冬木市シスコン奮闘記   作:D1198

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08 聖杯戦争・序3

士郎は初めそれが映画の撮影、もしくは何かの冗談ではないかと思った。武器を握り対峙する赤い男と青い男。二人の男が繰り広げられる剣戟は、激しいなどと言う言葉では表現できない、現実味を欠いたものだった。離れていても、否、離れていてこそ、それが良く分かった。

 

“関わってはいけない”

 

偶然走った一台の車を切っ掛けに、彼は逃げだそうと身体を動かした。その気配は青い男に察知され、士郎は一目散に掛けだした。

 

気がついたら比較的人通りのある基幹道路、それなりに賑わう駅前ロータリーに抜けた。警察署に駆け込んで事情を話した。見たままを話せば悪戯だと思われる可能性があったので“刃物を持って争っていた”と話した。警官が駆けつけると現場には誰も居なかった。幾つか書類を書いたら気が落ち着いた。

 

あれは何だったのか。

 

酷く現実味を欠いていたが、それは事実だと感覚が告げていた。もう一人誰か居たような気がしたが、良く分からない。

 

舞弥に連絡を入れたかったが、生憎と公衆電話は見つからなかった。携帯が普及し急激にその数を減らしていたのである。心当たりのある公衆電話は現場の近くだ、一人で近づく気にはなれなかった。こんな事があるなら携帯電話を買っておこうか、そんな事を考えた。

 

念のためにと“M”字で有名なハンバーガーチェーン店で時間を潰し、もう犯人はどこかへ行ったに違いないと店を出た。

 

その後はいつもの帰路である。バイト帰りいつも使う近道を通っていると、そこにその男は立っていた。

 

「よう」

 

日中はそれなりに賑わうその場所は、深夜ともなれば人影一つ無い。ぽつんぽつんと街灯が点在し申し訳程度に灯っている。河川と陸を隔てる柵は、幽玄の様に浮かび上がるだけだ。その向こうからは水の気配だけがあった。他には青白い光を放つ自動販売機と、無人のベンチがあるのみ。

 

臨海公園。士郎の前に立つ人物はランサーであった。彼は槍を肩に乗せて、皮肉めいた笑みを見せる。

 

「初動は良かったが詰めが甘かったな。乗り物を使って他の街に逃げれば良かったのによ。たしかタクシーとか言ったか? それでも追おうと思えば追えたが、そこまで暇じゃねぇし」

 

男が赤い槍を回せばヒュンという鋭い風きり音がした。士郎はここで殺されると言う事が分かった。覚悟した訳でも認めた訳でも無い、ただ分かっただけである。無意識に後ずさる。

 

「運が悪かったな坊主。ま、見られたからには死んでくれや」

 

ランサーの眼が光った瞬間である、その男に向かって何かが飛んできた。士郎には暗みもあって視認できなかったが、それは半月状の空気の断層だった。その断層は激しい風切り音をかき鳴らし、埃と小石を巻き上げ散らした。真空の刃“かまいたち”である。

 

その直後に原付スクーターに乗った真也が現れた。ランサーは大きく後ろに跳躍、バックステップすると吠えた。

 

「誰だっ!」

 

真也は間髪置かず右腕を振った。その指揮者のような腕はかまいたちを生み、大地を走り、牽制となった。

 

「士郎! 乗れ!」

 

士郎が飛び乗ったのと、ランサーが槍を振りかまいたちをかき消したのは同時だった。真也はアクセルを捻り走り出した。原付に二尻であるから非常にバランスが悪い。士郎は右手でキャリアを掴み、躊躇ったあと真也の左腰を余った手で掴んだ。

 

「なんで真也がここに居る!」

「説明は後だ! 黙ってろ!」

 

真也は士郎を乗せて臨海公園をでた。二人乗りは真也にとっても初めてでバランスが取りにくい、ふらついていた。ただ道路はガランとしていて走りやすかった。事故を起こす事は無かろうが、言い換えれば人気が無い。

 

「何処へ逃げるつもりだ!」

「人気の多いところだ! だから黙ってろ!」

「あの青タイツはしつこいぞ! 冬木を出ない限り追ってくる!」

「ガソリン少ないんだよ! いいから黙ってろ!」

「俺ノーヘルだ!」

「一つしか無い! そろそろ黙りやがれぇぇ!」

 

ベベベベと50CCのスクーターは必死にエンジンを回しているが、逃げ切るのに十分な速度が出ない。士郎は背後が気になって気が気でない。追ってくるだろうという確信を持ってこう言った。

 

「もっと吹かせよ! 追いつかれるだろ!」

「原チャ二尻で無茶言うな! 黙れって言ってるのが分からないのか!」

「馬鹿かテメェ! そっちは上り坂だ!」

「士郎がごちゃごちゃ言うからだろうが! 黙れという言葉を辞書で引いてこい! この阿呆がぁぁぁぁ!」

 

堪らず真也が肩越しに叫ぶと、バイクの走行軌道上に何かがあった。それは深緑で薄くビラビラ形状だった。前輪が踏みつけるとグリップを失いスリップした。車体は制御不能に陥り、二人は投げ出された。ゴロゴロと盛大に転がった。スクーターは滑り電柱に当たった、ガシャンと致命的な音を立てる。身体の痛みを堪えながら、真也が起き上がれば踏みつけた物体を見て叫んだ。

 

「どうして道のど真ん中にワカメが落ちてやがる!」

 

ガバッと身を起こした士郎が罵倒した。

 

「ワカメに恨まれてるからだろ!」

「身に覚えは無い!」

「ワカメを食い過ぎたんだろ、この馬鹿!」

「なら日本人は全員恨まれてるな!」

「俺はそこまで食ってねぇ!」

「いい加減ワカメを忘れろ! なんで執着してるんだよ!」

 

ランサーの気配を察知した真也は、士郎の首根っこを掴んで空き家の庭に逃げ込んだ。豪邸だったそこは広かったが、更地で塀だけが残っていた。一体何だ、と言おうとした士郎の口を真也は塞いだ。もちろん塞いだのは手の平である。大きい庭石の影に隠れて、朽ちた門を見つめる。その2柱の隙間からはパイプ状のガードレールが闇夜に浮かび上がっていた。その様は怪奇映画の1シーンを想起させた。

 

徐々に近づくランサーの気配。上手くやり過ごせるか、という真也の希望はあっけなく潰えた。

 

「コメディーは終わったか? こそこそ隠れてないで出てきやがれ」

 

ランサーは赤い眼を光らせて立っていた。真也は舌打ちすると、立ち上がってランサーに対峙した。ランサーは真也をさっと探る。見た限り令呪は見当たらない、だが手に持つ武器は魔剣の類いだ。なにより強い魔力を内包し、その佇まいは訓練された物だと分かった。

 

「マスターでもサーヴァントでもない。かといって一般人って訳でもなさそうだが……誰だオマエは」

 

手間を掛けさせてくれたな、という苛立ちは興味に変わった。庭石の影から士郎が声を掛ける。

 

「おい、真也」

「士郎はそこにいろ」

 

なお食い付こうとする士郎に彼はこう言った。

 

「俺は事情を知っている」

「……後で話せよ」

「生きてたらな」

 

無視されたと思ったランサーは苛立ちを隠さない。

 

「シカトとは良い度胸じゃねえか、この野郎」

「悪いね、美人さん以外はどうしても対応が悪くなる」

 

真也はヘルメットとゴーグルグラスを手に取ると放り投げた。その左頬は紅葉型に腫れていた、それを見たランサーは鼻で笑う。

 

「左頬にひっぱたかれた跡があっちゃ、気取っても格好は付かねえな」

「絶世の美女だぞ、勲章だよ勲章」

「ハッ、ほざきやがる」

 

真也の返答が気に入ったのか。ニタリ、そのサーヴァントは挑発するように笑った。

 

「空気の圧力差を利用した技、あれはオマエだな?」

「だと言ったら?」

「多少はやる様だが、その程度でこの俺と事を起こす気か? お前なら俺がどの程度か、分からねえってことはねえだろ?」

「あぁ。お前は確かに強そうだ。出来るなら回れ右して帰りたい」

 

「長引くと人目に付きやすい。見逃がしてやっても良いぜ? その坊主を置いていくならよ」

「そうくるよな、やっぱり」

「1度だけ聞く。さっさと決めな」

 

ドンッ! 大地を振るわす音がした。それは真也が大地を蹴った音だ。まるで大砲の様な音だった。その踏み込みは驚異的で、普通の人間なら姿が掻き消えた様に見えただろう。精通する者なら縮地だと答えたに違いない。

 

世界から音が消え鼓動だけが響く。音すら止まりかねないその刹那。霊刀に魔力を込めて、抜刀、ランサーに打ち込んだ。

 

ギィン! ギリ、ギリ、ギチリ。耳障りな音が続けて鳴った。異なる質の魔力が反発し合い火花が散る。真也が縮地から繋げた神速の抜刀は、ランサーの赤い槍に阻まれた。ただその首を僅かに切っただけだ。

 

「へっ! 返答代わりに打ち込んでくるとは分かりやすい野郎だ!」

 

ランサーは口を歪め笑う。牙すら見せた。

 

「気に入ったぜ! 遊んでやる!」

 

真也にとってライダー戦は状況が良かった。狭い室内では機動力を活かせまい。あれが屋外、木々に囲まれた林だったなら苦戦しただろう。二階にマスターである桜が居るのならば、ライダーは屋外へのおびき出しもままならないからだ。

 

アーチャーとの対峙、ライダーとの戦闘、この二つの戦闘経験。相まみえるのは三騎士の一人であるランサー。以上から出し惜しみしている余裕は無いと、彼は全力を持って奇襲を掛けたのだが、見事に阻まれた。

 

ランサーは槍で真也の刀を押し返すと薙いできた。その凄まじく速い切り返しを真也は捕らえた。視界に映るランサーの姿勢、つまり腕や肩の位置を見た。それに加えて、大気の揺らぎ、大地を伝わる振動、氣の流れ、それらを一瞬で読み、槍の軌道を読み上げた。身を下げ、かつ刀を掲げて、その一撃を受け流す。火花が散った。

 

真也は再度踏み込んだ。身を落とした姿勢を利用して、ランサーの脚を切りつける。見越していただろうランサーはバックステップ。真也は再再度踏み込み、着地する直前のランサーの身体を左手の指で押した。

 

「なにっ!」

 

ランサーの敏捷性は驚異的で、バックステップすら鋭かった。それゆえ真也の押し手は浅かったが、かろうじてバランスを崩す事が出来た、つまりは隙である。縮地。ランサーに突き立てた彼の刺突は槍の柄に弾かれた。恐るべき精度と反応速度であった。ランサーは槍を脚代わりにして蹴りを撃ち込んだ。真也ははじき飛ばされ、その距離は10メートルほど。彼は舌を打った、つまり間合いを取られてしまった訳だ。

 

真也の両足が大地に轍を作っていた。ランサーは赤い槍をヒュンヒュンと鋭く回し、空を切った。その穂先による空圧は大地に傷を残した。ランサーは笑っていた、だが真也にそんな余裕などない。

 

「やるじゃねえか。剣と槍では間合いが違う。だから初手の打ち込みを奇襲に見せかけて、俺の懐に踏み込んだな? あれだけ近ければ槍は大幅に威力を削がれる」

「本音を言うと、初撃で首を撥ねたかった。流石三騎士の一人、恐れ入る」

「槍をかいくぐり踏み込む度胸と良い、俺の攻撃を読んだ見切りといい、とっさに俺を押した機転と良い、息さえ切らさない身体と良い、たいしたもんだ」

 

ランサーは腕を組んで彼をちらと見た。

 

「だが、おめぇ妙だな。眼は俺を捕らえているのに、体が追いついていねえ。痛めてるのか? それとも制限食らってんのか?」

「それを教えたら、引いてくれるか?」

「悪い冗談だぜ。これだけの獲物をわざわざ見逃す手はねーな」

(さて、どうする。もう懐に踏み込む事は不可能。これだけの高速戦闘では魔眼も使えまい。あの槍を一瞬でも止める事が出来たなら……)

 

真也は眼鏡を取ろうとして止めた。魔眼を使うと神経に負荷が掛かる、つまり反応が遅れるのだ。高い敏捷性を誇るランサーを相手では致命的である。

 

「……」

 

策をまとめた真也は突の構え。ランサーが宣言する。

 

「行くぜ」

 

ランサーは10メートルの距離を爆発的な踏み込みで一気に詰めた。これだけ距離を取ったのだ、予想通り突き、そして予想通り心臓を狙っている。だから真也は魔力を練り、左腕に乗せておいた。槍を絡め取り、脇に挟んだ。ランサーのその威力は驚異的でそれでもなお左腕と脇を切り裂いた。

 

真也ごと突き押しているにも関わらずランサーの突進は止まらない。このまま壁に叩き付けるつもりだろう。だがそれは真也の予想通りだ。彼の策は二つあった。背後にある蔵、それにランサーの槍を突き刺せ封じる、その衝突時の反動を利用し心臓を突く。途中で止められたら、右手にある霊刀で首を跳ねる、と言うプランだった。だが、ランサーは真也を掴むと投げ、大地に叩き付けた。その衝撃で息が止まる。つまりは読まれていたと言う事だ。

 

「追い詰められていたにも関わらず良い策を練る。だがな、舐めちゃいないぜ」

 

ランサーの赤い槍が真也の心臓を目標に定めた。

 

「全力のお前と戦いたかったが、ま、これも定めだ。あばよ」

 

突き立てられる寸前、士郎が鉄パイプを持って襲いか掛かった。それには魔力が帯びていた。

 

「やめろテメェ!」

 

ランサーの石突で腹を打たれ士郎は吹き飛ばされた。その隙を突き真也はランサーに頭突きを喰らわした。のけぞるランサーは笑っていた。

 

「足掻きが悪いぜ!」

「生憎と育ちは悪いんだよ!」

「いいねぇ、そういうの嫌いじゃないぜ!」

 

飛び退いたランサーは赤い槍を構えた。その目は大きく開かれていた。

 

「なら小手先も無粋。何処の誰かしらねえが、俺からの手向けだ。受け取りな」

 

ランサーは宝具を使う。この僅かな隙を逃すまいと真也は全力で踏み込んだ。赤い槍に膨大な魔力が迸る。だが彼の踏み込みは一歩及ばなかった。もたらされるのは単純な死である。

 

「刺し穿つ死棘の―」

 

士郎は悲鳴を上げる身体を強引に動かして再度ランサーに襲いかかった。士郎を打ったランサーは加減を間違えたのではない、一般人を止めるにはそれで十分だと踏んだのだ。士郎の質をランサーは知らなかった。加えればランサーが飛び退いた先は士郎が吹き飛ばされた場所でもあった。

 

「邪魔をするんじゃねぇ!」

 

士郎を狙ったランサーのそれは突きだった。薙ぎだったならまた結果は違っていただろう。その穂先は士郎の右腕、肘から手首の部分を貫いた。士郎は血が吹き出た事も激痛が走った事も、それらをものともせず身体全体で、赤い槍を絡め取る。

 

「チッ!」

 

ランサーが強引に士郎を振り払った時だ、その懐に真也が踏み込んでいた。眼鏡越しに見える瞳は蒼く光り、その口元は歪んでいた。ランサーは真也が同じ人種だと悟った。真也は霊刀を5時から11時の方向に走らせた。逆袈裟である。その魔力の籠もった一刀はランサーの脇から肩を切り裂いた。

 

浅い。手応えはあったが死に至るまい。

 

続けて切りつけようとした真也をランサーは蹴飛ばした。彼は転がり、土砂を巻き上げながら土蔵の壁に叩き付けられた。ランサーは切り裂かれ血を流す己の身体を見ると、悪鬼の形相を見せた。

 

「やってくれたな、このヤロウ……」

 

蹴りの衝撃が収まらない身体をどうにか動かして、身を起こす。土蔵の壁にもたれ掛かって真也はこう言った。血を吐き咳き込んでいる。

 

「カリカリするな、格下に噛み付かれるなんて良くある事……違うか?」

 

ランサーはその一言で頭が冷えた。腕を組んで宙を睨み上げる。

 

「これだからガキは嫌なんだ。大人への口の利き方が成ってねぇ」

 

やってられない、と言わんばかりである。

 

「ふむ、一足遅かったか。いや早かったのかな、これは」

 

塀の上、アーチャーが立っていた。月を背に見下ろすその姿はふてぶてしい。彼は凛の命を受けランサーと士郎を追っていたのである。静かで広い庭に鋭い緊張が走った。ランサーは全てを忘れたかのようにアーチャーを睨んだ。ギリ、ランサーは歯を噛み鳴らしアーチャーに言う。忌々しいと言わんばかりだ。

 

「またテメエか。お呼びじゃねえんだ、さっさと失せろ」

「残念ながらマスターの命令でね、その目撃者を追っていた」

 

アーチャーは夫婦剣を携えていた。続けて言った。

 

「だが、ここは引いてくれないか? 今夜は少々騒ぎすぎた。人目に付くのは君も本意ではあるまい。君とはやり合った仲だが、お互いに宮仕えという身分、理解はして貰えると信じている」

 

「俺はそのスカした面が気にいらねえんだよ。そんなに早死にしたいならテメエから片付けてやる」

「その傷、私の見立てではそれ程軽くはなさそうだ。それでもと言うなら構わないが?」

 

ランサーは腕を組んで仏頂面だ、不承不承だと言わんばかりである。彼は視線すら動かさずこう言った。

 

「おい、ガキども。聞いてやる、名乗りな」

 

士郎は右腕から血を滴らせながらこう告げた。彼はふらつきながらも立っていた。

 

「衛宮士郎、正義の味方を目指してる」

 

真也は壁にもたれ掛かりながらこう返した。

 

「蒼月真也、最強おにいちゃんだ」

 

“もう少し気の利いた事は言えないのか”、アーチャーはやれやれと頭を痛めた。傷は響くが余裕の表情でランサーは言う。

 

「シロウっつったか、また俺に狙われたくなかったら町を離れるこった。それとオマエだオマエ」

「なんだ」

 

そういう真也はいかにもしんどそうだ。

 

「もう一度やり合う時までに制限(ギアス)をどうにかしておけ」

「男とデートの約束をするなんて悪い冗談だ」

「口の減らないヤロウだ」

 

再び相まみえる、そんな確信を挑発的な笑みに変えてランサーは闇夜に消えた。士郎は一の腕を負傷。真也は左腕と左脇、吐血もしているから消化器系にダメージを負っていた。早く立ち去った方が良いが、身体が動かない。

 

流れる冷や汗を拭いながら、士郎は義理でこう聞いた。

 

「真也、動けるんだろうなお前。死にそうな顔してるぞ」

 

士郎なら癇に障る聞き方をするだろうな、そう予想していた真也は予想通り腹を立てた。

 

「自分のナリを見ろ、人のこと言えた様か」

 

そんな二人を見てアーチャーは首を傾げた。状況から推測して二人が共闘をしたのは間違いない、修羅場を共にかいくぐったのだ、何らかの共感を得ても良さそうなものだが、二人にそんな気は無いらしい。

 

アーチャーは士郎を仕留めるべきか考えた。真也は味方として扱えと命令されているが、士郎は別だ。この時点で士郎はサーヴァント戦を目撃した不幸な一般人なのである。なにより他の理由もあった。

 

「死にそうな顔してたら説得力はない」

「助けられたくせに態度がでかいな、士郎」

「真也は俺を助けたんじゃない、ただ戦いたかっただけだ。違うのか?」

「特攻したかっただけの奴がよくほざく」

 

「そのお陰で真也は反撃できた、事実を認めないのは愚者の証だろ」

「……愚者の意味を分かってるのか」

「辞書なんか引かなくても分かる、きっとどこかの間抜け面が載ってる」

「……上等だ。歯を食いしばれ、因縁にケリつけてやる」

 

「明日にしてやっても良いぜ。そんなフラフラじゃ勝っても面白くない」

「その人を舐め腐った顔が、いつ湿っぽくなるか楽しみだ」

 

痛む身体に鞭を打ち、士郎は腕をまくった。おぼつかない足取りの真也は首元のボタンを緩める。額が触れん程にガンを飛ばしあう、仲が良いの悪いのか分からない2人を見てアーチャーは剣を降ろした。この士郎は彼の知っている士郎と少し違う、そう感じたからだ。様子を見る事にして、マスターである凛に一任する事にした。

 

「アンタたち、いつまでそうやってるのよ」

 

その声の主を探れば朽ちた門に凛が立っていた。両手は腰、脚を肩幅に開いて不遜な態度。だがその可憐な姿には呆れが混じっていた。

 

士郎は「遠坂?」と驚いた。凛のいる理由が見つからないのである。真也は「……いつからそこに居た」と渋い顔だ。からかわれるネタを提供してしまったのではないかと警戒していた。凛は「衛宮君の“死にそうな顔してたら~”からよ」と嬉しさを隠さない。子供っぽい言い合いをネタに弄ってやろうとそう決めた。

 

凛の振る舞いが知っているのと違う、と士郎は戸惑った。何より気になるのが二人の関係である。それはともかくと士郎は言う。

 

「真也、説明しろ。どういう事だ。あの青い男とそこの赤い男は誰だ。何で俺は襲われた。どうして遠坂が出てくる」

「凛、任せた」

「どうして私に振るのよ」

「見られたのは凛の失態だろ、違う?」

 

たちまち憮然とする凛だったが、事実は事実なので渋々こう言った。

 

「その前に手当が必要ね。衛宮君、右腕を出して。止血だけしておきましょ」

 

傷口は鋭利で綺麗だった。これなら直ぐ治るだろうと凛は当りを付けた。士郎が言う。

 

「なら俺の家にいこう。医療品も一通り揃ってる」

「衛宮君の家?」

「同意。ここからなら遠くないし、士郎を送り届けないと舞弥さんが心配する」

「馴れ馴れしく舞弥さんとか言うな」

 

義理は果たしたと真也はヘルメットを被った。

 

「真也、何処行くのよ」

「もう疲れたから家に帰る。あとよろしく」

「アンタも来るのよ。話もあるし怪我もしてるじゃない」

「えー」

「なに? 文句あるの?」

 

詰め寄り遠慮無く言い合う二人を見て、関係を不審がる士郎だった。

 

 

 

 

つづく!

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