ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・南アルプス
 日本列島本州島中央に存在する大山岳地帯。赤石山脈の名でも知られ、飛騨山脈、木曽山脈と合わせて日本アルプスを構成する。最高峰北岳は日本第二位の標高を持つ。南北に広大な面積を持ち、また複数の大型河川も走っている。
 ゾイドクライシス以前にも自然保護のために複数の指定を受けた豊かな山地であり、その環境は地球人類が姿を消してから今まで大きく変化していないとされていた。少なくとも新地球歴31年を迎えるまでは。


NEW EARTH ERA 31 10/14 20:30

新地球歴三一年 一〇月一四日 二〇三〇時

南アルプス 赤石岳ベースキャンプ付近

 

 オクトーバーフォースは索敵、設営、前進のサイクルを繰り返し、数度は激しい襲撃を受けた。しかしそれを退けつつ、気付けば南アルプスの中央とでもいうべき赤石岳に到達していた。

 すでに本隊に先行するベースキャンプ設置と本隊の進攻はほぼ同じタイミングになり、ベースキャンプ網も数を減らし先細りしていた。補給線が伸びていることを感じさせるが、後方には盤石の態勢が出来ていることが前線の支えになっている。

 そしてその日も陽が落ち、月が昇り、リンは睡眠時間として当てられている大休止の時間を迎えていた。しかしここまでの行軍で、リンはテントと寝袋で寝るよりもアカツキライガーの操縦席で寝る方が緊急事態にも対応しやすいし、なにより臨戦態勢を取っていると余計なことを考えずに済むことを理解している。

 偽装ネットを被ったライガーの操縦席。前傾のライディングポジションのシートで俯せ寝するのも慣れてきたものだ。夜間警戒は別の部隊に任せ、リンは体を休めにかかる。

「そろそろ半月だね、ライガー……」

 一〇月に本格始動したことからグロースがオクトーバーフォースと名付けたこの部隊だが、同時にそれはこの一〇月で事件を終わらせる意も込められていた。そしてその一〇月が、間もなく半分を迎えようとしている。

 敵との遭遇が増える中で、それでも先行する偵察部隊からの情報で敵の本拠地の見当は付き始めている。南アルプス最高峰、北岳近辺がそのスポットだ。

 すでにそこまでだいぶ接近している今、敵は本拠地近辺の地の利数の利を活かした強襲を仕掛けてくることが予想されている。眠りに向かうリンだが、周囲の地形を頭に入れて何かあればライガーをどう動かすかを考えておく。

 すでに半月が過ぎたことや、未だ明確な形が見えてこない戦う意味。だが目の前の戦いによって、リンの意識はフラットなものになっていくのだった。

 さらなる戦いの日々へ。リンは眠りに落ちながら、次に目覚める時のことに思いを馳せるのだった。

 

新地球歴三一年 一〇月一四日 二二一四時

南アルプス 赤石岳ベースキャンプ付近

 

 しかしその夜は突然の轟音によって途切れさせられた。

 そして夜間哨戒をしていた者も、目覚めた者もそれを見た。北の空に夜空よりも暗い色で立ち上る黒煙の筋。

 ベースキャンプと野営地の警戒線の外側、山陰から上がるその黒煙にざわめきが上がるが、ひとまずグロースからの指示が下った。

「第二種警戒態勢――」

 交戦を予期した警戒の構え。警戒ラインの外で異常が起きたならば正しい選択。しかし、

「……訂正。総員、第一種警戒態勢!」

 全部隊に交戦態勢を求める最上級警戒だ。その訂正が意味するものは。

「第一種に変更? どうして……」

「クリューガー准尉、あれを!」

 目を覚ましたリンに声をかけてくるのは、同じように偽装したドライパンサーで休息を取っていたララーシュタインの部下。彼の方が階級が高いのだが気を遣ってくれるのは彼の人格というものだろう。

 いや、気遣いを生むに足る原因がそこにあった。黒煙と共に宙を舞う小さな影。リンが見覚えを覚えたとおり、その空にはキルサイスの影があった。

「また別の勢力が――」

 現われたのか、と呟きかけるリン。その瞬間、空中のキルサイス達めがけて紫の閃光が走った。

「アレは……!?」

 襲いかかる光の柱に、キルサイスは散開して回避の軌道を描く。するとその光は発射地点の動きで角度を変えていくが、それ以上に明確に湾曲して夜空にのたくった。

「ドーサルキャノン……!」

 ゼログライジス・セカンドイシューが装備した主力火器。それが威力を発揮しているということは、そこに使い手が存在するということだ。

「セカンドイシューがいるということは、敵の大規模攻勢!」

「我々を充分懐に誘い込んだってことですよね。多分周囲からも敵が来ているはずです」

 僚機のライダーの分析にリンは頷きを返す。デルポイ連邦は決戦兵器を万全の状態でこちらにぶつけるため、地下道網を駆使して包囲陣を敷いてくるはずだ。

 キルサイスとの交戦で敵襲が早い段階で露見したのは僥倖だろう。そしてセカンドイシューに注目したくなるが、こちらをセカンドイシューから逃さないための包囲を成立させぬことが重要だ。

『ララーシュタインより各員。敵の攻勢をこれまでに確保したベースキャンプ網に引き込むのがグロース司令の判断だ。

 正面の敵は主力機甲部隊に任せ、後方の突破口を確保に向かう。総員転進』

 グロースは現在オクトーバーフォースが仕掛けられている状況をデルポイ連邦に仕掛け返すつもりだということだ。そのためには、スムーズに後退し後方ベースキャンプを確保している部隊と合流しなければならない。

 例えそれが後ろ向きであっても先陣を切るのが高速ゾイドの役目。重要な局面だが、今回もそれは変わらないということだ。

「よし、向かいましょう!」

 キルサイス部隊が舞う空に背を向け、リンはアカツキライガーを反転させる。決着を付けるべき相手はいるが、そのために舞台を整えなければ。

 夜の闇の中に、明けの色を帯びたライガーが飛び出していく。そしてそれが長い戦いの始まりだった。

 

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