ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・ロングレンジバスターキャノン
 惑星Ziにおける陸戦ゾイドのオプション火器としては最大級の砲弾サイズを誇る強力な装備がロングレンジバスターキャノンである。
 その構造は単純な実包火器だが、軍事技術の発達によって火砲の適正口径が概ね割り出されている現代においては規格外の大口径が特徴的である。砲身長も長く、陸戦兵器用の火砲の常識を越えたスペックは戦艦の主砲にすら比肩する。
 純粋に通常火砲として過剰な威力を持つが、巨大な砲弾の弾頭容積を活かした特殊弾の開発が容易でもある。ゾイドクライシス当時に墜落した科学船からこの兵器のデータを得た地球人文明ではゾイド因子を封入した特殊弾の発射装置として、この装備を独自に再現していた模様。


NEW EARTH ERA 31 10/14 23:14

新地球歴三一年 一〇月一四日 二三一四時

南アルプス 赤石岳ベースキャンプ付近

 

「クリューガー准尉は大丈夫そうか? まあ、すぐにこっちも心配出来なくなるんだがな……」

 ゼログライジス・セカンドイシューに愛機を相対させ、ギャランは唇を舐める。

 セカンドイシューは今アカツキライガーのゾイド因子攻撃に耐性を見せた。しかしそれはピンポイントな効果であり、そしてスカベンジャーにとっては影響が無い。

 オリジナル・ゼログライジスは昨年ジェノスピノとオメガレックスを相手に優位な戦いを繰り広げたという。そしてこのセカンドイシューの性能予測は、純粋なスペックならオリジナルを下回る。

「オメガレックスの近似種であるこのデスレックスならどうかなというところだ」

 スカベンジャーは運用上の理由からスペックが低い個体が選定されているが、しかしそれは数少ない帝国軍が確保した個体の中での話だ。フルパワー時のスカベンジャーはギャランでも持て余す部分がある。

 そして昨年ゼログライジスに立ち向かったオメガレックスは強力な個体だったが、接近戦では強みである荷電粒子砲が使えないという、実質デスレックスと変わらない条件で戦った。その状態で接近戦を得意とするジェノスピノと戦列を共にしたのはギャラン達にとっては福音だ。

「インファイトでも使える武装はオメガよりスカベンジャーの方が多いんだ。どうかな、セカンドイシュー!」

 砲撃を止め、スカベンジャーに視線を向けるセカンドイシューめがけてギャラン挑みかかる。相手が集中してくることも力の証拠となるか。

 注目してくる相手めがけてスカベンジャーは突き進んでいく。すでにその巨大な顎に加えて体側から前方に展開するデスジョーズも開いたワイルドブラスト状態だ。

 そしてそれらを開いて突撃していく最中から、ギャランは操作をした。ロングレンジバスターキャノンの砲身を敵に向けるという奇襲の一撃だ。

 太めの瓶ほどはある金属の塊を超音速で叩きつける巨大砲。それも発射直後の一撃を直撃させる間合いだ。先程山肌をえぐり取った徹甲弾の一撃がセカンドイシューに突き刺さる。

 そして闇夜にも黒い爆煙がセカンドイシューの姿を掻き消す。破裂音の残響も轟き、破壊力が戦場の一瞬を支配した。

 確かに直撃はさせた。その手応えにギャランは頷くが、しかし同時に、

「……まだ健在か!」

 爆煙の奥に未だ存在するプレッシャーめがけ、ギャランはスカベンジャーを飛びかからせる。しかしそれよりも早く、巨大な腕がスカベンジャーの顎に突き込まれた。

 野太い牙と喉奥の破砕ドリルとが存在するにもかかわらず、その腕は無造作にスカベンジャーの頭部を口内から捕らえていた。金属が軋む音と共に鋭いエッジが装甲を抉るが、相手は意に介さない。

 そして夜風に煙が流れていけば、そこに存在する腕の持ち主はセカンドイシューだ。砲弾が直撃した胸部に着弾痕を生じさせながらも、その視線は悠々とスカベンジャーを見下ろしている。

 さらにその全身には金と紫の輝きが入れ替わり立ち替わり脈動し、被弾箇所も牙に抉られる腕も再生に向けてすでに新たな金属細胞を湧き出させていた。

「てっめぇ人の給料数ヶ月分のたっけえ砲弾だぞ相応に食らいやがれ!」

 すかさずギャランは連装のロングレンジバスターキャノンのもう一方をセカンドイシューの被弾箇所に向けた。この巨大砲が連射可能なのは通常の戦場においては過剰な性能だが、この敵に対してはどうか。

 二発目の直撃。しかし再び生じた爆煙を、スカベンジャーが自ら吹き散らすことになった。

 口内に突き込まれたセカンドイシューの腕で、スカベンジャーの巨体が掲げるように持ち上げられていく。

「がああっこの馬鹿力野郎!」

 セカンドイシューの足下では地盤が二体の重量に耐えかねて音を立てて形を変えていくが、セカンドイシューは野太い爪をそこへ食い込ませて全身を振りかぶっていく。スカベンジャーに出来ることは自分を支える腕に一際強く食らいつき、すでに金属同士噛み合っているドリルからも火花を散らすことだけだ。 

 そして次の瞬間、鞭でも振るうようにしてセカンドイシューはスカベンジャーを地面に叩きつける。その打撃音は二発響いたロングレンジバスターキャノンの砲声にも劣らぬ轟音だった。

 操縦席のギャランからしてみると、一瞬視界に映る色彩が全て入り交じるほどの勢いだった。そして直後には遠心力で視界がレッドアウトした上で、加速度に脳も揺さぶられて目眩が渦巻く。全身も操縦席内側に打ち付け、耐Bスーツを身につけていなければ原型を保っていたかも怪しいほどだ。

「け、けどまだ死んでねえぞ……!」

 うめき声を上げた途端、ならばとでも言わんばかりにセカンドイシューは再び二度、三度とスカベンジャーを地面に叩きつける。スカベンジャー自身も苦悶を漏らすが、しかしそこでセカンドイシューからのグリップが解けて巨体は山中に砂埃を上げて転がった。

 身を震わせて起き上がろうとするスカベンジャーの前で、セカンドイシューは自身の腕を見下ろす。スカベンジャーの喉奥を掴んでいたその手指からは爪一本が欠けていた。

「へへ……食ってやったか、スカベンジャー……」

 まだ紫の燐光が残るそれを、スカベンジャーはこれ見よがしに咀嚼して飲み下して見せた。捕食者という、生物としてより強い者が見せる態度を示すのは意地に他ならない。

 鳴り響く金属の咀嚼音に対し、セカンドイシューはゾイド因子の光を纏って牙跡や食い千切られた指を修復していく。だが確かに、『食らった』のはスカベンジャーだ。

『そんな風に意地を張ったところで……』

 思わずカナンが言葉を漏らす。光に包まれたセカンドイシューにはもはやダメージなど無い。

『あなた方がどれだけ戦力を投入しても、セカンドイシューを止めることは叶わないはずです。ここで撤退することこそ賢明な判断では?』

「そういうことを言って自分の思い通りにことを運ぼうとするヤツってのは俺は大っ嫌いなんだよなあ。そういうヤツの鼻っ柱をへし折ってやりてえってのは充分な理由になるはずだぜ!?」

 ゾイド因子オメガを含むパーツを捕食したためか、スカベンジャーもうっすらと紫の光を帯びながら立ち上がる。ロングレンジバスターキャノンの機関部がコッキングし、次弾を装填することで巨獣の闘争心を示していた。

「お前らだって始めはそういう気持ちで新しい国を作ろうとしてたんじゃねーの? ショシンは大事だぜ? へへへ」

『っ…………』

 見透かすようなギャランの声に、カナンは声を詰まらせる。しかしすぐさまその声は怒気を帯び、

『あなた方のような、あの社会の中で生きることが保証されていた人々に真の怒りがわかるものですか!』

「おお!? なんだとこの野郎!

 こっちだってなあ、散々ミソッカス扱いされてだなあ!」

 ギャランはスカベンジャーを飛び出させる。カナンの言葉は許しがたいものだった。

 ギャラン達の4989小隊は運用の困難さから死蔵気味だったスカベンジャーの管理先として、どうでも良い、どうでも良くなった人材の墓場となっていた。

 そこから真帝国事件で生じた一瞬のチャンスをものにして、広報戦略を足がかりにしてここまで這い上がってきた。

「文句ばっかり言いながら汚い手しか使わないヤツが偉そうな口聞くとかあったまくんなあスカベンジャー!」

 吠え猛るスカベンジャーの地力がこの躍進の原動力だったことは事実だ。だがそれだけではない。

「雑草の正しい足掻き方を見せてやるぜ……。

 アビー、ベッキー!」

「ほいさギャラン!」

「私達も負けないよー!」

 巨獣二体の絡み合う乱戦は他のゾイドが踏み込んで来ない激しい格闘戦となっている。しかしその戦場に躍り込んでくるのは二体の小型ゾイド。対ゾイドの格闘装備とした巨大なメガランスを一本ずつ装備しているが、それだけのものが必要になる体格であるとも言える。

 襟巻き状の器官を持つそれはディロフォス。ギャランとスカベンジャー達の同僚であるアビーとベッキーの駆る機体だ。

 ロングレンジバスターキャノンもその威力を妨げられた今、その程度の武装がセカンドイシューに通用するわけもないが、

「へいへーい大将ビビってるー!」

「それともキレてんのかなーっ!」

 機銃を撃ちながら接近するディロフォスだが、轟音を立てながら突撃するスカベンジャーに比べれば些末な戦力だ。挑発を口にしてもセカンドイシューは見向きもしない。

 だからか、二体の小型ゾイドはスカベンジャーの背を蹴ってセカンドイシューの眼前に飛び出した。それと同時にスカベンジャーは反転し、セカンドイシューの視線を真横に引きつける。

「ストロボジャミングを食らえ!」

 宙に舞ったディロフォスは襟巻きを展開している。そしてそこから発せられる瞬間的な高インパルス電磁波が、至近距離からセカンドイシューの双眸に降り注ぐ。

 小型故にその威力は限定的だが、一瞬に収束させたそのエネルギー密度は無視出来るものではない。セカンドイシュー頭部、特に電子戦器官であるマインドホーンを中心にスパークが走った。

 目眩を起こしたように顔を覆うセカンドイシュー。最も敏感な器官に向けて放たれた鮮烈な一撃は、小さいが鋭い針のような威力を秘めていた。致命たり得ることはないが、一瞬意識を引きつけるものだ。

 そしてその一瞬の間に、スカベンジャーはセカンドイシューの背に回り込んでいた。そこには火器が密集しているが、アビー達が生んだ隙の中では迎撃は発動しない。

「さっき爆発があったのは背面中央……」

 ギャランが一縷の望みをかけたのは、ここまでで唯一明確にセカンドイシューがダメージを負った部位。増加エネルギーを内包していた装備の接続部。

 しかしそこには焦げ付いてはいるが、的確に遮断されたプラグが存在している。ダメージは表面にしかない。

 しかしその代わりに、下方からの爆発を装甲で耐えた操縦ブロックがそこにはあった。

「へっ、オリジナルとコクピットは同じ場所かい。片手落ちなんじゃないかい改訂版さんよお!」

 飛びかかるスカベンジャー。だが操縦ブロックは林立するドーサルキャノン他火器の奥にあり、直接食らいつくことはできない。スカベンジャーはセカンドイシューの背にのしかかり、短い腕で這い上がり、多数の砲身を掻き分けていこうとする。

「ここまで近づけば武装も使えねえだろうが!」

『それはどうでしょうね』

 その瞬間、スカベンジャーの腹部で爆発が起きる。飛びついた背中の中央部に装填されていたインフィニティミサイルがそのままランチャー上で起爆されたのだ。

 通常のミサイルではあり得ない運用方は驚異的な耐久力と再生力を持つセカンドイシューだからこそ。だが同時にイレギュラーな戦法は本来の威力を発揮しない。

「逃すか……!」

『無駄なことです。このまま機体が両断されるまで起爆し続けますよ』

 爆発で破損したランチャーごと、新陳代謝によって次のミサイルが生成されていく。だがスカベンジャーはその背に食らいつき続け、

「逃がすかって言ってんだ! てめえはここに釘付けだぜ……!」

『!?』

 捨て身とも取れるギャランの言葉。だがここで彼が賭けられる相手は決してゼロではない。

 そして動きを止めたセカンドイシューめがけ、周囲の空から集まってくる光がある。

『弾が通じなかろうとこっちは速度自体が武器だ! 全機、ワイルドブラストで突入をかけるぞ!』

 スナイプテラ隊を背後に起き、接近するのは三機のソニックバート試作機。三方位からセカンドイシューに殺到する衝突目前の軌道だが、その速度は加速していく。

『俺達のワイルドブラストも食らえ!』

 セカンドイシューの上空で交錯する三機は、わずかにタイミングをずらして直上でそれぞれ音速を突破した。そしてその周囲に発生するマッハコーンが三連発でセカンドイシューを真上から打ち据える。

 衝撃はセカンドイシューよりもその操縦席に浸透する。友軍の一撃を予期したギャランはとにかく、カナンにとっては不意打ちだ。

『ぐうう……!』

 息を詰めるカナンの声が漏れる。そしてそれを受けて指示を飛ばすのは、電子の目で戦場を俯瞰していた一人。

『やはりゾイド自体は強靱でも後から付け加えられた部位の強度には限界があるようですね。

 さらにパイロットも生身の人間です。そこを攻めることが出来れば勝機はあります』

 戦闘部隊長シールマンの結論に、ギャランは口の端を吊り上げた。セカンドイシューの背にスカベンジャーを乗り上げさせているギャランは最もチャンスに近い位置にいる。

 オリジナル・ゼログライジスはその搭乗者になったフランク・ランド博士の肉体に金属化変性を加えていた。それ故に合同軍の総攻撃に晒されてもラッキーヒット一発あり得なかったが、

「よっしゃあシールマンのお墨付きぃ!」

 短い腕でしがみつき、衝撃波にも耐えたスカベンジャーがセカンドイシューの背を掻き分ける。そして今こそ二門のロングレンジバスターキャノンが突きつけられた。

 号砲の二連発が炸裂し、セカンドイシューはかすかに仰け反る。そしてその威力をより強く浴びたのが操縦席のカナンだ。

『私が……セカンドイシューの弱点?

 私を殺せばいいと……?』

 被弾の衝撃に震える操縦席から、カナンの呻きが通信にこぼれていく。しかしその苦しげな声音は、降りかかったダメージだけが原因ではなかった。

『いつもそうやって……力で黙らせればいい相手だと、人のことを……!』

 誰も知らぬカナンの過去。しかしそこに端を発する確かな怒りが、セカンドイシューを駆動させる。

 スカベンジャーに食らいつかれたまま、セカンドイシューはその胸郭を展開していく。現われるコア部は、全身に漲るエネルギーの中核として一際強く赤い光に包まれていた。

 そして収束重力レンズは展開することなく、あふれ出るエネルギーをそのままぶちまけた光条がセカンドイシュー正面の大地を吹き飛ばす。本能解放攻撃、Zi-ENDの破壊力の直射であった。

 そしてその威力で地表を赤熱化させつつ、セカンドイシューは身を捻り力を振り回す。書き殴られる破壊の痕跡は、森もゾイドの軍勢も関係なく一筆書きで塗りつぶしていく。

 赤熱する地表に、燃え盛る木々やゾイド達の光がセカンドイシューを赤く照らす。その一薙ぎは周囲での戦闘の帰趨を一瞬で決するものだった。数多のデルポイ連邦機も巻き込みながら。

「この野郎、暴れ回るじゃねえか! ちょっと大人しくしな!」

 覆い被さるスカベンジャーからギャランは叫びを上げるが、セカンドイシューは止まらない。ゾイドの中でも重量級の存在に対しても、もはやセカンドイシューは止まらなかった。

「てめえこの……!」

『邪魔だあああああっ!』

 ロングレンジバスターキャノンを再び突きつけようとするスカベンジャーに対し、セカンドイシューはその腕を背中に回す。そして刀でも引き抜くように、長い砲身を掴んでスカベンジャーの巨体を無理矢理引きはがした。

 先程よりも不安定な体勢で振り上げられるスカベンジャー。そして赤熱した大地を周囲に吹き飛ばしながら、地面に埋め込まれるように叩きつけられる。その背で金属がひしゃげる音が響くと、赤熱化した土砂と共にその身はバウンドした。

「砲が……!」

 ロングレンジバスターキャノンの一方が、支持アームの断裂でセカンドイシューの手の中に残っている。そしてそれを一瞥もせずに投げ捨て、セカンドイシューは威力の放射を続けていく。

 数々の戦力がその実力を披露したその戦場だが、セカンドイシューの存在は桁外れであった。周囲を紅蓮に塗りつぶしていくその背に、ギャランはなんとかスカベンジャーを起き上がらせる。

「くっそ……思うように行かないな……」

『ギャラン君、周囲の戦線が崩壊しデルポイ連邦側の戦力が雪崩れ込んで来ている。警戒を――』

 通信越しのシールマンも、当然ギャランも継戦の意志を残していた。スカベンジャーも強力な武装の一方を失いながらも、鎮静剤が抜けてきたか凶悪な吐息を漏らしながらセカンドイシューの背中を睨み上げている。

 しかしその瞬間、戦場の上空に音を立てて打ち上がる一つの光。赤い煙の尾を曳いたその様子に、ギャランは振り返る。

「……『各員それぞれの能力を持って撤退せよ』」

 光は信号弾。それが意味するところはここまで目指していた秩序だった後退策とは違う。兵一人一人、ゾイド一体ずつで戦線を突破し後方へ向かえというものだ。

 その判断を下すグロースはこう決断したのだ。この戦場は、

「敗走か……」

 この戦場はもはや勝ちに傾くことはない。次を戦うためには、可能な限りの戦力を脱出させ温存させるしかないのだ。

 ギャランとスカベンジャーもその一部だ。そして炎上する森の奥に突き刺さったロングレンジバスターキャノンを一瞥し、ギャランは機体に踵を返させる。

 セカンドイシューはZi-ENDに加えてドーサルキャノンとインフィニティミサイルの乱射も繰り広げ、周囲全てに破壊力を振りまいている。それはもはやセカンドイシューではなく、自分を狙ってくる敵に対するカナンの怒りを反映しているかのようだった。

 そして降り注ぐ破壊力の中をスカベンジャーは南へ。

 否、スカベンジャーだけではない。オクトーバーフォースの残存する全ての戦力がそれぞれの位置から南を目指し始める。

「ギャラーン! 勝てなかったね!」

「大砲片方飛んでっちゃったじゃん!」

「うるせーよお前ら。この場だけのことだっつーの。それよりちゃんとついてこいよ!」

 ギャランが声を上げ、スカベンジャーはふらつきながらも燃え盛る森の中に道を切り開いていく。アビーとベッキーのディロフォスは遠く見えるセカンドイシューへ振り向きつつそれに続いていく。

 Zi-ENDの収束光に薙ぎ払われた周囲では戦場が崩壊し、しかし後方が健在のデルポイ連邦がいち早く体勢を立て直し追撃の構えを見せている。オクトーバーフォースは包囲されかけていた状況だが、

「南側の戦線は空いている……。ララーシュタイン中佐の部隊がやってくれたかな?

 シールマン! そっちは大丈夫かあ!?」

『人のことを――いでくれよギャラン君』

 なにかダメージがあるのか、シールマンからの通信はノイズがひどい。だが心配するポーズをとっても意味は無い状況だ。

 方位の穴である南へ、ギャラン達のみならずオクトーバーフォースの戦力は隊列も組めずに殺到していく。そしてそれを追撃するデルポイ連邦。

 

 その夜、南アルプスの中央でオクトーバーフォース本体は敗走に転じた。前線寄りの拠点すらも失ったことは、立て直しに多大な時間を要する損害である。

 しかしその直後、日付が変わる目前にデルポイ連邦は北米へ向けた宣告を放送する。時差がある北米大陸の帝国共和国両国の昼間に向けた、二四時間後の戦略攻撃の予告。

 世界の有り様を変える一撃までの時間が示され、そして炎の夜が明けていく。

 


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