ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot 作:高杉祥一
・ドライパンサー
帝国軍が開発した隠密破壊工作ゾイド。新地球歴30年ロールアウトの同コンセプトゾイドにはガトリングフォックスが存在するが、能動的な光学迷彩を中心とした当該機体に対しパッシブな低視認性、静音性を重視することで夜戦に適した機体特性を持つ。
またライオン、タイガー種に比肩する機体剛性を誇るパンサー種ゾイドを原型とすることで格闘性能に優れ、さらに新設計の武装懸架ユニットを搭載することで重武装・強襲ゾイド化も容易い。このことから特殊作戦部隊のみならず主力ゾイド部隊への配備も検討されていた。
しかし当機は真帝国の反乱に際し先行量産型が反乱部隊によって運用されたことから民間、軍事関係者問わずその運用に複雑な感情が抱かれている。ゼログライジス事件以後生産体制は確立しているが、これを正面切って運用しているのは風聞を気にしないララーシュタイン率いるセプテントリオン戦闘団など一部の部隊に留まる。
新地球歴三一年 一〇月一五日 一八五〇時
ジオシティ 西部パワープラント・産業地区
光の消えた地下都市は、しかし変わらず戦場であった。
曳光弾の光条が行き交うその場所は西部ブロックと他のブロックとの行き来に用いられるインターチェンジ周辺。すでにハイウェイは砲撃によって破壊され、しかしその残骸を盾にゾイド達が撃ち合う状況だ。
『索敵情報更新。敵の位置を新たに送る』
『ありがとう! しかししぶといな。前線をここまで押し上げられるとは……』
デルポイ連邦側ではディメパルサーの支援を受けたアンキロックスが一機、オクトーバーフォースが潜む西部ブロック方向に攻撃を続けている。しかし手応えも空しく応射が飛んでくる状況に、アンキロックスのライダーは機体を前進させた。
『ここからじゃ残骸越しにしか狙えな――』
その瞬間、姿を現したアンキロックスに飛びかかる影があった。金属の巨体同士が激突したにも関わらず異常なまでに静かなその一撃は、すぐそばまで接近していたドライパンサーの奇襲だった。無論、ドライパンサーはオクトーバーフォース、リン達の側に属するものだ。
『この暗闇なら俺達は本領を発揮できるな』
『砲撃戦が互角なら戦線を切り崩せる分俺達が有利……であってほしいもんだが』
暗闇の中で言葉を交わすドライパンサーのライダー達。そしてそんな彼らの前で引き続きデルポイ連邦側は戦線を押し上げるべく、別の箇所でゾイドを前進させているのが見える。
そしてドライパンサー部隊が見る前で、新たな敵の前線は後ろからの攻撃を受けた。瞬間的に紫の稲光が走り、そして路上に展開した彼らの背後から飛び込んでくる。
『キェエエエエエ!?』
鳴り響く怪鳥音はゾイドではなくそのライダーの叫びだ。姿を現す紫のファングタイガーの周囲に、さらに紺色のライガー、灰色のハンターウルフが並び立つ。
『多少の無茶の部分はあの人達がどうにかしてくれる……と思いたいな』
『他力本願なこった……』
街灯下の三体を一瞥し、ドライパンサー達は再び闇に溶けていく。
新地球歴三一年 一〇月一五日 一八五二時
ジオシティ 西部パワープラント・産業地区
「はてさてどうして、暗転させたにも関わらず敵の動きは活発であるなあ!」
リン達に合流したララーシュタインはこの暗転ジオシティでの戦いで率先して切り込みを勤めている。
「我々は視界の悪い空間での機動戦は慣れ親しんだものだが、敵がそれに慣れているのはどういうことだろうか?」
「俺達と似た理由じゃないのか」
ララーシュタインとは古い仲と言えるブルーダーが応じる。リンが周囲を警戒する一方で交わされる言葉は、
「似た理由とは何だね」
「慣れているってだけだ。俺達の寒冷地への勘みたいなもんだよ。
向こうはここを本拠地として……防衛するための訓練も積んでいるはずだ。『目をつぶっていても』ここでは戦えるというわけだろう」
「ぬううそれではお膳立てをしてしまったようなものではないかね」
悔しがるララーシュタインに応じ、ファングタイガーのローゼンティーゲルは歯ぎしりを見せた。この暗夜の中では金属の牙が軋って落とす火花の紫も鮮やかだ。
そしてその一瞬の光の中にアカツキライガーの横顔が浮かび上がり、その操縦席でリンは呟く。
「デルポイ連邦の士気は高い……この国を作るために、全力を尽くしている人々もいる……」
ここまでロイという個人を相手にしてきた傾向が強いリンとしては、デルポイ連邦に誠実な兵という存在を改めて見るのは思うところがある出来事だった。
「……でも生きる場所を作ろうとする思いは、共和国も帝国も同じはずです。デルポイ連邦だけが悪意に満ちた方法を使ってでもそれが許されると言うことはない……」
オクトーバーフォースの兵としての認識を改め、リンはアカツキライガーの操縦レバーを握り直した。
「ララーシュタイン少佐、ブルーダー少尉、続く敵部隊に向かいます! 先導は私が!」
暗視モニターに浮かぶ新たな敵影へ、リンはアカツキライガーの鼻先を向けた。その頭上でA-Z機関砲が展開し、突撃の道を拓く構えを見せる。
「クリューガー准尉、先走るな!」
「でも時間が無いですよ……!」
ララーシュタインが警告する一方でアカツキライガーを飛び出させたリンは、高架の陰に潜んで前進しようとしていたデルポイ連邦のパキケドス部隊を真っ向に見ていた。
身を潜めていた敵だが、アカツキライガーが機関砲を乱射しながら接近してくればもはや隠れていることも出来ない。すかさず分散してリンの突入を受け止める構えを取った。
「パキケドス……」
リンが思い出すのは厚木エリアで遭遇したロイの遅滞作戦。離反者を閉じ込めた機体がその場で使われたことがリンの心の中に引っかかりを残している。
「――今回の相手はデルポイ連邦の正規兵。ためらうな、リン・クリューガー……!」
ここまでロイに固執してきた自分に活を入れるロイに、アカツキライガーも応じる。牽制の弾幕を切って跳躍したその影が、パキケドスの一体を捉える。
二足歩行するパキケドスは横転した状態に弱い。押さえ込んだアカツキライガーがその首筋に牙を突き立てれば抵抗しようとした機体が動きを止める。
だが相手を押さえ込むということは自身も動きを止めるということだ。装甲が分厚いとはいえ高速ゾイドであるアカツキライガーに対し、強襲目的のパキケドスは強力な火器を搭載している。
『クソっ……旧世界人め! 俺達の首都から去れ!』
パワーライフルを構えて突進してくるパキケドスの一機。それにアカツキライガーが振り向くと、暗い都市にも鈍い色の影が横様に襲いかかるところであった。
「北米大陸に危険をもたらしているのはお前達の側だろうが……!」
横様に現れたのはブルーダーのハンターウルフ・エコー。パキケドスの喉笛に食らいつきねじ切るその機影に対し、残る一機のパキケドスが怯えるように身をすくめた。
「――身をすくめたな! そんな覚悟で前線に出てくるべきでは無かろうが!」
その一機に襲いかかるのは紫の稲光をたなびかせたローゼンティーゲル。ララーシュタインはデルポイ連邦の兵が相手でも容赦が無い。
ドライパンサーから移植されたドライブレードが火花を散らすが、ローゼンティーゲルに傍らをかすめられたパキケドスはさらにまばゆい光に包まれた。側面を切りつけられ倒れるその姿を、ローゼンティーゲルは鋭い爪で押さえつける。
「……既存世界への復讐を求めながら、新世界の開拓者を名乗るなどおぞましいことだよ」
デルポイ連邦兵を組み敷きながら、忌々しげにララーシュタインは呟く。普段のララーシュタインとは様子が異なるその口調にリンが視線を向けると、ブルーダーも怪訝に思ったのか問いかけるところだった。
「噂の北極探検でなにか得るものがあったのか? ララーシュタイン閣下」
「茶化してくれるな。
しかしかつていたのだよ。未知なる世界を拓くことに、未来への希望を見いだしていた人が。
それに対して……自分達の復讐のために新世界を語るこの国よ」
歯がみするララーシュタインの言葉に、リンはゆっくりと頷く。
この新国家の首都は帝国と共和国が存在する北米から遠く離れているにも関わらず、あまりにも背後の大陸に目が向きすぎている。暗くなった頭上に光のラインとして見えるデストロイヤー・ガンの一部がその最たるものだ。
「……今ある世界への恨みではなく、純粋に新しい世界への思いだけで世界を開拓していけるんでしょうか。これだけ私達の国に恨みを持つ人々がいて、こんなに大それたことをしているというのに……」
「できるとも。少なくとも私はそうしようとしている人を一度は見たことがある。彼女こそ帝国の至宝であった」
リンの呟きにララーシュタインが即座に応じた。帝国への忠誠を常に表にしているララーシュタインが、皇帝以外の誰かの話題を出すのは珍しいことだった。
「少佐が何を見たのかは知らないが、例えばユインの一族は保護されるような小さな集まりだがこの地球に自分達の文化を根付かせようとしているぞ。
騒乱の時期に帝国に利用されそうになったようだが今でもそれは変わらないそうだ」
「ンンン」
気まずそうにララーシュタインが咳払いをする。二人の間で語るべき過去は多いようだ。
苦笑でこわばりを解しつつ、リンは戦場を見渡す。戦乱の地底都市が視界に広がるが、一度ここまで到達した人類がまたこの地まで前進できる日は近いのかも知れない。ララーシュタインとブルーダーの会話を聞いたリンは前向きにそう考えることにした。
しかしそんな彼女の視界に、ふと動く光が入ってくる。位置は空中だが、天井の非常灯やデストロイヤー・ガンの光よりは近い。
「飛行ゾイド……?」
非常灯の光をはらんでわずかに煌めく翼を持つその影にリンは目をこらす。しかしそれと同時に、より強い光が闇に沈んだジオシティの一角を照らし出した。
「照明弾……!」
まばゆい光にリンが目元を覆うのと、操縦席キャノピーの対閃光機構が作動しリンの視界を保護する。
これまで夜戦への特別な対応を見せなかったデルポイ連邦側が突如として投入した照明弾。その存在にララーシュタインもブルーダーも視線を上げる。
「なんだ? 今更視界を確保する? これまでと異なる戦力を投入するつもりか?」
ララーシュタインの判断は早い。しかしその一方で視界に入ったものを判断することに関してはブルーダーが長けていた。
「見ろ! 照明弾を投下したゾイドはあれだ!」
ブルーダーが声を上げ、エコーが首を上げた先には確かに照明弾を手前に置いてホバリングする機体がいる。それも三機。
「クワガノス……!」
共和国が近年採用したクワガタ種の航空攻撃ゾイド。しかしオクトーバーフォースに属するものは、デルポイ連邦が運用するそれが意味するところを知っている。
「使うつもりか……この地下都市でセカンドイシューの砲撃を!」
「全部隊、敵の砲撃に警戒せよ! セカンドイシューが動くぞ!」
二人のベテランが合流した自軍戦力に呼びかける。リン達オクトーバーフォース側の部隊は暗闇に紛れて前進するドライパンサー隊に、ギャランのスカベンジャーと合流して前進を試み続けているキャノンブル部隊……さらにジオシティ内の運河に侵入したキリング達バズートルの小隊もここにはいるのだ。
空中に観測機を置いての砲撃がここに降り注げば、それは昨夜の再現になりかねない。その状況が突如として発生したこの瞬間に、リンは驚愕するしかなかった。
「セカンドイシューの砲撃を使えばこの都市の被害は相当なものになるはず。それでも……戦うつもりだと!?」
リンが虚空に問いかける先、クワガノスの背後に浮かび上がるのはインフィニティミサシル――セカンドイシューが放った誘導弾の姿だった。
新地球歴三一年 一〇月一五日 一八五六時
ジオシティ 東部軍事地区・最奥部
「よくもまあ……やってくれたものです」
暗転したジオシティでは、この東部地区からでも西部の戦闘の光を見渡すことが出来た。そして今その光を凝視しながら、冷媒が上げる白煙をまとってセカンドイシューの巨体が固定位置から前進しつつある。
『カナン、ジオシティ内部ではセカンドイシューの火力は過剰といってもいい』
「わかっていますヘンリー閣下。可能な限りこの都市へのダメージは留めてみせます」
セカンドイシュー起動はカナンの独断ではない。デルポイ連邦の長たるヘンリー直々の命令だった。それが意味するところを汲んで、カナンはセカンドイシューの操縦桿を静かに握り直す。
だがヘンリーが下す指示は苛烈なものだった。
『いや、すでにジオシティは大きなダメージを受けているが、同時にこれまで作り上げてきたものは基礎部分に過ぎない。
ジオフロント構造の崩壊を起こさない範囲で存分にやってくれ。ここに集結している戦力はオクトーバーフォースの半身……ゾイド因子強化機体アカツキライガーの姿もあるという。
今のジオシティを犠牲にしてでも、あの敵を撃破できればそれに越したことは無い。やれ、カナン。君とセカンドイシューにならできる』
「……はい!」
未来の首都を犠牲にする覚悟は、ヘンリーが傍流ながらに引くムーロア……かつて惑星Ziで数々の国家を指導した者達の果断な血脈を感じさせるものだった。
「閣下が作り上げる新たなる国家のために……死力を尽くします」
ヘンリーが下す指示に、カナンは身を震わせる。
カナンのルーツは惑星Ziに存在したある島嶼の少数民族……それは希少な文化を継ぐ一族であった。
だがその文化と記録はこの星にたどり着いた多くのゾイド人にとっては価値が無いものだった。古くさい古典的なものを好む者など……。それどころか少数ながらに生存を主張するカナンの一族を大衆の一派は迫害にかかった。
その状況に甘んじる一族……その一人たる少女カナンを登用したのが、ヘンリー・ムーロアその人だ。
その言葉が自分達に向けられたこと、その背後に惑星Ziの大いなる血族の系譜が存在すること。それがカナンという少女に揺るぎない力を与えている。
「観測機、戦術情報転送!」
カナンの叫びに応じ、前線に展開していたクワガノスが照明弾を射出し、敵の位置情報を観測し始める。
カナンの傍らにはその情報を反映した戦術マップが表示される。カナンはその立体映像を撫でて敵のアイコンに触れていく。
「インフィニティミサイル戦術ロックオン……ウェーブ・ワン、掃射!」
セカンドイシューの背後で爆煙が吹き上がり、その中から機体の新陳代謝で生み出された生体誘導弾がジオシティの暗夜へと解き放たれる。遠隔照準に従ったそれらが向かう先は、この都市を襲う敵。
臨み見るジオシティの夜景に、ミサイルの噴射煙が吸い込まれていき、着弾地点にライン状に爆光が瞬いた。
オクトーバーフォースの前線に撃ち込まれる威力は、今夜北米に撃ち込まれる旧世界との決別の一撃の予兆にも見えた。
復讐と言いたければ言えばいい、とカナンは思う。デルポイ連邦が成立したならば、帝国も共和国も存在しようがしまいが、滅びようがどうなろうが……。
燃えさかる都市にカナンは暗い感慨を浮かべる。そこで燃えているのが自分達の都市だということがわかっていても。その倒錯を認識していても、新世界への焦がれは止まない。