ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・第二世代
 惑星Ziから地球に移住した人類のうち、地球で出生した世代を第二世代と俗称する。
 地球移住計画の進展を象徴する世代ではあるが、惑星Zi出身者(第一世代)の地球環境への不適応のため早くから労働力として期待されていた世代でもある。概ね社会的に保護されているが、それでも若い時期から過酷な環境に置かれる者は多い。
 開拓の最前線に存在する目が届きにくい地域ではスラムなども発生し、第二世代の若者が家族や自分自身の命を支えるために法や倫理の外での労働に身を投じているともされている。
 これらを解消し全ての人類が文明的な生活を送ることができるようになった時こそ、地球への移住は完了したと言うことが出来るだろう。


NEW EARTH ERA 31 10/04 10:20

新地球歴三一年 一〇月四日 一〇二〇時

南アルプス 山伏岳ベースキャンプ近辺

 

 宍原ベースキャンプ付近と、さらに身延山への再度の偵察によってオクトーバーフォースはあるものを入手した。即ち、デルポイ連邦が南アルプスに設置した地下道の実物サンプルだ。

 どちらも独立した短距離のもので、南アルプス奥地に張り巡らされているはずの地下拠点網とはつながっていない。だが建設に使用した資材は彼らの本部のものと大差ないはずであり、その構造や設置された周囲の様子などについて貴重な知見が得られた。

 また宍原近辺での戦闘時にセカンドイシューからの長距離砲撃があったことで、オクトーバーフォースは敵の観測射撃を避けるべく既存のベースキャンプの位置転換を実施。さらに部隊も拡散とまでは行かないまでも、一射で壊滅せぬよう分散気味に進軍する形となっていた。

「くっそー……ベースキャンプの施設が使えないと面倒だぜ」

 すっかり山中となった野営地のど真ん中で、グロースはそんなぼやきを漏らす。すでにキャタルガが踏み入れる地形ではない。彼が乗るのは己の機体、ギルラプターのナハトリッターである。

 司令官がベースキャンプ入りすると砲撃を受ける危険性があるため、彼は司令部施設の代替となる電子戦機や輸送ゾイドと共に戦闘部隊に同道している。そしてその戦闘部隊も、足を止める際にはベースキャンプとベースキャンプの間に緩やかに展開して野営している有様だ。キャンプの物資は機動力のある部隊が野営地の各所に配って回っている始末である。

 リンとアカツキライガーの姿もその一角に存在した。

「おはようございます! 今朝の補給です!」

 輸送コンテナを取り付けられたラプトリアを率いて、アカツキライガーは野営地の片隅で今日の進軍に備える部隊を訪れる。相手は帝国から派遣されたキャノンブルの部隊であり、今日リンが物資を引き渡す相手としては最後の部隊だった。

「おはようございまーす、お待ちしてましたー」

「おー……噂のアカツキライガー」

 準備は終わっているのか、偽装ネットを被せた機体の合間でカード遊びに興じていた隊員達がリンを出迎える。リン達が運んできた弾薬や食糧を補充した後、彼らは斥候が安全を確保した先に進軍することになる。

「噂はかねがね。活躍期待してますよ准尉。なんかあったときは駆けつけて下さいね」

「あはは……頑張りますね」

 長く作戦を共にしているからか、始めは堅物という印象をリンが持っていた帝国兵士達の砕けた側面も見受けられるようになってきている。彼らも泣いたり笑ったりする人間なのだなと、今更ながらに思うリンだった。

 そんな彼らから期待の声をかけられた彼女も、物資の集配の後には進軍に加わる。それも高速部隊として全体の前方に出るのだから、考えてみれば激務だ。しかしリンはここに来て、東京や神奈川エリアに比べてどことなく充実した感覚を得ている。

「最近わかってきたのであるが、クリューガー准尉、君は考え込む時間があると思い悩むが、忙しい時は割と即断即決するタイプのようであるな」

 昼過ぎに部隊の前に出たリンに対し、高速部隊を率いるララーシュタインがそんな評を述べる。

「それって……私は深く考えない方がいいってことですか?」

「そうかもしれん……」

「ひどい……!?」

「いやしかし、若い頃にはありがちなことですよ」

 口を挟んでくるのは少し離れた位置を進むブルーダーだった。

「自分も若い頃は答えの出ない問題にいつまでも取り組むことが功徳だと思っていた時期があったもんです。でも実際は自分の手を動かして得たことが全てで、そこにどんな心構えがあったというのは関係ないんですよね」

「……若い頃?

 ブルーダー少尉、僭越ながら今おいくつでしたっけ」

「二一ですが」

「私と二つしか違わないじゃないですか――――!」

 ぴーぴーと泣くリンに、ブルーダーは扱いあぐねるように顎を掻くしかない。そんな彼を乗せたエコーに、アカツキライガーがどこか申し訳なさそうに目を伏せた。

「ま、抜き差しならぬ局面に突入していくことになるのだ。クリューガー准尉にもその意味するところがわかる日は近いのかもしれんなあ」

「ララーシュタイン少佐はおいくつでしたっけ」

「二六である」

「えっ……」

「ええ……」

「なんであるかその反応は!?」

 騒がしい高速部隊の三巨頭に、周囲のドライパンサーからほのかに呆れたような視線が突き刺さる。それに対し三人を乗せたゾイド達は抜き足差し足で視線から逃れるように森の中に入っていくのだった。

 

新地球歴三一年 一〇月四日 一七三一時

南アルプス 畑薙ベースキャンプ付近

 

 一日の行軍を終え野営地を確定すると、オクトーバーフォースはもう一つの戦いに入る。この南アルプスにはびこるデルポイ連邦という敵への戦略と、はるか北米の本国との折衝という盤外戦だ。

 オクトーバーフォースを指揮するグロースは司令部代わりの天幕の中で無線機を前に通話を終えると、深いため息を漏らす。その様子を見るのは妻ウェインライトと副官達だった。

「何か淹れますか?」

「コーヒー……ホットならミルク入りでな」

 ウェインライトの呼びかけにグロースはすぐさま応じ、そしてウェインライトはすでに沸かしている湯のポットを手にする。ツーカーと言っても過言ではないその淀みない流れに副官達は含み笑いを漏らすのだった。

「どうですか、本国は」

「デルポイ連邦のマスドライバーが北米を攻撃出来るという発表で世論が揺れているようだな。そっちを早くにどうにかしろってせっつかれてるよ。

 こちらとしても北海道エリアを狙われたら困るんでわからんでもないが……。それどころじゃないよなあ?」

 ステンレスのマグカップを差し出すウェインライトに、グロースは肩をすくめてみせる。だがコーヒーを口にしたグロースの表情に疲れは無い。

「だがせっつかれるってことはこっちもアレコレ提案してもいいってことだ。一つ大きな案件を通したぜ」

「と言いますと?」

「科学顧問としてウォルター・ボーマン博士を日本列島に招聘することが出来た。オクトーバーフォースの観測データを元に、科学の目でゼログライジス・セカンドイシューの在処を探ってもらえるはずだ」

「ボーマン博士を呼んだんですか!?」

 思わず声を上げてしまったのは眼鏡の事務寄りの副官だ。その様子にグロースは人差し指を立てチッチッチッと話を付け加える。

「こっちは本当はレオ・コンラッドとライジングライガーも呼ぼうとしたんだぜ。けどあっちはボーマン博士の保護下みたいでな。噂じゃあ博士の孫娘の匿い先らしいし……」

「他にもエースパイロットに声はかけなかったんですかー? ”赤き死神”クリストファー・ギレルとか、”超音速”ジェイク・ラモンとか」

 副官の中でも伝令などフィジカル寄りの、どこかミーハーそうな女性士官が訊ねてくる。それに対しグロースは首を振り、

「戦力は充分だと思うんだよ俺は。博士とかライジングライガーに手を出したのはそういう軍事的な面じゃなくて、去年の出来事でミラクルを起こした要素が欲しかったなってこと」

「ミラクル……」

「具体的に言えばボーマン博士の科学的知見とか、ライジングライガーの強力なゾイド因子性能とかってことになるかな。

 ……しかし、ライジングライガーを呼べなかったのはむしろいいことかもしれん」

 話しながらなにか結論に至ったのか、グロースは背もたれへ身を倒しながら呟く。ウェインライトも副官達もその様子に首を傾げる中、

「隊に加わっているクリューガーとアカツキライガーに、同じような強力な存在になれる伸び代を残してやれたことになるのかもな。

 あの若いのは、今でも発端となったゾイド因子オメガ抽出機強奪を止められなかったことを悔やんで考え込んでる。ただこの事件を解決しただけじゃ、ルーキーだった事件前に戻るだけ、しかもこの事件で消耗した分マイナスだ。

 あいつらには、何か財産を築いてもらわなきゃ目覚めが悪いんだよなあ……」

 そうぼやくグロースに、副官達はどういうことかと互いに視線を交わす。その一方でウェインライトだけは微笑み、

「相変わらず、若い子には優しいですね。昔から変わらない……」

「俺達の世代が若い時代を惑星崩壊や移住のゴタゴタで使い果たしちまったからかねえ。

 まあ第二世代、第三世代も地球開拓のために忙しい時代が続くんだろうけどな。少しでも楽になって欲しいと思うのは、我ながら年寄り臭いかもなあ」

 応じたグロースはコーヒーを一口。そして二人の副官を見る。

「ハインツ、コーネリア、お前達は今何歳だっけ」

「二人とも二四。主計学校の同期ですよ」

「若いよなあ、この手の役職にしては。クリューガーも一九だ。

 若い奴が戦わなきゃいけないのは、惑星Ziの最期の頃から変わってねえ」

「司令は今おいくつなんです?」

「五七」

「三〇年前は……二七ですか」

「惑星Ziを出る頃は大尉だったなあ」

 二つの意味で戻ることが出来ない過去をグロースとウェインライトは思い返す。そして同じように未来へ思いを馳せた。

「お前らは三〇年後、この頃をどんな風に話していることやら」

 

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