ゾイドワイルドZERO Pale Blue Dot   作:高杉祥一

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IMPRESSION

・ディロフォス
 ディロフォサウルス種の小型ゾイド。形態としてはラプトールに近いが、鼻筋に存在する二つの突起と首に存在するフリル、そしてそれらを用いた電磁攻撃手段を持つ点が特徴的な種である。
 惑星Zi並びに新地球歴時代のゾイドは環境から来る収斂進化によって地球炭素系生物の種に酷似した形態を持つ傾向があるが、ディロフォスに近しいとされるディロフォサウルスにはフリルは存在しなかったという説が根強い。
 その一方でディロフォスにフリルが存在する理由としては、近似の電磁攻撃手段を持つディメパルサー種との共存関係が原因ではないかと推測されている。一方で異なる理論を掲げ、さらにディロフォサウルスにもフリルが存在したと主張する者も若干数存在する。
 ともあれゾイド生物学的には近似の電磁波利用の性質を持つディロフォスとディメパルサーだが、電磁波出力が安全なレベルにまで落とせ指向性も強いディロフォスは人間の手による運用ではディメパルサーとは異なる活躍の場を得ている。


NEW EARTH ERA 31 9/24 10:58

新地球歴三一年 九月二四日 一〇五八時

東京エリア近郊 厚木市跡地

 

 反乱部隊からさらに離反した兵達は、進行していく事態を薄暗い操縦席で見ていた。

 キャノピーの開閉で出入りが出来るはずの操縦席には外から装甲パネルが溶接され逃れることが出来ない。それでも脱出しようともがいた形跡は溶接部を内側から見た位置に付いた血の手形や引っ掻き跡に現われている。

 閉じ込められて丸一日以上。すでに脱出不可能を離反兵達全員が理解していたが、さりとてこのまま死にたくもない。通信装備を取り除かれた操縦席からペリスコープカメラ越しに見るグロースら討伐部隊は彼らにとって希望でもあり、危険でもあった。

 彼らが乗せられたゾイドは遠隔バイザー操作で討伐部隊に襲いかかり、討伐部隊はそれに反撃する。離反兵達は自分の身を守るためにも、本気で挑んでくる相手には攻撃せざるを得なかった。自分のことで精一杯の彼らには、ララーシュタインやブルーダーの奮戦も視界に入らない。

 だが彼らにもわかる変化が戦場に生じ始める。討伐部隊が距離を取り、離反兵達を乗せたゾイドは前進を始めたのだ。

 遠巻きに見る討伐部隊。前進する離反兵達のゾイド。戦場に似つかわしくない沈黙の中へ歩み行っていく機体の上で、兵達は配送センターの廃墟を見上げる。

 何か仕掛けられる。それを予測した彼らは自爆装置を作動させられる予感に息を呑んだ。そして討伐部隊の動きに目をこらし、配送センターの螺旋スロープや排ガス換気用の開放部を見渡す。

 そしてそこになにか動く影を認めた瞬間、兵達が見る画面に砂嵐が被さる。外部の音声収集システムも、それどころか通常の操縦機能すらもなにかシステム的なハングを起こしている。

 自爆システムも作動しない。しかし何故――。兵達が疑問した瞬間、マイクを通さない直の響きでゾイドの足音が迫ってくる。地や、それ以外を軽く蹴って加速する響きが。

 

 リンは動きを止めた離反兵達へ向けてアカツキライガーを跳躍させた。

 飛び出す位置は集配センター跡の屋上。そして背後に吹っ飛んでいく場所には並び立っていたゾイドの姿もあった。それはディロフォス、しかも帝国仕様でワイルドブラストを発動済みだ。

 ディロフォスのワイルドブラストはジャミング波を放つもの。生体由来の高周波電磁パルスは電子攻撃にも比肩する威力を持つ。そして同系列のより大型なディメパルサーの攻撃に比べると影響範囲が小さいが、その分精密な攻撃が出来る。

「攻撃手段を探知されずにゾイドを硬直させられる……!」

 そういう作戦だとグロースは言っていた。そしてそれが上手くいっている様子にリンは頷きを見せる。

 ディメパルサーも討伐部隊にはいるが、そのワイルドブラストでは周辺にも影響が生じ、正統真帝国戦線に観測される恐れがある。だが指向性があるディロフォスによる攻撃ならそうではない。その辺りを瞬時に判断できるセンスはどこで磨いたものだろうか。

 疑問は一瞬。アカツキライガーの速度は相手を眼前に迫らせていた。近接レンジ用の照準レティクルが相手に重なるのを見てリンがレバーを捻り込めば、ライガーの爪がパキケドスの背の操縦席を引っかけて剥がすように前脚を振り抜く。

 外れた操縦席がだるま落としで弾かれたかのようにひび割れた路面を滑走していくのを見送り、リンは巨体を振り乱すパキケドスからアカツキライガーを飛び退かせる。見れば見ればさらに周囲でも選抜された攻撃メンバーが離反兵のゾイド達にアタックを仕掛け、操縦席を奪いにかかっていた。

 ノルマは一人一体。しかしその渦中へ、一際勢いよく飛び込んでいく機影があった。黒地に赤いラインが走るギルラプターは、グロースのナハトリッターだ。

「短期決戦だぜ、リッター! 出し惜しみは無しだ……マシンブラスト!」

 螺旋スロープを駆け下りてきた黒のギルラプターはその速度の中で跳躍するとウイングショーテルを展開。さらに背部のブースターに点火すると、鋭い爪と硬い踵とでアスファルトの上をスケーティングして離反兵のゾイド集団に突入していく。

 機体の左右に生じた切断力は、推進力に導かれるままに地を走る。その一撃はそれぞれの方向でパキケドスの操縦席を機体から削ぎ落とすと、さらに跳ねる機体の動きのままに宙を回り低軌道に至った一方でラプトールの操縦席を引っかける。

 瞬時に三体。宙返りするナハトリッターは、昼の日差しの中でも赤い眼光のラインを曳いていた。

 そしてジャミング下の戦場では、グロースがノルマの三倍兵を救った一方でアタックに失敗した者が数名。

「責任を取るのが上役の仕事ってなあ!」

 戦場の最も高い位置で全てを把握したグロースは、空に向いたブースターでナハトリッターを地表に押しつける。その勢いで沈み込んだ体を強烈なキック力で前進させるナハトリッターは、討伐部隊のアンキロックスのハンマーをかわして身を低くしたラプトールへ向かっていく。

「グロース少将、ディロフォス隊のワイルドブラスト戦限界時間まで残り――一五秒!」

 小型ゾイドであるディロフォスの、遠隔攻撃であるワイルドブラストは継続時間に限りがある。その時間制限に相応しい速度で駆けるのがナハトリッターだ。

 背面のドスクロー基部ごと操縦席を切り飛ばし、ラプトールの後方空中に飛び出すナハトリッター。切断力を行使して刃にかかった抗力の分、その身は空中で横回転していた。その回転でブーメランのように旋回しながら、機体はもう一体操縦席を残して振り返ろうとするパキケドスへ。

 スピードの乗った跳躍の最中にあるナハトリッターはパキケドスの上空を後ろ向きに通過しかけている。操縦席を引き剥がす手段が全て通り過ぎかけ――しかし速度の中から、ナハトリッターの爪がパキケドスの背を一閃した。背のウイングショーテルよりも鋭い湾曲を持ったハーケン状の爪が。

 ギリギリの一瞬から放たれた一撃は操縦席を切り飛ばせはしない。だが操縦席に溶接された装甲パネルを溶接部で割り吹き飛ばしている。その中には衰弱したライダーが一人顔を上げていた。

「おーっと誰か彼を頼むぜっと!」

 速度で吹っ飛んでいくナハトリッターはもはや手も足も届かない。しかしそこで動けたのが、全てを見ていたリンだった。

「アカツキライガー、行けぇっ!」

 雪崩打つように身を低くしながら突入したアカツキライガーが、分厚いたてがみ装甲を備えた頭部でパキケドスに真横から激突する。そしてその衝撃で倒れる機体からライダーが投げ出されると、ワイルドブラストの制限時間を迎えたディロフォスの一体が彼を受け止める。

「ハングしていた自爆装置が復旧するぞ! 離れろクリューガー准尉!」

「……っ!」

 着地しドリフトするナハトリッターからグロースの声が響く。それとほぼ同時に、リンはアカツキライガーを離反兵達が乗っていたゾイドの群れから逃れるように駆け出させていった。

 兵達は救った。そして残されたゾイド達は――。リンは視線を切って逃れるべき先へ向ける。

 爆音が轟く。ゾイド達の重武装を巻き込み炎が上がった。熱い風に押され、アカツキライガーは退避する友軍に追いついていく。

「反乱軍、ひでえことをしやがる……」

 ディロフォスのライダーが後ろを窺いながらアカツキライガーに併走していた。

 リンも全く同意だ。正統真帝国戦線のこの戦法には強い怒りを覚える。ゾイド達を救うことが出来なかったのは自分達だが、手を下したのは彼らだ。

 リンの心を沈み込ませるベクトルが、その小さな胸中に生じつつあった。しかし同時に、昨日に立川でカノーと交わした会話のことも、リンは思い出すことが出来る。

「……今は救うことが出来た人々のことを考えましょう。もう大丈夫だって言ってあげなくちゃ」

 そんな言葉を口に出してみて、リンは自分と違って心が強く見える人々のことを思った。彼らも実は割り切れず粘つくような想いを抱えながら人を励ましているのだろうかと。

 この粘つきを無視できるように、麻痺する時が来るのかも知れない。だがそこから生じる怒りが自分の中にエネルギーを生み出していることを思えば、リンはそんな変化を迎えたくはなかった。

 例えそれが苦しいことだとしても。そんな風に一人考え込むリンに、アカツキライガーが怪訝そうな唸りを上げた。

「……アカツキライガー」

 リンは思い出す。前線勤務ではなく技術部に回された自分は、おそらくどこまでもこのアカツキライガーと共にいることになるだろう。この戦いも、その後も。

「一人で思い詰めることはない……かな」

 ゾイド因子オメガ抽出実験に関わっていた頃には思いもしなかった未来をリンは思い描いた。

 そしてその時間には、ここで失われたゾイド達のことも記憶していこう。リンはそう心に決めると顔を上げる。そこには回収した操縦席を収容する討伐部隊本隊の姿があった。

 

新地球歴三一年 九月二四日 一一二八時

東京エリア近郊 厚木市跡地

 

 装甲パネルを引きはがされ、操縦席から救出されたライダー達はリンをはじめ多くの討伐部隊員に見守られながら介抱を受け、搬送の時を待っていた。

 荒っぽい方法で救出したこともあって負傷している者もいたが、なにより衰弱が最大の被害だった。操縦席内には最低限を割り込む生存物資と設備しかなく、彼らはその状態で最低でも三日はこの地に留められていたのだという。

 シートに寝かされ点滴や傷の手当てを受ける離反兵達を見て、リンの胸中にはやはり正統真帝国戦線――そしてその人員としてほぼ唯一知る相手であるロイのにやついた表情が怒りと共に浮かぶ。

 その横顔を、離反兵達の心理に考慮して廃墟の陰に駐機させられたアカツキライガーが横目に窺っている。そして隠された意図を察し静かに座り込むライガーだが、そこにアスファルトに爪を打ち付けるような騒がしい足音が近づいてくる。

『ふぃー……久々にハッスルしたからくたびれちまったぜ。なあリッター!』

 豪快に外部スピーカーから声を漏らすグロースに、脚を投げ出して座り込むギルラプター・ナハトリッター。その頭部放熱索から蒸気も上がり、あたかもサウナから出てきたかのような様相だ。

「ぐ……グロース少将!?」

 救出されたとはいえ、先程まで強い精神的負荷を受けていた離反兵達のそばだ。他の兵は自発的に沈黙しているし、ゾイドも隠されている。だがグロースはそんなことは気にしていない様子でナハトリッターから降り立ち、

「なんだお前達辛気くさい顔をして。生還した勇者を迎えるのにそんな態度があるかんん?」

 耐Bスーツにジャケットを羽織り、外していた呼吸器を浸けるグロースはいつも通り気楽な身振りだ。そしてそのままずかずかと離反兵達の介抱スペースに歩いていく。

「諸君、もう大丈夫だ! 我々は第七開拓兵団、反乱軍討伐部隊。君達を事件に巻き込み苦難を強要した正統真帝国軍を討つべく行動中だ!」

 わああとリンや周囲のディロフォスのライダー達などがグロースを止めようとしつつ、相手の階級の高さ故に二の足を踏む。その間にもグロースは前進し、

「君達を苦しめた存在は今や遠く、そして君達は今第七開拓兵団の勢力圏下に戻った。もう何も心配することは無く、体を休めて欲しい」

 物怖じしない堂々たる声に、疲労困憊で俯いていた離反兵達も顔を上げる。その視線を受け止め、グロースは頷いた。

「君達も本来第七開拓兵団傘下に加わった兵であり、正統真帝国戦線の反乱の中で戦ってくれたわけだ。兵団長として君達の勇気に敬意を表するぜ。最高の待遇を約束しよう。

 手始めにまずは、順調に開拓が進んでいる北海道エリアの病院へ向かってもらうかな」

 グロースは気楽に、しかし具体的に語る。その二つの効果は、救出された離反兵達が安堵の吐息を漏らすことに現われた。

「衛生部隊のキャタルガは到着しているか?」

「そこまで来ています。現在収容準備中です」

「よし諸君移動準備だ! 一足先にこの戦場からおさらばしてくれ! 行く先に吉報を届けると約束しようじゃないか」

 朗々と告げるグロース。そして衛生兵達は肩を貸し、担架を手にし離反兵達を移動させていく。そこに沈んだ空気が無いのは、グロースの振る舞いのせいか。

 リンは運ばれていく離反兵達に敬礼を送るグロースを感心の目で見ていた。しかしそこに、操縦席から兵達を回収してきた工兵部隊の士官が耳打ちする。

「少将、一つ報告したいことが」

「お? どうした」

「今回回収した各ゾイドの操縦席ですが、ライダーが閉じ込められていない――空っぽのものが数個あったんです。どういうことでしょうか」

 聞き耳を立てるリンも、問う士官同様首を傾げるしかない。グロースもその問いの内容には片眉を跳ね上げ、訝しげな表情となる。

「無人操縦用に改造されてたとかじゃないのか?」

「いえ、他の兵が閉じ込められていた操縦席と同じ仕様にも関わらずです。一体何故……」

「離反した兵だけじゃ数を揃えられなかったから仕方なく、とかじゃねえかなあ」

 士官に対し、グロースは何か含みがあるような表情で腕を組む。だがそれが何を意味するかは、リンにも、相対する士官にもわからなかった。

「ま、思惑はどうあれ俺達は敵を叩き潰すだけさ。なにか隠し事があれば、最後に勝利した後に全て明らかになるってな」

 鷹揚に告げるグロース。リンはその姿を遠目に見て、改めて彼が少将という立場を得ている理由を思い知る。

 だがそれ故に、グロースが誰にも見せないよう表情を遠くに向け背中を見せていることには気づけなかった。

 午後の日差しの中、一つの戦いが終わり討伐部隊はまた進軍の準備をはじめる。大きな事件を終わらせるために。

 

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