ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・デルポイ連邦総旗艦〈グレートサウルス〉

全長28.0m 全高13.5m 体重212.0t
最高速度100km/h
IQ 104
武装 ハンマーボーン
   C4ISTAR統合戦闘司令艦橋構造物
   36口径長艦載砲No.1~No.4
   バノーパ自動迎撃砲塔システム×16
   内蔵式AZマニューバミサイルランチャーセル×8セル

本能解放行動 シール・オブ・スターズ


NEW EARTH ERA 31 10/15 19:27

新地球歴三一年 一〇月一五日 一九二七時

ジオシティ 東部軍事地区

 

 デルポイ連邦の戦闘力を司る最奥部へ向け、リンとアカツキライガーは深い闇の中を疾駆する。その背後には無言でドライパンサー部隊が追随し、落ちくぼんだルートを通るが故に一旦無線環境は悪化したが、

『クリューガー准尉、我が方のディメパルサー部隊も降下に成功し通信網が確立しつつある。前線側の状況は随時確認されたし』

 グロース直々の通信は状態が悪いながらもまだ通じている。息を詰めて先を急ぐリンは無言で頷くのみだったが、グロースはそこから気楽に言葉を続けた。

『さらに回線は後方の各拠点にも通じている。ので、准尉宛の特別ゲストからの通信をつなげさせてもらおう。今ぐらいしか時間は無いだろうしな。というわけで博士、どうぞ』

『ありがとう少将。

 聞こえるだろうかリン・クリューガー准尉。私は連合軍特別科学顧問を務めるウォルター・ボーマンだ』

 グロースに代わる声は、ハスキーボイスの老人のものだった。しかし彼の名乗りに、意志を先行させていたリンも思わず顔を上げる。

「ボーマン博士……!?」

 科学者ウォルター・ボーマン。彼はゾイド人の地球移民に際して環境操作を行うZiフォーミング計画を考案した人物だ。

 地球にゾイドを発生させるためにゾイド因子を用いるその計画は、様々な要因によって20世紀の地球文明を滅ぼすゾイドクライシスと、地球に潜伏していたゾイド因子オメガ強化個体であるゼログライジスの跳梁を招く結果となった。

 しかしそれらの問題に背を向けることなく、解決に奔走し続けたのがウォルター・ボーマンという男だった。

 手製のゾイド因子増幅装置を与えた孫娘や、彼女が出会った多くの人々との協力の果てにボーマン博士は事態の解決にたどり着いている。科学技術と冷静な判断力、そして不屈の意志を持つ博士は今やゾイド人国家間組織の最高科学顧問を務めている。一つの時代を作り上げた男として。

 彼の来訪はオクトーバーフォースの間でも予め知らしめられていたことではある。しかしリンは、この局面で自分に焦点が当たる理由が咄嗟には思いつかない。

『クリューガー准尉がこの日本列島でのアカツキライガーのライダーだと伺っているが間違いはないかね』

「あ……はい! 自分がアカツキライガーの専属ライダーです! ――ゾイド因子オメガ抽出実験以来、この事件においても……」

 ボーマンの問いに、リンは思い至ることがあった。ロイ達による抽出機奪取や、昨晩のセカンドイシュー撃破の失敗……ゾイド因子オメガへの対抗手段として用意されたアカツキライガーをしてそのような結果を残した自分を、ボーマンはどう見るだろうか。

『実験機材として整備したアカツキライガーでよくぞここまで戦い抜いたものだ……。

 私もそのゾイドの開発に関わっているが、アカツキライガーの個体選定には実験時の安定性を重視して戦闘向きではない温厚なライガー種を用いているのだ。

 ライジングライガーをどれだけ模したところで……と考えていたが、君の戦いぶりは賞賛に値する』

 ボーマンの評価は科学者らしい無骨さに満ちている。だがそれは、飾り立てることなくリンを正当に評価するものだった。

 そしてボーマンの言葉が含むニュアンスに、アカツキライガーが操縦席へとかすかに視線を向ける。確かにその様子はボーマンが言うように、温厚でライダーを気遣いがちなものだ。

「ボーマン博士達の判断は正しかったと思いますよ。今この局面で私達が戦い続けられていることが、その証明です」

 言葉足らずながらに実感を込めてリンは告げる。その声音に、ボーマンも察するものがあるようだった。

『……君とアカツキライガーが良い時間を過ごせたことを幸運に思うよ。

 さて、こうしてエールを送るために通信をさせてもらったわけではない。クリューガー准尉、今でもアカツキライガーはゾイド因子オメガを封じ込めるための役割を持っている』

「……はい」

 ボーマンの指摘はリンがこの状況下で意識の隅に追いやっていたことの一つだ。昨晩通用しなかった以上、セカンドイシューに対するゾイド因子攻撃は想定できない――。少なくともリンはそう考えていたし、あの場に居合わせたオクトーバーフォース構成員達も暗にそう認識しているだろう。

 しかしボーマンは違う。あの場に居合わせなかった、科学者。それがこの状況における彼の個性だ。

『昨晩の戦闘のデータは私も参照している。ゼログライジスのコピー……セカンドイシューと言ったか、あれがレオとライジングライガーが利用したゾイド因子流に耐性を持っていることもよくわかった』

「だとすれば、なにか手はあるんですか? 単体でも強力なゼログライジスタイプが、特別に効果がある正常なゾイド因子にも耐性を持ってしまったわけですが」

『最終的にやることは大して変わらない。原理は異なるがね』

 ボーマンの言葉にはかすかなペーパーノイズが混じる。急遽まとめた解析資料の紙を手元に持っているのだろう。

『セカンドイシューは正常なゾイド因子が混入したことで耐性を身につけたゼログライジスコピーだが、あれは地球に浸透したゾイド因子オメガに残るゼログライジスの形態から再生された存在であることは変わらない。オリジナルゼログライジスが消滅した後の空洞に再びゾイド因子オメガが注入されたことによって生じた複製というわけだ。

 ならば、莫大な量のゾイド因子による希釈……これは間違いなく有効であるはずだ。ノミを打ち込んで亀裂を生じさせられる氷のサイズには限りがあるが、いかなる氷もいずれは水に溶けるのだから』

 ボーマンの言葉に、リンは一つの理解を得る。セカンドイシューにはゾイド因子攻撃が今でも有効であるということ。しかし同時に、己の経験からその指摘に対する反論も浮かぶ。

「しかしボーマン博士、セカンドイシューは昨晩アカツキライガーのゾイド因子放射に耐えました。仮に本当は有効だとしても、効果を発揮するには相当な時間か、あるいは莫大なゾイド因子量が必要になるのでは……」

『その通りだクリューガー准尉。』

 ボーマンは事実に基づいた発言しかしない。自らの言葉への反論も受け止める。その上で、彼はその先を考えていた。

『セカンドイシューを撃破する場合、抵抗不可能なように強い拘束をかけた上で正常なゾイド因子を注入する必要があるだろう。それに成功すればあのゾイド個体はゼログライジスを模したものから、正常なゾイド因子が表現する何者かに姿を変えて消滅するはずだ。

 流動的な戦闘の中でそれを行うのは困難だとは思うが、その補助たり得る戦力が前線に派遣された部隊に同行している。現地で合流し、是非成功を収めて欲しい』

「ゾイド因子による戦いへの増援……?」

 ボーマンの言葉に対して真っ先に思い浮かぶのは、昨年ゼログライジスにゾイド因子の奔流を流し込んで勝利を収めたレオ・コンラッドとライジングライガーだ。しかしそれだけの存在が同行しているなら、言葉を濁す理由も無いはずだ。

『現状、かの機体が有効な戦力になるかはまだ確証が持てない。だが私が信頼する最高のスタッフを付けた。君達の力になると確信する』

「一体どんな……」

 確信が持てないことについてボーマンは断言はしない。疑問を浮かべるリンに対して彼が代わりに与えるのは、確実な情報だけだ。

『しかしクリューガー准尉、ここまでの戦いでゼログライジスに類する力を持つ敵に対し思うところがあったと思う。しかし覚えていてくれ、あれは決して手が届かない、神の力の類いではないということをだ』

「それは……」

 そう告げられてリンが思い出すのは、セカンドイシューよりもその周囲にいる人間達だった。デルポイ連邦の首謀者であるヘンリー、セカンドイシューを駆る女カナン、そしてリンの目の前でこの事件の始まりを告げた男――ロイ。

 今のリンならばわかる。彼らは自分と同じ、対等な人間同士だ。それはセカンドイシューが何者であろうと関係は無い。

 そしてリンは知っている。ゼログライジス事件の際にゼログライジスを操っていたのも、このボーマンの義理の息子である人物であったことを。

『ゼログライジスを、ゾイド因子オメガの力を邪な目的のために使わせないでくれ。手段があるが故に邪な道に堕ちる者を救ってくれ、クリューガー准尉』

「……了解しました、ボーマン博士! リン・クリューガー、奮戦します」

 ボーマンの言葉を受け、リンはアカツキライガーにさらなる加速を入れる。戦士として、戦いと勝利を願われた今退くわけにはいかない。

 暗い進行ルートは、まもなくジオシティ軍事エリアの中枢に至ろうとしていた。

 

新地球歴三一年 一〇月一五日 一九三三時

ジオシティ 東部軍事地区・最奥部

 

『ぶははははは! どうしたどうした決戦兵器! 総身に知恵は回りかねってか!? ええっ?』

「黙りなさい!」

 格納庫施設の屋上に着地したロイのブラックナイトめがけ、セカンドイシューの蹴りが建材を破砕しながら飛んだ。オールを差し込まれた水面のように鉄筋コンクリートがめくれあがり波濤となるが、ブラックナイトは軽い跳躍でそのビッグウェーブを乗りこなし再び空中へと逃れていく。

「ロイ・ロングストライドっ……!」

 かすかな燐光を帯びながら施設間を跳び回る影へ、カナンはセカンドイシューのドーサルキャノンを照準する。並び立つ砲身が怒りに震えるように屹立していくが、しかし不意にセカンドイシューは視線を横に飛ばした。

 そこには兵舎の陰から、遠く離れたヘンリーのグレートサウルスへと狙撃銃を構えたナックルコングの姿があった。ロイの部下の一人だ。

「――やめろぉ!」

 瞬時に照準先をそちらに変え、カナンはドーサルキャノンの連打をねじ曲げて叩き付ける。宙を舞う光の弧線に、ナックルコングは武装を放り出して慌てて退避していった。

 そしてまき散らした破壊からカナンが視線を戻すと、ブラックナイトは施設間を走る通行路へと降り立ってセカンドイシューの足下に迫っている。すばやく手足をかけ、黒いギルラプターはセカンドイシューの眼前へと駆け上がった。

『気がかりなことが多いと大変だなあ』

 心の底からそんなことは思っていなさそうな口調でそう述べながら、ロイの一撃がセカンドイシューの左目を襲った。足の鋭い鉤爪が、眼窩をえぐるように突き込まれてくる。

 とはいえさすがにセカンドイシューの頭部を破壊するには至らない。火花を上げてブラックナイトは弾け飛び、そしてセカンドイシューも咄嗟に顔面を押さえて仰け反る。

「このっ……」

『はははっ! ホラホラ頑張らないとお前の大事な総統閣下も、お前の力のセカンドイシューもやられちまうぞ!』

「黙れっ!」

 振り回される自分に対して、自由自在に振る舞うロイ。カナンはその姿に自分の敵だった者達の姿を重ねずにはいられない。

「あなた達のように……自分の立場を確固たるものにしない者達が、他人のルーツを揶揄して……」

『んんん? どうしたのかなよく聞こえないな! どうしたのかな? 言いたいことがあったら言ってくれないとわからないな!

 ぶははははは!』

「この野郎死ねえええええっ!」

 カナンを追い詰めてきた、他者のルーツを嗤うばかりで自分の本質を示さない者達の見本じみた言動を見せるロイ。激昂するカナンを面白がるように、彼が駆るブラックナイトはセカンドイシューの爪を躱してジオシティの闇を跳ね回る。

『この稼業をやってると余録で付いてくるのがお前らみたいな連中の滑稽さを見る楽しみなんだよな!

 自分達はこういう感じでなければならない! みたいなポリシーに凝り固まっちまってよお、そういうのの外側の言動を見せてやると顔真っ赤にしちまって超楽しいんだよなこれがさあ!』

「黙れ! 思想無き暴力の使い手が! 世界がどうあるべきかを考えもしないくせに、自分達が好き勝手振る舞うための力にだけは貪欲でえええっ!」

 あざ笑う黒い影に、セカンドイシューは拳を振り下ろす。その一撃の度に理想郷として作り上げられたジオシティの摩天楼が叩き壊され、しかし本当に討つべき黒い影だけは自由自在に飛び跳ねていく。

 セカンドイシューという力を操りながら、カナンの胸中にはどす黒い不能感が渦巻いていた。オクトーバーフォースに責め立てられるこのジオシティにも、目の前で捉えられないロイにも。

「滅びろ悪魔め! お前達のような奴がいなければ、私達はあああああっ!」

『「こんな国をわざわざ作らなくても済んだのに」ってか?

 ご苦労様だぜえええええ!』

 物資管理棟に降り立ったブラックナイトは、高圧濃硫酸砲を備えた腕で自身の頬を掻いて見せた。目元に指を引っ掛けてあかんべえを見せる仕草だ。

『そんな憎い憎い俺達の力を借りなきゃ、そのセカンドイシューも手に入らなかったのはどこのクソ思想集団なんだよ言ってみろよ!』

「そうやって力さえ持っていれば自分達のおぞましさは他者に押しつけられると考えているところがあああああっ!」

 棟を叩き潰し、逃れるロイめがけてセカンドイシューは建造物の残骸を投げつける。

 都市の崩壊そのものの中で捉えきれないブラックナイトの姿は、つかみ所が無い悪意そのもののようにも見えた。カナンは、圧倒的な力を持つはずのセカンドイシューの操縦席で目頭に熱いものを浮かべていく。

 そしてその視線の先、ちょうどセカンドイシューの手は届かず大それた砲撃しか撃ち込めぬ位置に、こちらの様子を窺いながらまた一体のナックルコング・レンジャーが出現した。通信塔に軽くよじ登り、その機体は背負っていたミサイルランチャーをグレートサウルスが布陣する方角へと構える。

「隙さえあればお前達はあああっ……!」

『カナン』

 慌ただしい戦場の全てを押さえ込むように、静かな声が響いた。

 それはカナンが開き、ロイ達が傍受している特殊回線。即ち、ヘンリーが座乗するグレートサウルスからの声だ。

『心配してくれるのは嬉しいが、私と部下達を侮ってもらっても困る。

 君のセカンドイシューほどではないが、このグレートサウルスも捨てた物ではない』

 次の瞬間、通信塔のナックルコングが蹴飛ばされたような勢いで宙に舞う。

 カナンが垣間見たのは、その胸板に大穴が開いているところまでだ。そしてその穴の中から見えない力が広がっていくかのように、ナックルコングは四肢を四散させていく。

「今の一撃は……砲撃」

 カナンは知っている。ゾイドの巨体を穿ち炸裂させるようなこの一撃は、大口径砲の直撃が産んだ結果だ。オクトーバーフォースが投入したロングレンジバスターキャノンのようなものの。

 しかも胸部のど真ん中を打ち抜いた一撃は、巨大弾に爆薬を搭載し爆風や弾片で破壊力を振りまくようなものではない。徹甲弾による狙撃の結果でもある。

 そして視線を移した先、遠く見えるグレートサウルスは確かに艦載砲をこちらに向けている。その砲口から立ち上る砲煙も、パノラマの視界の中では共に確認できる。

『ムーロアの系譜が為してきた数々の武勇に比べれば大したことではないが、ヘンリー・ムーロアの戦いをご覧に入れよう。

 一番砲次弾装填。二番砲固定。同時にグレートサウルス、取り舵三度』

 ヘンリーの指示に従い、遠い視界の中でグレートサウルスはわずかに体を開いたように見えた。そしてその様子に、カナンと向き合っていたロイが視線を逸らす。

『おい、お前――――』

『二番砲撃て!』

 しかしヘンリーの声は何かを言おうとしたロイより早かった。同時に、先程砲煙を放った一番砲と同じハンマーボーンに支えられた、二つ目の巨砲がカナン達のいる方角へと爆煙を吹く。

 目には見えないが高速の何かが、闇夜のジオシティ宙空を貫いてカナン達の側に着弾する。貫かれたのは水筒にも見える給水タンクの一つだった。

 そしてその段に至ってカナンは気がついた。タンクの陰に次の移動場所を探ろうとしていたさらなるナックルコングが存在していることに。

 タンクの薄い外装を容易く貫いた徹甲弾が、そのままナックルコングの右肩も吹き飛ばす。その威力に全身をスピンさせて倒れ伏した機体へ、さらに貫かれたタンクから分厚い水流が浴びせかけられた。

 襲撃を仕掛けようとした者を塵芥のように水に流し、グレートサウルスが彼方からカナンとロイ達を見渡す。

『ゾイド人の指導者は……ムーロアの血は荒っぽさからは逃れられぬ宿命かな。

 しかし今は敵を討つために敢えてその血を呼び起こそうではないか。三番砲射撃用意。接近する敵機を迎撃しつつ、さらに取り舵九〇度』

 ヘンリーの声は高揚などは感じさせるものではない。平板な宣言に応じ、グレートサウルスは次の射撃に備える逆舷側の砲を構えるために身を回し、さらに周囲へと迎撃火器の弾幕を張り始めた。

 距離を置いたこの地の敵を見抜いたヘンリーがそう指示したからには、そこにも敵がいるのだろう。そして今走った二発同様撃ち抜かれるのだろう。カナンは自らの指導者の行いを信じた。

「流石です、閣下」

 目を伏せ、カナンは唸るように告げる。そして目を開き、相対する敵であるロイとブラックナイトを視界に納めた。

「私達をただの夢見がちな集団だと思っているのなら、こちらこそ笑ってしまいますね」

『は、バカは簡単なことで元気になりやがる』

 ロイは気圧されていない。しかしカナンとセカンドイシューの視線を受け止めるブラックナイトの姿は、これまでのあざ笑うかのような跳躍の中にあったものとは違う、噛み合いを感じさせるものだ。

『七面倒くせえ連中を滅ぼしてやる』

「私達の国は、生まれるんだ」

 形態もサイズも色も異なる二体のゾイドが、今こそ交錯した。

 

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