Side:CはCLANNAD側、Side:SはSummerPockets側となっています。
――Side:C――
あるアパートの一室で、親子三人がテーブルの上に広げられていた数枚のパンフレットを眺めていた。
「沢山もらって来ちゃいましたけど、どうしましょうか……」
「まぁ、全部行かなきゃいけない訳じゃないからな。良さそうなところを選ぼう」
「そうですね。せっかくの旅行ですから良い所を選びましょう!」
少し興奮気味に、上気した顔に笑顔を浮かべ、勢い込んでそう言う妻を見ていた夫の頬が、自然と緩む。
夫の仕事はなかなか纏まった休みが取れない職種ではあるが、家族の為に人一倍真面目に働くその姿を見続けていた上司や先輩・同僚達が、たまには家族と息抜きをと、彼の分の仕事をそれぞれが分担して受け持つ形で作ってくれた、そんな色々な人の想いの詰まった長期休暇である。
そして何より彼自身が、普段支えてくれている大切な妻と、その妻との間に儲けた、同じくらい大切な娘の為にと提案した旅行。
それを、計画の段階からここまで楽しんでくれているのは、彼にとってはそれだけでも幸せな事だった。
「パパ、これ、なんてよむの?」
「ん?どれだ、汐?」
彼が感慨にふけっていると、小首を傾げながら愛娘……汐が、一枚のパンフレットを指差して尋ねてくる。
「鳥、白いに、島……なんて読むんでしょうか、朋也くん?」
「どれどれ……あぁ、ここに書いてあるな、とりしろじま、だってさ」
妻が、娘と同じように首を少し傾けながら覗き込んでくるのを横目に、朋也と呼ばれた夫は、パンフレットの隅々までに目を通す。
すると、島の説明が書かれている所に、小さく『とりしろじま』と漢字にルビが振られているのを見つけた。
「とろりろじま?」
「違いますよ、しおちゃん。とろしろじまですよ」
「おいおい、お前も言えてないぞ、渚」
「はい……言えてませんでしたね、えへへ」
そう、夫である朋也に言われた妻……渚は、照れたように少し顔を赤らめて笑う。
そんな愛妻の可愛らしい姿に、内心少しドキッとしながらも、傍目には平静を装いながら朋也はパンフレットを読み続ける。
「……へぇ、なるほどな。瀬戸内海に浮かぶ島らしいぞ」
「うみ?」
「あぁ、海だな」
そういえば汐を海に連れていたことはあまり無いなと、朋也は今までの生活を振り返って俯きつつ考える。
そしてそれは渚も同様だったようで、同じように考え込む。
「あのさ」「あの……」
しばらくして、二人同時にお互いの方に向き直り、全く同じタイミングで何かを言おうとする。
「ママ、パパ、仲いいね!」
その様子を見てにっこりと笑って、素直な感想を述べる汐。
そんな純粋かつ恥ずかしい娘の言葉に、朋也と渚は二人揃って照れ笑いを浮かべる。
「朋也くんから、どうぞ?」
「あぁ……ええとさ、この島、行ってみないか?汐も海に行きたそうだし」
「はい!ちょうどわたしも、同じことを朋也くんに言おうかなって思ってました」
そして今度は、お互いの気持ちが同じだった事を喜ぶかのように、二人して微笑み、それを見ていた汐もまた、両親と同じように幸せな笑みを浮かべるのだった。
――Side:S――
周囲が淡い緋色に染まりだした夕暮れ時……ガラガラと音を立てて、一軒の古民家の玄関の引き戸が横に動いた。
「帰ったよー、しろはー、羽未ー」
音をさせた主である男は、開いた玄関をくぐり家に入りながらながら、二人の名前を呼んだ。
少しして奥の方から、トタトタと軽快に小走りするような足音が聞こえ出し、それが徐々に大きくなる。
「おとうさん!お帰りなさい!」
「おー、ありがとうな。羽未」
笑顔で出迎える自身の娘……羽未に声をかけながら、男は愛娘の頭をそっと撫でる。撫でられた羽未は少しはにかむ。
「羽依里ー!ごめん、今ちょっと手が離せなくてー!」
「あぁ、大丈夫だよ。そんなに多くないからな」
家の奥から、少し慌てたような申し訳なさそうな、女性の声が響いてくる。
羽依里と呼ばれた男は、気にはしていないと伝えるかの様に明るく答え、両肩に一つずつかけていたクーラーボックスをしっかりと手で支えつつ、家の中に上がった。
「あ、ごめんね羽依里……重たく、ない?」
「大丈夫だって、これぐらい……しろはこそ、夕飯作りで忙しかったんだろ?」
エプロンで手を拭きながら台所の方から現れた妻……しろはに笑顔で答えながら、羽依里は抱えていたクーラーボックスを二つ、床に降ろす。
そしてクーラーボックスの蓋を開けると、そこには大量の魚介類が詰まっていた。
「小鳩さん、明日から来る客の分だけで良いって言ったのに、なんかめちゃくちゃ色々くれてさ」
「あぁ~……おじいちゃん、多分、羽未にって、あれこれ多めに詰めたんでしょ?」
「正解。まぁ、それはそれでありがたいし、嬉しいんだけどさ」
「わーい!私、おじいちゃんのくれるお魚大好きだよ!」
やや過剰な、しろはの祖父である小鳩の、曾孫への愛情が詰まったその光景に、羽依里としろはは顔を見合わせて苦笑いを浮かべ、羽未は純粋に目を輝かせて喜んでいる。
「そうだな。小鳩さんのくれる魚は美味しいからな…お母さんに美味しく料理してもらおうな」
「うん!」
「じゃあ、今日はお刺身も追加しちゃおうか」
そんな話をしながら、今度は揃って笑顔を浮かべて、三人は頷き合った。
「そういえば、今度来るお客さん……どんな人なの?」
夕食の後、片付けをしながら、おずおずとしろはが羽依里に尋ねる。
「えっと、三人連れの親子らしいぞ。確か夫婦に娘さんが一人、だったかな」
「そっか。うちと同じだね」
「女の子が来るの!?」
自分の食器を台所に運んで戻ってきた羽未の耳に二人の話が入り、少し興奮気味に聞く。
「らしいぞ。歳の頃は……幼稚園か小学生くらいって言ってたかな?羽未より少し小さい位か」
「じゃあ、私がお姉さんだね!」
「お姉さんなら、そろそろ一人で寝れるようにならないとねー?羽未ちゃん?」
「そ、それとこれとは別だよー!?」
腰に両手を当てて胸を張る羽未に、クスクスと笑いながらしろはの指摘が入る。
すると羽未は、顔を赤くしつつ、慌てて否定をする。
「うん、そうだね。私も羽未ちゃんや羽依里と一緒に、川の字で寝るの、好きだよ?」
「あぁ……なんか、家族って感じするよな、あれ」
しろはと羽依里のフォローに、まだ顔を少し赤くしながらも、うんうんと大きく頷く羽未。
対する羽未の両親も、ただのフォローではなく本心からの言葉だったようで、慌てふためく羽未を見た後、お互いの顔を見合わせて笑顔を浮かべる。
「どんな子が来るのかなぁ」
「お友達になれたら良いね、羽未ちゃん」
「この島だと同じくらいの子は少ないしな」
今度は宙を見つめて、幼い来訪者がどんな女の子なのかを、夢見る様な表情で想像している羽未。
その姿が可愛らしく思え、微笑みながら声をかける、羽依里としろはの二人。
「うん!」
それに明るく答える羽未の表情にも、期待に満ちた笑顔が浮かんでいた。