ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・惑星Ziの文明

 惑星Ziにおける文明の発祥には諸説があるが、近代社会に直接的に関わるものが中央大陸デルポイでの多民族国家の成立であった。
 民族間での紛争が絶えなかった中世期のデルポイにおいて、有力部族の長であったある人物が大陸外に渡りデルポイの存在を喧伝。これによって外部からの侵略を受けたデルポイに舞い戻り諸勢力をまとめ上げて大陸統一を成し遂げた。
 この結果生まれた大国家がヘリック共和国である。
 しかしその成立にまつわる策略と、統一を成し遂げたヘリック・ムーロア一世が融和の証として敵対していた部族との間に婚姻関係を結んだことが惑星Ziの歴史に影を落とし、いくつかの戦いの原因となった。


NEW EARTH ERA 31 10/01 16:32

新地球歴三一年 一〇月一日 一六三二時

南アルプス 宍原キャンプ付近

 

 かくしてオクトーバーフォース本隊の前進ははじまった。まずは富士川キャンプから最も近いベースキャンプである宍原キャンプへ、物資輸送と合わせて部隊が移動する。

 まだ南アルプスの入口であるこの地域には、二一世紀の道路跡も残っている。砕けたアスファルトの上をキャタルガとトレーラーが移動できるが、さすがにそろそろ歩行するゾイドには後れを取るようになりつつあった。

「この先は思い通りにものを運ぶのも難しいな。空輸や、他の輸送ゾイドを駆使することになるなあ」

 司令トレーラーで部隊運用に関する書類や情報を参照しつつ、グロースは部隊運用について考え込んでいる。無線で彼と言葉を交わすのは、戦力の大部分を掌握し実質的に戦闘隊長となるララーシュタインだ。愛機ローゼンティーゲルは、他の戦闘ゾイドと共にトレーラーに追随している。

「我がセプテントリオン戦闘団にはキャノンブル系の輸送ゾイドとしてラリーブルを配備してあります。キャンプ間の輸送ネットワークに活用していただきたい」

「しかしキャノンブル系では山岳機動性には不安がありますね」

 そう指摘するのは山に詳しいブルーダーだ。彼とハンターウルフ"エコー"が本領を発揮するのはこれから先の戦場だろう。

「輸送と移動には河川も活用しているが、日本列島の川は北米大陸に比べて狭さと浅さが目立つし何より急でな。水中ゾイドの移動は出来ても物資輸送には限界がある」

「そんなところに連中はどうやって拠点を作っているんです?」

「斥候の報告では、ネガシルエットは地下から出現したという。つまり正統真帝国はこの南アルプス山中に、高低差を無視できる地下トンネルを多数整備していることになるのであるな……?」

「そんなものを用意するのは大工事でしょう。なぜ気づけなかったんです?」

 山に詳しいからこそ、そこで起こっている異常事態についてブルーダーは追及する。そこで頭を働かせる役目は上に立つグロースやララーシュタインのものだ。

「まず思いつくのは二一世紀から存在していた、というものであるが?」

「いや、二一世紀の山地開発に関する記録はサルベージが出来ていてなあ。確かにこの列島では鉄道用車両用問わずトンネルは多かったようだが、件のネガシルエットが出現した場所は記録に無い地点なんだな……。

 記録に残らないものだったとしても、ゼログライジス級ゾイドを移動させられるような地下道が二一世紀に存在したものかな」

 移動しながら会話する三者は、この事件の解決に向けひたむきである様が明確だった。彼らの後にアカツキライガーを続かせるリンは、直属故にその通信チャンネルの傍受も許されていた。

 帝国軍少将であるグロース、少佐にして貴族であるララーシュタインは帝国を脅かす敵に立ち向かうのが生業なのは納得できる。しかしそこに加わるブルーダーは、共和国傭兵の籍を持つ者だ。

 ララーシュタインに招聘された彼は、それを受けぬ選択もあっただろうに。記者ディーナからの質問に歯切れが悪い答えしか返せなかったリンは、前を行くハンターウルフ乗りのことが気になり始めていた。

 と、戦闘ゾイドに護衛されているキャタルガトレーラー列の上で動く人影がある。特徴的な民族衣装のストールと小柄な体は、ブルーダーが連れている少女ユインだ。

 トレーラーのオープントップ部に出てきた彼女の後ろには、しずしずと歩むもう一人の女性がいる。こちらもリンは知っている人物で、グロースの妻ウェインライトだった。

 ウェインライトは元軍人としてグロースの補佐を行っているというし、ユインはブルーダーの身の回りの助けのために同行している。二人とも非戦闘員だが、一方で富士川キャンプ――それどころかより後方の沼津・熱海や御殿場まで戦闘領域である現在、彼女達が共にいるのは本来危険なことだ。

 二人は車内で何か会話をして出てきたのだろう。そしてその表情は戦場の一角にいる緊張こそ感じさせるものの、恐怖や不安の様子は見当たらない。そして二人がそれぞれ見上げる先は、互いのパートナーのいる場所だ。ウェインライトは前方の司令トレーラーを、ユインは傍らのハンターウルフ"エコー"を。

 戦う力なき彼女達を支えているのは、戦う力持つ相手とゾイド。そしてその相手である男達は、彼女達に支えられている。故に互いが互いを守り合う、そういう関係がここにはあるのだ。

 そしてそう言った関係を持たないララーシュタインには、自らの矜持がある。それらが彼らが戦場に立つ理由だ。

 独り身であるリンには――なぜかそこに考えが至った時ほのかに悲しみがわき上がり、アカツキライガーがちらりとこちらを見た――リンにはララーシュタインのような己の中に飼っているべき理由があったはずだ。

 それは軍人を志して士官学校を目指した時に抱いたもの。それはなんだっただろうか。勉学と、実働で対面する出来事の中で忘れてしまったような――。

「私は……どうしたいんだっけね、ライガー……」

 リンとアカツキライガーが共有する理由は、ゾイド因子オメガの影響を排すること、それを悪用しようとするロイ達正統真帝国戦線を止めることだ。

 しかしそうすることで自分達は世界に対してどのような立場になるのか、世界をどう動かしていきたいのか。それがリンが見失い、周囲の誰もが持っているように感じるものであると彼女自身は気付いている。

 自分達には確かな力がある。だがそれを伝える先が不確かだから、空回りしている。自分達だけ……。操縦レバーを握っていた手を離し、リンは感触を補うように握りしめた。

 きっと不確かなままでもいい、不確かなまま戦っている者達の方が多いだろう。だがそれを見定めることが出来れば、自分はここしばらくで出会った多くの尊敬すべきゾイドライダーのようになれるのではないか。

 そこでライガーが唸り、リンは我に返った。戦地を行軍中にしては随分と雑念が多い時間を過ごしていた。

「軍人がこういうこと考えるもんじゃないってよく言われるわけだね……」

 納得を得ながら、リンは自分を気遣ってくれたライガーに感謝する。

 元々は戦闘目的ではないということで選定された個体がこのアカツキライガーだ。それが今や激しい戦いの最前線にいる。彼とは打倒正統真帝国戦線の思いを共にしていると信じたいが、

「ライガー、あなたは世界のこれからに関わるなら、どうしたい……?」

 その問いにアカツキライガーは言葉で答えることは出来ない。だがきっと彼も彼なりの答えは持っているだろう。

 そのライダーである自分も並び立てるようにならなければ……。そう決意して、リンは視線を上げた。いい加減上の空ではよろしくない。グロース達の会話も結論ぐらいは覚えておかなければ。

「つまり山で迷った時は下ではなく上に登るべきで……」

「なるほど面より点というわけだ。ん……?」

 グロース達もなんだかんだで関係ない話に転がりかけていたらしい。なんとも締まらない雰囲気がそこにはあったが、

「なんだかノイズが……混信か?」

「映像回線も開いてみましょうか。……うわっ」

 キャノピーに開いたテレビ会議用の映像回線は、各人のバストアップが砂嵐によって横向きにいくつも区切られていた。明らかに別の情報が割り込んできている。

「なにが出所だこいつは。ジャミングの類いじゃなかろうな」

「待たれよグロース少将。部下よりの報告で、本国の民間ネットワークにも強制割り込みをかけているものが確認できるようです。内容は……」

 他の通信も不調なのか、ララーシュタインのローゼンティーゲルに駆け寄って伝令をしている兵が見える。そしてリンはララーシュタインの声を聞いた。

「正統真帝国戦線からの放送とのことである……!」

「――回線を空けて受信してくれ」

「全帯域に向けて発信されているようである。我々が利用する回線への混信をカットし、未使用回線で受信を……!」

 動き出す事態に慌ただしくなる隊列。人間達の様子に、バイザーを持たぬゾイドなどは視線を彷徨わせていた。

 そして各ゾイドの操縦席では、通信ウインドウやマップの傍らに新たな表示が浮かび上がる。動画を受信するための簡素なウインドウは、その中に暗闇を映し出していた。

 否、それは回線状況が向上して行くにつれノイズの奥からディテールを浮かび上がらせてくる。照明が絞られた空間は、その奥と左右に巨大な存在が並んでいることを、影のエッジでわずかに反射する光で表わしている。

 そしてそれらの中央に小さな光が灯った。それは燭台に点けられた小さな火によるものであり、その揺らめきの中に説教台と、一人の男の姿が浮かび上がる。

『全世界の皆様にご挨拶申し上げます。

 我々は昨年建国の意志を示した真帝国より、継続して活動を続けている勢力です。

 いくらか似た経緯の組織が他にも存在しますので、正統真帝国戦線を仮の名称として参りましたが――』

 暗がりを撮影していたためか、映像を捉えるカメラは男の顔の造作を少しずつ明らかにしていく。壮年の、第一世代用の呼吸器と帝国軍服を身につけた男であることだけが今はわかった。

『本日ここに、我々は建国準備組織を解体し、我々の国家の樹立を宣言します。

 正統の字を掲げ、真帝国から継続した存在であることを示してきた身としては恐縮ですが……』

 男が顔を上げ、そしてカメラの光量が適正になったことでその表情が明らかになる。

 そこにあるのは武装組織に属する者とは思えない穏やかな眼差しの男の貌。そして彼は、厳かな手つきで自身の呼吸器を外した。

 傷一つ無いが、年月と共に皺を刻んだ顔。しかしそこには一つだけ異質なものがある。

 肌の色とは異なる、鼻筋の青いライン――。

「あの顔は……!」

「む……」

 思わず唸りを上げたのはグロースとララーシュタインであった。二人の様子に、リンは思わず問いを放つ。

「あの()()がなにか……?」

 しかしそれに誰かが答えるより先に、男は続きを口にする。

『我々はここに、新国家デルポイ連邦の建国を宣言します。

 首長は僭越ながら私……元帝国軍大佐、ヘンリー・ムーロアが務めさせていただきます』

「ムーロア一族……!」

 呻くララーシュタイン。だがリンには、この放送に周囲が抱く剣呑な雰囲気の理由がわからない。トレーラーの上に出たユインも同様のようだが、一方で彼女を支えるウェインライトは周囲に漂う空気同様、緊迫した表情を浮かべていた。

「ムーロア……その名はこの地球移民時代まで継続した二大国家の礎を築いた、惑星Zi最古の家系のものだ。

 その血筋は帝国王家の祖でもあると言われているが……あの男は?」

 グロースが問いを向ける相手は、帝国社交界に近しいララーシュタインしかいない。そして彼はこみ上げるものを飲み込むような時間を掛けて応じた。

「あの男は……真帝国蜂起以前はヘンリー・ハルトマンと名乗っていた。確かに帝国軍大佐の一人であり、ハルトマン家も歴史ある血筋であった……。

 真帝国事件と同時に行方不明になっていたので一味に加わっていたとは思っていたが……!」

 芝居がかった言動をするララーシュタインだが、その動揺や裏返りかけた声音は演技を感じさせない。本気の狼狽が、彼の言葉を裏付けていく。

『さて……全世界の皆様は我が国がデルポイ「連邦」という名を名乗った理由を訝しんでいるものと思います。

 理由は簡単です。今我々は単一の勢力ですが……既存の二つの国家から独立するさらなる同志を求めているからです』

 混乱するオクトーバーフォースの隊列を尻目に、名乗り出たヘンリー・ムーロアなる男は言葉を続ける。

「この放送は確か北米の共和国と帝国の本土にも……」

 この男の視野は広い。彼は世界に呼びかけているのだ。

『かつてシーガル准将が真帝国の樹立を宣言したように、この地球に生じた社会、二つの国家の中には、自らが思い描くものが実現できずにいる方々も多いでしょう。

 我々デルポイ連邦はその理想の受け皿となることを理念とするが故に「連邦」の名を掲げる次第です。

 新しい世界を求める方々はどうか声を上げて下さい。あなた方が求める国の存在を我々は支持します。あなた方が求める国が存在する場所が、デルポイ連邦です』

 自分達の遙か背後に向いたヘンリーの視線に、リンは寒気を覚えた。己の足下を、背後を、そこにあるものを揺るがされる感覚。

『声を上げ、この極東弓状列島を目指して下さい。

 あなた方を含めた我々の独立を保証するのは、我々が保有する戦力です』

 そしてその時、暗闇に沈んでいた画面に光が溢れる。

 一瞬のホワイトアウトを経て画面に浮かび上がるのは、ヘンリーが背後に置いたゼログライジス・ネガシルエット。そしてその左右に並ぶのは、武装を整えた戦闘ゾイド達。

 ギルラプター。

 ステゴゼーゲ。

 グラキオサウルス。

 キャノンブル。

 スナイプテラ。

 ソニックバード。

 その狭間には数え切れないほどの小型ゾイドと、そして戦力たる人員。

 しかしその整列は、不自然に左右に分かれていた。そして今、ヘンリーの姿を掻き消して下から上へ、黒々とした影が屹立していく。

 視点が変わる。ヘンリーの側から、立ち上がっていく巨大な筒を見上げる位置へ。

『ご覧いただけるでしょうか。こちらは我が国が誇る戦略兵器、一二〇〇ミリ電磁マスドライバーです。

 国土防衛をなす決戦ゾイド、ゼログライジス・セカンドイシューとこの巨砲、デストロイヤー・ガンの威力が、二つの国家しか存在しない世界に楔を打つことになります。

 申し上げておきましょう、この巨砲デストロイヤー・ガンはこの列島からニューホープ、ネオゼネバス両都市を射程に収めることが可能であり、ゼログライジス・セカンドイシューは国土の守りを完全なものとします』

 二つの戦略兵器を示し、ヘンリーは傾いたカメラに顔を覗かせる。腰の後ろで左右の手を組んだ悠然とした姿勢だ。

『古き国家から継続する秩序は、かつて滅びた我々の母星の歴史を継続するものです。

 今それを変え、新たなる息吹を歴史に吹き込む機会が訪れています。

 どうか立ち上がっていただきたい。これは最も古い歴史を有するムーロア一族の、傍流と言えどその血を引くものからの願いです』

 そして閉鎖された空間を映していたカメラは、稲妻に巻き付いたヘビを抱く白地の国旗を示す。

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

『歴史と世界は常に多様性を求めるものであり、それが成されていた古き良き時代を取り戻さなければならない。

 故に私は、どれだけ薄かろうとムーロアの血を引く者として、この地に新たな国家を築きます』

 マスドライバーの砲身部が下げられ、再び正面からのカメラとなる。そしてヘンリーの背後に立つゼログライジス……セカンドイシューの前にホログラム画面が投影され、そこには縦長の地図が映し出された。

 緑の濃淡で標高が示された地が広がるその地図は、まさにこの南アルプスの地形を表わしている。広大な山々を抱いた地球の大地の一角。

『我々デルポイ連邦最初の領土はこの山脈。この地は領土を持つことが出来ず、しかし独立を望む全ての人々に開放しましょう。

 が、旧世界の秩序のみを重んじる者が立ち入ることは、これを許しません』

 ヘンリーの地図の一角、右下の隅に赤い光の列が並んだ。そしてワイプ画面が開き、そこには山々を埋め尽くす木々と、その中に走る旧道。

 そしてそこに立ち止まって狼狽えた様子を見せるゾイドの隊列は、自分達のものだ。

「これは……どこかから監視されている!?」

 隊列を俯瞰する視点を逆算し、リンはアカツキライガーを振り向かせる。そこは稜線の一角でしかなく、身を潜めるゾイドの姿も窺い知れない。

 そして隊列の中で大きく動いたアカツキライガーの顔へと、ヘンリーの放送に映るワイプはアップになっていく。

『この列島を旧世界秩序に収めんとする第七開拓兵団の戦力の排除をもって、我々は国家として独立を維持する能を持つことを示させていただきましょう。

 その経過は順次報告させていただきますが……ひとまず、これにて我々デルポイ連邦からの第一回放送を終了とさせて戴きます』

 そう言ってヘンリーが手を一振りすれば、ホログラム画面は消え去る。そして画面の背後にいたゼログライジス・セカンドイシューの全身に薄紫の光が走り、内包する力を示していた。

『そしてこの放送をもって、我々デルポイ連邦から帝国・共和国・合同軍への宣戦布告とさせて戴きます』

 穏やかさと毅然さが共存するヘンリーの表情は、為政者として、指揮官として人の上に立つ者の貌だった。そしてその視線を真っ直ぐ見る者へ通すようなアップから、放送はブラックアウトしていく。

「――随伴護衛部隊、さっきの俺達の映像の出所は?」

 その途端に、グロースが状況の確認に動く。放たれた問いに、アカツキライガーが向いた撮影場所と目される地点の側で小さな影が動く。

「カメラが設置されています! 地形に擬装したヤツです!」

 迷彩塗装と擬装ネットを被ったラプトリアが歩兵部隊を引き連れてそこにいる。その鋭い爪の先に、設置式の望遠監視カメラが突き刺さっていた。

「なるほど、敵の本拠地らしく準備万端ということだな……」

「グロース少将、奴らデストロイヤー・ガンなる戦略兵器を示しておりましたな。本土に影響が出るのであれば作戦行動を見直す必要があるのでは」

 ララーシュタインの問いを聞いて、リンははっと振り向く。

 この日本列島は北米大陸にある帝国、共和国両国との間に太平洋を挟み地球半周近い距離がある。惑星Ziではその距離を飛んで敵国を撃つ兵器もあったと聞くが、その技術は現在断絶しているものだ。

 しかし一二〇〇ミリという、軍事をかじれば異常さがたちどころにわかる数字にマスドライバーなる名、そして放送に映った砲身らしき巨大な影が規格外の性能をリンにも予感させる。

「マスドライバーは惑星Ziでの移民船建造時に使われた技術だな。衛星軌道に大型船用の資材を打ち上げるのに使われた。

 ロケットの代わりになるものだから、弾道ミサイルのように使うことも出来るだろう、な……」

「ならば奴らは本土を攻撃出来ると……」

「だが大がかりな設備だし、軌道計算は面倒だぞ。奴らの後ろ盾が本土の企業だというなら、迂闊に攻撃はできないはずだ」

 グロース、ララーシュタインら指揮官達はそう語る。彼らはリン達を率いる軍人であると同時に、戦場の外の世界との窓口役でもある。気を揉む立場だろう。

「だがあれが出てきたということは、奴らがこの山の中で拠点を築けている理由も予想が付くぞ。

 おそらくあのマスドライバーは地球移民後の開発用に移民船に積まれていたが、設置されずにいたもの……。

 似たような経緯で死蔵されていると聞いたことがあるんだが、地上環境が悪かった場合に地下居住区を作るためのパッケージ建築が存在したらしい。結局使われなかったわけだけどな」

「そういった活用されなかった資材を保有している企業や組織から供給を受けている……というわけであるか」

 意外なところから、敵の備えの正体が明らかになる。あるいは、リン達地球生まれの第二世代がまだ知らないことだらけなのだろうか。

「敵について推測するにせよ、この山道の途中で足を止めるのは良くはないでしょう。

 ベースキャンプへ急ぐべきです。そこの安全は確保しているんですし」

「で、あるな、ブルーダー。

 あの放送が本土にまで流れたとなれば我らの活動をせっつく輩も出よう。忙しくなる前に落ち着くところを得なければ」

 隊列が再び動き始める。カメラを発見した随伴部隊もまた木々の合間に姿を隠し、

「クリューガー准尉?」

「……はい」

 敵の本拠地だけあって、事態は大きく動き始めている。ゼログライジスの一撃が海まで届いたのも今朝のことだ。

 ディーナに問われて以来気にかけていた、自分が立ち向かうもの、自分が守るものについてが現実に姿を現わしてきたかのようだ。

 並び立つ山々に遮られた視界に今の心情を重ね合わせながら、リンはアカツキライガーをまた山道の行軍に向かわせる。

 山の端から朝日が昇るように、迷いが晴れる日は来るだろうかと思いながら。

 

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