ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・ファクターロアー
 戦闘武装化を施される前のアカツキライガーに固有の能力がファクターロアーと呼ばれるものだった。
 これはワイルドブラストに相当する能力であり、ゾイド因子増強個体であるアカツキライガーの咆哮によって体内のゾイド因子を増幅し放射するというものである。ゾイド因子オメガを取り扱う抽出計画においては重要なセーフティの役割を持っていた。
 しかし実際の所アカツキライガーの開発開始において重要視されたのはゾイド生体としてのライジングライガーの再現であり、この機能が発現したことは半ば偶発的な事柄であったとの報告も存在する。
 ともあれ、この能力を持っていることによりアカツキライガーは一度は世界を救ったゾイド因子を操ることができるゾイドの一角を占めている。
 たとえそれが不十分なスペックのものであったとしても、である。


NEW EARTH ERA 31 10/14 23:03

新地球歴三一年 一〇月一四日 二三〇三時

南アルプス 赤石岳ベースキャンプ付近

 

 地球生態系産のゾイドとしては最大級の存在であるゼログライジス。その形態を持つセカンドイシューが姿を現わしたことで、オクトーバーフォースとデルポイ連邦の戦場には鋭い楔が打ち込まれていた。

 誰もが、ゾイド達もが目を見張るその巨体は足下の戦場に視線を落としている。

『通告します。

 デルポイ連邦はこの戦闘においてオクトーバーフォース戦力をこの地より一掃。その上でデストロイヤー・ガンによる戦略攻撃のデモンストレーションを実施する予定です。

 新しい世界秩序の誕生に向けて、正しい判断をお願いします』

 睥睨する巨獣からの静かな声。しかし確実に広いチャンネルに放たれたその声に、一瞬戦場からゾイドの格闘の響きも、砲声も停止した。

 しかしその次の瞬間、低い唸りのような音が轟く。それも、空から。

『現われたなセカンドイシュー……。

 全機ダイブ! 飽和攻撃で敵を沈黙させろ!』

 夜の空、そして急に生起したこの戦い。そんな戦場に駆けつけている戦力はただ一つ。

 オクトーバーフォース御殿場基地という一大拠点で万全の整備を受けている航空ゾイド部隊。その先陣を切るのはソニックバード試作機を駆るベテラン三名であり、それに追随するのは対地攻撃のプロフェッショナルたる帝国軍出身のスナイプテラ乗り達だ。

 地上の部隊が苦しい戦いを繰り広げる間にも攻撃を控え、ここに集中攻撃を仕掛ける指示を放ったのは当然、

『グロース司令! 地上側からのアタックは任せましたよ!』

 スクランブル部隊を率いるカノーが呼びかける先はセカンドイシューが見下ろした戦場にいるはずのグロース。全てを見越して空中部隊に指示を出していたのも彼だ。

 兵器ゾイドの常として重武装のスナイプテラに加え、他のどのソニックバードよりも戦績を重ねている試作型達は重装備にも適応している。空を渡って運ばれてきた弾薬量は充分なはずだ。

 ソニックバード種の道を拓いた赤きエトピリカ、それと道を共にした白きストラトスフィア、黒きワイルドバロンが巨大な対ゾイドミサイルを投下して引き起こしをかけていく。さらにスナイプテラ達はドラム式のミサイルランチャーから攻撃を連続し、降り注ぐ火力は夜目にも鮮やかな流星群としてセカンドイシューに襲いかかった。

 壮大な空爆が爆炎を生み、セカンドイシューの姿を闇夜に掻き消す。だがわき上がる煙を吹き散らし、セカンドイシューは再び月下に姿を現わした。

『愚かな……。効かないと知っているはずだ、あなた方は』

「いいや、知っているのは可能性の方だね!」

 カナンの問いに、千切れていく爆煙の根元から挑みかかる影が一つ。

 渦を巻く機動でセカンドイシューの巨体を駆け上がるのは、グロースが駆るナハトリッターだった。すでにワイルドブラストしたその体躯が展開したウイングショーテルが軌道上のセカンドイシューを切りつけるが、そこには火花だけが散っていく。

『グロース・アハトバウム……。仮にも軍勢を率いる身がそんな無謀を!』

 跳躍するナハトリッターを追って、セカンドイシューがその手を伸ばした。伸ばされてる爪の先に重力塊が展開し、軽量のギルラプターであるナハトリッターを捉えようとする。

 だが生来の体躯にブースターを持つギルラプター種であるその身は、空中に孤を描いて伸ばされる手を逃れていく。そしてその足下から、暗夜に沈みながらかすかな光を宿したシルエットが駆けつける。

「突っ込めクリューガー!」

「仕掛けます! アカツキペネトレイタあああああっ!」

 地上を高速で疾走してきたその影は、金色の燐光を爆発させた。そして自らが発する光に照らされる姿は、重装甲と重武装をまとったアカツキライガーだ。

 だが今ライガーが全てを賭けるのは数ある武装の中でもただ一つ、ガンブレードの切っ先。金色の光もそこから発し、疾走の速度のままに広がっている。

 セカンドイシューの巨体を支えるゾイド因子オメガに対し、それ以外の全てのゾイド因子が持つ金の色。致命たり得るその一撃は、グロースの陽動によってセカンドイシューの胸元に迫っていた。

 回避不能。物理法則がもたらす絶対の先に、金色の一撃は銀と紫の巨獣に突き刺さった。胸部中央、野太い骨格で形作られた胸郭へ。

「今こそゾイド因子強化個体の本領を発揮する時……!

 アカツキライガー、フルパワーッ!」

 リンにとってはロイのこともあるが、アカツキライガーにとっての因縁の相手がこのセカンドイシューだ。東京ではゾイド因子を放射する咆哮しかできなかったライガーだが、今その背には身体に直結したブレードがある。そしてそれはセカンドイシューの胸部に突き刺さっている。

 今こそ金色の奔流は拡散をやめ、セカンドイシューのボディに流れ込んでいく。全身にリアクターラインを持つセカンドイシューは、その導線上へ金の光を自ら伝播していった。

 光の塊となっていくセカンドイシューの姿は、その戦地に集結したゾイド乗り達には見覚えのあるものだ。

「ゼログライジス事件の最後に……ライジングライガーが起こした奇跡と同じだ!」

 誰かが声を上げる。それは確かに、星一つの命運をかけたあの戦いを決した光景に似ていた。

 かつて世界を救った輝きと、打ち倒された者。その再現となる光景に誰もが手を止め、そして気付く。

「セカンドイシューが……!?」

 アカツキライガーに胸部を突かれたセカンドイシューは、その衝撃に仰け反っている。だが少しずつその腕が、その首が、胸元のアカツキライガーに食らいつくように動いているのだ。

 ゾイド因子の中でもオメガと呼ばれるものの純粋顕現体であるゼログライジスは、相反する金色のゾイド因子の奔流には耐えられない。それが昨年の事件を総括する結論だったはずだ。現に姿勢を戻していくセカンドイシューの背後で、流し込まれるエネルギーに耐えかねるように何かが爆発を起こす。

 しかしその爆炎に照らし出される影を見てオクトーバーフォースの兵は気付いた。セカンドイシューが背負っていたのは、何かタンクのような、本来ゼログライジスが備えていない装備であることを。

『……言ったはずです、この機体はゼログライジス・セカンドイシュー(改訂版)であると……!』

 爆風に押されるようにアカツキライガーを掴んだセカンドイシューが、金の光を放つ獅子を投げ飛ばす。そうして、夜の闇に繰り広げられた光の嵐は掻き消されていった。

 

新地球歴三一年 一〇月一四日 二三一一時

南アルプス 赤石岳ベースキャンプ付近

 

「ま、連中が知らなくても無理はないわけだよなあ」

 セカンドイシューの足下、傷を癒やすゾイド因子オメガの光を漏らすのはロイが駆るブラックナイトだ。部下達と共に、セカンドイシューへの攻撃を画策するオクトーバーフォースゾイドへの迎撃を行っている。

 そんな彼がグロースとリンを通らせた理由こそ、今し方繰り広げられた光景にあった。

「ゾイド因子オメガの抽出機を暴走させた結果生み出されたのがセカンドイシューだが……これは自然にゾイド因子オメガの純粋存在として生まれたオリジナル・ゼログライジスとは微妙に異なる出自だ。

 実験段階のゾイド因子オメガ抽出機は、少なからず通常のゾイド因子も地殻から吸い上げていたんだよな。そしてセカンドイシューはそれを取り込んだ上でゼログライジスとして実体化した」

 何が起きたのかわかっていない風の部下達に、カナンやヘンリー達ともやりとりをするロイはそう真相を明らかにしていく。

「わかるか? セカンドイシューはゼログライジスとしては混じりけのあるまがい物だ。そういう意味で当初名付けられていたネガシルエットという名前は正鵠を射ている。

 だがその混入物がある結果、オリジナル・ゼログライジスが弱点としていた正常なゾイド因子に対して耐性がある。それどころか正常なゾイド因子を代謝することすら可能だ」

 アカツキライガーを投げ飛ばした今、セカンドイシューは胸郭を膨らませ深呼吸するように項垂れている。そしてそうする全身に金色の光が巡り、身体の深奥へと吸い込まれていきつつあった。

「異なる血を入れたがために進化した存在……なるほど確かに改訂版だ。

 ムーロアの血族としては傍流のヘンリー総統閣下が率いるには相応しい存在かもなあ」

 一言多いロイに、部下達は下卑た笑いを漏らす。そしてそんなロイ達を尻目に、今や完全に金色の光を内包したセカンドイシューは南の方角へと首を巡らせる。

『――通告通り、オクトーバーフォースの戦力に対する掃討作戦を開始します』

 カナンが告げる声は間違いなくオクトーバーフォースに届くよう、全チャンネルと大音量の外部音声によって放たれている。そしてその声を聞く者達に対して、セカンドイシューの視線は相対していなかった。

 南の空、山脈の彼方へとセカンドイシューは顔を上げている。敵は眼前のあらゆる位置にいるにも関わらずだ。

 その意図に気付くことが出来た何人かが声を上げる。

「ダメだ! ヤツの砲撃を阻止しろ――――!」

 ロイ達、さらに複数のデルポイ連邦戦力に妨害されながらも、オクトーバーフォースからセカンドイシューに砲撃が飛ぶ。

 だが全身に力を漲らせたセカンドイシューは、その砲撃が炸裂する爆光の中に仁王立ちすると、その背に負った八門のドーサルキャノン、そして自ら生み出し続けるインフィニティミサイルとの斉射を放った。視線の先、南の方角遠くへ。

 火線が届くのはオクトーバーフォースの戦力が包囲されつつある近辺ではなく、山を越えた先。それはこの戦場の外だが、

「後方のベースキャンプが……!」

 カナンの意図に気付いた誰かが呻く。そう、そこにあるのはオクトーバーフォースの後ろ盾たり得る、この南アルプスに張り巡らされたベースキャンプ網の一点だ。

『警告します。

 セカンドイシューの砲撃能力は以前示したとおり山脈を越えて後方拠点を破壊可能です。

 そして本来増加ゾイド因子タンクを装備して出場した今回ですが……。先程直撃した高濃度ゾイド因子によるアタックの結果セカンドイシューは活性化しています。皆様方が撤退可能な距離に存在するベースキャンプを虱潰しにするには充分なエネルギーがセカンドイシューには備わっている現状です』

 一斉射撃を止め、方角を変えるセカンドイシューからカナンの声が響く。

『投降するならばそれなりの扱いをしましょう。

 ですが、オクトーバーフォースなる軍勢にはこの地上から消滅していただきます』

 再びの斉射。夜闇を引き掻く紫の光条に、幾重にも連なるミサイルの噴射煙。その根源たるセカンドイシューには周囲から悲鳴のような総攻撃が浴びせられるが、巨獣はその威力を浴びてさらに磨かれていくかのように輝きを増していった。

「フツーのゾイドである俺のブラックナイトに同じ抽出機からゾイド因子オメガを導入出来たことが唯一のヒントだったろうが、ま連中にはどうにもできないことだったなあ。

 ははっ、こっちだけタネを知ってるチートってのは気持ちがいいなあおい!」

 傍らの部下の機体にブラックナイトを寄らせ、ロイはゲラゲラと笑う。圧倒的な力を背後に起き、それを止められる者は誰もいない。

 いや、しかしそこへ周囲からの砲撃とは異なる鮮烈な一撃が飛んだ。目に焼き付く白銀の光を引いてセカンドイシューを狙ったのは、アカツキライガーが投げ飛ばされた辺りからの砲撃だった。

『済み、ません……。私達では、力及ばず……』

 カナンも用いるオープンチャンネルにノイズ混じりの声を流すのは、確かにリンだった。ゾイドの体すら引きちぎられそうな投擲を食らいながらまだ生きている。そしてアカツキライガーもレールガンの一撃を放っている。

 だが今はそれまでだ。このタイミングで彼女が頼れる相手は二人だけ。

『グロース司令……』

「しょうがねえよな、敵がこんなインチキゾイドだったなんて俺も知らなかったもん」

 その姿は空中から消えた後、ロイ達の直近に現われた。へし折った枝葉を装甲に引っかけたナハトリッターの出現に、ロイの部下達が武装を向ける。

 しかしセカンドイシューの砲撃が続く中で、グロースの背後から轟いてくる地響きに気づけた者はロイだけだった。

「おめーら危ねえぞ」

 そう言いながら一足先にブラックナイトを翻らせるロイ。そしてその警告に気づけた一部の者以外、グロースを討ち取ろうとした者達の前にそれは姿を現わす。

『ギャラン軍曹……!』

「ああ、ここから先は俺達に任せなあ!」

 瞬間、ナハトリッターの傍らの森を突き抜けて巨大な牙の群れがロイの隊列に食い込んだ。

 上下左右に全てを根こそぎする獰猛なその歯列は、巨大ゾイドデスレックスの一体であるスカベンジャーのワイルドブラストによるものだ。

「好き勝手絶頂に囀ってんじゃねえぜテメェ! オクトーバーフォースは二枚看板なんだよ!」

 捕食のための牙と、破壊のための砲身を備えた濃緑の影が、セカンドイシューへと襲いかかる。

 

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