ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・継続真帝国評議会
 新地球歴三〇年に勃発した真帝国事件の後、投降することなく活動を続けている残党組織の一つである。
 構成員は三二名。首魁(議長と称する)クエンティーナ・ハバロフをはじめとして、帝国社交界にかつては属していたいわば没落貴族の子息ら若手将校が中心の集団。
 真帝国という国家の理念を、大衆主義的な現帝国の政界を一新し皇帝と貴族中心の体制を復古するものと理解して活動を継続している様子だが、実際の所は現在もわずかに残る貴族家系に対し自分達の家名の没落を認められないというのが活動の本質として存在しているとされる。
 戦力はスティレイザー一機と複数のキルサイス。特にキルサイスに関しては真帝国で運用されていた無人制御機構が組み込まれた形式であり、小規模な集団であるにも関わらず戦力としては侮れないものがある。真帝国壊滅後文明圏外縁に逃れて略奪で生計を立てつつ、日本列島にまで侵入を果たせたのはひとえにこの戦力を保持していたから、と考えられる。
(帝国戦略情報局資料より引用)


NEW EARTH ERA 31 10/15 06:23

新地球歴三一年 一〇月一五日 〇六二三時

南アルプス 山伏ベースキャンプ跡地

 

 突如としてリンの目の前に現われたスティレイザー。そしてそこから発された声はリンの記憶の中で結びついていた。

「熱海で戦った相手……!」

 継続真帝国評議会のクエンティーナ・ハバロフ。熱海の物資集積拠点を襲って装備などを強奪していった、デルポイ連邦とは異なる真帝国系組織の中心的人物だ。つまりはオクトーバーフォースと対立する組織であるわけだが、

「今のところこの人々は我々の敵ではありませんよ、クリューガー准尉」

 ハバロフのスティレイザーの隣にはキルサイスが一機。そしてその操縦席から顔を出すのは当然アビゲイルだ。

「彼ら継続真帝国評議会は三〇名ほどの小さな組織ですが――」

『余計なお世話です!』

「――この日本列島に逃れていたところ、ホットスポットとなったデルポイ連邦との戦闘に紛れて物資を確保出来ると踏んでこの南アルプスに潜伏していたのです。

 何度かオクトーバーフォースの後方部隊とも交戦しているようですが、最前線の部隊だったクリューガー准尉はご存じないでしょう」

「熱海以降もそんなことを……」

 白い目を向けるリンに対し、ハバロフのスティレイザーはふんぞり返るように顎を上げる。ハバロフも微妙に不名誉な説明を気にする様子も無く、

『私達の理想を実現するためには粘り強い戦いが欠かせないのです。だから臥薪嘗胆の今も堪え忍ぶのみ。

 ……だからこそ、この共同戦線にも参画しているのです』

「共同戦線?」

 ハバロフがここにいる理由として納得出来る言葉が出てきた。だが同時にその言葉通りになる経緯が想像しがたい。

「継続真帝国評議会は他の真帝国後継組織の中では、後継の正当性を主張している点でデルポイ連邦と思想的に敵対しているタイプでしてね。まあこの本国から遠く離れた地では『敵の敵は味方』という点を互いに活かしていこうというわけです」

『その通り。正統真帝国などと名乗っていながら異なる王家の存在を担ぎ出し、さらに帝国臣民に危害を加えようとするかの国を認めるわけにはいきません。我々は我々の理想を実現する上で敵対する相手を選んでいく所存ですわ』

「まあ、継続真帝国の規模のままではデルポイ連邦に相手にされないという問題もあるとは思いますが……」

 どこか遠い目でぼやくアビゲイルの声は、ハバロフには聞こえていなかったようだ。脚を揃えた堂々たる立ち姿のスティレイザーの操縦席で、ハバロフがふんぞり返っている様子がキャノピー越しに見える。

『ですのでこんな落穂拾いのような真似でも協力するわけです。幸い、私達のゾイドでもオクトーバーフォースの弾薬類は使えますしね。キルサイスの補充パーツが手に入ったのも僥倖でした』

 思えばどちらの組織もキルサイスを運用している。パーツが共有出来るのも接近した理由かとリンは納得を覚えるのだった。

『むしろ心配なのはあなた方の方ですね。そのライガーや……あのデスレックス、武装が独自規格のものが多いようだけど、こういう物資集積所に予備が存在するのかしら』

「ああ……確かにそれは問題ですね」

 ハバロフの指摘はもっともだ。アカツキライガーのレールガン、スカベンジャーのロングレンジバスターキャノンはそれぞれが他に使用する者がいない砲弾を使う兵器であり、常に両者がいる拠点に輸送されてきていたものだ。昨晩の戦闘で損耗している状況だが、

「私達の場合汎用型の機関砲弾とミサイル以外は補充出来ないでしょうね……。レールガンもロングレンジバスターキャノンも、襲撃を受けたベースキャンプまで砲弾を運んであったはずですから」

『特殊な武装を使っていると大変ですね』

 物資類は横流しや強奪品で賄っているであろう組織の人間が言うと実感のある言葉であった。そんな風にリンはハバロフの言葉に人間味を感じ、かつての熱海での戦いとは異なる印象を抱くのだった。

「……同じ真帝国系組織でも、なんだかハバロフさん達はデルポイ連邦とは雰囲気が違いますね」

 思わず漏れた感想に、キャノピー越しのハバロフは露骨に嫌そうな顔を見せた。

『デルポイ連邦の連中は現帝国やそれを取り巻く世界への憎しみで動いているような組織ですもの。正しい体制を作らんとしている私達とは比べるまでもありません』

「その正しい体制ってのが往年の貴族主義の復古というのもどうなんでしょうね……」

 アビゲイルのぼやきは、変わらずハバロフには聞こえないようになっている。

 そしてリンはハバロフの言葉に合点がいった。怨恨、それは確かにデルポイ連邦に属する者達の端々に見え隠れしていたものだ。

「そうか……憎しみ……」

『? どうかしましたの?

 言っておきますけどあまりぼーっとしたりおしゃべりしている時間はありませんよ?』

 さっぱりとした様子でハバロフはスティレイザーを振り向かせ、再びキャンプ地へと分け入っていく。

 実際の所真帝国系組織として離反したハバロフや、それを追うアビゲイルの間に怨恨が皆無だというはずは無い。そしてリン自身も、デルポイ連邦やロイへの怒りは抱いている。

 だがオクトーバーフォース側においてそれは戦う動機の中心ではない。別の何かが、すでに存在している。

 気付かぬうちに拠り所にしていた何かについて、リンは思考を巡らせていく。

 

新地球歴三一年 一〇月一五日 〇六三〇時

北岳地下 デルポイ連邦首都ジオシティ

 

 昨晩の戦闘を終え、カナンもロイもデルポイ連邦の地下施設へと帰還して数時間。その朝を二者はヘンリーの執務室にて、その持ち主と共に迎えていた。

「昨晩はご苦労。オクトーバーフォースは潰走した。

 だがこの南アルプスの各所で動きはある。間違いなく、デストロイヤー・ガン発射までに再度の攻撃があるだろう」

 そう告げるヘンリーの背後、窓越しには戦闘後再び格納されたセカンドイシューの姿がある。戦闘行動で活性化したその巨体を封じるためか、以前よりもふんだんに冷媒が投入されている様子で、その姿は半ば蒸気に埋もれていた。

「ま、散り散りになった連中がバラバラに仕掛けてきたところで面倒ではあれど問題にはならんでしょう。今日は徹夜、それでお終い。お気楽ですねえ」

 いけしゃあしゃあとそう言うロイに対して、ヘンリーとカナンの視線は剣呑なものだった。

「……ロイ。昨晩の戦闘についてだが――君のギルラプターには、いつの間にゾイド因子オメガが投与されていたんだ?」

 ヘンリーが問う姿にカナンは小さく頷く。彼女の疑問もその一点にあった。

 ゾイド因子オメガを利用可能にする抽出機は、それこそセカンドイシューを生み出したもの一基だけが存在している。そしてそれはセカンドイシュー共々厳重に管理されているものだ。

 しかしそれに対してロイは事態の重さを感じさせない態度で、頭の後ろで手を組み、

「さて、抽出機をここまで運んでくる時に相棒に抱えさせてえっちらおっちら運んで来ましたんでねえ。その時に何かあったんじゃないでしょか?

 へへへまああの力には助けられたということで」

 露骨な嘘がその言葉にはあった。抽出機の輸送はデルポイ連邦の計画において重要な行程であり、当然厳重な態勢で行われたものだ。ロイが言うような粗雑な扱いは当然行われていない。

 ロイは現在でも何らかの方法で抽出機にアクセス出来る。それは暗に示された事実だ。そして地下に女性捕虜を独自に囲っているような彼がそれをなし得る手段は、その地の『利用者』を駆使した人脈によるものだろう。ヘンリーも、カナンも、そう判断していた。

 ヘンリーもカナンも表情は晴れない。この事実はこのデルポイ連邦の中にロイの意のままに動く人員がおり、そしてロイの意志でコントロール出来る戦力が生じていることを示している。

「ロイ……我々は新たな国家を作ろうとしているんだ。そしてそれは戦略的に成し遂げられようとしている。

 そこに余計な禍根を生むような真似は、くれぐれもしてくれないでくれよ」

 暗に含んだものがあるヘンリーの言葉。釘を刺すためのそれに、しかしロイはヘラヘラとした表情を崩さない。

「こちらの意図に無いことをするなって? そう言っておいて、おたくらにもこっちに黙って企んでいることがあるでしょうに。

 お互い利用し合って……win-winの関係でありたいもんですなあ」

 そしらぬ風をしながらも、ロイも言葉に含みを持たせてくる。そしてひらひらと手を振りながら、彼はヘンリーの部屋を後にしようとした。

「どちらに?」

「敵の襲撃が予想されるんでしょう? 昨晩大立ち回りしたんだから休ませてくれよ。勝ってる側なのに余裕が無いなんて俺は嫌ですなあ?

 なに、適当に過ごしたらジオシティの警備に付きますよ。地下通路が色々通じてますからねえ」

 立ち去るロイをヘンリーもカナンも止められない。彼の戦力はまだ、あと一息デルポイ連邦に必要だ。

 そしてそれを過ぎれば、ロイは己の意図を形にし始めるだろう。今夜はデルポイ連邦という国家にとって様々な面で正念場となるはずだ。

「……総帥。私達のデルポイ連邦は、新しい世界は成立するのでしょうか。旧世界とは異なる、そこに居場所の無い者達の世界……」

 心細そうなカナンの言葉は、最強とも言えるゾイドの操縦席を任された者とは思えないものだった。そしてそれに対し、ヘンリーは毅然とした表情を見せる。

「……もとより保証された道ではない。だが我々はやり遂げることができる。セカンドイシューにデストロイヤー・ガン、そして同志達……必要なものは全て揃い、あとは時間を待つだけなのだから」

 言い聞かせながら、ヘンリーはセカンドイシューの巨体に視線を送った。

 冷媒の蒸気に包まれたその巨体は、自分達の守護神と言うにはいささか禍々しい。だからこそ御しきらなければならない存在だ。

「……我々にとって試されるべきものが形となったのが、ロイという男なのかもしれないな」

 呟くヘンリーの頭上で、時計がデストロイヤー・ガン発射時刻までを一秒ごとに刻んでいく。

 

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