ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・高速ゾイド
 主に陸戦ゾイドの分野において、他の機種より快速であることを特長とするゾイド群が高速戦闘ゾイドと呼ばれ区別されている。
 瞬発的な速度だけではなく長距離行軍能力なども含めた軍事用語としての「機動性」を持ったこれらゾイドは、固定化された前線を押し合う古典的な戦闘から飛躍した後方浸透や長距離偵察などの戦術を実行する上で強力な戦力となる。
 また高いスペックを持つこれら高速ゾイドは多くの場合正面切っての戦闘にも対応した基礎的能力を持つ者も多く、その点と戦場のどこにでも行ける機動力から戦闘部隊のピンチヒッターとして劇的な活躍を遂げることも多い。
 しかしそれら勇壮な記録の影には、高いスペック故の操縦難や判断力を求められる作戦に投入されるが故のライダーのミスなどで多くの機体が喪われている事実が存在することを忘れてはならない。


NEW EARTH ERA 31 10/02 10:03

新地球歴三一年 一〇月二日 一〇〇三時

南アルプス 宍原キャンプ

 

 キャンプ間を前進した翌日、戦略に変更はありながらもオクトーバーフォースは次の前進に向けての準備に入っていた。

 斥候はこの宍原からはもちろんこと、他のベースキャンプからも既定のルートに向かっていく。空に地に小規模な部隊が向かっていくが、その一方で一際目立つデスレックスを中心としたオクトーバーフォース本隊も動きを見せていた。

「敵が地下に戦力を配置できるようにしているなら、それを探る必要がある。敵の奇襲と遭遇する危険性も考えるなら、主力を連携を試しがてらに投入するのもいいだろうなって」

 グロースはそんなことを気軽に言って、リン達に出撃を下命した。部隊を動かすことに関する折衝や本国とのやりとりで身動きが取れないことへの当てつけのような雰囲気があったが、その点については隣に控えていたウェインライトがなにか手を下す様子に見えたのでリンは黙っていた。

 そして動けないグロースの代わりに指揮を任せられたのが、デスレックス〈スカベンジャー〉を擁する4989小隊の隊長、シールマンだった。

「では手筈通りの隊列で偵察コースを周回し、敵の地底侵攻ルートの発見を目指します。高機動チームが先行し進路確保の後に私を含めた観測チームが続く。後衛の要にはギャラン君のスカベンジャーがついて下さい」

「おいーす。アビー、ベッキー、ケツの守りは頼んだぜーっと」

「なんかバッチイー!」

「スカベンジャーの尻尾長いから後ろ付いていくの大変なんだぞー!」

 部隊中枢となる4989小隊はアットホームな様子だ。その一方で、リンとアカツキライガーは先行する高機動チームに編入されるわけだが、

「より高い階級の私がこちらの担当なのは、判断力を必要とされるチームだからということであろうな」

「そうですね」

 発奮するララーシュタインに対し、ブルーダーがどこか空々しく応じる。その間に挟まれリンは愛想笑いを浮かべるしかないし、アカツキライガーも尾を股に挟んで縮こまっている。

「まあ良い。こうした多段階で各チームが関わる作戦では、各員はそれぞれの役目を果たしつつ、各チームの役割に関しても認識し自分が気付く範囲でサポートを行うのが常道だろう」

「我々の場合は?」

「高速部隊としての索敵と先行制圧を果たした上で、臭い位置をチェックすること。そして敵を発見した場合にはその位置の測量情報を後送することであろうな」

 問うブルーダーへの返答をするララーシュタインに、リンもそうなのかと思わず感心の頷きをしてしまう。そんなライダーの様子に困惑してか、アカツキライガーは小さな唸り声を上げる。

「あっ……。

 おほん。ララーシュタイン少佐、私達は少佐の指示に従えばいいんですね?」

 感心している場合ではない、自分達は作戦に参加し役割を持つ戦闘員の一端なのだ。指揮系東都役割は明確に認識しなければ。

 そして確認を取るリンに対し、ララーシュタインは少し考え込み、

「まあ概ねはその通りだが、リン准尉、高速部隊でゾイド乗りに求められる素養はなんであるか知っているかね?」

「素養……?」

「部隊に対してスタンドアローン性が高い、先行する高速ゾイド乗りは多くの場合単独時の判断力が要求されるということだよ」

 そういうララーシュタインは、会話に割り込まれたことも特に気にする様子も無く高揚しているようだった。自ら口にするそれを心待ちにしているような、そんな様子だ。

「リン准尉は栄えあるライガー乗りだものな。そういうものに憧れたこともあろう。こうして実戦の場に立てて羨ましい限りだよ。ま、私も歴史に名を残すタイガー乗りだがね」

 微妙に当てこすりの雰囲気を感じるが、リンはララーシュタインが言っていることをわかっていた。確かに士官学校ではゾイド乗りの歴史的経緯の中で、高速陸戦ゾイドに乗るパイロット達は花形のようなポジションだったと教えられている。

 そして、だからといって同じ立場になったとしても自分は決してヒーローではないのだという点も教諭側も口元が酸っぱそうに、そして自分達士官候補生側も耳にタコを作りながら教わったことだ。

 ともあれ、前線ではまた違うルールが跋扈しているものだ。リンはここまでの戦いでその点を痛いほど実感している。

 戦場を支配するのは臨機応変の四文字。しかもそれまでに培った知識も決して無駄ではなく、むしろ必要不可欠なものとしてのしかかってくる。

 そんな戦地に、自分達は個々人の力が求められる高速ゾイド乗りとして乗り込むのだ。そう思うとリンは若干尻込みする気持ちが生まれるのだが、

「――ライガー」

 アカツキライガーが唸り声を上げる。その様子にリンが思い出すのは、立川で二一世紀のワイルドライガーブレード達を守るために戦った時。あの時も、自分達は単独で、そして多くの人々を守るために立ち向かった。

 かつて自分は、自分達は出来たのだ。あの時の必死さをまた自分の中に再現しなければ。

「私を励ましてくれるんだね。えらいね、ライガー……」

 本来ならアカツキライガーは戦闘に向かない個体にゾイド因子増強の処置を施した機体であったはずだ。それが自分を励ましてくれている今、自分が躊躇っていてはいられない。

「歴史に名を残しに行きましょう、ララーシュタイン少佐、ブルーダー少尉」

「ほう、中々言うようになってきたではないか准尉。君が歴史に名を残すことも期待しているよ」

「いやあ、口先だけですよ……」

 威勢のいいことをいいながら謙遜してしまう自分に情けなさを覚えながら、リンは視線を上げる。

 南アルプスの山々。遠巻きに何度も見てきたそれが、今はリンを試すように近くにそびえている。

 そしてリンとアカツキライガーはその中へと進んでいく。

 

新地球歴三一年 一〇月二日 一一一三時

南アルプス 中河内

 

 かくしてオクトーバーフォース本隊による宍原ベースキャンプ周辺の安全確保巡回は始まった。

 高速部隊が前進して安全を確保したところで、シールマンのディメパルサー〈ミス・スクリーチ〉をはじめとした観測ゾイドや歩兵部隊が地下道の有無を確認。それらを背後から火力の抑止力で守るのがスカベンジャー他重ゾイド部隊だ。

 それらを連携させた行軍シークエンスは二、三と繰り返すうちにスムーズになっていく。そして警戒を要するとはいえ、一度は安全を確保したと判断されたエリアだ。自然とその空気はだらけ気味になっていく。

「――そしたらディーナのヤツ飲み過ぎてまたフラフラになっちまってさあ。頭が右に左にぐわんぐわん揺れてるわ『めるざいむ……』とか意味わかんねえこと言い出すし」

「でもその時ギャランもゲラゲラ笑いながら逆立ちしたりでんぐり返ししてたじゃん」

「『べあもーびる』ってなに?」

 後衛のギャラン達がそんな世間話に花を咲かせる中、リンはその通信をラジオのように聞き流しながらライガーを木々の合間に進ませる。

 この山奥にまで舗装路の跡がある辺り、21世紀にこの列島に存在した国家は近代的な国だったのだろう。だが今警戒網を広げるために単騎ここを訪れたアカツキライガーの周囲には、鬱蒼とした緑の連なりが厚く存在している。

「森での戦闘は士官学校での訓練以来かな……」

 決して遠い昔の記憶ではないが、あの頃はアカツキライガーと出会う前で訓練用のゾイドに乗っていた。そして実戦でこのような深い森に踏み込む事態は初めてである。

 道と建物が明確な市街地と異なり、複雑な木々と枝葉の合間に空間が存在するこの場所は見通しも機動の目算も困難な空間だ。

 敵が地下を通ってくる可能性が指摘されている今、あらゆる木の陰、稜線の陰が怪しい。故に意識を振り向け続ければ消耗がのしかかってくる。

 森林戦は緑の地獄だと士官学校時代の教官は言っていた。今リンはその意味を実感する。

「ぴ、ピクニック日和なんだけどなあ……」

 一〇月とはいえ晴れの昼間。気温は悪くはない。だがこの地に課せられた戦場という状況はリンに風景を楽しむことを許さないのだった。

 警戒しながら、リンは自分の担当するポイントにアカツキライガーを進めていく。ライガーが踏む落ち葉や枝の音の奥から敵の音を聞き逃さぬように気を張れば、自然にしかめ面が浮かんできた。

「これを繰り返すのかあ……」

 後方で呑気にしているギャラン達の通信を切り、意識を集中させていく。気楽そうな部隊の中で、自分だけが密度濃い時間を過ごしているような懸念がリンの中には浮かんだ。

 そうしてそろりそろりとライガーを歩ませれば、

「クリューガー准尉」

「ヒ――――!」

 突然かけられた声に、リンはアカツキライガーごと仰け反る。レールガンの暴発はなんとか堪えたが、裏返った声を上げるリンに、ローゼンティーゲルごと首を傾げているのはララーシュタインだ。

「……ペースが遅いようだが大丈夫かね?」

「アッハイ! 慣れていくところですよ!? 大丈夫ですよ場数を積めば!?」

 そう言いながら、ああ自分はテンパっているのだなとリンの心の冷静な部分が理解していく。

「まったく、君とライガーはそこそこ実力があるのだから臆病になることなく構えていればいいのだ。ここまでの戦いを忘れたかね?」

「すみません、森での戦いってのが初めてでして……」

「そんなものかね」

 実績を積み重ねているであろうララーシュタインにはリンの抱く不安は記憶の彼方だろうか。その一方で、彼は年長者らしいことを言ってくる。

「クリューガー准尉のような若者には難しいかもしれないが、君は度胸を身につけた方がいいかもしれぬなあ」

「ど、度胸?」

「なにか見落としがあった時でも、自分が見落とすなら誰にも気づけなかっただろうと思えるような図太さのことであるよ」

 そんなことを言いながら、ララーシュタインはリンが行くべきポイントへの先導にローゼンティーゲルを歩ませる。その無造作さは、全方位を警戒するリンとアカツキライガーとは異なるものだ。

「士官学校、そして実戦で身についたものは、自分の意志で行使せずとも体が勝手に行っているものだよ。『身についた』ものなのだからね。

 君のような生真面目な人間は、時には自分の無意識や……パートナーとなるゾイドを信用してみるべきなのだ」

「で、でも自分は若輩者で、アカツキライガーは戦闘向きの個体ではなくて……」

「そういうところである」

 半眼を向けてくるララーシュタインに、仕方なさそうなため息を吐いているように見えるローゼンティーゲル。その姿が一足先に森を抜け、ガードレールがところどころに残る峠道へと至る。

「一戦交えられれば感覚も変わるのだろうが、古い基準とはいえここはまだ安全圏であるからなあ。まったく、機会というものは欲しい時にはあらず、入らない時に降ってくるものである」

「そういうものでしょうか……?」

「そうであろう? 君のこの事件への関わりの始まりや……アカツキライガーとの出会いも、意外なものだったのではないかね」

 指摘されてみればその通りだ。望まず得たものが自分を伸ばしてくれて、自分が夢想した筋書きはいつも訪れない。

 ならば、予想だにしないものを待ち望んでもいいのだろうか。

「例えばここで敵が現われたら、私にとっては成長のチャンスなんでしょうか」

「で、あろう。危機と言うには君はもう強すぎる」

「本当に?」

「疑り深い子であるね。そも、戦闘向きのモチベーションの持ち主ではないだろうが、ライガータイプの武装強化タイプに乗っているというだけでも普通は自信になると思うのだが」

 言われてみるとそうなのかなと思うことばかりだ。ララーシュタインはズケズケと切り込んでくる上官だが、それ故にリンがどこかで避けている割り切りを代わりにしてくれるように思える。

「だったら……ドンと来いと思ってもいいのかもしれませんね」

 リンが心を上向きにさせた途端、その衝撃音はドンと響いた。

 二人と二体が北の方角に目を向けると、木立の奥に煙が上がっているのが見える。現在地からの距離は一キロと少しだろうか。

「……私のせいでしょうか」

「重ね重ね言うがそういうところである」

 半べそになるリンに、ララーシュタインはぴしゃりと告げた。そして同時に、峠道の下からブルーダーのエコーが駆け上がってくる。

「少佐! 何者かが北で交戦している!」

「そのようであるな。何かあの煙以外に情報は?」

『すみません少佐、地上レーダーではあの山陰の様子はわからないのです』

 通信に割り込んでくるのはシールマンの個人回線だ。その声にララーシュタインは鋭い目を北へと向け、

「で、あればこの場面で取る手は一つであるなシールマン中尉」

『はい、高速部隊は現地に先行し状況を伝えて下さい。場合によってはうちのギャランをはじめに火力部隊に支援射撃をさせますので』

「了解である中尉。高速部隊の真骨頂をお見せしよう。ブルーダー、クリューガー准尉、良いかね?」

「は、はいっ!」

 片眉を上げて問いかけてくるララーシュタインに、リンは操縦レバーを握り姿勢を正して応じた。

 その一方でブルーダーはすでにエコーを走らせて北の方角に向かっている。木々の合間に溶け込んでいくエコーのグレーの速度は淀みない。

「先行します!」

 枝葉を揺らしながら駆けていくハンターウルフ〈エコー〉。そしてそれに続くように、他の高速ゾイドの気配も森の中を駆けていく。

「……ああいう風になれるといいのであるな」

「難しそうですね……」

「自然とああなっているものである。ブルーダーとか野戦任官であるしな、はじめからあんなであろう」

 こともなげに言い、そしてララーシュタインもローゼンティーゲルを北へと駆け出させた。

「……! アカツキライガー、私達も……!」

 リンも紫の機影にアカツキライガーを追随させていく。新たな武装を得た機体の加速は始めは鈍く、そして伸びるようにローゼンティーゲルに続いた。

 北方向の戦闘の煙は、新たな筋が上り始めている。そこに敵がいることを示す証へと、新たな装いの機獣は加速した。

 

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