ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・ナックルコング・レンジャー
 汎用性の高い類人猿種ゾイド、ナックルコングに森林地帯での戦闘を想定した装備を施したバリエーション機。帝国軍において運用されているが、真帝国並びに同組織をルーツとするデルポイ連邦にも多数の機体が流出している。
 元々のナックルコング種自体が森林地帯で生活するゾイドであるため、環境に適応するための装備はさほど施されていない。純粋に戦闘能力を拡張するための武装ポート類と、密林の環境からそれらを保護するためのシステムが基本的なパッケージとなり、他のゾイドでは木々の合間での取り回しに難儀するような装備を縦横に扱うことが出来る。
 ともすれば類人猿系ゾイドの汎用性は他のゾイドを駆逐する要因になるのではないかとも議論されるが、しかし戦闘環境とゾイド自身の生態とのマッチングの関係はそう単純な話ではない。このナックルコング・レンジャー自体も、ナックルコング自体の森林への適応性という強力な個性を基礎としていることからもそれは明らかである。


NEW EARTH ERA 31 10/15 09:38

新地球歴三一年 一〇月一五日 〇九三八時

大井川近辺

 

 日が昇った冬の空。その下に広がる南アルプスはデルポイ連邦側の勢力圏だ。

 デストロイヤー・ガン発射を控えるその一日、デルポイ連邦側のパトロールは厳重な体制を敷いている。投入されている機体も中型クラスで森林に強いナックルコング・タイプだ。

『ウェイポイント・フォックストロットよりウェイポイント・ゴルフに到着。異常無し、パトロールを続行する』

 三機小隊、迷彩カラーのナックルコング・レンジャーが降り立ったのは大井川のそば。流れを見下ろす斜面上だった。そして互いにカバーし合う位置から視線を上げると、川の反対側をパトロールしている部隊も見える。

 互いに健在を確認しながら包囲網を巡っていくパトロール部隊はオクトーバーフォース側からしてみれば厄介な存在だ。遭遇すれば遅かれ早かれ、大まかな位置情報が広く共有されてしまう。

 しかしだからこそ、彼らは仕掛けた。

「一撃で仕留めたまえ」

 パトロール部隊が互いの確認を終えたその瞬間、森の闇に紛れていた影がナックルコングに忍び寄る。

 突風のようにナックルコングに到達したのは隠密戦闘を得意とするドライパンサーだった。奇襲が二体のナックルコングの背後から首筋に牙を立てる。叫びも上げさせず、抵抗も許さない組み伏せが一瞬で雪崩れかかった。

 そして奇襲に対応しようとした残る一体に挑むのが、深い紫色のファングタイガーだった。

 ララーシュタインの愛機〈ローゼンティーゲル〉。一際長い牙と優れた戦闘センスを持つその機体は、三機目のナックルコングの喉に牙を貫通させ全くの抵抗を許さない。

 無音の制圧劇。そしてナックルコングが制圧されると、ララーシュタインに率いられたさらなる戦力が姿を現わす。だがそこに連なるキャノンブル達は奇襲攻撃には向いてはいない。隠密作戦を実行出来るのは二機のドライパンサーと、ララーシュタインのローゼンティーゲルだけだ。

「道のりはまだ半分も過ぎてはいない、か……」

 ナックルコングのライダー達の拘束を部下に任せつつ、ララーシュタインは嘆息する。昨晩から続いての進軍だ。疲労は免れない。

 さらに奇襲を仕掛けられる機体が限られるララーシュタイン一派は、身を潜めたまま敵を突破するのにも困難を伴う。そのためにララーシュタインは自分の元に集った戦力を、他のオクトーバーフォース戦力のための囮とすることを決意していた。

「他の残存戦力よりも速く、鋭く進軍することで我々は最大の迎撃を受けるだろう。だがそれは他の戦力……特にグロース少将が直々に率いているであろう人々の助けとなるはずだ」

 言い聞かせるように言うララーシュタインに、彼の直属の部下であるドライパンサーのライダー達も真剣な表情で頷く。しかしその一方でキャノンブルのライダー達は雄々しい眼差しだ。

「囮で終わるだけじゃないんでしょう少佐。セカンドイシューの撃破にせよ、デストロイヤー・ガンの破壊にせよ。俺達は諦めていませんよ」

 オクトーバーフォースの半身となったララーシュタインの部下達、セプテントリオン戦闘団のメンバーとそうではない者達の間には志気も心構えも異なる。

 ララーシュタインはデルポイ連邦の本拠も、デストロイヤー・ガンも詳細な位置は知らない。故にキャノンブルのライダー達の言うようなことは恐らく出来まい。だがその一方で、囮として無視出来ない戦力は要る。

 彼らを口車に乗せている。ララーシュタインの良心はかすかに痛む。だが迫り来るデストロイヤー・ガン発射の刻限までに手を打たねば帝国の威信は失われ、世界には不穏な勢力が台頭することになるのだ。

 己の為さんとしていることの是非は一概には言えまい。だが少なくとも、人を騙したことで地獄に落ちることになるだろうとララーシュタインは己を断ずる。

 しかしそれを引き延ばし、せめてこの事件は解決に導かねばならない。願わくば、部下達はそれ以後にも生き延びさせなければ。

 人知れずララーシュタインが悲壮な覚悟を決めたその時、ふと大井川に向けた視線が何かに引っかかる。

「……んんむぅ?」

 何かの気配が穏やかな水面の奥にある。そしてそれは自分達を襲うでもなく、上流の方角へ移動していくようだった。

 ララーシュタインだけではない。ローゼンティーゲルもそちらに視線を向け、静かに喉の奥で唸りを発している。

「どうしましたかあ中佐ぁ!」

「いや……なんでもない」

 ナックルコングのライダーを拘束する部下が声を掛けてくるが、ララーシュタインは自身の思いも、何かの気配もその胸の中に飲み下した。

 今はただ突き進むしかない。

「ポラリス……私達を導いてくれ」

 日が昇って見えなくなってもそこにあるべき星、そしてその名を持つ志ある人物へと祈りを捧げ、ララーシュタインは自身の戦力を北上させ続ける。

 本土砲撃まで、残り一五時間。

 

新地球歴三一年 一〇月一五日 〇九四七時

赤石ダム

 

 ララーシュタイン達が北上する大井川の下流、旧世界のダム跡にはリン達の姿があった。

「アビゲイル少尉達の部隊は単独での攻撃も想定していたそうですね。その計画はどんなものだったんですか?」

 見通しの良いダム湖畔に到達したところで、リンはアビゲイルら戦略情報局の動きに興味を持って問いかけた。

「クリューガー准尉でしたか? 諜報機関である戦略情報局がそう簡単に情報を漏らすとお思いで?」

 そんなリンに対し、元々オクトーバーフォースとも戦略情報局に敵対していたハバロフは呆れたような声を掛ける。だがそれに対してアビゲイルはたしなめるように、

「共闘する相手に無闇に隠蔽などしませんよ。それに今日一日が正念場となるわけですからね。

 情報機関が思わせぶりなのは娯楽の中だけで充分です」

「む……」

 至極もっともな指摘にハバロフは黙り込む。素人扱いしようとしたリンに向けられた視線があったが、それは行軍の列とキャノピー越しでは当人には届かない。

「――先程お見せしたジオシティへの進攻ルートにはいくつか水中のルートが存在していまして、そちらから私達とは別の部隊が侵入して破壊工作を行い、そこに私達が突入する計画でした。真帝国によるネオゼネバス襲撃を参考にした計画でしたが、デストロイヤー・ガンの発射などを控えている現状では確実性に劣るのが正直なところですね」

「戦略情報局には水中用のゾイドも?」

「三軍とは独立した組織ですから一通りのものは備えていますよ。共和国もそうなのでは?」

「あうぅ……」

 ハバロフとは別方向から知識不足を指摘され、リンはしょげる。昨年の事件によって繰り上げでライダーとなった身では仕方の無いことであった。

「……まあ、誰にも世間知らずな時代はあります。私だってそうでした。

 そしてそれはいつか終わらせることができるし、終わる前に得たものが無駄であるとも限りません」

 ふくれっ面のハバロフと困惑顔のリンに対し、アビゲイルは実感のこもった慰めを告げる。その様子に、リンは反省で伏せていた視線を上げた。

「アビゲイル少尉は戦略情報局に入る前には何を?」

「……それはさすがに個人情報です」

 回答を免れるアビゲイルの様子に、ハバロフは今度こそ期待通りだと言わんばかりの表情を浮かべていたのだがやはりそれは周囲からは見えない。

「我々の別働隊は現在オクトーバーフォースの他の部隊を捜索していますので、もしかしたらもう合流しているかもしれませんね。残念ながら無線封鎖下ですが」

 そう言うと、アビゲイルのキルサイスが南アルプスの山々を見上げる。進行方向である北を指す視線は、そこに同じ戦略情報局のゾイドがいることを示しているのだろうか。

 そしてその視線を追ったリンは、アカツキライガーは気付いた。

「あの残骸……真新しい」

 それはダム湖畔の森の中に横たわるゾイド達の姿。オクトーバーフォースのものではない。デルポイ連邦のナックルコングだ。

 検分のためにハバロフの部下に無人のキルサイスを向かわせてみれば、それは確かに昨晩から今朝までに撃破されたようなもので、ご丁寧にライダー達が縛り上げられて脇に吊されている有様だった。

「オクトーバーフォース側が後退途中に撃破した、にしては余裕がある対応ですね。撃破手段は……切断されている残骸が多いような」

 ナックルコングは関節を断たれて倒れ込んでいる様子が目立つ。そして画面越しにその姿を見たリンは、その戦術をとれるゾイドを思い浮かべた。

「ギルラプター……グロース司令達でしょうか」

 その鋭い切り口だけではない。的確に肘や膝を断ち相手の行動を封じていったであろう手管は、昨晩リンが見たグロースの戦いを想像させるものだった。

 グロース、ララーシュタイン、ブルーダー……諦めていないであろう人々とゾイドをリンは思い浮かべる。

「……私達も急ぎましょう。まだ誰も諦めていない。私達は決して無勢ではない。

 みんなで、デルポイ連邦を止めるんです」

 再び見上げた山脈の北。最高峰にして目標足る北岳の姿はまだ見えないが、寒々とした秋から冬にかけての空はその接近を静かに示していた。

 

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