ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・レールガン
 実体弾を電気的な効果によって投射する火砲。二本の砲身レール間に弾体を挟み込んで形成したコの字型の回路に大電流を流すことで発生するローレンツ力によって、固定されていない弾体を発射する。
 爆薬を用いた化学的な方法で投射速度を得る従来型火砲に対して構造が単純かつ、外部からエネルギーを投入可能なことで「撃ち分け」の容易さや、最大威力・弾速の増加が見込める先進的な装備である。
 発射時に弾体がレールと起こす摩擦などの現象によって弾体そのものや周囲の大気のプラズマ化を招くが、実際の所これはエネルギーロスの一部であり破壊力を増加させる効果などは薄い。凄まじい威力故に材料工学や周辺環境との齟齬をきたすほどであることの証左と言えよう。
 またその先進的な作動原理が広く理解されておらず、電流そのものを収束発射する「電磁砲」など他の電磁気的兵器との間に分類の間違いを起こされがちである。


NEW EARTH ERA 31 10/02 11:20

新地球歴三一年 一〇月二日 一一二〇時

南アルプス 中河内

 

 ベースキャンプ周辺の安全を確保すべく、そしてオクトーバーフォース主力の連携を深めるべく出撃した一団は突如勃発した戦闘の気配に迫っていた。

 機動力の担い手であるリン、ララーシュタインらのゾイドが森の中を駆け抜けていくと、立ち上る煙に沿って空中を後退していく影が見えた。翼を広げ、しかし人に似た上半身を持っているようにも見えるそれは、

「キルサイス! 継続……の方でしょうか」

 熱海拠点襲撃に居合わせたリンはその姿に見覚えがあった。カマキリ種ゾイドキルサイスが数機、肘に増設した火器で地上を牽制しながら下がりつつあるのだとわかる。

「あいにく私は継続真帝国評議会の方とは鉢合わせしていないのである。君の目で見るとどうだね」

「ええっとお……」

 そういえば熱海襲撃の当日、ララーシュタインはグロースと共に御殿場基地に出向いていたのだった。その結果としてギャラン達や、ソニックバードを駆るカノー達が駆けつけてくれたのだが。

 ともあれ当日を知る自分の、直観を信じて頭上のキルサイス達を見れば、

「あんなに整然としてはいなかったかな? ……継続真帝国評議会は」

 熱海からの物資強奪に飛来したキルサイス達は、無人機込みだと推測される入り乱れるような機動をしていた。だが空中の隊列は、明確な図形を描いて互いにカバーし合っているように見える。

「ふむ、さらに別口かね。ならば地上にいる側はどうなのかな……?」

 戦闘を示す黒煙は地上から上がっている。そしてたなびく色の中に、新たに白いものが打ち上がった。煙よりも鋭く伸びるそれは、ミサイルに引きずられた噴射煙だ。

 さらに応射するキルサイスから逃れるように、手前の山の稜線を越えてこちら側に跳躍してくる機影が一つ。一瞬木立の上に見えた緑の機影は、長大な対ゾイド砲を長い両手で把持しているように見えた。

「ナックルコング……!」

「なるほど局地戦向きの機体である。どちらの陣営もこの山地に適応しているようであるな。

 さて目下我々の敵であるデルポイ連邦なる連中は――」

 その瞬間、迷彩色で山肌に溶け込んでいったナックルコングからの射撃がリンとララーシュタインを襲った。だがそれぞれの機体であるアカツキライガーとローゼンティーゲルはその一撃が弾けるより先に軌道を分かち、稲妻のように木々の合間を敵へと迫っていく。

「さもありなん。

 頭上の連中は出方を窺うとして、まずはあの不埒共の手先を始末するとしよう」

「はい!」

 気を張って応じるリンに、ララーシュタインは苦笑を見せて愛機を先行させていく。そしてリンはその姿を見送りながら、木々の合間でアカツキライガーの足を止めた。

 新たに黎明兵装を得たアカツキライガーは高速ゾイド部隊の中でも重装大火力機だ。他の機体が接近戦を挑むなら、その前進を援護すべきだろう。

「レールガン装填。照準は座標で。

 出力プールコンデンサ一番接続」

 レールガンの運用法や、試射実験の結果についてレクチャーは受けている。今回はまだ敵の規模がわからないので威嚇の意味合いが強いが、その威力で身を隠す敵を薙ぎ払うことも狙いたい。

 高いパワーを持つアカツキライガーをして発射までに時間がかかるレールガンには、未使用時間に出力を貯めるコンデンサも装着された。この一撃はそれを利用する。

「レールガン、第一射!」

 木々の影に沈み込むディープブルーの機体に、一瞬の電光が走る。そして次の瞬間甲高い発射音と、ストロボのような発砲炎の光がアカツキライガーの周囲を塗りつぶした。

 兵器とは思えない清涼感すら感じさせる現象。しかしその直後に、大気が引き裂かれる轟音と共に戦場の景色がリンの視界に戻ってくる。

 そこでは緑の木立がスコップですくい取られたかのように半円筒形状にえぐれ、その断面では秋とは言え生木であるはずの枝葉が燻っている。発射された弾丸よりも影響を受けた範囲が広いのは、弾丸が纏う圧縮された大気によるプラズマのためか。

「こ、こんな威力のものを投入しなければならない相手が……!」

 放たれた砲弾は、すでに空の彼方で流星のように光の粒をこぼしながら消えていこうとしていた。そしてえぐり取られた緑の中から、武装を手にしたナックルコングが呆気に取られたようにこちらを見ている。相手にとっても規格外の破壊力だったというわけだ。

 だがこの武装の本分である、ゼログライジス級を撃つという目的を考えればこれでも威力は足りないのかもしれない。

「……考えてる場合じゃない!」

 先程ララーシュタインに指摘されたばかりだ。あまりの威力に物思いに耽ってしまったが、今は戦闘中。高速部隊の役目は目の前にある稜線を越え、戦闘の全容を捉えることだ。

 そしてそれを示すように、レールガンが削り取った空間に姿を現わす紫の翳り。

「惚けている場合か革命家気取りめが!」

 牙を剥いて飛びかかるローゼンティーゲルに、慌ててナックルコングはキャノン砲を掲げて防御とする。だが速度に乗ったローゼンティーゲルはナックルコングを押し倒し、そして機体に増設されたドライブレードで抑え込んだキャノン砲の砲身を切断にかかった。

 長い腕をキャノン砲の下に抑え込まれたナックルコングは反撃できない。好機を掴んだララーシュタインは一方的だ。そしてさらにその周囲を、彼の配下の高速部隊のゾイドが通過していく。

『敵の全容を掴みます』

「頼んだぞお前達」

 一瞬木々の合間に見えるのは帝国軍の新鋭ステルス機、ドライパンサー達だ。ララーシュタイン率いるセプテントリオン戦闘団の高速機はこの機種に統一されている。

「前進だ、クリューガー准尉」

「ブルーダー少尉!」

 レールガンの砲身を格納するアカツキライガーに、エコーも並んでくる。対空戦に強いエコーは上空のキルサイスを警戒していたのだろう。

「前方、地上の敵がいる位置は谷間になっている。狭いエリアだ、格闘戦になるが大丈夫かな?」

「も、もちろんです!」

「よし、行こうか」

 ユインを連れてきているブルーダーとしては、リンのことも気になるということだろうか。気遣うような気配に歯噛みしつつ、リンはライガーを登り斜面へと向かわせていった。

 戦場の中心となる谷間を俯瞰する位置。それはララーシュタインがナックルコングを抑え込んだ場所だ。リンとブルーダーが接近すれば彼はそれに気づき、ローゼンティーゲルに引き裂かせたナックルコングを置いて自らも谷間に飛び込んでいく。

 幅数百メートルほどの谷間では、キルサイスに抵抗していた他のナックルコング達が雪崩れ込むドライパンサーにターゲットを変更していた。その姿は機体ごとに装備が異なり、すでに数機が黒煙を上げながら擱座している。

 そしてその内の一機が倒れ込む位置には、

「ハッチ……地下道!」

 山肌に空いた空隙の中にうつぶせに倒れ込むナックルコングが一体。その周囲の空間は自然の中にあって明らかに人工的な金属の奥行きを持ち、そして擱座した機体によって閉鎖不能に陥っていた。

「あれは確保したいですね……敵の地下施設の仕様を確認できる」

「ならばまずあのナックルコングの排除からだな」

 リンの判断に頷き、ブルーダーもエコーを飛び出させていく。地上のナックルコングを包囲する位置取りに向かっていく動作は一直線だ。

 リンもアカツキライガーをそれに続かせる。

「行くよっ、ライガー!」

 まだレールガンの発砲炎に眩んでいる様子があったアカツキライガーだが、リンの声に首を振って鋭い視線を取り戻す。そして咆哮と共に野太い爪を斜面に食い込ませ、谷間の森へと駆け込んでいった。

 斜面に囲まれた空間は、斜面上の森とは異なる。差し込む日差しは稜線を迂回してきた弱々しいものであり、まるで逢魔が時のような薄闇が木々の合間にうずくまっていた。その中を駆けるリンの懸念は戦闘開始前よりも強まるが、

「……いる」

 木々の狭間で、息を潜めている敵が一体。肩にミサイルランチャーを担いだ武装ナックルコング。

 こちらに気付いていない。アカツキライガーのロービジ迷彩の効果か。

「……ならばっ!」

 リンが操縦桿を押し込めば、アカツキライガーは本能解放形態へ。その背面ユニット上でA-Zガンブレードが前方に展開し、暁の色を残した朱のフィンがゾイド因子の輝きを漏らした。

 その煌めきにナックルコングの視線がこちらに向いてくる。だがそれが届く距離は、すでにガンブレードの切っ先も届く距離だ。

「アカツキベイオネット!」

 枝葉を掻き分ける擦過音を突き抜け、アカツキライガーの突撃はナックルコングが担いだミサイルランチャーに突き刺さる。基部から脱落した箱状の装備が切っ先にぶら下がり、その下でナックルコングは身を回してアカツキライガーから距離を取ろうとしていた。

 だが突撃の勢いでガンブレードを振るアカツキライガーは、ガンブレードと機関砲の二つの火器をフリーとしてナックルコングへ向けている。そのまま連射をすれば、二つの火器の威力は至近距離からナックルコングの全身を打ち据える。

 機銃掃射を浴び、仰け反って倒れていく眼前の敵。リンはその姿に息を吐くが、なにか引っかかるような感覚が首筋にある。

「……そこにもいるなっ!」

 瞬間、アカツキライガーは背後に蹴りを飛ばしながら跳躍した。そして爪が届いた空間に存在する抵抗によって、アカツキライガーは森の暗がりの中に飛び込んでいく。

 背後に見えるのはやはり別のナックルコング。それもワイルドブラストして拳に纏った装甲に爪を増設した接近戦仕様だ。

 ライガーの蹴りで機先を制された敵は、しかしそれでもアッパーカットの軌道で爪を振り上げてくる。その刃風の外側で身を回し、アカツキライガーは新たな敵に向き直る。

 敵のインファイターに対し、アカツキライガーはフィジカルから来る格闘能力と強化された火力を併せ持つ。リンは愛機を敵の得意分野に立たせないことを選んだ。

 跳躍したアカツキライガーは両肩に懸架されたミサイルポッドから一発ずつを敵に放ち、その爆風で相手を押しとどめる。そしてその炎越しに着地し、展開したままのガンブレードと機関砲を向けた。

 だがリンが抱く違和感は消えない。右耳に気圧差で詰まったような感触があった。そして火力を爆炎の向こうに送り込む寸前で、全身ごと操縦レバーを左に倒す。

 射撃を中止し飛び退くアカツキライガー。そしてその場に、クロー付きの装甲ナックルが打ち下ろされてくる。

「もう爆風を回り込んできている……!」

 ナックルコングの速度はリンも知っている。そしてその記憶以上に相手の移動は速い。爆風を強行突破して正面から現われることはあったかもしれないが。

 しかし先んじて機体を跳ばすことができたリンには、ナックルコングだけではなくその背後の木々を見る余裕もあった。一本、へし折るのではなく、圧力で幹を潰されて倒れ行く木がある。

「木を掴んで跳んだんだ……」

 腕力に優れるナックルコングならば、地面に垂直に手がかりが乱立するこの空間は体を引き寄せて高速移動できる空間というわけだ。恐らくララーシュタインやブルーダーはそれに勘づいた上で敵を評していた。

 自分達は――今気づけただけで上出来と思うべきか。ララーシュタインの忠告に従うならば。

 跳躍の中から身を折って、今こそ火力を浴びせかける。だが相手はハンドスピードで装甲ナックルを体の前に掲げて連射弾幕を防いだ。

 一体目、二体目と火力で倒すことが出来たが、長駆侵攻を仕掛けてくる敵の実力がようやく見えた。規格外兵器が絡まなければ敵はゾイドの特性を活かして上回ってこようとする。

 だがアカツキライガーとてライガーだ。インファイトを譲るつもりは無い。

「こっちだって銃剣(ベイオネット)付きだっ!」

 後退跳躍からの着地で折りたたまれる四肢に力が溜まる。分厚い爪で地を捉えるアカツキライガーは、火器として構えていたガンブレードの切っ先をまだ敵に突きつけている。

 ガードを解いて飛びかかってこようとする相手に、アカツキライガーは跳ね返るような突撃をカウンターで叩き込む。その一瞬の中で、リンは相手のナックルコングが咄嗟に身を振って切っ先を躱すのを見た。

 装甲ナックルを分離した肩装甲がガンブレードの切っ先にかかって吹き飛ぶ。その一瞬を後方においてアカツキライガーは敵後方の森の中へ。

 前進に入っていた敵はアカツキライガーとすれ違った。振り向くリンの視界で、確かにその姿は新たな幹に手を伸ばしている。

 だが周囲の木々を使うのは敵の専売特許ではない。こちらも跳んでおり、前方には太い幹がある。

 アカツキライガーは前の爪を幹に叩きつけ、宙空の体をターンさせる。そしてその回転の中でガンブレードの切っ先も一層長い刃に切り替わった。

「アカツキペネトレイタあああああ!」

 二段解放のエヴォブラスト。幹を手にターンしようとするナックルコングの胸の中央へ、鋭い切っ先が突撃する。

 思わずガンブレードをつかみ取ろうとする掌を突き抜け、アカツキライガーの一撃はインファイターのナックルコングを貫く。

 鋭い突きの威力に加え、すかさず撃発したインパクトリボルバーから伝わるパイルバンクの威力がナックルコングを吹き飛ばす。

 濃密な接近戦を経て、リンはまず詰めていた息を呑み、そして吐き出す。一つの相対が終わり、そして戦場は続く。

 無造作にリンは操縦レバーを押し込んだ。アカツキライガーもそれに応じて跳ねた。そして今いた場所を、一撃が通過していく。

 敵が狙うなら今だろうなという予感がリンの首筋にあった。ライガーもきっとそれを感じていたから素直に操縦に応じたのだろう。

「やっぱり周りの方がすごいものね……」

 自分が油断した瞬間が力ある者達の狙う場所だろう。やはりリンはそういう発想の方が性に合っていた。

 そして刺すような射撃が向かってきた方向へアカツキライガーは飛び出していく。見ればそれは擱座機体がいる地下道ハッチの方角だ。

 高速部隊の接近を阻止しようと守りについている者がいる。しかしその相手から射撃を受けるということは、

「私が先行している……?」

 ララーシュタインや彼の部下が自分達より先行していたはずだ。いつの間にか、ナックルコング達と連戦している間に前に出ていたのか。

 だとすれば自分達は敵中に引き込まれているとも取れる。だが――、

「突き抜けるしかない! 他の人達も追いついてきてくれるはずだ!」

 重装備、重装甲のアカツキライガーなら敵中であっても持ちこたえられる。それにこのエリアはオクトーバーフォースの勢力圏なのだ、敵中孤立とはいえ、敵も孤軍として磨り潰されていくはず。

 自分達は今地下道を確保に走るべきだ。決意を固め、リンはアカツキライガーの鼻面を襲いかかる火線に叩きつけるような突撃を見せた。

 立ち並ぶ木々が掠れた緑の影として後方に流れていく中、前方にはライフル状の火器を手にしたナックルコングが地下道ハッチの前に立ちはだかっているのが見えてきた。

 そしてそのライフルが投げ捨てられ、敵は肩に背負ったガトリングでの近距離制圧に切り替えてくる。その弾幕に潜り込み、たてがみで上に弾くようにしてアカツキライガーは迫った。

 ガンブレードの第二の刃、タテガミブレードは上に刃を向けたものだ。低い姿勢から突き上げればそのまま相手に抉り込むことが出来る。その通りの威力がナックルコングからガトリングを奪い取った。

 作動中に破壊されたガトリングが耳障りな機械音と共に内側から分解していくのに対し、相手はなんとか側転して距離を取り先程投げ捨てたライフルを手にしようとする。そこへすかさず、リンは展開したタテガミブレードを収容しガンブレードの砲口を開いた。

 今こそ掃射がゾイドを打ち据える。閉じられぬハッチを背後に置いたアカツキライガーの前でナックルコングが崩れ落ち、リンは付近に他のゾイドの姿が無い様子を見渡す。

「ララーシュタイン少佐、ハッチを確保しました! 敵を地下道から遠ざけて下さい!」

 火器を左右に振り警戒の構えを取るアカツキライガーから、リンはララーシュタインに報告を送る。そうしつつライガーが地上を見る中でふと空を見ると、リンはそこに違和感を覚えた。

 すでにキルサイス達は後退した様子であり、空に影はない。だがリンはその空に対して何か敵がいる時の警戒心を解くことが出来なかった。

「え……何?」

「クリューガー准尉! ハッチにたどり着いたなら地下道に飛び込め!」

 そこに聞こえてくるララーシュタインの声。急かすようなその声音が告げるのは、

「スカベンジャーのロングレンジバスターキャノンによる制圧射撃が始まっている! 弾着……今!」

 その一瞬、確かにリンは弾道を描いて迫ってくる大口径弾を見た。少なくともそんな気がした。

 擱座したナックルコングを弾き飛ばして、アカツキライガーはぽっかりと口を開けた地下道に飛び込む。そしてそれにわずかに遅れて降り注いだ二発の砲弾は、リンとアカツキライガーが駆け抜けた森を一瞬でめくり返した。

 大爆轟の響きがアカツキライガーと共に地下道に飛び込み、より激しく反響していく。その中で振り向いたリンは、爆風の中に投げ出されるナックルコング達の姿をいくつか捉えることが出来た。

 自分達のレールガンに並ぶ威力。ロングレンジバスターキャノンは地球に墜落した科学船から当時の地球人がデータを得て建造したものだという。ゾイドの出現に屈したという地球人だが、これだけのものを量産できていれば現代はこうはならなかったかもしれない。

 念のため警戒しつつ、リンは勝負が決した戦場にライガーを進ませる。敵の規格外兵器であるゼログライジスやマスドライバーに比べれば小ぶりな兵器だが、勝負を決するカードとしては同数。投入する戦場を選べる機動性はこちらが圧倒的だと言えるだろう。

 手応えを確かめるように操縦レバーを握りこむリン。しかしそこの時、先程空に感じた違和感に似た感触が首筋にチリついた。

 まず見上げるのはスカベンジャーがいるはずの後方。だが先程の砲撃で感じた気配はそこには無い。

 はっとリンは真上を見る。頭上がキャノピーのリンの方が広いその視界に、空中の小型ゾイドの姿が映った。

「クワガノス……?」

 自軍にはいただろうか。御殿場からの派遣か。いや、最近話題になった理由は――。

「セカンドイシューの観測機……!」

 昨日の偵察部隊からの報告に含まれていたことだ。新鋭かつ低速での長時間滞空に適したあの機体が、ゼログライジス・セカンドイシューの目となって活動していると。

 その瞬間、リンの眼前に紫の光が降り注ぐ。宙をのたくって飛来したそれは、スカベンジャーの砲撃とは逆に北の、敵勢力圏の側から飛来したものだ。

「クリュー――無事か――の長距離――下が――」

 ララーシュタインからの指示が莫大なエネルギーのうねりでノイズにまみれながら届く。その間にも地上を打ち付ける砲撃は連続し、リンはアカツキライガーを地下道に下がらせるしかない。それどころかライガー自身が文字通り尻込みし自ら後退するほどだ。

「セカンドイシューの観測機がいたということは、これは……誘導火器のドーサルキャノン? なんて威力……どこから?」

 降り注ぐ威力の中で、リンはなんとか冷静さを維持しようとしていた。しかしその分析は決して的外れなものではない。ゼログライジスの曲射兵器は、レーザーをねじ曲げるドーサルキャノン以外にはミサイルしかないはずなのだ。

 そして今降り注ぐ破壊力は紫の光の尾を曳いている。ビーム兵器だ。その使い手は現代には一体しかいない。

「それにしたって偵察部隊がいくつも放たれている中でなんの予兆も無いなんて……!?」

 不条理に満ちた砲撃にリンは耳を押さえながら呻くしかない。砲撃を放つ相手は自分が身を隠す山の向こう、どれだけの距離にいるかここからはわからないのだ。

 だがその中でもリンは視線を伏せなかった。立ち向かうべき敵が巻き起こす破壊を焼き付け、それを突破する糸口を掴もうとした。

 それ故に、リンは彼らの飛来を見逃さなかった。

『畜生……好き勝手やってくれるよなあ……!』

 南、東寄りの方角から飛来する航空ゾイド。一体のソニックバードが率いるスナイプテラ編隊が観測機として砲撃地点を通報するクワガノスを捉えていた。

 先導機であるソニックバードは黒いカラーリングに重武装を携えている。カノーとエトピリカの僚機として御殿場に所属する一機、ワイルドバロンだ。

 大火力を誇るスナイプテラとの駆逐攻撃がドーサルキャノンの火線をかいくぐって空を覆い、観測機であるクワガノスを撃墜する。そして降り注ぐ破壊力の中をかいくぐってフライパスしていくが、砲撃は止まない。

「測距が完了していれば後は撃ちまくるだけということですか……!」

 この位置はすでに通報済みなのだ。セカンドイシュー側は出力が続く限り撃ち続ければ敵である自分達を掃討できる。

 優れた能力を持つナックルコング達とそのライダーごとではあるが、敵はその覚悟のようだった。砲撃は止まない。一〇秒、二〇秒と連続し、

「…………っ。…………?」

 そして不意に爆轟は止んだ。夕立が止むような突然の静寂に、リンは張り詰めていた気を拍子抜けさせて思わずレバーを前に倒した。

「終わった……?」

 爆風に洗われた空は嘘のように澄んでいる。そして眼前に存在した先程までの戦場、森林は薙ぎ払われ燻る切り株の群れとなっていた。

 力尽きたナックルコングに、友軍のドライパンサーが数体炭化した木片を被って倒れている。しかしそれを越えて、生存したゾイド達がリンの元に向かってきていた。

「大丈夫かねクリューガー准尉」

「少佐……なんだったんでしょう今の。急に砲撃が止みましたが」

 ドライパンサーを引き連れてくるララーシュタインのローゼンティーゲルに、ブルーダーのエコー。さらに上空をターンした航空部隊が飛び去っていく。

『地上部隊へ、再度の砲撃の兆候は確認できない。不完全だが砲撃地点の予測をそちらに転送する』

「我々よりも後方に分析に優れた部隊がいるからそちらに送ってくれたまえ。

 ……ともあれ、砲撃を行ったのは間違いなく敵のゼログライジス級であろう。単騎でこれだけの破壊……厄介であるな」

「既存のベースキャンプは位置が露見しているから移転した方がいいかもしれないですね」

 ブルーダーはそう忠告するが、その手間を考えるとリンすらも気が遠くなる。だが割かねばならぬ手間だろう。

「砲撃が止まったのは、敵のエネルギーが切れたからでしょうか」

「さて、観測機を撃墜されたから損害評価が出来なくなり、打ち切ったとも取れる。昨年のオリジナル・ゼログライジスの性能を考えれば底は知れぬよ」

 油断せぬよう釘を刺すララーシュタインの様子に、リンは気を引き締める。敵は力の一端だけでもこの破壊力を持っているのだ。

 深く続く山並みに、敵の恐るべき力。オクトーバーフォース側の切り札を持ってしても困難が立ちはだかる様が見える。

 故に……砲撃が止んだ原因に、敵側の不調を求めてしまうのは、弱さばかりが原因ではないはずだ。リンは内心で密かにそう思う。

 

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