ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot 作:高杉祥一
・デスレックス復元9号機〈スカベンジャー〉ドミナンスパッケージ
全長12.3m 全高5.6m 体重203.8t
最高速度212km/h
IQ 92
武装 ロングレンジバスターキャノン
AZ対ゾイド三連装大型ミサイル×2
AZ10連装マニューバミサイルポッド×4
集中配備マクサービーム砲近接防御ユニット
ウブラドリル クラッシュクロー デスジョーズ カイザーテイル
(追加兵装)
対大型ゾイド薬理沈静ハーネス
本能解放行動 タイラントグラトニー
新地球歴三一年 一〇月一四日 二二一九時
南アルプス 赤石岳ベースキャンプ付近
「ゼログライジスが現われるとは、いよいよ今回の作戦も極まってきたって感じだなあ!」
興奮も露わにデスレックス〈スカベンジャー〉へ乗り込むギャラン。その周囲では同じ部隊のアビーとベッキーのディロフォス達も緊急起動し、迎撃態勢を整えつつある。
「ギャラン君、グロース司令は後退して敵主力をこちらの勢力圏に引き込むことを考えている。
くれぐれも突撃などしてくれるなよ」
「前の装備だったら渋々従ってたところだが、今はこいつがあるからなあ」
鎮静剤を投与されているためにゆっくりとした動きだが、立ち上がるスカベンジャーの背には巨大砲ロングレンジバスターキャノンの二つの砲身が備わっている。さらに追加武装を得た今の姿は、スカベンジャー
「周囲から包囲の敵が接近している。各隊は野営地周囲の稜線を敵に確保されないよう迎撃しつつ移動の合図を待て」
ギャラン達も含めた各部隊にシールマンが指示を飛ばす中、ギャランはスカベンジャーを斜面に向かわせる。耳を澄ませてみれば、山体の向こうからこちらに向かってくるゾイド群の足音が重く響いていた。
「さあて、上から目線は許さないぜっと」
断面図がΛ型の山を挟んでの戦闘は、接近するまでは山が盾になるが頂上を押さえられれば狙い撃ちされる。こちらが取ろうとしている後退戦術を考えれば、敵が稜線を越えるところをモグラ叩きにしていくしかない。
ロングレンジバスターキャノンに加え、増設された武装の仰角を取るスカベンジャー。そしてその視線が不意に稜線上の一点を捉えた。
「ギャラン! 一一時方向!」
「見えてらあ!」
随伴するアビーからの声と同時、ギャランはスカベンジャーを向き直らせると搭載した対ゾイドミサイルを発射した。巨大砲身の下に搭載されたそれはオメガレックスにも搭載されていたものだ。
飛翔した大型弾はやや上空から殴りかかるようなトップアタックを仕掛ける。そして稜線を削り落とすような爆発が上がるが、その爆風よりも広い範囲で木々がさざめく。
「結構いるじゃねえか」
悠々と感心してみせるギャランが見るのは、大口径砲を搭載したステゴゼーゲ部隊だった。大型故に山中での機動力に劣るはずの機体だが、全身のブレードを稼働させ木々の間を突っ切ってきたように見える。
まだオクトーバーフォース側は擬装を被っている機体が多く、位置を把握されていない。先制打を打ったスカベンジャーを除けば。
「精々目立ってやるさ……」
接近してきた歩兵や小型ゾイドを撃退するための小火器を乱射しながら、スカベンジャーは敵の前を横断していく。迷彩に近い濃緑のカラーリングも関係ない、曳光弾の軌跡の根元で、スカベンジャーは敵を引き寄せた。
「突撃するなよって言われてるんだよなー。でも突っ込んでも戻ってきたら突撃とは言えないだろ。なあスカベンジャー」
斜面の緩い角度の部分に身を寄せ、スカベンジャーは敵のラインに接近してプレッシャーをかけていく。ステゴゼーゲ部隊からの砲撃を確かに引き寄せながら、スカベンジャーも自分の格闘戦のリーチに踏み込んでいった。
全身ハリネズミにも近い刃の群れであるステゴゼーゲだが、巨大な顎を向けるスカベンジャーの圧は別物だ。思わず砲を向ける者は出るし、その視線を切って捕食者は迫る。
大顎の中は夜の闇よりも暗い。その中へ敵を呑むべく、巨体は食らいつく。
稼働するブレードとスカベンジャーの牙が激突し、基部から脱落したブレードが月明かりを反射しながら吹き飛ぶ。砲撃手の群れの中に飛び込んだ凶暴な存在に戦場は混乱に包まれた。
さらにスカベンジャーに対応しようとする機体が増えることで、後方の友軍に横腹を見せる敵が増える。そこへオクトーバーフォース側からはキャノンブルを中心とした戦力が迎撃の威力を叩き込んでいった。
「はっはぁ! 視線を釘付けってヤツだ。男の夢だねえ!」
見せつけるように咆哮するスカベンジャーとギャラン。それを留めるように周囲から砲撃が浴びせられるが、その爆炎の中からスカベンジャーは一喝するようなロングレンジバスターキャノンの撃ち下ろしを放って応じた。
稜線を削り取るような火線が長い砂煙を上げる。それにかかったゾイドは稜線から転がり落ちるしかない。
崩壊した戦線から、自陣側へ落ちた敵を追ってスカベンジャーは斜面を戻る。その視界に映るのは周囲、包囲陣の他方位だ。
他の部隊も敵襲に拮抗し後退に備えている。稜線上と窪地からそれぞれの砲撃が流星のような景色だ。一方で本物の星が瞬く夜空はひたすらに暗く、
「ん……?」
夜空に違和感を覚え、ギャランは目をこらす。そしてそれと同時に、スカベンジャーがその咆声を上げた。
「帝国ゾイドが困った時はバイザー様の力を借りるんだよっと」
スカベンジャーは何かに気付いている。人間を越えたその知覚にギャランが近づくには、操縦のために搭載された各種観測機器が助けになる。レーダー、環境センサー、そしてゾイドと視線を共にするZ・Oバイザー。
暗視増光機能のボリュームを上げていけば、夜空のコントラストが強調されていく。そこには暗闇に隠れながら移動するシルエットが複数――。
「空挺かあ――――!」
昆虫ゾイドに吊り下げられた戦力が、空中からオクトーバーフォースに襲いかかろうとしている。しかもその位置は拮抗する攻防のラインを文字通り飛び越え、野営地上空へ。
「乱戦にして身動きを取れなくさせようってハラなんだなあ……。
シールマン! やばいんじゃねえの!」
「こちらでも捉えたよギャラン君」
オクトーバーフォース本隊戦闘指揮官にして、ギャランが属する4989小隊の隊長を務めるシールマン。聡い彼も戦場上空を警戒していたようだ。ディメパルサーを愛機とすることから自ら索敵を打っていたのだろう。
「対空榴弾は持ってきてねえよってな。困るんだよなあそういうことされると!」
思わず苦笑いしつつ、ギャランは空中の敵へとなけなしのミサイルを照準した。陸戦ゾイドの降下中はさすがに無防備だが、落下の速度は陸戦ゾイドが出す速度でもない。迎撃は至難。
それをなし得る高い旋回速度と弾速、速射性を持つレーザー火器を装備しているのはバズートルやスティレイザーなど安定性が高いが機動性が低い機体だ。ここまで進出しているオクトーバーフォースへの配備数は限られる。
その貴重な火力が迎撃の威力を打ち上げる中、いくつもの影が降り注いでくる。対空レーザーの着弾をシールドで弾き飛ばしながら落ちてくるのはナックルコングに、
「ギルラプターか……。陣形を掻き乱す気満々のチョイスだ。
いやそれよりも……」
どちらも器用で運動性の高い種のゾイドだ。しかしそれよりも、以前出現した長駆攻撃を意図した部隊に似た編成なのがギャランには気にかかる。
デルポイ連邦側のその道のプロ集団が相手なら、この夜間、山中、そこへの空挺という条件は整然と後退しようとするオクトーバーフォースの虚を突く形になる。
「さてグロース少将、どうすっかな」
「ギャラン君。周辺の戦いは友軍に任せて野営地の中部に移動して下さい。
乱戦をコントロールするフラッグシップが要ります」
シールマンの指示にギャランは頷く。戦略戦術はどうあれ、今目の前の戦いは制する必要がある。
暴竜スカベンジャーを翻らせ、ギャランはアビーとベッキーを引き連れて敵降り注ぐ戦場の中心へと駆けつけていく。
新地球歴三一年 一〇月一四日 二二三一時
南アルプス 赤石岳ベースキャンプ付近
「空挺降下……!」
後退ルートを確保するためにアカツキライガーを走らせるリンは、背後の空と地上の友軍との戦いに後ろ髪を引かれる思いだった。
仲間を助けに行きたい。しかし高速ゾイド、それも強力な武装を持つアカツキライガーは乱戦の中では持て余される存在だ。敵を突き抜けるためのこの戦場で戦うことこそが、より多くの友軍を救うことになるはず。
歯を食いしばり、リンは視線を前へ、愛機アカツキライガーと同じ方向へと向ける。夜の闇の中に見えるのは、やはり刃を閃かせたステゴゼーゲの軍勢だ。
接近戦用の火器を乱射し、さらに周囲の木々を切り飛ばす敵影に向けてリンはアカツキライガーを突撃させていく。そのまま斬りかかるには鋭い守りを持った相手だが、
「負けるものか……!
アカツキライガー、エヴォブラスト! アカツキベイオネット!」
ガンブレードを展開。A-Z機関砲と合わせての吶喊射撃が夜闇を貫き、敵を萎縮させていく。数多くの刃を振りかざすのに適した姿勢を崩させればリン達にも勝機はあった。
銃口下のブレードを敵の首筋に突き刺し、即座に跳ね返るような跳躍で距離を取る。急所に一撃を受けた相手は山肌に伏し、周囲の機体はアカツキライガーを追うが射線に捉えきれない。
さらにアカツキライガーに気を取られた周囲のステゴゼーゲが不意の金属音と共に火花を立ててたじろぐ。暗夜に姿を隠しながら駆けつけたドライパンサー達が隙を突いて追随しているのだ。
厳しい戦場だが、自分達は大丈夫そうだ。そんな感覚にリンは高揚感を抱く。この戦局を乗り切り、デルポイ連邦に攻め入ることが出来る。そんな展開を垣間見る。
だがそう易々とことが運ぶこともない。高速部隊の背後から爆発音や木々を揺らす響きが迫ってくる。
「空挺降下してきた戦力……。私達も追撃してきますか!」
咄嗟にアカツキライガーを反転させ、リンは友軍のドライパンサー達を先に行かせる。急な事態に対応するのはスペックに余裕がある自分達の方が適任なはずだ。
そうして迎え撃つ構えを見せると、リンの眼前には追撃の敵が姿を現わしてくる。迷彩に塗られた敵は、鋭いブレードと視線を持ったディノニクス種ゾイド、ギルラプター。グロースのナハトリッターを身近に見ているためもはやよく知った種だ。
そしてリンにとっては因縁の相手でもあるが、
「敵の総攻撃なら……ロイ中尉もどこかにいるのでは」
低い跳躍で襲いかかってくる相手に機関砲を浴びせながら、リンの視線は夜の闇を一巡り。しかし周囲に見え隠れするギルラプター達は思い描いた黒ではなく緑の迷彩で景色に溶け込もうとしている。
そうそう遭遇することはないか。そう思った途端、追撃を迎え撃つために振り向いた視界の一角で火の手が上がる。
「あの位置は――」
野営地の中心を外したそこは、グロース達司令要員がキャンプを張った場所に近い。大丈夫だろうかと思いを巡らせた瞬間、不意の声が響いた。
『リン・クリューガー。俺達はここにいるぜえ』
粘り着くような男の低い声がスピーカー越しの音質で聞こえる。そしてギルラプターのハスキーな咆声が続き、新たな爆発が起きる。
『急がねえとお前達の大事なトップを倒しちまうぞ? ヒヒヒ……』
あからさまな挑発だが、リンは粟立つ。この事件の発端として存在した、あの何も出来なかった夜のことが鮮烈に思い浮かんだ。
それでも踏みとどまれたのは生来の生真面目さと、今ここにある役目故だ。リンは歯を食いしばり、周囲のギルラプターに火力を放っていく。
それに司令部要員のキャンプ付近ということはグロースもいる。指示は的確だろうし、彼自身も強力なゾイドライダーだ。自分が駆けつけるまでもあるまい。
そう自分を納得させるリンに、アカツキライガーの心配そうな唸りが聞こえる。応じてコンソールを撫でるリンだが、しかしそこに急報が入った。
「クリューガー准尉! ここは我々に任せて司令達の援護に向かって下さい!」
「えっ、でも後退ルートの確保が……」
「向こうが貴官らをご所望だから――などという伊達な理由ではない。
司令達が押されているのであるよ」
闇夜に紛れながらもリンの周囲で戦うドライパンサー隊に、さらに高速部隊を率いるララーシュタインまでもがそこにはいた。そしてララーシュタインの言葉にリンは目を見張る。
「グロース司令達が……!?」
「敵もさるものといったところであるか。
クリューガー准尉、即応性と戦闘力を併せ持つゾイドは君のアカツキライガーだ。ここは我々に任せて向かってくれたまえ」
厚木で見たグロースの立ち回りは相当なものだった。ロイはそれを上回るというのか。
ともあれ、あまりにも意外なその状況にリンの心は決まる。そして抑え込んでいたとはいえ、ロイを自らの手で取り押さえたいという思いはずっと前から抱き続けているものだ。
「こちらクリューガー! グロース司令、今そちらに向かいます。大丈夫ですか!?」
無線機に声を上げながら、リンはアカツキライガーを追撃のギルラプター達の中に飛ばす。
だが今見たい相手は彼らではない。漆黒を身に纏った敵と味方二体のギルラプター。リンはその二体が対峙する現場へと愛機をひた走らせる。