ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・バンカーバスター
 地底貫通爆弾。その名称通り地底に建設された敵勢力の設備を攻撃するための航空爆弾である。
 ゾイドの装甲ではなく敵拠点に覆い被さる地形という、より巨大な物体を貫徹する必要があるためその構造は特異なものとなりやすい。少なくとも単に炸薬量を増せば敵に打撃を与えられるわけではなく、強固な弾芯や瞬間的な加速のためのロケットモーターを搭載する場合もある。
 新地球歴30年代現在、各国の軍事施設はまだ高度に要塞化されたものなどがあまり存在しないことからこの分野の兵器開発はあまり進んでいないが、対地攻撃能力が高いスナイプテラを開発した帝国軍においては若干数が生産運用されている。それらはあまりにも強固な装甲を持つ超大型ゾイドが運用されたゼログライジス事件において対ゾイド戦に投入されることも検討されたという。


NEW EARTH ERA 31 10/15 19:08

新地球歴三一年 一〇月一五日 一九〇八時

ジオシティ 西部パワープラント・産業地区

 

 暗転した都市に炎が広がることで、再び地底空間には光が満ち始めていた。しかしこれまでと異なり、地上から地底の天井を照らす光には戦場でうごめくゾイド達の影が浮かび上がりさながら百鬼夜行の様相を呈している。

 そしてその地に立つ者達にとって、その場所は確かに地獄と化していた。

「ララーシュタイン少佐、キャノンブル部隊はどこに……!」

「ええいミサイルが降ってくるのではどうにもならん! 倉庫でもなんでも……上空から発見されない位置へ移動させねばならん!」

 そう言うとララーシュタインが駆るローゼンティーゲルは一瞬悔しげな視線を空中に向けた。そこにはこの惨禍を生み出した者――セカンドイシューのミサイルを誘導するクワガノスの姿がある。

 運河に展開したキリング達によるものか、対空射撃がクワガノス達には向けられている。しかし空中の影は上下に左右に自由に回避しながら新たな獲物を探し続けていた。

「私は友軍をまとめて誘導する。ブルーダー、君は対空戦の得手だろう。上の連中を頼む。

 クリューガー准尉も……できるか?」

 ララーシュタインの指示にブルーダーは頷き、そして駆け出す。去り際のララーシュタインはリンとアカツキライガーにも振り向くが、

「――問うまでもなかったか。頼むぞ!」

 毅然と宙を睨むアカツキライガーの姿に、ララーシュタインは愛機を駆け出させる。そしてその場に残っていたアカツキライガーも、アスファルトに爪痕を残して跳躍した。

 

「対空戦……覚えている」

 呟くリンはアカツキライガーをそばに残る高架上に降り立たせると、すかさず機関砲の掃射を空に向けた。ばらまかれる弾幕に、狙われたクワガノスは急旋回でその空間を逃れていった。

 そしてその背後の空には次なるミサイル群。その内何発かは反撃を仕掛けたアカツキライガーに向けて旋回しつつあった。

「よし……来い」

 リンの操縦に、アカツキライガーは飛び退く。剥がれかけているが迷彩を施されたその機体は、炎の影に溶け込みながら加速し始めた。

 一部でも敵の攻撃を誘導できれば御の字だ。そして自身の周囲に着弾があれば、上空の敵への一撃を繰り出せる。その一瞬に賭けるために、リンはアカツキライガーに活を入れた。

 そして降り注ぐセカンドイシューのインフィニティミサイル。周囲で炸裂する爆風の中、アカツキライガーは横様に熱風を叩き付けられながらも止まらない。

 周囲に降り注ぐ破壊力には目もくれず、リンは前方の地面を書き込むアカツキライガーの爪だけを見つめていた。一心不乱に向かう先には倒壊し坂状になった高架の残骸。

「立川戦、ソニックバード相手にあの攻撃は届いた。今の私達なら!」

 炎にかき消されながらアカツキライガーは疾走を続けた。そして周囲ごと煙の中に沈んだ直後、立ちこめるものを引きずってその影は空中に躍り出る。

「アカツキペネトレイタァァァァァッ!」

 ガンブレードを展開し、紺碧の機影は空中を鋭く貫く。その切っ先が向かう先は、一心不乱にクワガノスの一機を捉えていた。

 空中に飛び出したアカツキライガーにそれ以上姿勢も軌道も制御する術は無い。瞬発の威力だけを武器に、空中戦の得手であるクワガノスに襲いかかる。その一撃は、

「届け……!」

 リンの叫びが最後の一押しとなったかのように、展開したガンブレードの切っ先がクワガノスの腹部に斬撃の火花を散らした。

 そして切り抜けるアカツキライガーの背後から、空中に展開する別のクワガノスが襲いかかってくるが、

「アカツキベイオネット……!」

 切り抜けた勢いで身を回しながら、アカツキライガーはガンブレードの先端も稼動させていた。回転の中から一瞬後方を向いた切っ先が、クワガノスの真正面から砲撃を放つ。

 直撃が巻き起こす爆煙。一跳びで二つの影を撃破したアカツキライガーは、倒壊した高架の残骸へと降り立つ。

「これで少しでも……どうだ!?」

 セカンドイシューの目であるクワガノスの撃墜。それを為したことは自軍の被害を食い止めることとなるはずだ。

 だが大跳躍から着地したアカツキライガーの頭上を、さらに一体のクワガノスがフライパスしていった。

 敵の目はまだある。さらに追加装備を抱え散るように見えるクワーガや、デルポイ連邦側のディメパルサーの姿も周囲にはあった。

 セカンドイシューの暴威を、デルポイ連邦が布陣する隅々にまで届けるシステムは維持されている。リンとライガーだけでそれを打ち破ることは出来ない。

「く……!」

 歯噛みするリンが見上げる宙空。そこに後方から砲火が飛び、上からの視点を取り除こうと抵抗を続けている。

『クリューガー准尉、強攻するな。俺達の戦力は現状オクトーバーフォースの中核として失うわけにはいかないものだぞ』

 一際鋭い対空砲の一撃を撃ち上げ、ブルーダーが駆るエコーがアカツキライガーの隣に駆けつける。さらにデルポイ連邦の隊列めがけ、ローゼンティーゲルが突入していく姿も見えた。

『ララーシュタインもか……。無茶をしなければならない場面ということか?』

 苦々しく呟くブルーダーに、リンも嘆息するしかない。ここはデルポイ連邦の本拠地でありながら、オクトーバーフォースは半身を失った状態なのだ。それでもここまでたどり着けたことは僥倖だが、やり遂げなければならないことへはまだ遠い。

 残る半身がここにあれば。今日一日の強行軍を導いてきたリンは、詰めることが出来ない残りの距離を見渡して叫んだ。

「グロース司令……! なぜあなたはここにいないのですか!」

 張り詰めたものが崩れかけるその瞬間、再び飛来するインフィニティミサイル。燃えさかる都市と降り注ぐ災厄を前に、リン達の前進は完全に停止していた。

 そして爆轟と土煙が地下空間に広がる。しかしその破壊力は、地上のリン達を打ち据えるのではなくジオシティの天井を貫くものだった。

「…………えっ!?」

 頭上で起きた突然の破壊に、ミサイルの飛来を待ち構えていたリンは一呼吸の後に驚愕した。そしてその間に、炸裂したジオシティの天井がミサイルを巻き込みながら土塊を地上へと落下させてくる。

『クリューガー准尉!』

 呆気にとられるリンとアカツキライガーに、ブルーダーが操るエコーがタックルする。そうして退いたその場所へ、砕けた天井からの土塊が叩き付けられた。

「これは、ジオシティの天井が爆破されている……?」

『全面的な崩壊ではない。局所的に破壊されているということは……何かが貫通したような』

 高空での出来事を見渡すことに長けたブルーダーは、頭上で起きた大破壊を瞬時に分析しているようだった。そしてリンがその言葉に視線を向けた途端、二人の傍らに土塊よりも重い何かが落下してくる。

 それは長い金属構造体の後方にロケットモーターが接続された巨大な残骸。長い距離を貫通することを目的としたミサイルの根幹部分であることは明白だった。

「セカンドイシューのミサイルじゃない……ということは!?」

『地上……北岳上空から攻撃が行われているのか』

 周囲にも土塊に混じって同じような残骸が複数降り注いでいる。そしてジオシティ天井の炸裂はその数と等しいだけの数であった。

「航空攻撃……ということは!?」

 勘づくリン。その瞬間、土砂の雨が降るジオシティの夜空に落下傘が広がるのが見えた。

『バンカーバスターによる地底貫通攻撃に、空挺降下。外部からジオシティを攻撃している者がいるということであるなあ』

 追随してきたララーシュタインが隣に並び、強襲の宴と化したジオシティの宙空を見上げる。その空に突如として現れた落下傘装備のギルラプター達が、回避行動を取るクワガノスやクワーガへと射撃を開始していた。さらに続けて天井の破孔からはスナイプテラに加え、赤白黒の機影が出現する。

『航空技術実験団エクスペリメント51部隊――〈ライトフライヤーズ〉! アタック!』

 聞き覚えのある声と共に三機の機影が散開する。スナイプテラに比べて短い頭部と長い尾。ソニックバードだ。

「エトピリカ……カノー少佐達だ!」

 立川航空戦で出会い、南アルプス攻略戦ではオクトーバーフォースと連携を開始した御殿場の部隊。そこに加わる彼らがジオシティ攻略に加わったことは明白だった。

 そしてその指揮を執れる者は一人しかいない。

「待たせて悪かったな、クリューガー准尉! ブルーダー少尉! ララーシュタイン少佐!」

 落下傘部隊を追い抜いて現れるのは、低高度減速用にブースターを積んだ機影。まだ火の手が上がるジオシティをして暗い色彩のその機体を、リン達はよく知っていた。

「ナハトリッター……グロース少将!」

 オクトーバーフォース司令官であるグロース・アハトバウム。そして彼が駆るギルラプターであるナハトリッター。昨晩を最後にリン達の前から長く姿を消していた二者は、今爆轟に包まれていくジオシティに確かに降り立った。

「グロース……少将……! 今までどこに!」

 様々な感情がない交ぜになった叫びを上げるリンに対し、アカツキライガーは静かにナハトリッターと視線を交わす。使い手とその愛機ですらもそれぞれの思いを見せるその姿に、通信ウインドウを開いたグロースは静かな頷きを見せた。

「ま、心配も苦労もかけてしまったことは否めないな。至らない指揮官で済まない。部隊を率いて御殿場方面に脱出して航空部隊をまとめていたんでな。

 准尉達が後送した人員を保護する部隊も送ることが出来た……が、批判は続く歴史の中で受けよう。そのためにもまずは、セカンドイシューの撃破と、デルポイ連邦の攻撃阻止に取りかかろう」

 あくまでもグロースの視線は、オクトーバーフォースの目的の方向に向いている。その言葉を受けて、リンは吐き出しかけたさらに多くの言葉を飲み込む。愛機と同じように落ち着き払い、力ある視線を取り戻し、

「俺がボロクソに言われる明日のために……前進再開! 降下部隊と航空部隊に合流せよ!」

「――了解! 司令官! リン・クリューガー准尉以下、原隊復帰します!」

 今こそ"オクトーバーフォース"は再び隊伍を整え、デルポイ連邦に対峙した。その先陣を切るべく駆け出すリン達の視線の先、地底の炎の彼方にはジオシティ最奥のセカンドイシューの姿がかすかに浮かび上がり始めていた。

 

 

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