冬木市シスコン奮闘記   作:D1198

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17 聖杯戦争・4

凛はいつも通りに曖昧な意識のまま目が覚めた。顔を洗い部屋に戻って身繕いを始めた。ブラウスに腕を通し、食事を取り家を出た。

 

見上げる空には雲があった。敷き詰められてはおらず、ひっきりなしに動いて形を変えていた。隙間から青い空が見えた。晴れそうでもあったし曇りそうでもあった。彼女の家は住宅街の奥まった所にある、登校中の他生徒に出会うにはもう少し時間が掛かった。それを見越して彼はこう告げた。葵にも聞かれたくない内容だからだ。

 

「秘密にするべきだ」

 

足を止めて振り返ると其処に少年が立っていた。コルク色の学ランに濃紺のダッフルコートを羽織っていた。学校に真剣を持ち込む訳にはいかないので帯剣はしていない。そのため陽が落ちるまでには家に帰らないといけない、朝食のとき彼がそう言っていた事を凛は思いだした。こうしてみると普通の学生に見える、彼女はそんな事を考えた。

 

「秘密って何?」

「俺らの関係の事」

「関係?」

 

わざと聞いているのか、彼は渋面である。

 

「付き合ってる事だ」

「……」

 

ツバメが馬鹿にするかの様に飛んでいった。どうしてそれを失念していたのか自分に呆れた。そして昨夜の出来事を思い出して頬を染めれば、彼の発言内容にたちまち不機嫌になる。忙しい娘だ、彼はそんな事を思った。

 

「隠さないと困る訳?」

「理解していない様だから言うけれど君は学園のアイドルだ。大騒ぎになる。そうなったら聞き込みもままならない。違う?」

「聞き込み?」

 

本日は二人とも学校に用がある。キャスターとアサシンの情報を集める為である。瞬き二つ、彼女は“あ”と気の抜けた声を出した。学校に向かっている理由を失念していたのであった。彼は不信を隠さない。

 

「今朝は抜けに抜けてるな。まだ寝ぼけてるのか?」

「うっさい」

 

昨夜の凛は簡単に寝付けなかったのである。寝不足が原因だったが真也は知るよしも無い。ようやく彼の意図を理解した凛は再び不愉快になった。皆に知られるより先に桜には説明したいとは思うが、隠すと言う真也の発言が気に入らない。何を企んでいるのか、不審を詰めた眼差しで彼を見た。

 

「秘密っていつまでよ」

「少なくとも聖杯戦争が終わるまでは秘密にした方が良い。万が一家に押しかけられたりしたら事だ。凛の家に居るなんて事がバレたら目も当てられない」

 

もっともな説明である。論理的で無理がない推論だった。彼女に異論など無いが彼の冷静な振る舞いに苛立った。隠す事に躊躇いが無い、気にも止めていない、知られない方が良いのかと勘ぐった。

 

「それ、素直に受け入れて良い訳?」

「質問の意味が分からない。説明の通りだけれど」

 

ムスッと半眼で睨む凛を見て、彼女らしい表情だと彼は思った。そして、この顔を見たいが為に彼女を怒らしているのではないか、そうも思った。彼は趣味が悪かったのだ。

 

「良いわ。その提案を受け入れましょ」

「おぉ助かる」

 

双方にメリットがある事なのに、なぜ上から目線なのか彼は不思議でならない。

 

「その代わり厭らしい事も無しだから」

「厭ら?」

「……」

「……」

 

凛は流し目で彼を睨んでいたが、その発言内容が恥ずかしく頬を染めていた。彼は暫く考えてそう言う事かと理解した。話を逸らす為に茶化した。額を合わせただけであのダメージである、彼にとってもそれは避けるべき話だった。

 

「それは何か? 聖杯戦争が終わったらしても良いと?」

「気が変った。当面お預け。真也の態度で決める」

「つまり、ご機嫌を取れと言う事だな」

「そう言うのを止めてって言ってるの」

 

皮肉、事務的、どうしてその様な気に触る言い方をするのか、もう理解している積もりだったが腹は立つし悲しくもなる。不満を隠さない凛の表情を見て彼は追撃を掛けた。

 

「……ひょとして手を出して欲しいとか?」

 

調子に乗らせないと凛もこう言った。

 

「そう言う事。私に尽くせば手ぐらい繋いであげても良いわよ?」

「……」

「……」

「止めておく」

 

「あら? 恥ずかしいんだ?」

「これでも動揺してるんだ、そう言うのは止めてくれ」

「動揺ってなによ」

「言葉通り。これ程揺さぶられるのは17年間で前例がない」

 

もちろんこの動揺が指している意味は二人で微妙に異なる。これは驚いた、そんな表情で凛は言う。

 

「アンタ、本当に付き合った事無いの?」

「無い」

「キスは?」

「無い」

「手を繋いだ事も?」

「無い」

「あら驚いた。女の子にちょっかい掛けるのに根が純情なのね♪」

 

笑みを浮かべていた。意地の悪い笑みである。彼は腹が立ち言い返した、が負け惜しみである。

 

「男女的な意味なら、無い」

「なによその言い方」

「単に手を繋いだ事があるかどうか、と言う意味なら有る」

「そういう意味ね。桜?」

「綾子」

 

彼は地雷を踏んだ。

 

「……どうして美綴さんが出てくる訳?」

「付き合い長いから」

「どういう事?」

「いわゆる幼なじみって奴。知らないのか? 穂群原では有名だと思ったけれど」

 

綾子と真也は穂群原へ入学してからと言うものの、学校以外では滅多に会わなくなった。真也のシスコン、桜への配慮が原因である。であるから。真也を女好きかつ交友が広いと認識している凛は、女友達の一人だとばかり思っていたのだ。彼女からしてみれば寝耳に水であろう。

 

気がつけば指定ポイントである。同伴登校というのも避けるべきだと別ルートを取る事にしていたのだ。凛の不安を余所に彼は平常運転である。

 

「んじゃ、ここで一度お別れだ。俺は別の道で行くから」

 

二人の背後に綾子が立っていた。眼を見開いて硬直していた。信じられないモノでも見た様な表情である。纏うライトグレーのダッフルコートは寒々しく、学生鞄をぶら下げる手は今にも力が抜けそうだ。

 

綾子をそう言う対象として意識していない彼はいつも通り……その筈だった。それはセイバーを召喚する時の事。

 

“真也が遠坂に招待された、それを聞いてから落ち込んでる”

 

という士郎の発言を完全に失念していたのである。バーサーカーと戦い、死にかけ、共闘を取りなし、凛の家に身を置いた。この数日間が余りにも激動だった為だ。綾子と真也は思わず見つめ合った、否、凝視し続けた。

 

「……」

「……」

 

朝の挨拶でも良い、いつもの様に褒めても良い。彼は何か発言するべきだったのだ。綾子の消沈は士郎も知るところ、つまり穂群原生徒の知るところである。戸惑う彼を見れば、真也もそれを知っていると彼女は判断するだろう。転じて綾子が真也に好意を持っている、それを彼が自覚していると語っている様な物だ。そしてまた逆も然り。

 

(そう、ようやく気づいたんだ。私の気持ち)

(マジか。何で今頃)

 

彼は桜と綾子の取り決めを知らないのであった。

 

「おはよう真也」

「……おはよう。部活はどうした」

「最近物騒だから暫く中止。それより真也。学校休んだけれど、どうしたのよ」

 

綾子は凛との関係を聞く事が怖く、連絡が出来なかったのである。綾子は彼の背後で立ち尽くす凛を見た。

 

「風邪」

「真也が? 珍しい事もあるもんだ」

「まぁね」

「それでどうして遠坂がここに居るのさ」

 

「ばったり出くわした」

「そう」

「そう」

 

いつもの様に堂々とした笑みを浮かべて綾子は言う。否、警戒を隠す事も無い。

 

「おはよう、遠坂」

「おはよう、美綴さん」

「学校休んだろ、遠坂も風邪?」

「いいえ。私は家の用事」

「そう、それは良かった」

 

真也に身を向けた綾子は満面の笑み。彼にとっても見覚えの無い表情だった。その迫力に思わず腰が退けた。

 

「真也、一緒に学校行かない?」

「せっかくのお誘いだけれど、騒ぎが怖いから一人で登校したい」

「それはそうだ。“一人なら”まだマシね」

 

釘を刺した綾子は身を翻した。その発言は背を向けたままである。

 

「遠坂、こういうの止めてくれる? その気も無いなら近づかないで」

 

立ち去る綾子を見送って、彼は凛が笑っていた事に気づいた。いつもの様に可憐な笑みだったが言いしれぬ怒気を孕んでいた。

 

「ねぇ、蒼月君。二股を掛ける気?」

「んなつもりは毛頭無い」

「そう、ならどうするの?」

「告白された訳じゃ無いんだ、何も出来ない」

「つまり?」

 

口から溢れ出た溜息は重く、髪を掻く指は異様なほど鋭かった。

 

「自然消滅」

「最低」

 

 

◆◆◆

 

 

学園に一歩足を踏み入れた真也は早々に手荒い歓迎を受けた。例えば友人であるA君は彼の背中を全力で叩いた。

 

「よっ、真也!」

 

バチンとステーキ肉を叩いた様な良い音がした。間髪置かずB君は彼の頭を叩いた。

 

「おいっす!」

 

スイカを叩いた様な音を立てた。1人や2人では無かった。通り過ぎる男子生徒に背中を激しく叩かれた。背中も頭も激しく痛んだ。誤解だ、そう言っても収まらなかった。堪忍袋の緒が切れて、やり返そうと詰め寄ったが其処には涙混じりの怒り顔。

 

「……」

 

彼も彼らも17年間彼女無しである。彼らの気持ちは痛いほど分かった。学園のアイドルにお呼ばれしただけで動機は十分なのだった。彼は黄昏れた。話はそれで終わらず授業の中休み。2-Bのクラスメイトたちはおもむろに立ち上がり、机を移動させ教室の中心に広間を作った。

 

真也の知人であるAさんがその中心を指さした。何のことか分からず首を傾げるのは真也である。

 

「なに?」

「座り」

「なんで?」

「ええから、座り」

 

彼を取り囲むのは彼がよく知る女生徒たち。余所のクラスも他学年も混じっていた。共通するのは軽蔑と怒りである。逆らうと身に危険が及ぶ、そう感じた彼は渋々正座した。

 

「この扱いの説明を求める」

 

彼はそう言った。声高らかに宣言するAさんは裁判官のよう。

 

「真也。言わんでも分かっとるな?」

「分からない」

「ほう、分からんと言うたな?」

「君の説明は不足している。緻密な意思疎通は人間関係を構築するに於いて、」

 

「ぬけぬけと……みんな弾劾裁判や!」

「何で」

 

Bさんが言う。

 

「有罪です!」

 

Cさんが言う。

 

「有罪!」

 

Dさんが言う。

 

「有罪っ!」

 

「全員一致で有罪! これより断罪する!」

「訳が分からん!」

 

彼女たちは詰め寄り罵った。

 

「綾子を何だと思ってん?! シスコンのくせしはって!」

「そうだそうだ! シスコンのクセして身の程を知れ!」

「美人で面倒見が良くて、スタイルだって良いのに何が不満ですか!」

「散々綾子に美人とか可愛いとか言って、沢山迷惑掛けて、世話させて、余所の娘にホイホイ鞍替えするなんてこの最低男!」

 

予鈴が鳴った事に気づかず吠えて吠える少女たち。暫く経って大河がやって来た。何事かと目を丸くする彼女に、真也は救いを求めて手を伸ばす。

 

「藤村先生! 助けて!」

 

それを遮り、女生徒が懇切丁寧な説明をした。

 

「裁判の延長は10分だけだからね」

 

大河は彼を見放した。

 

呼ばれた事は家の都合。凛には何も感じていないという、嘘でも無いが本当でも無い釈明を繰り返し、綾子への謝罪と説明責任を果たすという償いを確約してその場は放免された。

 

話は簡単である。幾ら優等生だろうと魔術師ゆえ同級生と一線引いている凛と、人望がある綾子では扱いの差が生じるのも当然だった。

 

なにより穂群原には綾子と真也、この両名と同じ中学出身の生徒も多かった。そう、桜、綾子、真也の関係を知っている彼女たちは綾子に同情していたのだ。これなら先手を打って付き合っていると暴露した方が良かったのかも知れない、聖杯戦争後の後始末を考えると彼は頭が痛くなった。

 

柳洞寺に美人が居るという良く分からない情報を辛うじて集めた彼は逃げる様に下校しようとした。そう過去形である。下駄箱で扉を開ければ一枚の封書が入っていた。

 

“蒼月真也さまへ”

 

それはラブレターであった。なんとも可愛らしい文字が煩悩を誘う。彼には恋愛経験が無い、付き合った事も無い、モテるなどと言われた事も無い、ナンパすればシスコンと罵られ、自然ラブレターなど貰った事も無い。舞い上がった。

 

「……モテ期?」

 

状況を考えればその手紙が何なのか分かりそうなものだ。そもそも今時ラブレターなどあり得ない。浮かれた彼はそれに気づかなかった。“すっぽかせば失礼だし、断るつもりだった”良い訳も万全である。鼻歌を交え待ち合わせ場所に赴けば当然罠であった。

 

目の前には嫉妬に身を震わす屈強な5人の男たち。

 

「安藤宗佑、サッカー部!」

「伊藤光輝、剣道部!」

「上田颯太、ラグビー部!」

「江成伊月、空手部!」

「小沢連、エコ研!」

 

そう。凛に振られた男の子たちである。

 

「「「玉砕戦隊Dieレンジャー!」」」

 

ポーズも決まればまさしく特撮戦隊ものである。真也には彼らの背景に爆発する様を見た。

 

「さよなら」

 

無駄な時間を使ってしまった。ラブレターをビリビリと破り、立ち去ろうと背を向けた真也の頭にサッカーボールが命中した。つんのめり地面に突っ伏した。サッカー部が言う。怒りを隠さないその様は正しく断罪する神の戦士。

 

「神を愚弄する傍若無人なその振る舞い! もはや勘弁ならぬ! ここで討ち果たし! 地獄に落としてくれるわ! 集いし神の戦士たちよ! 悪鬼の首を打ちとれい!」

「「「応!」」」

 

サッカー部にはボールをぶつけられ、剣道部には竹刀を打ち込まれ、ラグビー部にはタックルを、空手部には正拳突き、エコ研にはペットボトルのキャップを投げつけられた。俗に言うフルボッコである。真也は彼らに同情していた、心苦しさもあった。暫くは無抵抗だったが彼らの嫉妬は執拗で底が見えない。我慢ならぬと全員を返り討ちにした。

 

「ふん、他愛なし」

 

パンパンと手の埃を払えば、目の前には死屍累々である。サッカー部は息も絶え絶えだ。

 

「流石“冬木の羅刹”と呼ばれし漢よ。我らの力を持っても敵わぬか……」

「ほう、その字を知って我に挑んだか。胆力だけは褒めてやろう。もっとも蛮勇だがな」

 

2人ともノリノリである。

 

「だが、これ程熱くなったのは久しく覚えが無い。我は逃げぬ、何度でも掛かってくるが良い」

「ふ、愚かなり羅刹よ。我らが何の策も無く挑んだと思ったか」

「なに?」

 

真也の肩を叩く硬い竹の感触。振り返れば彼の頬に竹刀の先端が突き刺さる。大河であった。そう彼らは事前に彼女を呼んでいたのだ。

 

「珍しく学校休んでどうしたのかと思えば、心配するだけ無駄だったわね」

 

大河は真也の弁明を聞かず脳天に一発撃ち込むと、首根っこを掴んで引きずっていった。

 

「話があります。蒼月君は生徒指導室までいらっしゃい。残りは後で出頭すること」

「あ、え、襲われたのは俺なんですけれど。俺も怪我をしてますけれど」

「「「蒼月君に辛い目に遭わされました」」」

「お前らぁぁぁぁっ!」

 

彼らの言い分は凛という意味で嘘ではない。最終的に全員反省文を提出させられ、拳骨を喰らい放免された。

 

 

◆◆◆

 

 

同時刻。校舎の屋上で相対するのは氷室 鐘と凛である。凛は人伝に鐘が真也の過去に詳しいと聞きつけ、呼び出したのだった。もちろん、最も詳しいのは桜と綾子だが聞ける訳が無い。

 

「こうして話すのは初めての事のように思う。何用だろうか」

 

表情の変化が少ない、距離が読めない鐘に僅かな戸惑いを感じつつも凛は切り出した。鐘は驚いた様である。

 

「蒼月真也の過去?」

「詳しいと聞いたのだけれど」

「小学校と中学校が同じだっただけだが。聞いてどうする」

「ほら、彼って有名人だって聞いたから。その興味を持ったのよ」

 

「冬木に居て知らないのか」

「私、小学中学と県外の学校に通ったから」

「なるほどな。汝が知らないというのも“不公平”だろう」

 

凛は思わせぶりな鐘の言い様が気になった。鐘は一つ間を置いてこう端的に告げた。

 

「蒼月真也、一言で言えば彼は悪党だ」

「悪党?」

「冬木の羅刹、聞いた事はないか?」

 

またけったいな呼び名だと凛は思った。彼女はこれをネタにからかってやろうと考えたが鐘の話を聞くにつれてその気は無くなった。鐘の語る真也は凛を不安にさせるには十分だったからである。

 

「最近ようやく落ち着いたが冬木市は10年前から暫くの間、異常犯罪者、自殺者が多かった。犯罪も多発していた事は知っている事と思う。破滅的な大火災が人々に心理的な影響を与えたと言われているが未だ結論は出ていない。犯罪行為を犯す未成年、俗に言う不良も事欠かなかった。私の暮らす地域も例外では無く日々怯えていた。

 

その余波は子供たちにも及び大人たちも手を焼く状況だった。その様な中、彼は10年前にひょっこり現れた。妹といつも一緒だった。兄妹と言っても似ていなく子供たちの憂さ晴らしの対象だった。その子供は妹を守るためにいつも喧嘩をしていた。子供ながらにませていて、子供を率い、妹を守るだけの組織を作ってさえいた。

 

年月が経ち、その子供が中学に成長すると喧嘩も大事になった。争いが争いを呼ぶという奴だ。生傷が絶えないどころではない、それこそ血を血で洗う、闘争と言って良い程の様相を見せた。その子供、彼は滅法強かった。闘争と言っても一方的だったな、彼はいつも勝者だった。警察も動いていたが何分手が足りない、事実上野放しだった」

 

気後れしながら凛はこう聞いた。

 

「学校は、大人はなにもしなかったわけ?」

「したな、一度だけ」

「体裁のためか目先の手段に訴えた。警察に突出し彼を勾留したのだよ。抑止力が無くなった不良たちは暴走、その結果学校と地域は瞬く間に荒れた。藤村先生の家を知っているか? 大地主だが、別名極道のものだ。子供の争いに介入しないと静閑していたそうだがとうとう動く事態になった。

 

当時彼が藤村組に何度か足を運んだという目撃がある。おそらく藤村雷河と取り決めをしたのだろう。専守防衛だった彼は攻めに転じた。今にして思うが、単に興味が無かったのだな。妹さえ無事ならそれで良かった。妹が住む社会を守る事が、結果守る事になる、それに気づいた彼は冬木の中学を制圧した。冬木の羅刹という二つ銘はこのとき付いたものだ」

 

「それで制圧した」

 

凛の投げかけに鐘は首を横に振った。

 

「他学の主だった派閥・不良を全員再起不能にした。見せしめだったのだろうな。直接見た訳ではないが相当に凄惨だったらしい。まさにヴラド公だ」

「それが本当だとして、どうして穂群原であんなのほほんとしてる訳? 怖がられないのが不可解だわ」

 

「繰り返すが、彼は妹さえ無事なら普通の少年だった。成績は優秀なうえ風紀を乱すような事も……有るには有ったが、私に言わせれば可愛げのあるものだ。女たらしと言う生徒もいるが、コミュニケーションの範疇だと私は考えている。強引に迫った事もない、本当に嫌がる生徒には近づかない。シスターコンプレックスという性癖も親密さを後押ししているだろう。

 

中学最後の冬だったか。噂を聞きつけたのか、それとも何も知らないのか、馬鹿者たちが現れた。事もあろうに彼の妹にちょっかいを掛け襲おうとした。そこを救ったのが衛宮士郎だ。彼が駆けつけた時、衛宮はボロボロだった。彼のしつこさは異常な程で妹を守り切った。3人の付き合いはそこから始まったと聞いている」

 

(……仲が悪いはずだわ。自分より他人、自分より桜、同族嫌悪って事か)

 

凛は鐘の語りを租借したあとこう聞いた。

 

「氷室さん、一つ聞いて良い? 貴方は蒼月君に思うところは無いの?」

 

「法律道徳的に問題がある事は承知している。だが世界はそれ程調和的ではない。警察力、法の目から溢れて泣く人達は確実に居る。何より。彼の妹が住む社会に身を置く私は恩恵を受けた一人だ。非難など出来ないだろう。他の者もそうだ。

 

遠坂、汝が何故彼に興味を持ったのかは知らない。だが十分に気をつける事だ。彼はここ暫く落ち着いているが、その本質は変わっていないと見ている。ひとたび妹に何かあれば豹変するだろう。もう一つ。彼と美綴は小学校からの付き合いだ。私はぽっと出の君より美綴を応援している。まぁ、余計な世話ではあるが」

 

「そう“不公平”ってそう言う事」

 

鐘は頷くと話は終わったと背を向けた。

 

「もう一つ、なぜ蒼月君を彼と呼ぶのかしら」

「ありがちだが、腕っ節が強いというのは何かと乙女心をくすぐる。妹を守る彼の熱意が自分にも向いたら、と考えた事もあった」

「……」

「気にしなくてもいい。もうその気は無い」

「どうして諦めたの?」

「私にとって彼は激しすぎる。違う言い方をすれば手に負えない。汝はどうだろうな」

 

鐘は姿を消した。一人になった凛は己の身体を抱きしめた。桜ではなく凛を選んだ、彼の発言が本当なのか不安になったのである。

 

(信じて良いのよね?)

 

凛の問いは彼に届く事は無かった。

 

 

◆◆◆

 

 

予想外、盲点、伏兵、奇襲、綾子の脳裏に浮かんだのはそんな言葉だった。凛が真也に目を付けるとは夢にも思わなかったのである。二人は関係を否定したが彼女の直感は警告していた。一刻の猶予も無い。

 

お洒落を活動的な物からフェミニンな物に変える。メイクを施し真也が知らない自分を演出する。デートはカップルの多い所を選び、女の子だと意識させ彼から告白を……というプランを練っていたがそんな猶予は無くなってしまった。

 

帰宅した綾子は母親に泣きついた。

 

“お母さん! 男の子を掴まえるにはどうすれば良い?!”

“胃袋を掴む”

“悠長にしている時間が無い!”

“なら身体を使うしか”

“からっDAっ!?”

 

綾子は自分の部屋で悩みに悩んだ。彼女を支配するのは“性的な意味での肉体関係”である。考えた事は無い、そう言えば嘘になる。だがいざ挑むとなると身体は鉛の様に重い。行為への羞恥も恐怖もあったが、それは彼女がもつ最大であり最後の武器である。それで拒まれればもう打つ手が無い。天下無敵のシスコン野郎には不安が拭い知れない、と言うことだ。準備期間が無いのが惜しまれる。

 

足りない分は補う。そう考えた彼女はクローゼットの奥底に仕舞い込んでいたそれを取り出した。手に持つのは縦のラインが入ったニットのワンピース。俗に言う“縦セーター”である。真也と付き合いの長い彼女であるから嗜好などお見通しだった。いつか使うかもとは考えていたが、実際に使うとなると非常に勇気が要る。自分に似合わないと言うのもあるが、何より性的である。

 

意を決して着替えた。

 

それはベアショルダーネックで肩を大きく出したネックラインである。立て鏡に映る己の姿を見て彼女は声を失った。

 

「……」

 

ゆったりとした衣類であるゆえ、一見身体のラインは見にくいが、柔らかい生地のため姿勢によっては丸わかりになる。なにより露出が多い。首から肩へのラインは卵の様に滑らかで、裾から伸びる脚は子鹿の様に弾んでいた。

 

彼女は自分のことを女らしいと思ったことは無いが、これで行けるのではないかと思い始めた。幾つかそれらしいポーズを取っていると下着の肩紐に気づいた。あからさまな下着の作りである。変えたいが見せ様の下着など彼女は持っていなかった。やるなら徹底的だとはぎ取った。その恰好は身体を覆っているという感覚に乏しく、着ているのか裸なのか曖昧だった、落ち着かない。

 

鏡の中の己に言い聞かす。

 

「よし、美人だぞ綾子。鉄則はその気にさせること。ここまでやればあの真也(シスコン)も落ちる」

 

落ちたらどうなるか、想像すればその顔は果実のよう。勿論トマトかリンゴである。

 

「う、うわぁぁぁぁっ!」

 

気が済むまで枕に鉄拳を打ち込むと、彼女は他の誰かに見られない様にコートをしっかり纏って彼の家に赴いた。不安と期待と、複雑な感情が折り混ざって彼女の身体は小さく震えていた。

 

 

◆◆◆

 

 

夕暮れに染まる生活道路を歩くのは凛と真也である。夕飯の食材を手にぶら下げて、商店街から凛の家に戻る途中であった。日没までそれ程時間は無いが、ついでだからと彼の家の様子を見に行く事にした。二人連れだって夕食の買い出しというのは相応のイベントだが彼は気が重かった。凛の説教が止まらないのである。

 

「向こう見ず」

「……」

「無頼漢」

「……」

「短慮軽率」

「……」

 

彼女が言及しているのは勿論校内乱闘と、その結果の事だ。呆れて物も言えない、と彼女は見せつける様に溜息をついた。

 

「騒ぎを起こさない為に秘密にしたのに起こしてどうするのよ」

「俺が騒ぎを引きつけて、凛の行動をしやすくした、そう考えて」

「こじつけも良いところね。もう少しマシな良い訳を考えなさい」

「秘密にしてこれなら、公表すればもっと大騒ぎになったと思います」

 

「そのまま逃げれば良かったのよ。真也の脚なら造作も無いのに」

「男の子には連帯感って物があるの。彼らの気持ちも理解出来る。言いたくないけれど原因の半分は凛だぞ。凛に振られた可哀想な男の子たちなんだから」

「その文句は私に言うべきね。筋違いだわ。みっともない」

「馬鹿だな。振られた鬱憤をその娘に晴らすなんて、それこそ格好悪すぎだ」

 

「真也に当たるなら同じじゃ無い」

「だからその鬱憤が溜って仕方なかったんだろ。晴らさずにはいられないって奴。ガス抜きだよガス抜き。俺も反撃したしトントンだ」

「衝動が抑えられないなんて、未熟も良いところね。それとも子供?」

「欲望、憤怒、嫉妬、恐怖、負の感情ってのはあらゆる動機の根源だぞ。彼らは魔術師じゃ無い一般人。ていうか理性は経験が物を言うから、元気だけしかない高校生にそれを求めるのも酷だろ。こんな事もあるさ」

「真也に怪我をさせた事が不愉快、そう言えばご理解頂ける?」

 

拗ねる様な凛の表情を見て彼は頬を掻いた。誰かに心配される、そういう扱われ方に慣れていないのである。彼は遠回しに説明をし始めた。

 

「……理性ってのは動機にならない。人間の判断力と行動力には限界があるから、見落としもすれば行動が足りない時もある。すると間違える、間違えれば辛い目にあう。何かと辛い人の世で理性を持って生きるなら、死か世捨て人という結論に至る。それでも生きるのは負の感情があるから。

 

負の感情ってのは理性って厄介な代物に対する武器だ。だから辛い現状に立ち向かい、何かを求めようと歩く事が出来る。つまり強い負の感情を持つ人間ってのは成し遂げる力を持ってるって事だ。ハングリーさって奴だな。

 

歴史書を紐解けば良い。偉業を成し遂げた武将、英雄だって、それなりにエグい事をしているのが良い例だ。凛、負の感情ってのは恥ずべき事じゃ無いぞ。禍根の渦に至る、魔術師だってそういう欲望を持っている」

 

気がつけば自分の家の前。門を開ければキイとさび付いた蝶番が音を立てた。

 

「立派な講釈だけれど、何が言いたいのよ」

「俺がそう言う負の感情を持たず、理性的で控えめな人間だったら、凛の目には止まらなかったって事。まぁ俺に関わったのが運の尽きだと諦めてくれ」

「そう、自惚れてるのねアンタって」

「違うって。俺にはトラブルがついて回るって事だ。凛、考え直すなら今のうちだぞ」

 

凛は盛大な溜息をついた。やってられないとうんざりした。

 

「あの時声を掛けたのが運の尽きね。回れ右して立ち去れば良かった」

「あの時?」

「グール戦の夜の事」

「そうかもな」

「胃に穴が開いたら責任取りなさいよ」

 

笑いながら扉を開けると、玄関に見慣れない靴があった。黒のロングブーツである。桜のものでは無い、千歳のものでも無い、見覚えが無い靴だった。物取りにしては妙に洒落た靴だ。不可解さを感じつつも念のためにと、彼は傘立てにある木刀を引き抜いた。異変を察知した凛も神経を切り替えた。

 

居間へと続く扉を開けるとそこに立っていたのは綾子だった。鉢合わせした理由は簡単だ。真也が帰宅を悟った彼女は出迎えようとしただけである。お帰り、遅い、何処に行っていたのか、綾子のその言葉は真也の肩越しに見える凛の姿にかき消された。

 

「「「……」」」

 

彼の目の前には綾子が居た。背後には凛が居る。長い沈黙が続いた。これ程辛い沈黙が存在することを彼は初めて知った。

 

綾子がこの場に居る理由は難しくない。長い付き合いのうえ、彼女は合い鍵を持っているからだ。だがこのタイミングでここ居る理由が彼には思いつかない。極めつけが凛である。二人は関係を秘密にしたが、家に連れ込んでは誤魔化しも出来ない。

 

「どういう事、これ」

 

綾子は不愉快さを隠すこと無く凛を睨んでいた。凛と真也は共に制服姿、加えれば食材の入ったビニール袋を手からぶら下げていた。どう都合よく解釈しても、ただの知り合いには見えない。

 

「蒼月君?」

 

凛の表情は笑っていたが帯びる気配は笑っていなかった。“観念して説明しろ”と言っていた。綾子の艶めかしい姿を見て何用か察しを付けたのだった。彼は下手に取り繕うよりは端的に述べた方が良いと判断した。心中で謝罪してからこう告げた。

 

「凛と付き合ってる」

「嘘をつくならもっとマシな嘘をつきなよ」

「嘘じゃない」

「ミスパーフェクトが真也を相手にする訳が無い」

「嘘、じゃない」

 

強い物言いに揺さぶられた。一歩後ずさった。

 

「今朝、何でもないって」

「騒がれたくなくてそう言った」

「私聞いてない」

「昨日のことだから」

 

「嘘だ」

「嘘じゃない」

「真也は勘違いしてるのよ、桜に好きな奴が出来たからそれでやけっぱちなって」

「済まない」

 

「私ずっと真也のことが好きで」

「済まない」

「でも桜が居たから我慢して」

「済まない」

「やっと動き出せるって、嬉しくて、」

「済まない」

 

彼はゆっくりと首を振った。綾子は俯き身体を震わしていた、直に握り手に力が籠もり始めた。感情がこみ上げ呼吸が乱れ始める。面を上げた綾子の頬には幾重もの涙が走っていた。真也の頬に鋭い痛みが走った。

 

「私を選んだって言ったのは真也なのに!」

 

彼を押しのけ一歩踏み込んだ。綾子は凛を引っぱたくと、凛もまた綾子を叩き返した。

 

「最低!」

 

泣き子の様に立ち去る綾子の後ろ姿を、真也はただ見送るのみである。出来る事などありはしないのだ。

 

「綾子とは買い物に行く仲だったんだけれど、どうしてくれるのよ?」

 

重苦しい空気をぬぐい去ろうという彼女の発言は彼に届くことは無かった。

 

(……俺は綾子に何をした?)

 

それは彼が持っていない筈の心の反応である。テーブルに置かれた夕食の用意、それは彼をあざけ笑っていた。

 

 

◆◆◆

 

 

遠坂の家に帰宅した彼はいつも通りだった。何食わぬ顔で食事を取り、ぎこちない凛と意見を交換し、葵と凛が寝静まるのを待って屋根に登った。腰掛けて見上げる空には雲が敷き詰められ月も星も見えない。ただ陰鬱な重圧のみがのしかかる。彼が抱きかかえる霊刀がいつになく冷たい。戦闘服が重い。冬の身を切る空気のみが救いだった。

 

「……」

 

彼の脳裏に焼き付いたのは綾子の涙であった。誰かを泣かす事が良くないことは知っている、理屈で分かる。だが。何故その光景が脳裏にこびりついたのか、何故繰り返し脳裏に再生されるのか。なぜ忘れようとする程に強く心に刻まれるのか。彼はそれが理解出来なかった。当然である、それは彼にとって生まれて初めての経験だったからだ。

 

「精が出るわね」

 

気がつけば出窓から凛が現れた。ネグリジェの上にガウンを纏っているがこの寒さでは辛かろう。

 

「もう1時だぞ。早く寝てくれ」

「2時よ」

「尚更だ」

「程々にしなさい。根を詰められて、いざという時に不調だと意味が無いから」

 

隣りに腰掛けた凛を一瞥すると、彼は再び天を仰いだ。彼女は立てた両膝に鼻先を埋めて身体を丸めていた。視線は下がり気味、彼女の気分も優れない。勿論綾子との一件である。

 

「どうしてそんなに辛そうなのよ」

「自分でも良く分からない。だから相談できない」

「綾子を振ったの後悔してる訳?」

「聞くな。きっと不愉快な話だ」

 

「言いなさいよ」

「……後悔とは少し違う。ただ酷く気になる。自分が正しいのか分からなくなった」

「選んだ、ってどういう事」

「昔の話」

 

「話して」

「話せない。多分凛に吐露して楽になってはいけない事だ。俺が背負うこと。凛と綾子の立場が逆だったら、これ程の侮辱は無いと怒り出す」

「綾子とは古い付き合いって聞いたけれど」

 

「ただの知り合いからカウントするなら10年。もういままでのような関係には居られないんだろうな」

「関係あったの?」

「関係?」

「その、肉体的というか」

 

「だから、ない」

「ごめん」

「なんだ、急に」

「私、自分の事しか考えてなかった」

 

「気にするな。そんなの誰だってそうだ。時は容赦なく進んで人を変える。人の居場所を変える。人間はずっと同じ所に居られない。別れはいつか来るさ。綾子とはそれが今日だったんだろ」

 

「ドライね。虚無主義?」

「現実主義。俺にはそれしか無いから」

「変らない関係ってあると思う?」

「さあ。強いて言えば血族かな。こればかりは変らない」

 

「血統を重んじるとは思わなかった」

「それすら信じられなくなったら人間お仕舞いって事」

「信じられないって、悲しいわね」

「全くもって同感。ほら、もう寝てくれ。目に隈の出来た凛は見たくない」

 

「私だって寝不足なら居眠りだってするのよ。ミスパーフェクトって仮面なんだから」

「意地を張るのが遠坂凛だろ。なら張り通せ」

「そんなに私が邪魔?」

「凛の気遣いは涙が出る程嬉しい。けれど少し一人にしてくれ。凛が側に居ると考えが纏まらない」

 

凛は腰を上げた。

 

「アンタってなんでも一人で抱えるのね」

「俺が考えなきゃいけない問題だから」

「桜なら?」

「桜でも頼らない。桜は誰かに甘える様な弱い兄じゃ守れなかった」

「そう」

 

彼女は背を向けたままである。

 

「明日教会へ行って」

「教会? なぜ?」

「アンタ、監督役に目を付けられたの」

 

繰り出されたアーチャーの発言は凛の姿が消えたのを見計らった様であった。事実その通りである。

 

「屋根で星を見ながら物思いに耽る、か。まるで真っ当な人間の様だな。顔色一つ変えずイリヤスフィールを殺そうとした人間には見えない」

「随分とタイミングが良いな、弓兵」

「いつも使っている席に今日は先客が居たという訳だ。席が空くのを待つのは構わんだろう」

「そりゃごもっとも」

 

アーチャーは良い機会だと話す事にした。一拍、こう切り出した。

 

「言わなくても理解しているだろうが、私の仕事はマスターを勝利に導くことだ。問題があれば排除する。それが物理的であろうと、魔術的であろうと、精神的だろうとそれは変らない。お前が信頼に足りうるか、この懸念はバーサーカーに対するそれと拮抗してている」

「要するに釘を刺しに来たって事ね」

 

もちろん凛に対しての事である。

 

「平時であれば可愛げもあるが、今は大事な時なのでな。貴様の真意は何処にある」

「俺の返答に問わず、お前が俺を嫌っているのは変らない。なら俺に答えるメリットは無いね」

 

「ほう。存外冷静だな。疑われても構わない、その様に解釈出来る。それとも初めからそのつもりだからか?」

「アーチャーが俺を嫌っていることは知っている。バーサーカー戦のとき何度か狙っただろ。そんな奴に愛想良くする必要は無い、違う?」

 

「さぁな。覚えが無い」

「どうしても気に入らないならケリを付けようか。俺は構わないぞ。手負いのサーヴァントに対して俺に支援魔法は無し。きっと良い勝負になる」

 

真也は立ち上がり刀に手を伸ばした。眼鏡越しに見える双眸が蒼く光る。万物の存在を根源からかき消しかねない深淵の灯火だった。それはアーチャーの警戒を最大限に煽った。真也の危険性を実感するには十分だったのである。

 

(不本意だが、保険として衛宮士郎を叩き上げるしかあるまい)

 

アーチャーは忌々しい目つきを残し姿を消した。真也は米神を片手で掴んで呻きを上げた。

 

「何で俺は苛ついてる。どうしてこう冷静でいられない。俺は、俺の何が壊れたのか、分からない」

 

彼に答える誰かはこの世に存在しないのである。

 

 

 

 

 

つづく!





書き手ですら恥ずかしい展開、胃が痛い展開というのは、読み手の方にはどう映るのだろう、そんな事を考える今日この頃。いえ、自重なんてしませんけれど。リミッターカットしてますし。おすし。


暫く戦闘はありません。ドロドロドロだけです。ドロドロです~~~~(m-_-)m


【シスコンの推移まとめ:躊躇いとか呵責とか】
・イリヤを殺しかけて、良く分からないが自分に不愉快になる
・桜と離ればなれ、凛と葵に煽られまくりストレスが溜る。
・凛とおでこをごっつんこ。これが致命的
・綾子を泣かして自分がおかしいのではないかと疑い始める←今ここ





【タイガー道場行き選択】

「二人とも大事なんだ!」
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