ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・開拓兵団
 惑星Zi人達がはじめに降り立った北米大陸から外へ開拓の手を広げる組織が、開拓兵団である。
 彼らの原型は新地球歴三〇年に起きた諸々の事件に対処すべく決戦された二カ国合同軍であり、外界の開拓という自己完結力を求められる任務を行うこともあって軍事組織ベースの集団となっている。その一方で開拓した土地を人類の生存圏とするため、多くの非戦闘員も同時に存在する。
 ジャミンガの発生が抑えられた新地球歴三一年ではあるが、未知の危険に備え軍が先陣を切って進み、人々がそれを追う。巨大な文明のスチームローラーとして放たれた存在が開拓兵団達であるといえよう。
 その一方で、設立間も無いこれら組織の中では最適な配置の模索や、後から技術的指導を行うために訪れるものもいるなど内情は流動的である。さらに合同軍からの移管や官民の連携、そして急速な人材確保などの面に設立されて間も無い組織独特の歪みも見受けられ、各兵団長は開拓以外にも様々な問題に立ち向かわなければならないようだ。
 開拓という道に背く者達が付け入った隙は、まさにその点であろう。しかしそれでも、人類の歴史は世界を広げることで続いてきた。多くの者達は先人の偉業を思い、そして自分達自身も歴史の最先端に生きる意気を手にしている。


NEW EARTH ERA 31 9/22 13:11

新地球歴三一年 九月二二日 一三一一時

東京エリア

 

 ゾイド因子オメガ除去チームを謀ってゼログライジスの現し身、ネガシルエットを強奪した者達を追う討伐部隊の戦いは始まった。

 グロースが指揮を執り、主戦力としてララーシュタインのセプテントリオン戦闘団を含んだ一行は発端の地東京への進軍ルートを取り、そしてかつてリンが見た風景を視界に収めるに至っていた。

「シブヤ・スクランブル交差点跡地……ふむ」

 リンを伴って調査に訪れたグロースが見るのは、ゾイド因子オメガ抽出機の稼働実験が行われた地だ。そこにはアカツキライガーの抵抗の痕跡と共に、巨大な足跡が南の道へと続いていた。

「抽出機の残骸も回収されています。修理を行って、ネガシルエットの強化に用いるのでしょう……」

「ふむ……彼らがゾイド因子オメガの除去をやってくれるんならいいんだけどな。ま、アカツキライガーがここにある以上奴らにはその手段が無いわな。

 ヤツらに出来るのはネガシルエットを強化することだけと」

 グロースが軽口を叩いてリンの肩を叩くが、リンは唇を噛み、拳を握りしめていた。彼女を見下ろすアカツキライガーも、大人しい気質ながらに唸り声を上げて俯いている。

「……まあ、そう気を落とすなって。これからララーシュタイン達も味方になって、奴らを追い詰めていけるんだから。

 と言っても、若い内はそう割り切れないもんだっけか」

 一人と一匹の様子に、グロースは腕を組んで苦笑い。彼にもそんな時代があったか、そんな仲間がいたか。その経緯は表情からは読み解くことは出来ない。

 そもそもリンは黙りこくりグロースに振り返りもしない。遙かに高い階級を持つグロースに敬意を払う若者らしい態度をしていたはずだが、失敗が堪えているのもまた若さ故か。

 そこへ、グロースの部下が彼に向けて走ってきた。渡される封書を開き、グロースは書面に視線を走らせる。

「……リン准尉、東京エリアで活動している他の部隊から呼び出しがかかっているぜ。共和国系のとこだな」

「えっ、私に?」

「この地域で発見されたゾイドについて、アカツキライガーの力が必要かもしれんらしい。君と同じ共和国系の派遣チームが立川という場所に待機しているそうだ。行ってみようか」

 突然の要請に、リンの表情は呆気に取られてグロースを見上げている。沈んだ表情が変わったことでか、グロースも翳りの無い笑みを返した。

 こういうときには成功を積み上げていくのが一番だ。グロースはそう感じる自身の思考に頷き、リンを苦い思い出の地から次の行き先に促した。そこでまだ年若い彼女に良い出会いがあることを期待しながら。

 

 そして反乱軍討伐部隊の移動が始まる様子を、東京の廃墟の一角から見下ろす姿があった。

 コンクリートの色を模したマントに身を包み姿を隠したそれは、グロースとリンの姿を追って移動し始めようとした。

 しかしふと何かに気付き、その姿はトランシーバーを耳元に当てる。一言を告げると、数棟離れた廃墟の非常階段で血飛沫が散った。

 暗闘がある。それは他の者が知らぬが故の暗闘だ。だが反逆の牙は、確かにこの地に巣くっているようである。

 

新地球歴三一年 九月二二日 一四三二時

東京エリア 立川

 

 移動したリンとグロースを待ち受けていたのは、風化した都市の中に広がる空間だった。アスファルトの舗装はひび割れ草生しているが、元々は飛行場か何かであったことが窺える。

 そしてそんな空間に、共和国軍の天幕が立ち並び活動拠点となっている。行き交う人々は共和国軍所属だが研究系の軍属が多く、ゾイドの姿は周囲を囲う護衛部隊に見えるばかりだ。

 だが天幕の並びにはよく見ればゾイド一体分の通路がある。そして今、リンはグロース達に先導されながらアカツキライガーをその先に進めていた。

 そこには一際大きな、ゾイド整備場に使われるような天幕がある。その入り口が開かれ、誘導はその中へ続いていた。

「この地域で発見されたゾイド……」

 その存在はあらかじめ伝えられている。しかし野生状態のゾイドが、取り押さえるための監視も無しにこんな研究拠点の中に安置されているということは、

「アカツキライガー、入場します」

 照明で照らされた空間へ。アカツキライガーは歩んでいく。背中に取り付けられた新装備の分姿勢を下げるのは、最近になってライガーが身につけた動作だ。

 そして天幕の中にいる影は、そんなアカツキライガーよりも低く体をうずくまらせていた。くすんだ青の、落ちくぼんだ目元のゾイド。

「これは……!」

『東京エリアに先遣隊として展開していた部隊が発見し、ここで検分されていた機体です。

 種はワイルドライガー。亜種が多い種ですが、これはその中でもワイルドライガーブレードと呼ばれるものです』

 スタッフがリンに告げる。インカム越しのその声は、事情の説明を続けていった。

『体構造の経年劣化や、施されていた塗装や装備の形跡からこの個体はゾイドクライシスの当時に発生したものであると判断されています』

「塗装に、装備?」

 このワイルドライガーブレードは野生ゾイドではなかったのか。そんな人為的な言葉が関わるゾイドなのか。

 見れば、うずくまるワイルドライガーブレードの脇、天幕の壁面に立てられたパレットに固定されたものがある。朽ち果てているが、金属製の物品が二つ。支持アームの先に機械の連なりがあり、装甲を支えるマウント部の周囲にだけカウリングの残骸があった。恐らくライガーと同じブルーだったであろうものが。

『この機体には操縦席の痕跡もありました。おそらくはゾイドクライシスに直面した地球人が戦闘ゾイドとして利用したということです。イレクトラ・ゲイトが引き起こしたゾイドクライシスの中で、地球人類が繰り広げた戦いの生き証人……このワイルドライガーはおそらくそれなんです』

 地球人類が、ゾイドクライシスによって一三〇年前の地球から姿を消した事実は昨年の事件の中で明らかになったことでもあった。そして本来なら遙か未来の地球に到着するはずだった自分達惑星Zi人の祖先が、その地球からの脱出者達かもしれないという。

『このゾイドを調査すれば多くのことがわかるのですが、なにせ一〇〇年以上のおじいちゃんですから。調査に耐えるだけの体力がもう残っていない。そこでアカツキライガーのゾイド因子で、このワイルドライガーの生命力を賦活したいわけです』

「ドーピングのようなものですか……。それこそこのライガーの負担になるのでは」

『大丈夫です。正常なゾイド因子は無生物と生物を区切るエネルギー。それはゾイドを死による停滞からも遠ざける存在です。

 必ずワイルドライガーの力になります! 私達を信じて下さい!』

 彼は研究スタッフ。このチームの関係者として、ゾイド因子投与の判断にも関わっているのだろう。

 その覚悟、自信。そんなものを感じて、リンは自分に立ち返って考えてみた。己がロイ達反乱軍を追う理由を、彼のように口にすることはできるだろうか。

 失敗を挽回しようとする気持ち以外に――自分に柱はあるだろうか。

 リンは汗ばむ手で操縦レバーを握りこむ。すると、アカツキライガーはかすかに首を傾けた。頭上の操縦席を、リンを見上げるようにするような動きだった。

 アカツキライガーは自分を気遣っている。そのことに申し訳なさと……心強さが沸いてくる。

「……一歩ずつ、進んでいこうか。アカツキライガー……」

 後ろからライガーの頭を撫でるように、リンはライガーのコンソールに手を触れた。そして機体が低く伏せるようレバーを押し下げる。

「わかりました。機体のコマンドシステムはこちらで管理します。ゾイド因子抽出の作業はそちらでお願いします」

『こちらこそよろしくお願いします! 頸部に出力コードを連結しますので、作業が完了次第アカツキライガーをエヴォブラスト状態に!』

 そう告げると、スタッフは周囲に控える仲間に矢継ぎ早に作業の指示を飛ばしていく。ライガーの首に存在する関節ボルトへ、野太いエネルギー伝達ケーブルが取り付けられた。そしてすぐさま作業員は退避し、アカツキライガーとワイルドライガーブレード、二体からフェンスで隔離された観測ブースに入っていく。

『準備OKです! リン准尉、よろしくお願いします!』

「……アカツキライガー! エヴォブラスト!」

 操縦レバーを押し込むリン。そしてその動作に応じ、アカツキライガーはゆっくりと起き上がりながら全身に力を漲らせ、さらにパネルラインや関節ボルトから橙色の光を溢れさせていく。

 巨体から溢れるほどの生命力。そしてそれは連結されたケーブルからも光を漏らしながら伝達していき、傍らの機材を経て、沈黙するワイルドライガーブレードへ。

 乾いてひび割れた土に水が染みこんでいくように、ゾイド因子の光はワイルドライガーブレードの全身に伝播していった。うずくまったままの姿は光に包まれていき――そしてやはり動かない。

 リンは歯噛みする。そしてその視線は、観測ブースのスタッフ達を捉えた。彼らも拳を握り、固唾を呑んでこの光景を見守っている。

「――ワイルドライガーブレードッ!」

 目の前で命の灯火を絶やしつつある存在。それに対し、リンは自分が抱く感情を理解するよりも先に声を上げた。

 そして同時に、アカツキライガーも吠えた。若き獅子から老いた獣に向けて轟く叫びは、天幕を支える鉄骨と、それを支える大地を震わせる。

 勇壮でもあり、挑発的でもあり、そして悲痛でもあるその咆哮。そしてスタッフ達が思わずインカムやイヤーカットを押さえて縮こまる中、錆びた金属が擦れる音が叫びに紛れる。

 こびりついた時間の残滓をこぼれさせながら、ワイルドライガーブレードはその顔を上げていく。それまで下にしていたために見えなかった右の横顔、焼けただれたような溶解の痕が露わになって、古き英雄の視線はアカツキライガーを正面から見据えた。

 あまりにも多くの見てきたであろうその目は、装甲と同じようにくすんでいる。しかしその眼差しは、光を放つアカツキライガーの姿を映して煌めいていく。

『動いた……! 大成功だぁ!』

『ありがとうございますリン准尉。ワイルドライガーブレードのバイタルが安定していきます。すごい、ここまでとは!』

 計測機材や、実際に立ち上がりつつあるワイルドライガーブレードを前にスタッフ達も歓声を上げている。その姿に、リンは胸元から熱いものがこみ上げてくることを止められなかった。

「……皆さんが、しっかり準備していたからですよ」

 そう言いつつ、耐Bスーツの袖でごしごしと目元を拭うリン。音声回線越しなのでその姿を見られないのが救いだった。

 そしてアカツキライガーに相対し、ワイルドライガーブレードは震えながら立つ。萎えた四肢に力を入れて立つその姿は、しかし生まれたばかりの幼獣が初めて立ち上がったかのようにも見えた。

 錆び付いた時計が動き出すその場に居合わせ、リンは言葉も無い。自分とアカツキライガーは無力などではない……そんな感覚が、操縦レバーを握る手からリンを奮い立たせていく。

 しかしその時、天幕内の喧噪を掻き消すようなサイレンが鳴り響く。その鋭い高音は、軍用の空襲警報だ。

『南方より敵味方識別に反応しない航空ゾイド集団が接近中。戦闘要員は対空戦闘用意。非戦闘員は所定の指示に従い退避されたし。繰り返す――』

 合成音声のアナウンスまでもが始まる。その響きに観測ブースのスタッフ達は騒然となるが、しかし動き出すのも早かった。

『リン准尉、ワイルドライガーブレードを退避させます! 誘導をお願いできますか!?』

「――もちろんです! 誘導だけじゃない、このライガーを守ります。どこまでいけばいいんですか?」

『掩体壕はすぐ近くに用意してあります。ただ、戦術情報によれば接近しているゾイドはかなりの優速です。こいつは……』

 リンとの通信を担当するスタッフは、情報が表示されるタブレットを手にしながら困惑した表情を浮かべていた。

『この速度はソニックバード・タイプ。開拓の最前線に展開しているはずの富士航空隊に配備された新鋭機のはずです!』

「共和国の部隊……。私の国からも反乱軍が!?」

 愕然とするリン。そして彼女を乗せたアカツキライガーを、立ち上がったワイルドライガーブレードは静かに見据えていた。

 

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