ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・NEW EARTH ERA 30『千鳥足、地雷原を往く』
 ゾイドワイルドZERO NEARLY EQUAL 第二話。
 帝国と共和国の小競り合いがまだ続いていた新地球歴30年。ゾイド化石発掘地帯の攻防戦の結果地雷原にただ一人取り残された男ボラン・バボン一等兵はスコーピアと共に帝国領への離脱を開始する。
 しかしその道中で発見した墜落したカブター。その残骸の影に身を潜めていた女アビゲイルをピックアップした結果、彼はその荒野に存在する生活拠点・コミューンとそれを巡る戦いに身を投じていくことになる。
 野放図で卑小な男ボランは己を賭けるべきものを持つ人々を見て何を思うのか。



NEW EARTH ERA 31 10/15 05:42

新地球歴三一年 一〇月一五日 〇五四二時

南アルプス 畑薙湖 湖畔

 

「改めて失礼します。帝国軍戦略情報局……アビゲイルです」

 ダメージを負ったデスレックス〈スカベンジャー〉を受け入れる傍ら、キルサイスを操縦してきた一団がリン達の前に降り立つ。彼らを率いるのは細面の女――アビゲイルだった。

 相対するのはこの場でもオクトーバーフォース最高階級になってしまったリン。そして彼女は、目の前に降り立ったアビゲイルという女の姿にかすかな違和感を覚える。

「あまり鍛えていない……?」

 一国家の諜報機関に属する、それも前線勤務のエージェントにしてはアビゲイルという女は体に筋肉がついていなかった。ちょうど士官学校課程の途中から軍務に付いているリン自身のように、戦う者としての不完全さがそこにはある。

 だがその一方で、アビゲイルという女は堂々とした態度をしていた。

「ギャラン軍曹とスカベンジャー号……それに同じ部隊の方々をオクトーバーフォースと合流させられたのは僥倖ですね。原隊に、とは行かなかったようですが」

「ええ……シールマン隊長らと自分達ははぐれてしまいましたので」

「現在南アルプス各地で電子妨害が行われています。オクトーバーフォースが分散しながら後退したため対策を集中できなかったためのようですが」

 そんな中でリン達敗走部隊、キリング小隊、アビゲイルら戦略情報局が合流出来たこの一件は幸運な出来事だ。さらにリン達がウェインライトら軍属を保護出来たこと、アビゲイルらがギャラン達をかくまえたことを加えれば不幸中の幸いという他無い。

 だが同時に幸いであっても不幸の中でのことでもある。

「ともあれ、被害は甚大なようですね。あちらのスカベンジャー号のダメージを目の当たりにした時点で実感はしていましたが……」

 そう言ってアビゲイルが振り向く先には、ロングレンジバスターキャノンの基部を一方ねじ切られたスカベンジャーがうずくまっている。降り立ったギャランがそのまま足下に座り込み、仲間に囲まれながらエネルギー飲料をがぶ飲みしていた。

「キャノン片方無いとバランス悪いな……大丈夫なのかギャラン軍曹」

「まあ元々積んでなかったものなので。むしろ鎮静剤が切れてることのほうがまずいかな。いつ人に食らいつくか……」

 ギャランが深刻そうな顔でそう告げると、キリング達取り巻きは後ずさる。だがアビーとベッキーがそばで苦笑いを浮かべ、スカベンジャーは疲れ果てているのか吐息を漏らすばかりだ。

「……あのスカベンジャー号が健在であることは大きな力になります。しかし、それを上回るというあなた方の持ち得る情報とは……?」

「大したことでは無い、と言うとウソになりますね」

 リンの問いかけに、アビゲイルは苦笑しながら自身の情報端末を操作した。そこに映し出されるのは、何か施設内の見取り図のようなものだが、

「私達帝国情報局は合同軍とは別に真帝国継続組織を追跡しており、現在デルポイ連邦と名乗る組織についても独自の調査を行っていました。純粋に帝国側に属するために合同軍との接触は控えていましたが……。

 その結果確保出来た、デルポイ連邦の地下施設のデータがこれです。南アルプス北部の地下、地底湖空間を利用して開発されているデルポイ連邦『新世界首都 ジオシティ』。その第一階層と、それに繋がる地底トンネル」

 目が慣れてくれば、その図の中に南アルプス最高峰である北岳の等高線が含まれていることが見えてくる。そして角張ったラインはその地下に建造されている都市の萌芽だ。

「デストロイヤー・ガンの下にはこんなものが……。ということは、この末端のラインは?」

 都市計画図から四方に伸びる細いライン。リンがそれに気づけば、アビゲイルは待っていたかのように頷いた。

「地上へのトンネルです。物資や人員の移動など、恐らく仮設のもの。南アルプス山中に張り巡らされているトンネル路と同じ部材を使っていることでしょう。

 そして我々は元々、ここから独自にデルポイ連邦を攻撃する予定を立てていました」

 今となっては忘れがちだが、デルポイ連邦は昨年現われた真帝国に端を発する組織だ。帝国にとっては因縁深い相手だろう。

「しかしあなた方の規模では……」

「はい。ですのでグロース司令には先んじて情報を伝え、この南アルプスの深部で合流を図っていたのです。

 ですがこうなり、時間制限まで課された今……こうして合流出来た戦力だけでもアタックを仕掛ける必要があります」

 ギャランとスカベンジャーを連れてきたのも、保護するだけではなく再攻撃のためなのだろう。

「幸いにも、という言い方は少し妙ですが、デルポイ連邦は指導者や象徴に依存した比較的小規模な組織です。それらを……どれか一つでも討ち取ることが出来れば瓦解していくことでしょう。

 その過程で別の動乱が引き起こされる恐れはありますが、手をこまねいているよりは良い。私達はそう思います」

「なるほど……電撃的な奇襲をしかけると。私は……参加したいですが」

 呟きながらリンが振り向く先にいるのは、キリングやギャラン、それにウェインライトらだ。そしてギラつきが収まって少し自信なさげなその視線に、ギャランが片目をつむってにやつく。

「ここにいるオクトーバーフォース戦闘員の中ではアンタが一番階級上なんだぜ。それにみんな前向きに考えてんだし、決めちまえよ」

「そ、そうですか……?」

「少なくとも後方は再アタックの機会は模索している。午前の早い時間にこのチームが動き出せれば、後方経由で今後他の後退部隊にも呼びかけが出来るようになるぜ」

 キリングも助け船を出すようにそう告げた。しかし先程突っ走ってしまったリンにとっては、決断を下すのが難しい時間帯だ。

 だがそこへ、不意に山々を越えて遠い咆声が響いてくる。長く伸びる、高くもあり、低く轟くようでもあるその声をリン達は知っていた。

「ハンターウルフ……ブルーダーさん」

 ウェインライトと共に話の流れを見守っていたユインが、その名を告げる。本土から招聘された山岳戦のプロとその機体が、この山中のどこかで健在だという証左が聞こえてきたのだから。

 そして遠吠えが残響になっていく中で、さらに遠くから唸るような声が轟いてくる。一つ、二つ。数は多くないが、確実に複数の響きだ。

「応答している……一体何を」

 リンが呟くと、アカツキライガーが動いた。遠吠えに応じて顔を上げ、思案するような息づかいを見せる。

 そしてその前足は北――デルポイ連邦が待ち構える方角に爪を立てていた。その身じろぎに気づいたリンは意図を見出す。

「前に進もうとをしている……。じゃあこの遠吠えが意味しているのは……」

 ブルーダーと、それに応じる決して少なくない数の誰か。彼らもこの山々を越えてデルポイ連邦を目指そうとしている。アカツキライガーをも急き立てる声は、ゾイド同士に通じるそんな意味を響かせているのだ。

「……ギルラプター種の鳴き声もあるようですね。グロース司令……でしょうか」

 アビゲイルがそう言っているが、本当かどうかはリンにはわからない。上手く乗せようとしているのかもしれない。

 だがそれでもいい。もうリンも、この場にいる者達も、進もうとする方向は同じだとわかったのだから。

 だが一つだけ確認しなければならない。リンは遠吠えに聞き入って上げていた視線を下ろし、

「しかし問題があります。私達の集団は戦闘員以外の軍属や負傷者、負傷ゾイドも含まれています。

 ウェインライトさん達を後退させる手段が必要ですよね?」

「おっと、そういうことなら俺達の出番だぜ」

 アビゲイルの陰から顔を出すのはキリングだ。そして彼はもう一人帝国のライダーを引き連れている。

「俺達は後退する友軍を見つけるだけでも、再進攻をするだけでもなくここまで進出してきたんだぜ」

「えーとですね、自分らが後方にここでの合流を報告していますので、回収のための手段がそろそろ来るはずで……」

 キリングに続くそのライダーは、パトロール艇仕様のバズートルを担当する人物だ。直接戦闘担当ではないそのゾイドの乗り手が担当するものは多岐にわたる。

 そしてその声に応じるように再び遠く轟くゾイドの声が響く。甲高い響きながら長大な金管楽器から響くようなその声は、リン達が目にする河に沿って聞こえてきた。

「あっ来ました。外洋艦隊のネーバルサウルスに人員収容用の追加船体を装備してきているはずで」

 霧笛のような鳴き声を上げながら姿を現わす海竜種ゾイド、ネーバルサウルスは確かにその通りの装備をしていた。グラキオサウルスに似た形態を持っているが、背部から胴体左右まで人員収容用の追加船体を身につけている。

「よかった……。これで非戦闘員の皆さんは後退することが出来る。

 ウェインライトさん、皆さんをよろしくお願いします」

 直接戦闘に関わらぬ軍属、負傷者達とはここで別れることになるが、彼らにもその後がある。リンが後退までの道のりを託したのは正式な軍人ではないが、グロースの妻であり経験豊かな人となりを感じさせるウェインライトだった。

 そして誰もがリンのその判断に異を挟まない。この後退劇、そして今し方のリンへの言葉で誰もがグロースの妻ウェインライトの人となりを知っている。

「はい、皆さんは私が導いていきます。

 そして私からもリン准尉に、再会の約束をお願いしますね」

 そう言ってウェインライトが差し出す手を、リンは握り返した。小柄ながらに勢いのある握手は、リンが戦う者の一人であることを表わしていた。

「――方針が決まったなら前進する側も出発を急ぎましょう。なにせ時間がありませんからね。

 破損したゾイドはここに隠していくしかありませんが……残存部隊の指揮は暫定的にクリューガー准尉が取るということでよろしいでしょうか?」

 促すアビゲイルにリンは頷き、しかしふと考え込んだ。引っかかった部分に気付くのはすぐのことだ。

「……えっ!? 私が指揮官!?」

「この集団で最も階級が高いのはクリューガー准尉だと伺っていますが……」

「そうですよ准尉。それにここまでの様子を見れば、准尉が一番我々を『掌握』しているし、我々の『中心』だと思いますよ」

 ドライパンサー隊の一人、古参風の軍曹が口を挟む。それに対しリンはいつものように遠慮がちに下がろうとするのだが、しかし今は踏みとどまった。

「……わかりました。これより我々は暫定的に『クリューガー戦闘集団』として、帝国軍戦略情報局と連携しデルポイ連邦中枢を目指します。

 目的は第一にグロース司令との合流。そしてそれによるデルポイ連邦の暴挙の阻止です。

 アビゲイル少尉、道案内をよろしくお願いします」

「ではまず近隣のベースキャンプ跡地で物資を回収しましょう。電撃戦とはいえ、先立つものはないといけませんからね」

 先導するアビゲイルにリン達は続き、ウェインライトは周囲に怪我人を助け起こすよう声を掛ける。道は分かたれ、しかしどちらも進み始める。

 折しも夜明け際。あいにく天気は曇りであったが、南アルプスには光が戻りつつある。

 

新地球歴三一年 一〇月一五日 〇六二一時

南アルプス 山伏ベースキャンプ跡地

 

 アビゲイル達の先導を受けてリン達がまず向かったのは、セカンドイシューの砲撃を浴びて荒れ果てた山並みの中。そこに存在した山伏ベースキャンプだ。

 すでに前線からだいぶ下がった位置だが、前線のどの位置にも物資を供給出来るよう後方キャンプには潤沢な備蓄が用意されていたはずだ。砲撃を受けてなお使用出来るものがあれば儲けものとなる。

 すでにエアカバーはウェインライト達の後退に追随してそのまま帰投する流れ。リン達はゾイドの操縦席から物資のコンテナや集積場を探す。隠蔽されていたものがさらに砲撃で崩壊しているはずなので容易ではないことだ。

「足下に集中していると、敵が現われた時に反応が遅れそうですね……」

 思わず独りごちるリンに、唸るアカツキライガー。実際の所はアビゲイル達戦略情報局のキルサイス達が警戒してくれているのだが、

「目の前にいきなり敵ゾイドが出てきたりして、なんて信用してなさ過ぎですかね」

 キルサイス部隊との遭遇は数あれど、アビゲイルと出会ったのは今日が初めてだ。信頼するまでにかけた時間を考えればブラックジョークの一つも浮かぶ。

 だがここから、今日この日を共に戦っていくのだ。己のブラックなセンスを鼻で笑い、リンはアカツキライガーと共に顔を上げる。

 するとそこにスティレイザーがいた。

 リン達の集団にはいないゾイドであり、キルサイスで統一されているアビゲイルの仲間でもない、

「……えっ?」

 思わず疑問符がほとばしるリンに対し、眼前のスティレイザーもパカリと口を開け、

『げえええっあなたは熱海の!?』

 響く女の声。その声音とスティレイザーの姿とでリンは相手の正体を突き止めた。

「継続真帝国評議会……クエンティーナ・ハバロフ!?」

 

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