ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・アカツキライガー〈黎明兵装〉
後述


NEW EARTH ERA 31 10/01 13:21

新地球歴三一年 一〇月一日 一三二一時

南アルプス オクトーバーフォース富士川キャンプ

 

 早朝に身延山付近からほとばしった破壊光線の威力は、富士川下流旧富士宮市に置かれた討伐部隊――オクトーバーフォースのベースキャンプでも観測された。

 御殿場から加わった部隊を迎え、共通の部隊章を機体に刻み南アルプスへの進入を始めようとしていた矢先のことだったが、その後彼らの前に敵と交戦した斥候部隊が帰還したことで不安の声は収まりを見せる。

「鉄砲水を起こしての脱出時に、我々を救ってくれた未知の部隊がいました」

「機体の映像記録を見るとこりゃキルサイスがお前らを下流まで運んでくれたんだなあ。熱海に出たとか言う継続真帝国評議会の方か?

 まあいい、貴重なデータをありがとう」

 緊急ミーティングにてグロースはそう言って帰投した部隊を労い、そしてオクトーバーフォースは予定通り動き出す。

 グロース達主要メンバーがいるのはこの富士川キャンプだが、斥候同様先行した部隊が山中にも前進キャンプを設けている。オクトーバーフォース主力はまず直近のキャンプに向かう予定だ。

 そしてその中には当然リンの姿もある。その傍らにはアカツキライガーも。

「よし……」

 塗料のスプレーガンを下ろし、リンは防毒マスクを外す。出撃を前に行っていたのは、アカツキライガーへの塗装だった。

 パールホワイトと朱というアカツキライガーのカラーリングは実験・特殊作業機という出自から視認性を重視したものであり、また本来の目的であるゾイド因子の放射にも適したものであった。だが軍用機としてはあまりにも目立つものであり、都市部の跡であったこれまでの戦場から南アルプスの自然環境下に向かうのではさらに誤魔化しがきかない。

 故に今、アカツキライガーはその白の部分にダークブルーのロービジリティ塗装を加えられていた。他方でたてがみの一部や肩部装甲の放熱フィンなど朱色の部分はそのまま色を残されているし、骨格や目にはマスキングのシートが貼られ、塗装を手伝ってくれていた整備兵の手で剥がされていく。

「植生がある土地なので接近戦では緑色の迷彩が有効ですが、今回の作戦では長駆進撃を行いますので遠方からの視認性を落とすことが重要です。

 空気遠近法で言われるとおり、遠くの山は青みがかって見えるのでこのカラーは効果的ですよ」

 塗装の指揮を執っていた技術士官がそう種を明かす。あくまで操縦者であり技術については初心者のリンは感心して頷くしかない。

「ただアカツキライガー本来の目的であるゾイド因子放射や、戦闘時の放熱を考えると朱色のパーツには塗料を乗せられません。機体内部から外部まで直接アクセスする重要なパーツですので」

「増設された武装ユニットの、ガンブレードもそうなんですね」

「昨年ライジングライガーがオリジナル・ゼログライジスを撃破した際にゾイド因子の注入に働いたのがあの部位ですからね」

 ワイルドブラスト時に展開する銃剣部を見上げるリンに、技術士官はすらすらと答えを返していく。愛機に関わることだが知らぬことだらけだ。しかしすぐに理解できるのは、技術――科学が普遍の知識たらんとするものだからか。

 一方でリンの感性から、その心の中にだけ浮かぶ思いもある。アカツキライガーに乗せられたダークブルーの色彩は、残されたままの朱色と相まって、

「夜明けの前後のような色合いになりましたね、アカツキライガー……。

 名前通りになったというか」

「確かに言われてみれば明け方の空の色のようにも見えますね」

 リンの言葉に、技術士官は意表を突かれたように頷く。そしてその様子にリンは笑みを浮かべ、

「重装アカツキライガー改・ロービジ仕様……元の名前に加えて新たに明け方の要素を纏ったわけですし、〈黎明兵装〉とひとくくりにしましょうか」

 凜々しく引き締まった色合いになったアカツキライガーを前に、リンは新しい名前に相応しい名前を口にする。そしてそこへ、塗装を終えたアカツキライガーに武装を取り付けるための整備ガントリークレーンが移動してきた。

 一〇連発式の一般的なミサイルポッドが方装甲に軽く懸架させられるが、続けて取り付けられる武装は大きい。機体自身の胴体長ほどはある角張った砲身だが、その全体がスライドしさらに長さを得る機構を持っていることが外見からも窺える。

 

 

IMPRESSION

 

・アカツキライガー〈黎明兵装〉

 

全長10・5m(砲身収納時) 全高5・1m 重量59・5t

最高速度210km/h

IQ 114

武装 ライジングユニット(A-Zガンブレード A-Z機関砲 インパクトリボルバー)

   旧規格型レールガン改 A-Z10連装マニューバミサイルポッド

   ライジングクロー ヘビーテイル

   高濃度ゾイド因子放射フィン アカツキアーマー ロービジ迷彩

本能解放行動 ファクターロアー アカツキベイオネット(アカツキペネトレイター)

 

 

「こちらのレールガン、移民船に搭載され惑星Ziから運ばれてきた旧式ですが、逆に言えば技術水準が高かった時代の代物でもあります。

 現在の我々では装弾機構を単発式からマガジン式に改めるのが限度でしたが……威力は保証します。ゼログライジス級の相手をする上で大きな力になるでしょう」

 この種の規格外兵器は昨年の事件に対応した二カ国合同軍が収集し管理下に置いていたものだ。今回の事件が再び超大型戦略ゾイドの絡む剣呑なものになったことで、そのいくつかはこの地に持ち込まれている。

「ライガー系ゾイドへの搭載実績がある武装としては、ロングレンジバスターキャノンもありますが……」

 説明をする技術士官は、そう言いよどんで振り向いた。リンもそれに倣って視線を上げれば、アカツキライガーと同じようにキャンプの露天作業場で装備を調える巨大なゾイドがそこにいた。

 御殿場から熱海に駆けつけ、そのままオクトーバーフォースに参加したデスレックス〈スカベンジャー〉がその正体だ。熱海での戦いでは突撃制圧仕様として増加装甲やメガランスで武装していたが、今その巨体は大型ミサイルや増加エネルギータンクに加えて二門の巨大砲をその背に担っていた。

「合同軍のジェノスピノとオメガレックスが復旧作業中の現在、我々が持ち得る最大の純陸上戦力があのデスレックス級になるわけですね」

「連装の大型砲であるロングレンジバスターキャノンはあちらに搭載するのが適任、という結論になりまして。

 あの砲はオメガレックスの鹵獲に活躍したものなのでいささか皮肉じみていますが、ちょうどスカベンジャー号はいろいろな武装を変更しながら運用を試しているところだったこともあり、搭載が決定されました」

 それら武装配分には数多の議論があったのだろう。技術士官は疲れを滲ませる苦笑をリンに見せた。

 そしてその一方で、気の抜けた声が飛んでくる。

「ここんところは野生ゾイド対策用のハンティングパッケージばかりで代わり映えしなかったからなあ。これだけのデカブツを載せられて俺としてはウッキウキだぜ」

 無遠慮に口を挟んでくる男が一人。リンと技術士官が目を向けると、そこには帝国軍の野戦服を身に纏った一団がおり、その中から背をかがめ、どこか野戦服もしわくちゃでみすぼらしい男がリンに握手を求めてくる。

「デスレックス九号機専属ライダー、ギャラン・ホークだ。あんたも厄介なゾイドのライダーらしいな。お互い大変だねえ」

「ああいえ、それほどでも……?」

 酒臭さを漂わせるギャランの接近に、リンは若干面食らう。熱海戦で戦列を共にした相手の一人だが、御殿場からの合流以来こうして顔を合わせるのは初めてのことだ。

「この一件が持ち込まれたお陰ででかい武器貰えたし嬉しいねえ。忘れかけてたゾイド乗り冥利って奴に尽きるてもんだ」

「ロングレンジバスターキャノンは今でも合同軍管轄で、貸与されているだけですよギャラン君」

 ヘラヘラするギャランをたしなめるのは、後ろに控えていた眼鏡の男だ。しかし細身のその肩についている階級章はギャランより上の尉官。ちょうど部隊指揮官となる中尉のものだった。

「失礼、私が第4989小隊司令のペーター・シールマンです。東京では御殿場基地からの反乱部隊がご迷惑をかけたようで……。今回の合流で汚名返上の機会とさせていただきたい」

「つっても俺達も後から来たクチじゃねーかねえ?」

「そだねー?」

「ねー?」

 ギャランは後ろについてきた若い女性隊員二人と露骨なひそひそ話をする。その様子にシールマンは一瞬視線を向けるが努めて無視し、

「我が隊のデスレックスはコントロールの容易さを重視してスペックが低い個体が起用されていますが、それでも強力な機体です。昨年の事件後はジャミンガ対策から運用方法を変更すべくいくつかの武装ユニットが用意されていますので、ロングレンジバスターキャノン以外の装備でも活躍できるでしょう。

 よろしくお願いします」

 面接のようなシールマンの隊紹介に、リンはたじたじとするしかない。そして堅い雰囲気の一方で、背後ではギャラン達に近づいてくる三人組がいた。

「ギャラン軍曹、お疲れさん。挨拶回りですかい?」

「キリング曹長! その節はどーも。バズートル隊もベースキャンプ入りしてましたか」

「ま、ここがどの隊もスタート地点なんでね。

 あちこち声かけるなら案内しようか? 砲兵やってるとあちこちに顔が利くんでね。同じグラットンにいたよしみでさ」

 元から討伐部隊に属していたバズートルの部隊とギャラン達の和やかな雰囲気に、嗚呼ああいう会話の方がいいなあなどとリンは軍人にあるまじき思いを抱いたりする。そんな上の空の様子にシールマンも気付いたか、

「クリューガー准尉?」

「あっはい、聞いてますよ! 大丈夫、大丈夫です……」

 言ってから露骨にダメな反応だったなと思うようなことを口走り、リンは冷や汗を浮かべる。その様子にふむふむと何かを察した様子のシールマンは話を変えて切り出してきた。

「ところで我が隊は希少なデスレックス運用部隊ということで帝国軍広報と密接に関わっておりまして、記者が同行しているんですが……。

 討伐部隊のオクトーバーフォースとしての正式な発足と我が隊の参加もあっていろいろな方に取材したがっているのです。今回の事件に初期から関わっているというクリューガー准尉にも」

「しゅ……取材?」

 急展開にリンは浮かべていた社交辞令の笑みを歪める。取材など、小学生の頃運動会の徒競走でトップを取ってクラス新聞の係相手に応じた程度の経験しかない。

「いやその、取材と言われても何を答えたらいいのか……?」

「簡単なことでいいんですよ!」

「ヒ――――!」

 シールマンの陰から突如として現われた軍服姿の女性に、リンは思わず悲鳴を上げる。そしてその一瞬の隙にボイスレコーダーとメモ帳を手にしたその女性は隣にまでにじり寄っていた。

「帝国軍広報局『4989七転八倒記』担当のディーナ・クレイトンと申します! ゾイド因子強化ゾイドであるアカツキライガーのライダーにして今回の正統真帝国戦線事件に最も早くから関わっているということで、クリューガー准尉にはお話を伺いたいものであります!」

「この記者、軍に入ってからまだ一年程度しか経っていないので絶妙に無礼なところがありますが平にご容赦を」

 どこか遠い目をするシールマンを無視しながら、記者ディーナは笑顔でリンの視界を埋め尽くしにかかってくる。風雲急を告げる突然の展開にリンは目を白黒させるしかなく、隣にいた技術士官は話しについて行くことを放棄してこっそり後ずさっていた。

 だがディーナは咳払いを一つ入れると、姿勢を正してリンに丁寧に問いかけてくる。

「昨年の真帝国事件以来の後継武装勢力の多くは、現代社会に対する批判を主張の軸としています。

 ですが対立していた二つの国の結びつきが強まり、惑星規模の災害に立ち向かうことができた現代の世界が……彼らが言うように唾棄すべき世界であるとは思えません。

 現代の世界を守る軍人、正統真帝国戦線に立ち向かうオクトーバーフォースの筆頭としては、どのようにお考えですか?

 多くの人々が、今その答えを探しているはずです。いかがでしょうか」

 質問する表情は穏やかだが、その問いは心からのものだと窺い知れる目の力がそこにはあった。

 紋切り型のそれらしい問いでも、知的さを装うための計算でもない。真にその問いの答えを求めているのが、このディーナという記者なのだ。

 対し、軍人リン・クリューガーは答えを示すことができるか。当の本人が誰よりも先に問うこととなった。

「あ……その……。もちろん、この世界は守るべきものです。そうでなければ去年の戦いはなんだったのか……。

 そうでしょう……?」

 自信が無い言い方で、質問を返してしまうのは自分の中に明確な答えが無いからだ。

 この問いは、大湊でララーシュタインから問われたことを押し進めたものだと言える。異なるのは、ララーシュタインが求めたのはリンの内心の理由であるのに対し、これは世界に示し、他者と共有できる答えを求めるものだということだ。

 リンはここまで戦いを積み重ね、自信は得てきた。だが、それを表現したことはなく、そしてそれが世界に通じるものかを試したことも当然……無い。

 リンは敵を討つことはできるが、自分が守るものの価値を示すことはできない。問う力に対し対照的な答えに、ディーナは仕方なさそうに微笑む。

「確かに、昨年合同軍で戦いを繰り広げた多くの人々の努力を無にするようなことですね。クリューガー准尉は事件以降の態勢で任官した方でしょうし、その思いはひとしおでしょう」

 フォローされてしまった。相手も軍属ではあるが、気を遣わせてしまったことはリンに負い目を抱かせる。

 ロイ達への怒りや、自分の周囲にいる人々を守る意志はある。だがリン個人が世界に対して持つものはあっただろうか。

「なんか、すみません……」

「いいえお構いなく。突然訊ねたのはこちらですしね。

 それに、戦いの中で築いていく価値観というものもあると思います! 何かあった時はこのディーナ・クレイトンまでどうぞ! いつでも世界にお届けしますよぉ!」

「あはは、よろしく……」

 力尽くで明るい雰囲気に戻していくディーナに、リンは苦い笑みを浮かべながらも感謝するしかない。そしてふと、傍らのアカツキライガーへ振り返る。

 ここまでともに歩んできた相棒は、新たな戦場に向けた装いで、しかし今までと変わらない視線を自分に向けてくれている。

 暁、黎明。それは世界を照らす光の始まりを示す名だ。

 一方でリンは――己をそれにふさわしい存在であると言い切れるか。

 リンは続く戦いに課せられたものを、アカツキライガーの瞳に見出す。

 

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