ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・パキケドス
 パキケファロサウルス種の中型ゾイド。骨格と形態、集団行動への適正などにギルラプターに似た点がある一方、気性が穏やかで耐久性にも優れ戦闘継続時間も長いなど草食恐竜系ゾイドの特性を持っている。
 その強固な頭部甲殻と頸部ダンパー構造による突撃が真骨頂とされる種だが、二足歩行ゾイド故の汎用性の高さからその運用範囲は広い。近接戦闘は勿論、各種砲撃武装の射手としても活躍し得る。無論民間でも幅広く活躍することが出来、その潜在的な需要は高い。
 そのようなゾイドであっても激しく消費させられていくゾイド戦の過酷さを最も表わしている種であると言えるだろう。


NEW EARTH ERA 31 9/24 10:41

新地球歴三一年 九月二四日 一〇四一時

東京エリア近郊 厚木市跡地

 

 捕縛された富士のソニックバード部隊を訊問した結果、反乱軍こと正統真帝国戦線は開拓前線の奥、日本列島中央部に位置する日本アルプス地域を拠点としているようだった。

 巨大ゾイドであるネガシルエットや様々な戦力を輸送するために用いられたのは、廃墟同様地上に残っている幹線道路の一部。グロースの討伐部隊も、日本アルプス方面に向かうならば同じルートを取らねばならない。

「まあ俺なら罠仕掛けるよ。俺じゃなくてもそうだろ」

 追跡のため東京を発つに際し、グロースはそう言い行軍中の警戒態勢を強める。ルートが細分化し都市部も途切れるまでは我慢の時だ。

 ゾイドクライシスによって破壊されたゴーストタウンにまず歩兵部隊が切り込み進路を確保。そしてその背後に戦闘時に突入する機甲ゾイド部隊、物資や指揮系統を司る隊、さらに背後を守る部隊とが続き、全体はゆっくりと進軍していく。

 そしてその日陽が昇りきる直前、彼らの先頭は妙に開けた空間に出た。

『この近辺は倉庫のような施設が多いようです。道も広い……。民間の運送拠点が集中していたようですね』

 トラック用の多数の積み込みゲートや、螺旋状のスロープを備えた廃墟を見て先陣を切る兵が報告した。これは厄介な空間だ。

『戦闘部隊が潜伏していてもおかしくない。警戒を強めます。オーバー』

『了解。空中からも確認する』

 歩兵支援用のスコーピアを伴い、兵達は倉庫跡の内部を一つずつチェックしていく。さらに排気ガスの充満を防ぐためか開口部が多い大型流通センター跡は、飛来した偵察型カブターが覗き込んでいった。

 そうしてさらに鈍った行き足でも隊は進み、周囲から守られる中核部も倉庫街に到達した。グロース達を乗せた移動指揮トレーラーを引くキャタルガに、護衛機と並んでアカツキライガーも寄り添っている。

「荷物の集配センター……これだけの規模のものがたくさんあるなんて、二一世紀は豊かな時代だったんですね」

 アカツキライガーよりも全長があるトラックの残骸が転がっている。その隣を通過しながら、リンはかつての時代を偲んだ。

 そしてそんな時代がゾイドクライシスによって終わりを迎えたなら、ゾイドにはそれだけの力があるということだ。現に昨年の事件もあり、リンはゾイドを扱う立場の者が持つべき意志を思う。

 ロイ達はそれを持っているだろうか。ネガシルエットを生み出し、二つの国家を牽制する新たな国を作ると語った彼ら――正統真帝国戦線は、世界をまたこんな風にする者達だろうか。

 討伐部隊として彼らを追っている今、その答えはいずれ出るだろう。恐らく戦いの中で。リンがそう覚悟を決める頃、隊列前方から爆発音が響いてきた。

「! 接敵……いや、トラップ?」

『前衛班、状況を報告せよ』

 トレーラーからグロース自身が問いを放った。その通信に応じるのは慌ただしい様子の前衛部隊の兵であり、

『廃墟からゾイド部隊が出現しました! パキケドスと……ラプトリア? いや、重火器装備のラプトールからなる部隊です!

 迎撃していますが……少し様子がおかしい』

『報告は明瞭にし給え』

 グロースと同席するララーシュタインがたしなめる。その声に兵は一息を吐き、

『奇襲を仕掛けてきたにしては敵の動きが低調です。中型のパキケドスまでいるのだから突撃してくるのが正しいと思いますが、その気配も無く……』

『やる気の無い連中が待ち構えてたってことかな』

 グロースはどこかつまらなさそうに応じる。突然の攻撃ではあったが、対処は可能なようだ。

 リンは気を引き締めてアカツキライガーの操縦レバーを握りこんでいたが、自分達が前に出ることも無いだろうか。再び視線を前方に遠く飛ばしたリンは、それと同時にキャノピー内側に展開した通信ウインドウも視界に収めた。

 行軍中の映像通信はあまり用いられるものではない。グロースからだろうかと疑問したその瞬間、通信ウインドウは一人の男をそこに映し出した。

『我々を追跡する開拓兵団部隊に通告するぜ』

「……ロイ中尉!」

 それはどこかの倉庫を背後に置いたロイの姿。酷薄に口の端を歪めたロイは画面越しにリンを睨め上げながら続けた。

『我々正統真帝国戦線には交戦の意思があるので降伏勧告などは無意味であることを先に伝えておく。

 が、今お前達の前に現われた連中は別だぜ。そいつらは正統真帝国戦線に参加するために離反した部隊に含まれていたが、俺達のように覚悟ある存在ではなかった手合いだ。

 お帰りを希望なすったがそこは俺達、最後に正統真帝国戦線の有り様を体験して帰って戴くこととなったわけだ』

「な、なにを……」

『落伍者共はキャノピーを閉鎖して溶接固定された操縦席に収められている。そしてゾイド自身にはZ・Oバイザーと遠隔式の自爆装置を装着してこちらの指示で攻撃を強要させていただくわけだ』

 告げられたことの意味にリンは絶句した。

 今討伐部隊の前に現われたゾイド部隊には、脱出もままならない反乱部隊からの離脱者達が閉じ込められ、戦闘を強要されているのだ。さらに自爆装置によって生殺与奪も握られたまま。

「ロイ中尉! ロイ中尉あなたは……なんということを!」

『お優しい開拓兵団の皆様のことだ、彼らを救出して下さることだろうな。ま、上手く行かなかったら精々落ち込んでくれ。

 なお、この通告は録画されたものである。残念だったな、じゃあな』

 圧倒的優位の者が見せる歪んだ笑みを残し、ロイからの言葉は終わった。リンは歯噛みして、今こそ隊列前方に強い視線を送る。

「グロース少将、行かせて下さい! こんなこと……許してはいけません!」

『まあ待て、そう熱くなるなよリン准尉。

 隊列前で倒したんじゃ遠隔で爆破されちまうだろうし、彼らをモニターしている連中を納得させて隙を作る必要があるだろう?』

 リンに応じるグロースの声は、何か準備するように動きの気配を見せていた。さらに移動指揮トレーラーに追随する指揮官クラスの将兵達のゾイドを乗せたキャタルガが、前に出て並んできた。

『上手いことやるには、上手いゾイドライダーが必要だよな?

 ちょっと久々に頑張っちまうかなあ俺』

 ヒヒヒと笑いを付け加えるグロースの声音はいつもの楽しげなもののままだ。

 だがリンは、そこに込められ、なにか圧力のようなものを高める意思をそこに感じ取らずにはいられなかった。

 

新地球歴三一年 九月二四日 一〇四九時

東京エリア近郊 厚木市跡地

 

 隊列前方に位置していたブルーダーは、周囲のセプテントリオン戦闘団の兵達と共に襲撃を迎え撃っていた。

 ブルーダーとハンターウルフ"エコー"の得手は山岳戦だが、経験の多い一人と一体はこの市街地戦にも適応している。倒壊した廃墟の陰から俯角を取った対空砲で敵ゾイドを牽制するのは、岩場が多い山での戦いとさほど変わらない感覚だ。

 普段との違いは敵の扱いだろう。前方から向かってくる重装化されたパキケドスとラプトールの集団は、しかし武装の多さとは裏腹にゾイド自身の動きで迫り、そして火器を中々使おうとはしない。正統真帝国戦線に加わろうとしなかった兵達はこちらへの攻撃を躊躇うもので、あの武装はおそらく自爆時の破壊力を強めるためのものなのだろう。ブルーダーは敵の目論見に、口中に苦々しく吐き捨てたくなるようなつばきが湧くのを感じる。

 そしてそんな彼らを、この討伐部隊はどうするのだろうか。戦闘部隊の成すことはもちろん敵と戦い打ち倒すことだが、彼らは事情が異なる存在であり、そしてこの討伐部隊の母体は軍だけでもない。

 傭兵であり、エコーと共に戦うに至った経緯も決して積極的なものではないブルーダーはその点に懸念があった。彼を招集したのは刃を交えた相手であるララーシュタインだが、

「いいか諸君! 彼らを死なせるな!

 自らの命を賭して義を貫かんとする彼らがベットしたのは我々だ。力ある者として、それに応じずしてなにがセプテントリオン戦闘団か!」

 前線に立ち兵を鼓舞するララーシュタインの様子は、ブルーダーの理解通りであった。この男は苛烈だが、その奥には信念があり決して凶悪ではない。それは反乱部隊やテロリスト組織とは違う――ブルーダーはそう認識している。

 だがグロース達はどうだろうか。この一度滅びた世界にまた人の営みを広げるための軍勢は。

「――ブルーダー少尉!」

 兵の誰かから声が飛ぶ。ふとブルーダーが顔を上げると、未だ残る倉庫の影から飛び出してくるパキケドスが一体、間近に迫っていた。

「ぐっ……!」

 咄嗟にブルーダーはエコーを横様に跳躍させる。その瞬発を繰り出すエコーの視線は的確に相手を捉えていた。

 エコーは気付いていたが、ブルーダーは物思いに耽っていた。集中が途切れるという要因一つで実力は曇る。ブルーダーとしては己の経歴を思えば情けない話だが、それでも胸中の重みは意思の動きを鈍らせるものだ。

「どうしたブルーダー! 低地の大気に溺れでもしたかね!?」

 ラプトールを押し倒して操縦席をむしり取るララーシュタインが、そんな挑発じみた声を飛ばしてくる。自爆するかも知れない相手に格闘戦を挑みながらよく周囲を見ているのは指揮官の器ということか。

 しかし侮られたようなことを言われるのは面白くない。ブルーダーは跳躍したエコーを廃墟の壁に貼り付くように留め、

「冗談じゃない……!」

 鉄筋コンクリートの壁面を蹴り、エコーはパキケドスめがけ跳ね返るような跳躍を見せる。その速度の先に見えるのはパキケドスの背面に装備された砲塔型の操縦席で、こちらの突撃に命の危機を感じたか砲が旋回してこちらに向きつつある。

 やむを得ない反応だろう。ブルーダーに怒りは無い。それよりも相手ライダーが抱いているであろう恐怖を祓いたい。ブルーダーはそう思うし、エコーもそれに同調していることは滑らかに動く操縦レバーから伝わる。

 悲鳴のような砲声を躱し、エコーはパキケドスの手前に着弾するように滑り込む。そこから後脚で跳ね上がれば頭部を下にしながらパキケドスの上空を側転する軌道だ。牙を剥き、エコーはパキケドスから操縦席をむしり取る。

「こちらも一機確保しました!」

 声を上げれば、こちらの陣営のラプトリアが操縦席を回収に駆けてきてくれる。しかし同時に眼前で、操縦席を奪われたパキケドスはバイザーによって誘導を続けられ、そして火器の弾倉部などを中心に爆破させられていく。

「しっかり敵は動きをモニターしているようだな。こちらに手立ては無いのか?」

「さあて、操縦席だけを引きちぎるような荒技をやれるライダーとゾイドなどそうそういるものではあるまい?

 下手に取り付けば自爆させられるであろうし、部下にやらせるわけにもいかんね……!」

 応じながらララーシュタインは背面砲塔からの連射で接近する敵を牽制しつつ、部下達に後退を促す。しかしそこで後退せずに脇に控えていたのが、彼の補佐が乗る通信増強仕様のディロフォスだった。

「少佐、グロース少将から全体命令です。前衛部隊は自爆攻撃部隊を隊列に引き込めと」

「なんと……。確かに自爆を引き延ばさせて対処の時間を得るにはそれしかなかろうが、隊の重要物はどうなると」

「輸送チームなどはすでに後衛部隊に護衛されて下がっているそうです。しかしグロース少将他数機のゾイドの反応がその場に残っている――」

 戦術画面にはマップ上の光点で各機体の位置が示されている。そしてブルーダーはそのマップ上にグロースが半ば個人的に保有し続けているギルラプターの名前を見つけていた。

「何をするつもりだ……?」

『前衛班、よくやってくれた。ここから先は俺達が対応する』

 ブルーダーの疑問に応じるようなタイミングで、グロース自らからの通信が前衛に届く。その声にすかさず反応したのはララーシュタインだった。

「グロース少将! 彼らを救う手筈があるなら我々にも協力させて欲しいものであるが――」

『少佐達はここまで何人か救出してるだろ? もうマークされてるはずだ、下がってくれ』

「しかし!」

『このままだと少佐達が近づいただけで先回りで自爆されかねないぞ。

 もう充分だって。俺が保証するぜ』

 グロースはいつも通り楽しげな口調だったが、有無を言わさぬ勢いがそこにはあった。ララーシュタインが問う姿勢と正面衝突を起こし息を呑む横で、ブルーダーが自分の問いを差し込む。

「あなたがたは救えるのですか、少将閣下」

 攻めた問いかけに、ララーシュタインのローゼンティーゲルが振り返るのが見える。だがグロースは気分を害した様子も無く、

『救うさ。それも軍人の仕事の一つだぜ。

 お前達より長く戦っている俺が音頭を取るんだ。任せておきな』

 グロースの声は通信越しにも淀みない。慣れたこと、可能なことを語るような気軽さがそこにはあった。

 グロースにはできるのだろう。しかしどのように離反者達を救うのか。そしてなぜ彼らを救うのか。ブルーダーはその点が気になる。

「ではお手並み拝見……。ララーシュタイン卿、我々は下がって火力で彼らの誘導に徹しましょう。救出したライダー達の保護もありますし、ね」

 ララーシュタインは闘争心を抱いているが、ブルーダーはそれをたしなめて後退を進言。無論それはグロースが言い出したことへの興味に端を発することだが、こちらをよく振り回してくるララーシュタインに対して落ち着いたような言葉をかけられたのでよしとする。

 正統真帝国戦線を追う兵は、それぞれの想いを持ってこの行軍に参加している。それを率いるグロースという男はどうなのか、自分以外にも見届けようとしている者はいるだろう――。ララーシュタインを脇に押しのけていくブルーダーはそんなことを考えながら、隊列中央の方角へ視線を飛ばす。愛機であるエコー共々。

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