ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・前線指揮ゾイド
 多数の兵科や目的のために運用されるゾイドの中には、直接戦闘ではなく前線での戦闘指揮を行うための機体も数多く存在する。
 当然俯瞰した視点を持っての指揮は後方の安全な位置から行うことが最適ではあるが、伝達や状況把握のタイムラグ、並びに意思疎通のトラブルや戦場の分断に即応可能な前線司令部の存在は戦術上必要不可欠なものである。
 またそれに加えて、一部のゾイドにとっては本能である『群れをなすこと』において、強力な前線指揮ゾイドの存在はより強いポテンシャルを引き出す可能性があると述べる研究者もいる。
 あるいはそれは、運命に翻弄され避けられたかも知れない戦いを繰り返す、未だ幼い種族であるゾイド人にも共通することかもしれない。歴史上、国家間の決戦において指導者が移動司令部としてのゾイドに搭乗し出撃した事例もまた多数存在するのである。


NEW EARTH ERA 31 10/15 19:15

新地球歴三一年 一〇月一五日 一九一五時

ジオシティ 東部軍事地区・最奥部

 

「な、なにが……」

 旺盛なミサイル攻撃を放っていたセカンドイシューの眼前でジオシティの天井が炸裂したのがつい先程のこと。カナンは土埃の瀑布の彼方に、降下侵入してくる多数のゾイドの姿を見た。

「北岳上空からの航空攻撃と空挺……。制空権はどうなっているんですか! 死守命令が――」

『それは先程までの話だ、カナン』

 カナンの叫びに応じるのは当然ヘンリーの声だった。しかしその背後から聞こえる環境音の変化に、カナンは操縦席から背後を振り返る。

「閣下!? まさか……司令部の放棄を?」

『内部に侵入を許し、セカンドイシューでの攻撃を開始した時点で想定していたことだよ。

 幸いにもデストロイヤー・ガンはまだ稼動するが、ジオシティは再建を要する。そして我が軍勢をこの攻勢に付き合わせるのは損失が大きすぎる』

 撤退を臭わせるヘンリーだが、あくまでもデルポイ連邦の建国と維持には前向きな姿勢が声音からは窺えた。カナンもこの状況で頼れる存在のことを思い浮かべ、一瞬の狼狽えから脱する。

「南方拠点との合流を目指すのですね」

 地底の都市であるジオシティは強固かつ高度な都市を目指して作られていたが、それだけでは住民達の糧食を支えることは出来ない。故にデルポイ連邦は日本列島のさらに南方に食料生産拠点を開発していた。当然その地の防衛に就いている者達もいれば、

『敵がこの地の攻略に全力を尽くすならば、こちらは焦土作戦で距離の利を得るだけだ。

 ジオシティも、デストロイヤー・ガンもいくらでも再建できる……彼らの戦いは徒労に終わるだろう』

 ヘンリーが告げると同時に、ジオシティ総司令部施設の背後から立ち上がる影があった。

 それはセカンドイシューに比べれば小振りではあったが、しかし同じだけの砲門で武装した大型ゾイドだった。ベースはグラキオサウルスであり、その長い首に加えて背面にも城郭のような艦橋が設置されているのが特徴的だった。そしてその周囲を固める多数の火器を持った偉容は、まさに戦艦というほかない。

『カナン、〈グレートサウルス〉は最終的に私と共にジオシティを脱出するが、その前に将兵の撤退支援を行う。

 付き合ってもらうぞ、君とセカンドイシューにも』

「かしこまりました。私が前に出て壁となり、そこに砲撃を行う……ということですね」

 セカンドイシューはそれが存在する場所が戦場の楔となる存在だ。市街地への進出はジオシティ内部を完全に更地にする行為だが、撤退が決断された今となっては何も恐れることではない。

「彼らには最大限この地で血を流していってもらいましょう。もう一度作り直すジオシティすらも芳醇な田畑になるほどに」

 冷徹に呟きながら、カナンはセカンドイシューの操縦レバーを押し込む。その動作に応じて、セカンドイシューは冷媒を送り込むパイプを引きちぎりながらゆっくりと前進を開始した。

 炎と煙の戦場へ、まだ強制冷却の残り香を漂わせながら一歩を踏むセカンドイシュー。行く先を睥睨するカナンは、そこでふと思い出した。

「閣下、ロイ中尉達は?」

『彼らには現状で出来る「攻勢」を命じている。そして撤退は陸路を、ともね』

 南方拠点との連絡線は基本的には海上を用いるものだ。南アルプス山中にあるこのジオシティから、陸路で列島南方へと移動することはゾイドを用いても困難なことではある。

「長期戦略的に勝利するのは我々だと……そういうことですね」

 オクトーバーフォースを疲弊させ、ロイ達を消費させれば最後に生き残るのはデルポイ連邦だ。それぞれが血を流し尽くしても、国家として未来に展開する準備をしていた自分達はその存続力で抜きん出ている。

「全て承知しました。セカンドイシュー、前線に進出し戦場の動静を固定化します。閣下、存分にグレートサウルスの力を振るって下さい」

 帰趨を決するために、カナンはセカンドイシューをさらに前進させる。その足取りは軍事区画からいよいよ一歩を踏み出そうというところだった。

 しかしその時、傍らの通信施設上に不意に躍り出る機影があった。

「オクトーバーフォース……!?」

 浸透突破を許したかとカナンはサイドモニターでその姿を確認する。しかしそこに現れたのは見知った姿だった。

 だが同時に、それは見知っているからといえど安心できかねる姿でもある。

「いえ……ロイ中尉。あなたでしたか」

『こんばんは、とか言っておこうか?』

 出現したギルラプター、ブラックナイトは今まさにカナンとヘンリーが懸念していたロイのゾイド。デルポイ連邦の力でありながら、いつ炸裂するかわからない不発弾であり、切り離すべきと判断された存在だ。

「ロイ中尉、あなた方には前線への進出が命令されているはずです。そしてその通信設備はゾイドの接近が禁止されている重要設――」

『知らねえなあ、お前らが決めたことなんざ!』

 せせら笑うような口調で言うロイと同時に、ブラックナイトもわざとらしくコケティッシュに首を傾げてみせる。そのふざけた態度にカナンは顔をしかめるが、しかしそこで気付く。

 ブラックナイトの小さな動作が燐光を帯びている。それも紫――ゾイド因子オメガの光を。

「ロイ中尉、一体何を……」

『うるせえなあ……もう自ら敗北することを選んだ連中に何を教えてやれって言うんだ』

 放つものは言葉。しかしそこに宿る刺々しさがそれだけでロイの態度を示す。背のショーテルを振り上げるブラックナイトの姿も加わればその意図は明らかだ。

『俺は負け犬根性の持ち主に力を貸そうとは思わねえ。だからてめえらに協力するのはここまでだし、俺達が協力した分の利益も返却してもらおうと思ったわけさ』

「ほほう……そういうことですか。今となっては奇遇なことですね」

 ヘンリーの決断が下りた今、カナンはロイに対して遠慮することは無い。思わせぶりな言葉を吐くロイに対し、カナンは操縦レバーを傾けた。

「造反者は死あるのみ! あなた方もよく知っているでしょう」

 怒鳴りつけるカナンの声と共に、セカンドイシューの手がブラックナイトへと伸びる。その瞬発は通信施設の屋上を粉砕し、ブラックナイトを掴み取るに足る速度を帯びていた。

 しかし紫の燐光を帯ながら、ブラックナイトの姿は宙空に跳び逃れている。巨体を持つセカンドイシューの異常な速度同様、あってはならない瞬発力の結果だった。

「ゾイド因子オメガ――。それも先程よりも強い……?」

『カナン! ロイ中尉らはゾイド因子オメガ抽出機に独自のラインを持っているはずだ。だがそれで力を得ていても、君のセカンドイシューならば問題は――』

『確かに「俺達」と「セカンドイシュー」じゃあこっちがいくらドーピングしても不足だろうがな。こっちがあんまり無策だと思っちゃ泣けるぜ総帥閣下ぁ?』

 ロイの言葉は、セカンドイシューが使っている直通回線を彼らも傍受していることを明らかにするものだ。デルポイ連邦側としては最高グレードの機密回線ではあるが、友軍であるという体の彼らには如何様にもできるはずだ。

『他にも手があるはずだ。セカンドイシューの機体セキュリティは完全閉鎖のアーマゲドンモードとせよ。友軍だった立場を利用して無力化を仕掛けてくるぞ』

「了解。セカンドイシュー、アーマゲドンモード」

 カナンの操作によって、セカンドイシューの操縦ブロックは追加の装甲殻に覆われていく。さらにメンテナンスハッチ類の内側からセカンドイシュー自身の金属生体組織が急速生成され、物理的に機体を外部環境から独立させていく。セカンドイシューが孤立した場合に、操縦者の意志以外のものが機体に干渉する手段を断つ措置だ。

『お早い判断だ。だがそれならこっちはこうするわな』

 飛び退いたブラックナイトが着地すると同時に、軍事地区の各地で火の手が上がる。同時にロイが率いるナックルコング・レンジャーの機影もそこかしこに現れた。

 だがカナンとセカンドイシューの視線は最前線の方向へ向いていた。そこには、視線を辿るように、前線に向けて炎のラインが生じていたのだ。

「オクトーバーフォースに侵攻ルートを提供した……?」

『乱戦狙いだ。カナン、君は構わず前線にセカンドイシューを進出させろ!』

『させねえんだよなあ』

 ブラックナイトが吠えると、ナックルコング部隊は起動したばかりのグレートサウルス周辺へと砲撃を開始した。さらに近くにオクトーバーフォースの警備機体がいればそちらへの攻撃も。ついに彼らの明確な敵対行為が発生した瞬間だった。

『お前は倒せないけれどヘンリー総帥閣下はどうかな? カナンさんよお』

『いかんぞカナン、彼らの思い通りに事を運ばせることはない』

 砲撃態勢を取り始めていたグレートサウルス周辺に着弾の煙が上がる。ヘンリーはカナンの進撃を促すが、

「……いけません閣下。デルポイ連邦が成立するためにはまず閣下の存在が必要不可欠です。この状況になってしまったならば、前線に直行することはできません」

『カナン!』

「ロイ中尉達を始末次第すぐ前線に急行します」

 一歩を踏み出していたセカンドイシューがロイがいる後方へと振り返る。そしてカナンがモニター越しに向ける視線に合わせ、セカンドイシューの全身からも紫色の燐光が立ち上り始めた。

『ははは……そうだそれでいい。鬼ごっこしようぜえ』

 虚無的な笑いを浮かべ、ロイのブラックナイトはふらりとビルの上から身を投げた。ちらりとグレートサウルスの方角を見るその姿に、カナンは声を荒げる。

「あなた達の思い通りにはさせない……!」

『こっちのセリフだよなあ!』

 瞬間、飛びかかったセカンドイシューの目前でブラックナイトのブースターが火を噴く。

 

新地球歴三一年 一〇月一五日 一九二〇時

ジオシティ 西部パワープラント・産業地区

 

 合流したグロース達との連携を取り始めたリンらの前で、ジオシティの中枢が火を噴いたのはつい先程のことだ。

 敵司令部から前線までに走った爆発の列は一瞬新手の攻撃のようにも見えたが、最前線でぴたりと停止したその場所に戦闘の空隙を生んで終わっている。

「……ゴア少佐、なにが爆発したかわかりますか?」

 地面に開いた大穴を前にリンが問いかけるのは、ジオシティの構造情報を確保してきたゴア達だ。その選択の正しさは回答の早さに表れる。

『位置から推測するに軍事地区を通る水道施設のメイントンネルだ。他のエリアからの侵入口が存在しないため無視していたものだが……メンテナンス用のゾイドが移動できるサイズは確保されているはずだ』

「なるほどその通りの造りをしている」

 グロースのナハトリッターが覗き込むその先では、落下した瓦礫の底に水の流れが見える。それは前線を通過してリン達の背後に続く流れだが、すぐ先で複数のトンネルに細分化されている。

 その一方、敵司令部方向には広々とした闇が続いている。さらにそのルートの地上側では建造物が倒壊し、他の進入口を塞いでいるようであった。

「なるほど司令部への道をお膳立てされたか。敵は仲間割れかな?

 しかしこの段まで来ても向こうで考えている奴の思い通りというのも癪だね」

「ですが司令、デルポイ連邦は今ヘンリー・ムーロアを失えば瓦解する存在だと思います。機動力のある戦力を突入させる意義はあるはずです」

 リンは物怖じせず進言した。そしてその調子にグロースは目を見張る。

『……なるほど、ここまで相当な苦労をかけたようだね准尉』

「いえ、おかげで大事な経験を積むことが出来ました。ですから司令、ここでの突入を是非自分に任せていただけませんか」

 思わず労いの言葉を掛けるグロースに対し、リンとアカツキライガーの眼差しは揺るがない。彼女達がそう成長し、そうなってしまったここまでの道のりはライガーの装甲に傷跡の轍として示されている。

 グロースはそれを見渡して頷く。

『准尉、ドライパンサーを一〇機連れて行きたまえ。正式な特別コマンドの指揮官として君を任命する』

「……了解しました!

 ララーシュタイン少佐! 部下をお借りします!」

『好きなのを連れて行きたまえ! 気心が知れたのもいる頃だろう!』

 突如開いた進攻ルートに対し、周辺を確保するために駆け回るララーシュタインは適当とも取れる返事を寄越す。だがその言葉足らずな部分を、同じように飛び回るブルーダーが補完した。

『ここまで残存部隊として率いてきたメンバーを使えと言っているんだ少佐は』

『准尉、ご一緒しますよ!』

『ここまで進軍してきたならば、最後の最後まで踏破したいであります!』

 ここまでリン達と共に来たドライパンサー隊の士気は高い。それはグロース達が合流したことで形勢が逆転したからだけが理由ではなかった。

「では私達に続いて下さい! 敵司令部に突入し、デルポイ連邦の首魁、ヘンリー・ムーロアを捕らえます!」

 そう言うリンはもう是非を問わない。そして口を開くトンネルへ先んじて飛び込んでいく。

 たとえその先が闇でも、アカツキライガーが漏らす光の粒が後続のドライパンサー達を導くように漂っていた。

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