冬木市シスコン奮闘記   作:D1198

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43 カズム・3

綾子がその部屋に入れば真っ暗である。タンスのような重量感、窓の輪郭のような物、時計と思わしき影、そして誰かが居そうなベッドが置いてある様な気がした。絨毯と部屋の匂いから洋間と察しを付けたが、目が突然の暗みに慣れず何も見えない。手探りで電灯のスイッチを探せば、把握しているライダーが明かりを点けた。ここはかつて桜が使っていた部屋なのだ。二人が見る視線の先、凛はベッドの上で膝を立て蹲っていた。綾子は困ったものだと溜息を付いた。

 

(重傷だわ)

 

綾子がベッドの端に腰掛けるとギシリと音を立てた。凛の髪が揺れたのは彼女が反応したのではなく、単にマットレスが歪んだ為である。陽気に行くか、同情路線で行くか、綾子は悩んだのち普通に話しかけた。それは教室で話しかける口調である。

 

「久しぶりね、遠坂。元気そう……には見えないけれど、取りあえず安心した」

 

返答は無かった。

 

「で、どう? 馬鹿な事をしたって反省してる?」

「……どうして美綴さんがここに居るのよ」

 

その声に張りは無いが、会話が出来るならそれほど悪質では無い、それが分った綾子は胸をなで下ろした。正拳突きはお手の物だが、引っぱたく事は慣れていないのである。

 

「最近学校に来ないでしょ、どうしたのかってさ。いやー探した探した。まさか衛宮の家だとは思わなかったわ」

「インフルエンザで休んでるの。藤村先生から聞いてない?」

「聞いた。けど俄に信じられなくて。あの遠坂凛が熱病に罹るなんてさ」

「何よそれ」

「今の遠坂は好きな相手に心にも無い事をして、凹んでる初心な女の子に見える」

「言いたい事ははっきり良いって。単に喧嘩を売ってるだけなら今度にして。やり合う気は無いから」

「この間真也に会った」

 

息を呑む音がした。それは誰にとっても想像以上に大きな音だった。

 

「今にも千切れそうなほどボロボロだった。身体だけじゃ無い、精神もね。何かあった、そう思った。心当たりは遠坂しか居なかった、理解出来た?」

「随分と肩を持つのね」

「あそこまで悲壮感を出されると、流石にね」

「面倒見が良いのもそこそこにしておくべきよ。あんなケガ、いい気味」

「遠坂がどうして真也のケガを知ってるのよ。まるで、誰にされたか知っているみたいだ」

 

無駄話に意味がある、そう理解したライダーは静観する事にした。

 

「美綴さんは騙されたのよね? どうしてそこまでするのよ」

「騙されてなんかいない。私が勝手に突っ走っただけ。シスコンだって分かってたのにさ。流石の私も突然降って湧いたチャンスに、らしくなく浮かれてたってこと。憤慨もしたけれど10年も顔をつきあわせたんだ、それほど単純じゃない。聞いて遠坂。真也の奴何かするつもりだ。悲壮の決意って奴」

「もうないわ。桜と一緒にいる真也は幸せで、全てを終わらせようとしてる」

「そう。状況が変わったって事ね。遠坂の言う、その終わりが何を意味するのか知らないけど、それは違うね。それは悲壮の決意って奴だ。真也は遠坂姉妹の存続を願う筈だから。遠坂がそれを知らない筈がない、いや気づいている筈だ。でなければ、あのシスコンが桜を手放す筈が無いから。でなければ真也が遠坂の為に動く訳が無いから。真也にとって二人の存在は自分の命以上に大切だから。その真也にしでかした遠坂は、だから凹んでる」

 

訪れた沈黙を契機とライダーは、凛を見下ろした。その立ち姿には綾子の様な気遣いは無かった。彼女にそこまでの義理は無いのである。

 

「遠坂凛。ランサーのマスターの事ですが」

「知ってるわよ。綺礼でしょ。それが何?」

「貴女が目撃したランサーと真也の会合、それがシンヤを孤立させる言峰綺礼の狙いだったと言う事もですか?」

「なに、それ」

 

凛は顔を上げなかったが、知らない事実を目の当たりにし手を強く握りしめた。

 

「シンヤからの伝言を預かっています」

 

皆を纏めて桜と真也を倒す事、受肉の事、聖杯戦争後の事を告げた。

 

「返答を求めます」

「良いんじゃない? 成し遂げられれば、全員ハッピー」

「冗談を言っているのではありません」

「わかってるわよ。桜と真也を殺せって言うんでしょ、言われなくてもするわよ」

「何も判っていません」

「一緒に二人を倒せとか、桜の記憶を封じろとか、キャスターをプレゼントするとか。勝手なことばっかり。私の事なんて何も考えてないじゃない」

「いい加減にしなさい。考えているからこそ気遣い、貴女の同意を欲したのでしょう」

「桜の事ばっかりだって言ってるのよ。真也と出会ってから辛いことばかり、もういい加減にして」

「辛いのは貴女ばかりではありません。サクラも私もです。貴女を傷つけたと悔いたシンヤは己を呪いました。それは心臓に向かいシンヤの命を削っています。そのシンヤが辛くないと? 正直に言います。遠坂凛、貴女への殺意は変わっていません。叶うならこの場で八つ裂きにしたい。言峰綺礼の罠にまんまと引っかかり、二人を追い込んだのは貴女です。ですが遠坂凛、貴女はサクラにとって身内に他なりません。シンヤもあなた方二人が、仲の良い姉妹であるようにと強く願っています」

「そんな訳無いでしょ。真也は怒ってるわよ。大事な妹を奪って殺し掛けた。許す訳無いじゃない。真也は出会わない方が良かった、って言ったんだから。お前なんかと出会いすらしなければ、ってね」

「馬鹿を言いなさい。貴女を傷つけた変えてしまった事を悔いているだけでしょう。シンヤの考えそうな事です。私としてもあの性格を矯正したいのですが、残念ながら私の声はシンヤに届きません。断っておきますが心地よいだけの関係などまやかしです。愛し合い傷つけあう事は人の性です。傷つけないように生きること、それは客扱いしている事に他なりません。大切な関係であれば厭うべきではありません。傷つけた事を悔いるなら、その分深く愛しなさい」

「どこの英霊か知らないけれどライダーはとても人がデキているのね。ならアンタが真也の特別になれば? キレイだし腕も立つ。私の出る幕なんてないわよ」

「シンヤが望むのであれば吝かではありませんが。生憎と私はそういう相手として求められていませんので」

「確かにね。桜以外どうでも良いだろうし」

「貴女たち姉妹以外どうでも良い、です。聞きなさい。遠坂家はサクラを捨て、間桐家はサクラを虐待した。サクラは欠損するシンヤと出会い立ち直った。何の因果かシンヤは貴女と出会った。別陣営のマスターになった事もそうですが、貴女たち3人の関係は歪すぎた。今の関係の状況に陥った事は、ある意味当然です。ですが3人はまだ生きています。良いですか?

 

助けを求めるには対価が必要です。シンヤは貴女にしでかし、貴女はシンヤにしでかした。私に言わせれば貴女がしでかした事の方が大きい。であれば貴女が誠意を持って償うべき事でしょう。ですがシンヤはそれを求めてもいない、提示もしていない。つまり打算の無い関係を求めています。損得を問わない助け合う関係を何というか知っていますか? やる事をやって全てやり尽くしてどうにもならなくなったこの修羅場に、追い詰められたシンヤは貴女に助けを求めた。そんな事が許されるのは身内のみです。もし第3者であれば、馬鹿にするなと怒り出す話です。プライドも何もかも捨てて共にサクラを助けてくれないか、と頭を下げました。貴女はどうしますか? このまま全てに目を背け、今の様に閉じこもっていますか? シンヤは一歩踏み出しました」

 

引き継いだのは綾子である。

 

「言おうか迷ってたけれど、遠坂にボコられた後、真也が何をしようとしてたのか言ってやる。真也は聖杯戦争の参加者を全て倒し、その上で聖杯を手に入れないつもりでいた。勝利者の居ない聖杯戦争、そうすれば遠坂の敗北は無かった事になるから。ランサーさんのマスターを倒し、勘違いを遠坂に知られる事無く葬り去ろうとした。真也は迫る寿命の中、それでも遠坂の事だけを考えた。ハッキリ言っておく。私は遠坂が嫌いだ。桜ならまだ諦めも付く。桜と同じ10年顔会わせたのに、私はそこそこの扱いで遠坂は遠坂ってだけで真也にそこまで大切にされた。良心と呵責を持たない桜の為だけの性質、それを正すのは私の役目だった。時間を掛けて矯正するつもりだった。私がしたかった。でもアンタは遠坂ってだけでそれをあっさりと成し遂げた。ずるい、羨ましい、妬ましい、憎い。でも二人を助けられるのは遠坂だけだ。遠坂がどれだけ辛いのかは知らない。その何とかって人に嵌められた事は同情もする。でも遠坂が真也を変えた、変えてしまった事は紛れもない事実。その責任はとりなよ。勝手なのは分かってるけれど、助けられる力を持って、助けられる立場にいて、何もせずに手を拱いてあの二人が死んだら、それは見殺しと同じだ。私アンタを恨むから」

 

その声のトーンは高かった。

 

「美綴さん、もう一度聞いていい? あそこまでこっぴどく振られてどうして肩を持つのよ」

「それはまったく同感だ。質の悪い奴に捕まったと思って諦めるしか無いね」

「報われないのに?」

「もう報われた。桜だけだった奴に死ぬ気で助けられちゃ、ね。私としてはそれで十分。で、遠坂はどうする? このまま籠もってたら負け犬のままよ?」

「……誰が負け犬よ」

 

漸く綾子を見上げた凛のその顔は、悲嘆に暮れた跡が見えた。過去形だと気づいた綾子は手間を掛けさせたこの友人に、挑発的な笑みをもって返した。

 

「アンタだってそうでしょ? 分ってない様だから言うけど。妹の方が大事だからって、言われてはいそうですかって引き下がったのよ? それって、彼氏の妹に負けましたって認めた様なものじゃ無い。ここまで馬鹿にされて黙ってみてるわけ? 私にも言われたから分るけど、遠坂に出会う前の真也は桜の為なら死んでも良いって思ってた。私は何時殺されても良いって思ってた。遠坂はあっさり引き下がった。私は諦めない。まだ聞きたい?」

「美綴さんってタフなのね。根っこはもっと繊細だと思ってた」

「そう? 遠坂に言われるなら本望だ。だって遠坂凛もタフの筈だからさ。で、どうする?」

「やるわよ。遠坂では無い美綴さんにそこまで言われちゃ引き下がれないじゃ無い。それに、別れ話を美綴さんに暴露したあのデリカシーゼロバカに一言言わないと気が済まないわ」

「幼なじみだから」

「関係ないわよ」

「何でも知ってる仲ってこと。遠坂のしらない事もね」

「ふざけんな」

 

ライダーが口を挟んだ。帯びる雰囲気は和らいでいた。

 

「遠坂凛、回答を聞かせて下さい」

「私は桜を裏切った。真也はこれから桜を裏切る。酷い姉と兄。それでも助けたいから、一緒に汚れてくれって言うんでしょ。分った。あのバカとは共犯なのよ」

 

胸を張り見下ろす綾子は自信を持ってこう宣言した。

 

「言っておくけれど、退かないからね」

「いいわよ。好きにしなさい」

「あれ、意外な反応だ」

「だらしない弟の頼みとあっちゃね。姉としては見守るだけよ」

「ま、アンタたちにはそれが落としどころか。話を聞く限り、真也も桜の兄で居たがってるようだし」

「そういうこと」

「嘘言いなよ。未練たらたらのくせして」

「言っておくけれど望み薄よ。真也は遠坂の為だけにあるんだから。それでも追いかける?」

「そんな覚悟10年前に済ませた」

「上等じゃない」

「言っておくけれど、めそめそ後を翻訳してからいいな。10年のアドバンテージは伊達じゃ無い。遠坂だって胡座をかいてるとひっくり返すから」

「それは結構。遠坂の当主としてその挑戦承ります」

 

二人は笑い出した。

 

「なんだか腹減ってきたし腹も立ってきた」

「それは名案だ。けれど食べ過ぎるなよ。再会した時デブってたら台無しだ。顎の下とかね」

「失礼ね。美綴さん程食い意地は張ってないから」

 

立ち上がった凛に向かい合い見下ろすのはライダーである。打って変わり神妙な騎兵の態度に凛は彼女に感謝しつつも、まだ説教が有るのかと辟易したが、予想は違っていた。

 

「遠坂凛。これは貴女に渡しておきましょう」

 

それは凛の手でも握り覆える程度の大きさの赤い宝石、ルビーだった。指で摘まみ明かりに翳せばその結晶の中に、立体的に構築された術式が見えた。単純な意味を持つ一つ一つのシンボルが、緻密に複雑に関係し合い一つの大きな意味を持っていた。ステンドグラス、万華鏡、凛が持ったイメージはそれだった。それは彼女が初めて見る高度な礼装だった。

 

「なにこれ」

「サクラの記憶を封じる術式結晶(コードセル)です。私は封じる事には反対ですが、貴女に渡しておきます」

「ふぅん。術式を圧縮結晶化したのか。とんでもない代物だけれど、流石キャスターってところね」

「遠坂凛。伝えておかないといけない事が4つあります。心して聞いて下さい」

「まだあるの?」

「むしろここからが本番です」

 

席を外すかと気を使った綾子にライダーは首を振った。

 

「いえ、もう関係者ですからアヤコも聞いて下さい。一つ目、シンヤの精神構造の件です。 シンヤは遠坂という血に逆らえません。遠坂凛と出会う前のシンヤであれば、サクラが死ねと命じられれば死ぬ、それ程です。今から10年前。無色だったシンヤはサクラという少女と出会った時、その為だけにあるという自己を構築しました。影響を持つ者とはサクラの血に連なる者、遠坂の血を引く者と言う事です」

 

凛は握り拳を口元にそえて、思い当たる節を復習していた。

 

「そう、調子が悪くなったり、吐血したりしたのはそう言う事」

「繰り返しますがその呪いは心臓に向いています。つまり、今のシンヤは生命どころか精神、記憶、思念……存在喪失の危機に立っています」

「二つ目は?」

「サクラとシンヤはパスを繋いでいます」

 

凛はさも不愉快そうな表情を見せた。方や綾子は良く分からないと首を傾げた。

 

「どういう事よ」

「落ち着いて聞いて。美綴さん。あのシスコンはとうとう一線を超えたって事」

 

カチコチと時計が時間を刻む事しばらく。綾子は底冷えのする笑みを浮かべた。

 

「ふーん、そう。とうとうやったかあのバカ」

 

綾子は暴れ出しはしなかったが、その憤りは表情に表れた。食いしばる歯が悲鳴を上げていた。二人の温和しい態度に意表を突かれたのはライダーである。

 

「意外です。強い憤りを見せるかと」

 

堪えていた凛であったが、ライダーの冷静な指摘に我慢出来ないととうとう声を荒らげた。

 

「遠坂の為だけにある真也が、全部無くして、止まりかけていた状態で、遠坂である桜に求められれば為すがままな事ぐらいわかるっつーの! くっそー。手を出すなって真也に釘を刺しておくんだった。そうすれば!」

「サクラに殺されていた、でしょう」

 

ライダーの冷静な指摘に凛は悔しそうに黙り込んだ。綾子は余りのショックに目眩を起こしていた。不可抗力とは言え、真也は綾子の全てを見たにも関わらず何もせず、一緒のベッドで添い寝までしたのに何もせず、あれだけ勇気を出し誘惑したにも関わらず、あれだけ恥ずかしいセリフを口走ったというのに、それを拒絶したあの男はあっさりと、妹の誘惑に応じたのだ。いきり立つ綾子は端と気づく。

 

「ちょっとまて。それって、遠坂が求めれば真也は応じざるを得ないって事? それって逆レイプみたいなものじゃない」

 

沈黙が訪れた。

 

「そんな事しないから安心しなさい」

「僅かな間について説明を求める」

 

 

◆◆◆

 

 

三つ目はライダーにとって戸惑う内容であった。知れず唇と握り手を強く結んだ。初めて見る、似合わない態度に凛は驚いた。

 

「珍しいわね。言い淀むなんて」

「サクラはシンヤの症状を進行させています」

「……何それ」

「推測ですが、サクラは遠坂凛の事を忘れさせようとしています。復讐の為に」

「その為に兄の寿命を削る?」

「……はい」

 

凛の表情が瞬く間に鋭くなった。綾子も同様である。

 

「遠坂、私の考えている事が分る?」

「幾ら引け目があっても道具扱いは認めるな、でしょ?  桜、本人に直接確認するわ。ライダー。4つ目は?」

 

ライダーは今度こそ躊躇った。心の底から葛藤した。正直に言えば凛に伝えたくは無い。凛が立ち直った以上、伝えなくとも良いはずだ。だが、依頼は果たさねばならぬ。何よりそれはマスターの姉を強く動かす原動力となろう。それは二人を助ける可能性を高める事に繋がる。だが凛に塩を送る事に他ならない。伝える、伝えない、反問する事暫く。ライダーは内心で深々と溜息を付いた。的を得ているというか、ツボを押さえているというか。真也の手管がワザとではないなら、大した物だ。

 

「なによ。早く言いなさいよ。この状況なんだから、ちょっとやちょっとの事じゃ驚かないわよ」

 

ライダーの心中どこ吹く風、何も知らない凛は既に平常運転だった。渋々口を開く。

 

「シンヤから貴女に言づてを預かっています」

「別件って事?」

「いえ、関係する事はするのですが」

「なによ、歯切れ悪いわね。ますますらしくない」

「……」

「早く言えっての」

「……“助けて”と」

 

身体を硬直させ、頬を染めた凛がそこにいた。不意に告白でもされたかの様な、表情であった。その言葉の意味に気づいた綾子は茫然自失の体である。今まで。真也が誰かを頼る事など無かった。その綾子ですら協力を求めるというレベルで留まり、手伝ってくれという表現で済ますのである。桜に絶対の安心を与える、完全な兄は誰かに頼る事など出来なかったからだ。親である千歳も同様。彼はその生涯において、初めて誰かを頼ったのである。

 

「あの真也が?」

 

虚偽ではないのかと疑う凛であったが、ライダーには踊り出す寸前の子供に見えた。

 

「はい」

「嘘じゃ無いでしょうね、それ」

「私の立場を考えなさい。事実で無ければ嘘でも言いたくありません」

 

遠くを見る視線の凛はとても幸せそうである。

 

「そう、助けてって言ったの。あの自信と実力の塊が。頼ってって言っても頼らなかった真也が」

「もう良いですか?」

「もう十分」

「何故助けるのか、どうするつもりなのか、その理由を聞いていません」

「決まってるでしょ。二人とも連れ帰るのよ。身内を助けるのに理由は居る?」

「今更ですか」

「ここにきて意地が悪いわね、アンタ。二人とも大切なのよ。私の勘違いなんて馬鹿な理由で失う訳にはいかない、無くしたくない。真也が桜を背負うなら、私も背負わないと。私たちにとって桜は同じ妹だから。真也が私を必要って言ったなら、それ以上要らないわ。桜に罵られても成し遂げる」

「真也は逝くつもりです」

「そんなの許さない。ここまで関わってその後は知りませんなんて認めない。許してやるもんですか」

「全く腹が立ちます。私とて言われなかったのに。遠坂凛。これは貴女に渡しておきましょう」

 

それは一振りの日本刀。ライダーがアインツベルン城で回収した真也の霊刀である。凛は知れず握りしめると胸に抱いた。

 

「つーか、もっと早く言え」

「貴女には今まで散々手を焼かされました。その貴女が喜ぶ事を簡単に与える理由はありませんから」

 

凛が弾む様に部屋を出て行くとライダーと綾子は微笑みあった。凛の歩く姿は軽快で、颯爽として笑みの中にも自信がみなぎっていた。皆が知る遠坂凛が帰ったのである。綾子はそれを真也に知らせたい、知らせたくないと悩み、結局知らせるべきだろうと考えた。きっと彼は喜ぶ、彼女はそれが嬉しくて堪らないのだ。損な役回りだと、心底思う。綾子は目の前の美人が気になりこう聞いた。

 

「腹が立ちます、という発言が気になっているんだけれど、ライダーさんは違うのよね?」

「安心して下さい。シンヤに恋愛的な感情は持ち合せていません」

「……それってどういう意味? 恋愛的以外って事?」

「手間の掛かる子ほど、情が沸くという訳です」

 

理解出来る自分が悲しい、と綾子は項垂れた。

 

「普通の恋愛がしたかったのに……どうしてこう成ったんだろ」

「ところでアヤコ。私たちは似た境遇同士、 懇意になっても問題ないと思うのですが」

「えーと、それは深読みしなくて良いのよね?」

「もし、全てが終わった時にまだ私が顕界していたならば、あの二人の事を教えてくれませんか? それはとても楽しい時間でしょうから」

「そんな事ならお安いご用。真也の馬鹿な武勇伝から、桜の重くて恥ずかしい話まで、全部聞かせるよ」

 

綾子は防寒具拾うと袖に腕を通した。

 

「ライダーさん。私の役目はここまでだから、もう帰るけれどあの姉兄妹を頼んだ。無事に連れて帰って」

「アヤコの存在はあの二人のとって幸いだったのでしょう。チトセに替わって礼を言います」

「そう言われるなら、10年見守ってきた甲斐があるってもんだ」

 

綾子は笑って衛宮の家を後にした。

 

 

 

 

 

つづく!

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