ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・ギルラプター
 デイノニクス種の中型ゾイド。
 その機敏な運動性と、鋭利な爪、そしてワイルドブラスト時に展開するウイングショーテルの鋭さが戦闘能力として注目される地球産ゾイド種の一種である。
 しかし実戦、及び民間も含めた運用の現場でギルラプター種に向けられる評価において無視できない要素であるのは、この種が持つ高い知能である。共に行動する人類の機微を感じ取り、個体によってはそれに応じ、あるいは異なる有り様を示すその形態は、他にも知性的なゾイドが存在する中でも非常に人間的であると言えるだろう。
 攻撃的な形態を持つ一方で非常に繊細であり、人類に近しい存在。地球生物学上に存在した恐竜種に人類のような知的生命体への進化の可能性が論じられていたことを思えば、この種のゾイドにそんな性質が見られるのはそれほど奇妙なことではないのかもしれない。


NEW EARTH ERA 31 9/18 09:32

新地球歴三一年 九月一八日 〇九三二時

日本列島 東北エリア 大湊開拓前線司令部

 

 東京での出来事から一週間近くの時間が過ぎていた。

 ゼログライジスの再誕とロイ達の部隊の反乱に居合わせたリンは、今その身を本州の北の果て、大湊に置いている。現場から脱出した彼女はアカツキライガーと共に開拓兵団本隊に保護され本州開拓事業の頭脳となるこの地へ移送されたのだ。

 一昼夜に渡る逃避行で衰弱した体に治療を受け、事情聴取も受け、そしてこの日が訪れた。ベッドから起き上がり病棟を後にしたリンが見るのは、仮設建造物や天幕が並ぶ大湊開拓前線司令部の威容である。

「最初に見た時はもうちょっと規模が小さかったっけ……」

 北米大陸から始まった開拓の流れは、この日本列島には北海道地区から注ぎ込まれた。現在もその北海道の開発が進められており、その一方で本州への橋頭堡として設けられたのがこの拠点。合同軍と入植者からなる開拓兵団の指揮を執る司令官も、今はこの本州側司令部に来ているのだという。

「今回の事件のために増員するって言っていたし、この中にもそのために作られたものもあるのかな……」

 反乱を起こしたのがロイ達なのはリンにもわかっている。だが目の前で起こる出来事を止められなかったことは、リンの責任感を苛んでいた。あの場で自分とアカツキライガーが、暴走する抽出機を止められればという思いは募るばかりだ。

 アカツキライガーはどう思っているだろうか。そう疑問を抱いた頃に、屋外駐機場に置かれたライガー自身の姿が見えてくる。

 そこでアカツキライガーは、横に立つギルラプターにすりつかれていた。その様子に、リンはただでさえ意識が向いていた東京での出来事を瞬間的に喚起される。

「お……オワ――――っ!」

 漫画的にその場で跳躍したリンは、駐機場への道を駆け抜けた。アカツキライガーにじゃれつくギルラプターは、ロイのギルラプター指揮官仕様に似た暗い色合いをしている。装甲の黒の中に、石材の模様のように赤いラインが走っているのが独特の質感だ。

 そして頭部には放熱用のブレードがトサカ状に取り付けられている。Z・Oバイザーも装備しているにもかかわらず、あまりにも自然な動きだ。顔を寄せられ、アカツキライガーはどこか観念したような目で虚空を見上げている。

 ともあれ、アカツキライガーにギルラプターが迫っている様子はリンにとっては気が気ではない。

「ちょ、ちょっと! あのギルラプター誰のですか! 大丈夫なんですかあんなに動かして!」

「ああ悪い悪い。こいつついさっきまで輸送のために固定されてたから体を動かしたくて仕方が無いと思うんだよね」

 そう言って歩いてくるのは、帝国の軍服に身を包んだ男だ。呼吸器を付けていることから第一世代とわかるし、軍服に付けられた勲章からその経歴もある程度窺える。惑星Zi時代の戦闘に参加したことを示すものもあった。

 この地を訪れる高官。リンは相手の名を思わず声にする。

「あっ……アハトバウム少将! これはその……!」

「いいっていいって。愛機のことは心配だよな。ただまあ……俺の〈ナハトリッター〉は人なつっこいだけだから、大目に見てやってくれ。

 アカツキライガーはゾイド因子増強機体だから、そばにいると心地いいってのもあるかもな」

 気さくに応じる男は、グロース・アハトバウム。帝国から合同軍に出向した少将であり、この日本列島を担当する第七開拓兵団の長だ。

「アカツキライガーを……ご存じでしたか」

「俺は兵団長だもん。担当エリアで行われることについては全部目を通してるよ、リン・クリューガー准尉」

 白髪交じりの黒髪を脇に撫でつけながら、グロースはマスク越しに微笑む。余裕のあるその表情に、リンは恐縮した。

 リンが属していたゾイド因子オメガ除去の研究チームは、第七開拓兵団に後から加わったチームでもある。ロイ達の企みがいつから始まっていたかはわからないが、今回の騒動を外から持ち込んできた形になるのは事実だ。

 だがグロースは、そんなリンの引け目を見抜いているようだった。少将、という立場を得るまでに経験してきた事柄の中に、リンのような若者を相手にした経験もあるのだろう。

「東京では大変だったな。ま、二つの国が去年のことで国力を落とした結果として、一旗揚げてやろうってヤツが出てくることは予想できていたよ。真帝国なんて奴らもいたしね」

 困った奴らだ、という風にグロースは肩をすくめる。その芝居がかった身振りに、リンは聞き入る。

「血気盛んなのはいいことだが、しかし合同軍の資産であるゾイド因子オメガの抽出装置や、あれだけ猛威を振るったゼログライジスを利用しようってのは行きすぎだよな。

 成敗してやらなきゃならんが……それにはリン准尉やアカツキライガーの力も欠かせないだろう」

「でも、私とアカツキライガーは東京でゼログライジスの発生を止められなくて……」

「それについては、かのボーマン博士から提言が届いている」

 リンを遮り、グロースは自身の情報端末を取り出した。液晶パネルには文書データが表示されており、

「アカツキライガーのゾイド因子放射は現在の形では効率が良くないようだから、ボーマン博士の手による追加装備が届く予定だ。追加の戦力と一緒にね。

 それを装備した、いわば〈アカツキライガー改〉と共にリン准尉には反乱軍討伐部隊への配属を命じる。俺の直下について貰うから、よろしくな」

 グロースの言葉を、リンは噛みしめる。失敗をしたと思っている自分に、新たに与えられる装備と機会。それは罰か、挽回か。

「ちなみに出現したゼログライジスについては、ゾイド因子オメガの高凝縮体であったオリジナルのゼログライジスが失われた結果として、現在の地球に広がっているゾイド因子オメガにはヤツの形が取りやすい形状として残っているんだそうだ。

 いわば今回出現したゼログライジスは、去年のヤツの残像だってボーマン博士は分析している」

「残像……」

 確かにリンが目撃したゼログライジスの出現は、あやふやな光からの現出だった。鋳型に原料が流し込まれていくように周囲から様々な物を掻き集めていたのも覚えている。

「故に今回の個体はゼログライジスそのものではなく、ゼログライジス〈ネガシルエット〉と呼称する。

 俺の目標は反乱軍の撃破。君の目標はネガシルエットの撃破。今はそれを考えるんだ。いいね?」

 悪戯っぽく指を立てるグロースの姿は、リンの活躍を促している。思いは一つに定まらないが、リンは支えを一つ得て奮い立った。

「……頑張ります」

「ははは、最善を尽くすことは期待するけど、無茶はするなよ。そこを見誤るとキャリアを積んでいけなくなるから気をつけるように。

 こんなマスクが必要無い時代を担っていくのは君達の世代なんだから、自分を大事にな」

 少将らしい含蓄も、グロースの口から出る時はどこか楽しげだ。彼にとってはこの状況も、乗り越えていける出来事だということだろう。

「今日この後、反乱軍討伐の主力として派遣されてくる戦力がここに到着する予定だ。アカツキライガーの新装備と一緒にな。

 まずは迎えに行こうぜ。今回の作戦は、そこからスタートだ」

「はい!」

 戦地への誘い。本来なら剣呑なはずのそれに、リンは自然に応じることが出来た。

 歩き出すグロースが手招きする。リンはそれに続き――そしてその傍らでは、アカツキライガーにナハトリッターがじゃれつき続けていた。ゴツゴツと鳴る金属音と共に。

 

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