んで回避。

 ライジングライガーを模したアカツキライガーの装甲は光学兵器には耐えられるものだが、ウェインライトを乗せている今リスクを取って踏み込むことはできない。

 暴風のような射撃と稲光を放つスティレイザーを前に、アカツキライガーはその嵐を乗りこなしていく。機動の伸びで距離を稼いで隙を窺えば、リンの口をついて思わず言葉も飛び出した。

「それにしても、ブルーダー少尉が言うとおり――。

 そしてあなた自身が言うとおり、ララーシュタイン少佐とあなたは違う! 身勝手なことを言って、世の中に対して文句を喚いているばかりじゃないですか!」

 声を上げる勢いで、リンはアカツキライガーをスティレイザーの横に抉り込ませるように飛び出させた。逃れるための隙を作るには、一撃を加えることが要る。威力の面でも、意志の面でも。

 その点を理解していたし、リンはこの戦いの中でふと怒りを抱いていた。スティレイザーを駆るハバロフだけではなく、山並みの向こうにいるであろうロイや、正統真帝国戦線にも。

「世界が動き出している中で……どうしてこんな風に、大それたことを……!

 私達軍人だけじゃないんですよ!? 巻き込まれているのは!」

 ウェインライトを守り、ブルーダーが連れたユインがいるのを見た今、リンの怒りはその輪郭を明らかにしつつあった。

 なぜ彼らは、世界に不満があるという者達は――過激な手段を用いるのだろうと。

「今はこの最前線で戦っていても……開拓兵団には一般からの参加者もいる。あなた達はいつかその人達にも手をかけるんでしょう?

 そんなことをしてまで……世界を変えたいと言うんですか!?」

『何を今更……!

 「そんなことをしてまで」という気概があるからこそ、私達は立ち上がったんですのよ!』

 回り込むアカツキライガーに対し、スティレイザーはそのまま身を投げ出すような前進を続けた。そしてすれ違った直後に野太い四肢を張って、砕けたアスファルトをさらにめくり上げながら滑走とターンでリン達と向き合い続ける。

『あなた方賤民が良しとする世界も、少しでも視野を広げれば足らぬ所ばかり。しかしそれを提言すればあなた方は妄言として扱う。

 それでもと声を上げ続ける誰かが……必要なのです!』

「その結果として傷つく人がいるのに!?」

『世界を先に傷つけたのはどちらでしょうかねえ!』

 火器を備えた頭部を振り乱し、スティレイザーは周囲の廃墟に炸裂の花を振りまいた。そして降り注ぐ瓦礫に身構えるアカツキライガーめがけ、今こそ電撃の首飾りを携えて踏み込む。

『正統を名乗る連中は気に食いませんが、一つだけ同意するところはありますわね。

 互いに満足した豚ではないという一点のみで!』

 スティレイザーのマシンブラストの一撃が、切り返そうとしたアカツキライガーを直撃した。大質量のシールドバッシュがライガーの半身を打ち据え、そして掴みかかるような雷撃が白と朱の装甲を引っ掻き回す。

「がああっ……!」

 朽ちかけた街の中に差し込む西日に沿って、アカツキライガーは吹き飛んだ。叩き込まれた運動エネルギーの中で、電流に震える爪を立ててなんとかその身を留める。

『安穏と生きる者達の小屋を守る牧羊犬であろうと言うなら、私達を止めてみせなさい!』

 態勢を整えようとするアカツキライガーにハバロフは容赦しない。この熱海拠点で稼働する強力な機体を足止めし、可能ならば撃破しようというのが彼女の役目だろう。ならば手を抜く理由が無い。

 そして一度は声を上げたリンは、ハバロフの気迫に返す言葉を紡げなかった。

「…………っ!」

「リン准尉!」

 歯を食いしばるリンの肩に触れたのは、緊急用ハーネスで操縦席後部に固定されたウェインライトだった。激しく振り回された操縦席の中で意識を保っているのは、かつて軍人であったからこそか。

「言葉は如何様にでも紡げます。今は形に出来なくても……心に浮かんだ感情から、いつかは。

 だから今は心に浮かんだままに戦って下さい。言葉を持たぬゾイドがあなたを支えてくれるはず」

 その手の温かさを起点に、リンはハバロフの声から自分が要る操縦席に意識を戻した。未だ立たんとするアカツキライガーと、ハバロフの言葉を聞きながらもまだ胸の中に重みのように残る問いにも似た怒りがそこにはある。

 そして上がった視線は、スティレイザーの奥から突撃を駆けてくるハンターウルフ"エコー"の姿も捉えていた。

『そういうことはララーシュタインも言っていたぞ、と……!』

 唸るブルーダーの声と共に、エコーは背後に高圧音波のプレッシャーを放ってさらに加速した。その速度を持って、今度こそスティレイザーの世を削る。

 その威力にスティレイザーは傍らの廃墟に半身をめり込ませて急制動をかけられるが、しかし悲鳴のようなモーター音は波を突き破るように巨体をコンクリートの向こうに突き抜かせた。

『フ、ん……!

 ララーシュタインもかつては高貴な精神を持ち合わせた家。その残り香程度はありましょう。

 ですが今でも堕落の民を見据え、在るべき未来を描けるのは私達だけですわ!』

『今を生きている人々を傷つけて得られる「在るべき」がどんなものか、まずは拝聴してみたいものだ』

 アカツキライガーの傍らに滑り込み、エコーからブルーダーが非難の声を上げる。そしてその声を浴びて砂埃をなびかせながら、スティレイザーは再び駆け出した。

『あなた方に答えるまでもなく、描いてみせようと言っているんですわ!』

 スパーク走るフリルはそのままに、スティレイザーはまたレーザー機銃をリン達に向けてくる。そしてその各砲口に、威力を秘めた光がわだかまった。

『まずはこの地に示してみせましょうか? この〈サンダーボルト〉号の力を!』

 瞬間、放たれるレーザーはこれまでの速射とは異なり砲口から持続して伸びた。光剣とも取れるその形態に、フリルの上を縦横に走っていたスパークが絡みついて空間に解き放たれる。

『レーザー導電が生む雷撃の檻! ただのスティレイザーにこれができるものですか!』

 巨体から放射状に伸びる雷撃と光線に囲われ、アカツキライガーとエコーは自分達めがけて閉じてくる威力を見据えた。

 その操縦席で歯を食いしばるリン。打開の一撃は――そう思考を走らせた瞬間、それに先んじるようにスティレイザーのフリルめがけ届いた火力が爆風を上げた。

『…………!?』

『気持ちよく演説しなさんな、テロリストさんがよお!』

 届く声にリンが振り向くと、沼津方面に続く山並みを駆け下りてくる影が見える。熱海周囲の防衛に駆り出されていたバズートル部隊の一つだ。

 滑走で無理矢理速度を得て拠点を射程に収めた彼らの射撃が、スティレイザーを留めた攻撃の正体だ。そしてそれは留めるだけの力に収まらない。

 西に見える稜線の上で一体のディメパルサーがその背びれを揺らし、

『ギャラン君!』

『よーし……間に合ったぜえ!』

 その時リンは一度聞いたことがある音をまた捉えた。それは町並みをなにか大質量のものが突き抜けてくる破砕の轟音。

 だがかつてより大ボリュームのそれは、スティレイザーに横様から襲いかかった。

『こちら第七開拓師団――野生ゾイド対策部所属、帝国軍第4989小隊。

 特殊実験機材――デスレックス9号機〈スカベンジャー〉アサルトパッケージ。熱海拠点の防衛に参戦するぜ!』

 スティレイザーの巨体を吹き飛ばして姿を現わすのは、濃緑色の装甲をまとったさらなる巨大な影。その大顎が、武装を連ねた全身を戦闘空間に食い込ませてくる。

『スティレイザー〈サンダーボルト〉号。聞き覚えがあるなあ!?』

『緑のデスレックス……!? グラットンの――。

 なんたる因縁……!』

 エレクトフリルを突き出され、乱入したデスレックスはその横顔を張り飛ばされる。しかしそれでも全身の重量任せにのしかかりながら、両肩に懸架した対ゾイド用メガランス機構を打ち込みにかかる。

 だがスティレイザーは側転を続けてデスレックスの直下から逃れた。そして火器の乱射で現われた強敵を留めながら、周囲の空に視線を走らせる。

『熱海にこんなのがいるとは聞いてません。増援……御殿場基地!?』

 瞬間、奪取した物資を持ち去ろうとするキルサイスの一角を爆炎が飾った。炸裂する威力を放ったのは、北の空から接近するスナイプテラ部隊の編隊だ。

 そしてその編隊が描く図形から抜きん出て接近してくるのは、三機のソニックバード。赤、黒、白のその色にリンは気付いた。

「カノー少佐!」

『おっ、例の娘っ子もいるな?』

 飛来するのは、東京立川で共に戦ったソニックバード開発チームのベテランテストライダー達とその愛機。彼らは撃墜した部隊の穴埋めとしてどこに向かったか。答えは一つだ。

『聞け! 御殿場基地は正統真帝国戦線討伐作戦に参画する。それがグロース少将との折衝の結果だ!

 派遣部隊の合流地点として指定されたのはここ、熱海だぜ! 派遣部隊が急行中なのは……見りゃわかるか!』

 上空空域に躍り込み、散開しながらキルサイスを掃射していくソニックバードの下でデスレック〈スカベンジャー〉が吠える。

 力が現われ、戦場は変わった。リンはその一瞬を体感した。

『オメガレックスの武装データを参照して強化されたスカベンジャーの力を見ろよってなあ……!』

 背負った三連装の大型ミサイルと、数多の近接防御火器の火力を撒き散らしながらデスレックス〈スカベンジャー〉はスティレイザーをそのアギトにかけようとする。身を横に跳ばし、牽制射を放ちながらスティレイザーは行き違った。

『チッ……潮時ですか。

 ですが結構。我々の目的はとうに達していた次第ですもの。

 怯えなさい、体制の守護者達。あなた方の否定者は一つではなくてよ……』

 バックステップを踏み、スティレイザーは廃墟の奥に下がっていく。それを追ってデスレックスの巨体が熱海の町並みに飛び込むが、そこにキルサイスからのエアカバーが降り注ぎ、さらにその上からカノー達のソニックバードとスナイプテラ達がドッグファイトを仕掛けていく。

 乱戦の中に取り残されたアカツキライガーとエコー。張り詰めていた息を吐くリンを、背後からウェインライトが支える。

「リン准尉……あなた達は正しい。彼女達がこれから何を言おうと、それは事実です。

 あなた達のような人が守ろうとするものが、壊されるべきものであるものですか。かつての私もそう言うでしょう」

 それはかつてリン達と同じく軍人であった者の言葉。戦闘の中で息を吐いたリンは、その言葉を受けて頷きを一つ。

「そう、世界は壊すものではなく作り上げ守っていくものであるはず。

 去年のことがあったのに、そう思わない人々がなぜこんなに……」

 撤退していく継続真帝国評議会の戦力を、荒い息を吐くように身震いするアカツキライガーからリンは見上げる。しかしそこへ、外周から駆けつけてきた守備隊や、御殿場からの合流部隊の機体が駆けつけてくる。

 敵も複数の勢力がいるが、リン達も孤独ではない。そしてリン達の知る世界から飛び出した敵は、その後ろ盾も少ないはずだ。

 周囲のゾイド達に頼もしさを感じつつ、しかし逆境の中から挑んでくる敵のこともリンは思う。

 それだけの意志があるとハバロフは言った。では自分はどうだろうか。守るという当然のことに寄りかからず、戦う意志を持てているだろうか。

 あの時わき上がった怒りが、自分の中にある理由に繋がっていて欲しい。リンはそう願いながら、ウェインライトを降ろすためにアカツキライガーの踵を返させた。

 

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