ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・新地球歴の建築物
 地球に入植した惑星Zi人達にとって、その生活圏を確保し広げることは急務であり、その過程で必要不可欠なのが建築物を作り上げることであった。
 最初期には移民船内の保守増築用資材を転用したパッケージ建設が移民船着陸地点の周囲に築かれ最初の都市圏が生み出され、建材の安定供給と安全な土地の確保に伴って、資料上に存在する従来の建築方法に則ったものが生み出されていくようになった。
 新地球歴30年代現在においては「建造物の第一世代」とも言える移民船資材による簡易建築物の多くは役目を終え通常建築に置き換えられているが、迅速な展開を要求される一部軍事施設――そして秘密裏に規模を広げる必要があったデルポイ連邦首都ジオシティにおいては移民船資材を用いた様式のものが数多く建てられている。

 また惑星Ziが失われた折に多くの歴史的建造物も喪失したことになるが、極々一部に関しては移民船団の旗艦に積み込まれ今日では各国首都の一部を担っている。
 特にネオゼネバスに存在する王宮区画は皇帝の威厳を維持する上でも重要なものであり、30年度に発生した真帝国クーデターでの被害に関しても即座に修復が行われている。
 一方共和国でも船内首都ネオヘリックに多くの施設が存在したが、これらはゼログライジス事件の際に移民船突撃と共に喪失した。このことが共和国国民に対してどのような影響を与えるかは未知数といえる。


NEW EARTH ERA 31 10/15 15:58

新地球歴三一年 一〇月一五日 一五五八時

ジオシティ 市街予定地

 

 地下の都市に激音が響き渡る。それは二体のゾイドが激しく打ち合った結果だ。

 戦場は移動し、将来デルポイ連邦の『国民』達が住むことになる集合住宅に入っていた。

「この団地は……」

 ブラックナイトをガンブレードで切り払って遠のけながら、アカツキライガーは複数の棟からなるブロックの中央広場に着地した。

 アカツキライガーの後足が石畳を噛み、広場の中央に作られた噴水にまで至る。そしてその噴水にはまだ水が流れていない。

 周囲の団地棟もこの噴水と同じだ。まだ動き出していない人の営みの場所――。リンは周囲の景色をそう感じた。

「ネオヘリックやニューホープにあった都市に似ている……移民船の資材を使っていたあの都市と近い存在ということですか?」

 昨年のゼログライジス事件で被害を受けた共和国首都のことをリンは思い出す。特に移民船の内部にあったネオヘリックは完全に失われた。しかし共和国軍人を志して教育を受けていたリンは、首都たるどちらの都市もよく知っている。

 この星にたどり着いた人々が新天地に希望を持ちながら作り上げた都市。それに似た姿を持つこのジオシティも、デルポイ連邦の理念通りであれば新天地への足がかりとなる物だろう。

 だが今のリンは、この都市に潜む『異なる動機』に気付いていた。

「ハハハどうした! 物件漁りか? ここの大将は移住者は歓迎するらしいぜ!

 今なら俺が取り仕切ってる仕事場もあるぜえ!?」

「どうせろくなことをやってはいないのでしょう」

 飛び退いたロイのブラックナイトが団地のバルコニーを踏み砕いて戻ってくるのに対し、リンはアカツキライガーの機関砲での迎撃をぶつける。射線はブラックナイトの軌道を追い、スラスターに点火したブラックナイトがその先を鋭いダイブで駆け抜けた。

 湾曲した足爪が迫ると、アカツキライガーは全身を横様に飛ばして蹴撃を回避。そして石畳の上を転がりながら視線をブラックナイトに向け、ガンブレードを突きつけるように対峙した。

 しかしその眼前に、ブラックナイトは高圧濃硫酸砲から腐食性の霧を撒き散らす。リンはその広がりに操縦レバーを引いて退くかと歯噛みするが、

「…………!」

 下がるものかと引き金を引く。ガンブレードから放たれた一撃は濃硫酸の霧を散らして突き抜けた。

 そしてその空間を、砲撃をこめかみにかすらせながらブラックナイトが踏み込んでくる。

「へえええガッツが付いたんじゃねえの!?」

 下がらないリンに対しロイは賞賛の声を上げながら、しかしブラックナイトの爪をアカツキライガーの目へと突き立てに掛かる。

 対するアカツキライガーは首を捻り、突き込みを分厚いたてがみ装甲に受け流す。そうしてブラックナイトを横に弾くと、さらに肩口からぶち当たって黒いギルラプターを団地棟へと突き飛ばした。

 当然ブラックナイトは鉄筋作りの棟を蹴って再び跳ぼうとする。しかしその足が壁面に突き立ち窓ガラスを砕くと同時に、リンは機銃掃射をロイ達めがけて放った。

「ヒエエひひひ、死んじまうよやめてくれえ!」

「そんな殊勝なことを言えたクチですかあなたは! もうわかりましたよ、あなた達の……あなたの性質は!」

 団地棟の壁面を駆け抜けながら掃射を躱すブラックナイトめがけ、リンは声を荒げる。挑発への苛立ちのような表面的な怒りではなく、より深い場所から沸き立つ激情がその声には込められていた。

 その剣呑さに、嘲笑うような態度を見せていたロイがふと黙り込む。そしてブラックナイトは一際強く壁を蹴ると、アカツキライガーの射界の外へ跳躍。別の団地棟の屋上へと降り立ち、まじまじとリン達を見下ろした。

「……なんか面倒くさいタイプになっちまったな。逃げ回ってる連中の方が痛めつけ甲斐があるか」

「! させませんよ!」

 文字通り踵を返すブラックナイトに対し、リンは即座にアカツキライガーを飛び出させた。

 屋上から降りたブラックナイトは団地棟の間を抜け、ゴア達が脱出に使う用水路の方がクへと駆け出している。それも単に地を走るどころか、棟の合間の空間を跳弾するような空中機動を交えてだ。壁を蹴り、共同廊下や非常階段に爪を引っかけ、脚力全てを前進する力に変えている。

 足がかりとなるものが多いこの地区はブラックナイトにとってトップスピードを出せる場所であるようだった。しかし、

「振り切れねえ……?」

 駆け抜けていくブラックナイトめがけ、藍色のアカツキライガーが食らいついていく。地を蹴る四足獣の疾走であり、この狭苦しい空間に特化したブラックナイトの速度には届かない走り方のはずだった。

 だがその後方に、莫大な量の石畳が基礎部の土と共に巻き上がっている。圧倒的なパワーによる加速が、効率化されたブラックナイトの速度への追随を支えているのが見て取れた。

「てめえはもう遊び相手じゃないんだよ」

 棟の外に張りだした階段を蹴り、宙に跳んだブラックナイトが身を捻る。そしてその側転の中から放たれた高圧濃硫酸の霧がアカツキライガーの前に瞬時に広がった。

 だが次の瞬間には、その霧を貫いてガンブレードから放たれた砲弾がブラックナイトを追い抜いていく。衝撃波に散らされた霧を抜け、アカツキライガーもかすかに塗装に酸を浴びながら迫り続けている。

「こいつ……」

「ロイ中尉! 人を小馬鹿にするのはそこまでです!」

 前方に展開したガンブレードを突きつけるようにして、リンはアカツキライガーからロイに呼びかける。その視線も切っ先も、のらりくらりと振る舞うロイを逃がさぬと言っているかのようであった。

「あなたはそうやって他人の行いを笑っているけれど、その結果何事も為さない……。

 ただ暴力を持って自分を安全なところに置いているだけで、本当は孤独な人です。

 それ以上あなたにその事実を隠したまま笑い続けることは許しません!」

「なんだあ? 人をお寂しい奴扱いして勝手に気遣ってくれてるってのかあ?」

「違います!」

 断固とした否定と共に放たれた機関砲の射線がブラックナイトをかすめる。少しずつ、リンはブラックナイトの速度を捉えつつあった。

 そして言葉はいち早くロイに突きつけられていく。

「あなたは他人を嘲笑うことも、幸せを感じることも許されないと言っているんです!

 共和国と帝国の国民……それどころかこのデルポイ連邦の人々すらも、あなたが笑っていい相手ではない!」

 棟の並びが途切れ、ブラックナイトが空中に飛び出す。そしてそれを追って、アカツキライガーはさらなる加速をもって跳躍した。

 その軌跡に金の光が散る。その輝きをロイは見逃さなかった。

「ゾイド因子か……!」

 光を散らしながら迫るアカツキライガーの切っ先に対し、ロイはその正体の名を呼ぶ。そして突き込まれる一撃を蹴り飛ばして、二体は空中で分かたれる。

 二体が着地したのは団地のエントランス部。ジオシティ内を循環するバスやタクシーゾイドのためのロータリーだ。

「放射するためのゾイド因子を自分の中に循環させることで能力を向上させているってわけだ。自分の脚を食って生き長らえるみたいな真似を――」

「話を逸らさないで!」

 リン達が行ったことを見抜くロイに対し、リンはあくまでも今ここで繰り広げられている戦いから目を逸らさない。ガンブレードの切っ先もブラックナイトに向けたままだ。

「他人を嘲笑い、他人が得ようとしているものをもう手にしているように振る舞っていても……あなたが手にしているのはただの暴力。

 誰かに危害を加えて否定することしか出来ない。だから言っているんです。あなたは孤独で、哀れだと」

「わけがわからねえなあ! 強くて何が悪い、ええ!?

 俺はこの力で誰にも文句を言わせず好き勝手できてるんだぜえ!?」

「それは押さえつけた相手としか共に過ごすことが出来ないということです。あなたはそうやって帝国とも共和国とも……デルポイ連邦とも付き合っているでしょう。

 それが孤独とどう違うんです!」

 リンの剣幕に、ブラックナイトが歯を剥いてかすかに視線を逸らした。それに対しアカツキライガーは、主の言葉を放つ土台として切っ先を掲げたまま佇み続けている。

「あなたは間違った幸福を掲げて、自分だけがそれを手にしていると他人を嘲笑っている。

 共に過ごすことが出来る人々を……そんなことを、私は許さない!」

「人捕まえて説教ぶちやがってよ……。本当にかったるい野郎になりやがった。

 ぶっ殺してやる……!」

 リンの言葉に向き合わず、ロイはブラックナイトにワイルドブラストを発動させる。背のショーテルが開くだけではなく、今やゾイド因子オメガを投与されたブラックナイトは紫色の燐光を放っていた。

 スラスターの吐く炎も長く伸び、強まる推力にブラックナイトは前傾し前足を地に突いた。

 そしてその推力を解放すれば、ブラックナイトは紫の尾を曳いてアカツキライガーに迫る。金属同士が噛み合う激音を残して交錯し、さらに切り返したブラックナイトは二の太刀で再びアカツキライガーを切りつけると空中に飛び出した。

「ふざけたツラぁ真っ二つにしてやっ――」

 振り返ったブラックナイトの視線の先で、アカツキライガーはまだその四肢を張って立ち続けていた。

 その顔面には十字に傷が刻まれたが、しかしゾイド因子の光と共に金属細胞が充填されロービジ塗装を除いて即座に回復が果たされていく。

「そして今やあなたは暴力においても最大の存在ではない」

「何……?」

「ゾイド因子オメガを単純に投与されたのあなたのギルラプターと、自らゾイド因子を抽出する私のアカツキライガーが同じ地平の存在だと思いましたか」

 リンはそう告げ、アカツキライガーのガンブレードをブラックナイトめがけて照準。そして連続する火線でロイ達を追い立てる。

「あなたは確かに強い。でもセカンドイシューと戦った今では、最も強い存在ではない……。少なくとも私達にとっては。

 にもかかわらず誰よりも上からの視線を振るうあなたは、間違った存在です……!」

「はあっ! 俺だって誰よりも強いつもりなんかありゃしねえや! ほどほどでいいんだよそんなもんはバトルマニアじゃあるまいし」

 叫びを上げながらロイはアカツキライガーに斬りかかる。ここまでで最高の速度を持ったその斬撃だが、しかそその鋭さはリンの言葉を掻き消そうとする悲鳴のようでもあった。

 幾重にもアカツキライガーを責め苛む刃。しかしそれでも動かないアカツキライガーに対し、ブラックナイトは正面に着地するとショーテルの長さを最大限に利用し、ライガーを両断しにかかった。

 石畳を蹴散らし、ショーテルの切っ先が地を掻いて甲高い音を立てる。しかし刃が切り込む瞬間、鈍い音が周囲に轟く。

 噴射煙を撒き散らしながら石畳の上に転がるブラックナイトに対し、アカツキライガーは悠然と振り向いた。

 その口には本来胴体に斬り込まれるはずだったブラックナイトのウイングショーテルの一方が丸ごとくわえられている。そしてその刃にアカツキライガーが牙を突き立て、金属の軋みと共に噛み砕いた。

 断末魔のように立ち上る紫のオーラ。しかしアカツキライガーはそれを折り割りながら飲み下し、ガンブレードの切っ先をブラックナイトに向ける。

「……ほどほどの強さなどでは、あなたの今の態度は生み出せないはず。

 あなたは自分が一番強いと思っていて、それは間違っていた。そういう存在です」

「て……んめえ……!」

 呻くロイに対し、アカツキライガーからの射撃が走る。それに対しブラックナイトが横転した体に鞭打ち団地棟の屋上めがけて跳躍すると、ロイはリンを見下ろした。

「てめえ好き勝手吹きやがってよお……! 種明かしてねえ手品で人のことおちょくったところでお前が強いとは――」

『ロイ君、そこまでにしたまえ』

 歯ぎしり混じりのロイの言葉を遮ったのは、この居住区画に張り巡らされた放送設備からのアナウンスだった。

 落ち着いた壮年男性の声。それはリン達の前に一度流れたことがある。

「ヘンリー・ムーロア……」

『アカツキライガー……専属ライダー、リン・クリューガー准尉。ジオシティへようこそ、と言いたいところだがそんな状況ではないようだね。

 狼藉はやめていただこうか。被害の半分はロイ君によるものにも見える、が……』

「おい! 政治の頭が戦場に口出すんじゃねえクソが! まだ……クソッ!」

 ロイが声を上げると、リンとアカツキライガーはブラックナイトめがけ射撃を放った。弾け飛ぶ団地棟の建材を受け、ブラックナイトは眼下のアカツキライガーを横目に見ながら踵を返す。

「てめえぶっ殺すっつったからな……。精々でけえツラしてろよ。それごと叩き落としてやる……!」

 吐き捨て、ロイはブラックナイトを団地棟の陰へと跳ばした。その姿が消えることで、集合住宅の風景にはアカツキライガーがただ一体残ることとなった。

「ヘンリー・ムーロア……閣下とお呼びしましょうか?」

『心にも無いことはやめたまえ、若い方。

 君が戦っている場所は我々にとっても大事な場所だ。我々の間に存在する誤解を解きたい。良いだろうか?』

 ヘンリーの呼びかけに、リンはアカツキライガーのガンブレードを収納させる。そしてアカツキライガーの首を振り、周囲を警戒しながら応じた。

「私はオクトーバーフォースの中でも大した権限の持ち主ではありません。

 そんな人間に向ける意味がある説得があるというならば聞きましょう」

『うむ……』

 地底都市に佇む獅子に向けて、反乱の指導者が言葉を投げかけ始める。

 

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