ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot 作:高杉祥一
・ゼログライジス〈セカンドイシュー〉
全長15.5m 全高9.8m 重量247t
最高速度147km/h
IQ 131
武装 ドーサルキャノン 3連ビーム砲 インフィニティミサイル テイルレーザー
Gグラップクロー
グライジス・コア
(追加兵装)
腕部連装砲 近接防御機銃群
広域戦術統制システム
ゾイド因子オメガ供給機構
本能解放行動 Zi-END
新地球歴三一年 一〇月二日 二二一二時
南アルプス デルポイ連邦拠点
ゼログライジス・セカンドイシューは基本的にデルポイ連邦の拠点最奥部に設けられた専用の整備施設に固定待機させられている。一度は世界を滅ぼしかけた存在故に、切り札であっても多用はできないというのがヘンリーの方針だった。
何を切っ掛けに活性化するかも知れぬことから整備施設は照明も落とされ、セカンドイシューには冷媒が循環させられ半凍結の状態にある。
そして次の出撃に向けて眠る巨体を、三人の男女がキャットウォークから見上げている。総帥ヘンリーに、副官にしてセカンドイシューの専属ライダーであるカナン。そしてその随伴部隊を率いるロイだ。
「その後の経過はどうかね」
「復旧したゾイド因子オメガ抽出機より補填を行い、現在は休眠させています。明日朝回復しているかを確認する予定です」
言葉を交わすヘンリーとカナン。そして傍らのロイは小馬鹿にしたような表情でセカンドイシューを見上げ、
「まさかエネルギー切れで動けなくなるとはな。コイツ本当にゼログライジスなのか?」
ロイが口にしたとおり、昼間の戦闘でドーサルキャノンによる長距離射撃を行ったセカンドイシューはその最中に出力低下を起こしている。大型の機体をこの場所まで戻すことは困難な作業であった。
ロイはその作業に関しては傍観者であった。他人事という風情の彼に、ヘンリーとカナンは何か言いたげな表情を向ける。
「ふむ……まあ発生原理が原理だからね。昨年のオリジナル個体より劣化している点はあるだろう。だからこそ武装を追加し、万全のサポート態勢を敷いているわけだよ」
「ふぅん……それにしてもスタミナ不足とうすらデカい大砲とが国の切り札ってのはなんとも締まらないねえ……。
俺が持ってきたゾイド因子の抽出機でエネルギーを補充したんだっけ?」
「その通りです。セカンドイシューに加えて回収していただいた成果がここで現われているわけですね」
ロイが妙なことを言い出さぬようにか、カナンは無難な応じ方をしていく。しかしロイはずけずけと自分の言いたいことを並べ立てていった。
「あれ、このセカンドイシューになら直接搭載できるんじゃねえかな。サイズ的にさ。
載せちまえば出撃中にエネルギー不足になるなんてことも無いだろう?」
「それは……」
カナンがキャットウォークから下を見れば、施設内に設置された抽出機が見える。そのサイズは確かにセカンドイシューの体躯ならば背に負うことも出来る程度の、せいぜい数メートルの高さしかない。
「……ロイ君、私はセカンドイシューは危険な存在だと考えている。だからこそ、普段安置しておくこの場所には複数のセーフティを設けているわけだね。
そしてそうした視点から考えると、セカンドイシューに戦闘中にエネルギーを供給する手段を与えるのは、私としては避けたいものだな」
諭すように言うヘンリーだが、ロイは気にしない。手すりに寄りかかり、カナンが見下ろす抽出機を同じように視界に入れる。
「総帥閣下の不安もわかるけれども、こちらとしては戦闘中に動けなく奴がいる方が困るんだよなあ。
乗る本人としてはどうなんだぁカナン? 回収中ずっと操縦席で待ちぼうけしてたんだろお?」
首をぐるりと巡らせて、ロイはカナンの顔を覗き込んでくる。その動きに人間とは別の生物のような感覚を抱きカナンは眉をひそめた。
「……私はデルポイ連邦の決戦兵器を預かる身。総帥の判断全てに従うまでです」
「ふぅん……ご立派ですこと」
わざとらしくゆっくりと拍手をしてみせるロイ。そして手すりから身を離すと、彼はポケットに手を突っ込んでヘンリーとカナンに背を向けた。
「眩しくて目ん玉潰れちゃうぜ。お部屋かーえろ」
「ロイ中尉、今日の作戦では私の火力支援のを受けたレンジャー部隊はあなたの指揮下でしたが、そちらはいいんですか?」
「ん~?」
ロイはくねくねとした仕草で振り返り、さらに悪戯っぽく人差し指を立てる。
「奴らはほら、俺の隊でもダメな連中だったからさ。
これまでいい目を見ただろうし? こう……間引き? みたいな?」
気にしてないよ、と言わんばかりのふざけた態度。そして変わらぬ足取りでロイはその場を後にしていく。
しかしロイがこともなげに言うメンバーごとオクトーバーフォースを砲撃したのは他ならぬカナン自身だ。セカンドイシューのパワー故に手加減など出来なかったが、結果的に彼らを手にかけてしまった。
ロイという男が、カナンが気にしないように言葉を選ぶような人間ではないことは彼女自身がよく知っている。つまり彼は本気で、あの戦場に投入されたメンバーのことなど気にかけていないのだ。
「……総帥。ずっと気になっていたことがあります。
何故あのような男を重用しているのですか?」
感情が枯れ果てたと感じているカナンだが、ヘンリーに対しては思わず強い口調が出てしまった。だがそれはロイへの感情というよりは、ヘンリーへの依存だと彼女は思う。
カナンが今この場所にいるのは、このヘンリーという男に拾われたからだ。だからこそ彼には……父に甘える娘のような口調が出てしまうのも仕方が無いのかも知れない。
ヘンリーもそれがわかっているのか、カナンに向けて仕方なさそうな笑みを浮かべる。
「確かに彼は、我々が目指す新しい世界の中で不和を生む存在かも知れない。だが実力は確かでもあり、そして旧世界を憎んでいるという点では我々と同じだよ。
今のところ順調に事を運んでいるが、規模自体は小さい我々にとっては捨てられる駒ではない」
「だから利用している、と?」
「幸い、彼は刹那的で享楽的ではあるが野心は無い。戦う場所を与えておけば嬉々として赴くし、我々の国が成立すれば次の戦乱を求めて去って行くだろう」
つまりは、ヘンリーもロイのような危険な男は利用するに留めたいということだ。しかしすでにロイの言動に翻弄されているカナンとしては、彼は充分に実害を生んでいる。そしてこの整備施設の片隅に彼は――、
「彼はすでに未来に禍根を残すような行いをしています。捕虜や部下の扱いで……。
それはすでに私達のデルポイ連邦の立場を貶めるものだと思います」
「わかっている。この施設の一角に彼がそういう場所を作っていることも。
だからこそ彼が去る時にはこの国が生まれる上で避けられない恨みを背負っていって貰う。建国戦争の負の側面をね。
その象徴として、彼には実際の悪行を積み重ねていってもらわねばならない」
「それは……いずれはデルポイ連邦が旧世界国家と融和していくということですか?」
帝国、共和国への強い敵対から生まれたこの国が、そこから来る禍根をロイに託して外に出すということは関係を改善していくことを意味しているだろう。カナンの問いに、ヘンリーは頷く。
「旧世界国家から我々の国を目指す人々に、常に危険な逃避行を強いるわけにもいくまい。正式な国交を結ぶことはいずれ必要になってくる。
そして我々が作る世界のことをつまびらかにするためにもね」
「…………」
カナンは不服そうな表情を浮かべ、ヘンリーから視線を逸らした。だがそんなカナンの様子に娘を見るような温かな目でヘンリーは告げた。
「君を否定した世界から正しい手順で人々がこの新しい世界を訪れられるようにする。それこそがこのデルポイ連邦の完成の時であり、あるいは復讐が成就する時だと私は思うよ。
そしてカナン、新世界の住民として君がいつか旧世界を訪ねられるようになることもね」
ヘンリーが描く未来は壮大だ。しかしカナンが求めるものは、もっと単純なものだった。
「私はあの旧い世界に泥をかけて立ち去れればそれでいいのですが……」
「なに、今この局面だけが人生の全てではない。いずれ君も自分が立ち去った場所の感覚を確かめたくなる日が来るはずだ。
その可能性を守るために、禍根は彼に背負っていって貰おうじゃないか」
カナンの恨み言を、ヘンリーはそう言って笑い飛ばす。そんな風にデルポイ連邦成立の夢を語る男が彼で、だからこそカナン達は付いてきたのだ。
ロイはどうだろうか。志は異なるだろうし、恐らく彼は利用されていることも理解しているだろう。その程度の聡さはあるだろうとカナンは見ている。
その存在が自分達にまで災いを呼ばねばよい、とカナンは一人思うのだった。