Summer STORY   作:京四郎

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第九話~鳥白島の看板娘(3)~

「ありがとうございましたー!汐ちゃん、またいらっしゃいねー!羽依里、あんたは今度覚えてなさい?」

「えっと……ま、また汐連れて遊びに来ますね」

「ふふふ、ありがとうございます」

「またくるー!」

「……ちょっとからかっただけなのに」

とてもいい笑顔で岡崎家の面々、特に汐に対しては笑みを深めて挨拶をしつつ、その表情のまま若干冷えたトーンで羽依里にも声を掛け見送る蒼。

そんな蒼の様子に、朋也は少したじろぎながら、渚はくすくすと笑いつつ言葉を返し、すっかり蒼にも慣れた感じの汐は、右手を上げて可愛らしく動きながら答える。一方羽依里はまだ少し肩に積もり残るかき氷を払いながら、苦笑いと共に愚痴をこぼす。

 

 

「羽依里さんと空門さん、仲良いんですね」

車に戻り羽依里の運転で次の目的地へ向かう途中、ふっと渚がそんな言葉を羽依里へ投げかける。

「そう見えますか?んー……そうですね、確かに、少なくとも俺は仲良いと思ってますよ。そもそもあいつが人怖じしない明るい性格ってのもありますけど」

運転しながら、少し考えた後にそう答える羽依里。

「思えば、最初の頃に俺がこの島に来た時、なんだかんだ世話を焼いてくれたのは、蒼ともう一人、のみきって呼ばれてるやつでしたね。蒼はその頃から駄菓子屋の看板娘としてやってて、もう一人ののみきってやつは、島の少年団の取りまとめみたいな感じの役割をやってましたから」

昔を懐かしんでいる様子でしみじみと語る羽依里。楽しそうに懐古しながら語る彼の様子につられ、微笑を浮かべながら話に耳を傾ける岡崎家の三人。

「この島の方々は、温かい方が多いんですね」

「そうですね……だからこそ、俺はこの島に救われたんだと思います」

渚の言葉に深く頷き、奇しくも昨日車内で言った言葉を繰り返す羽依里。そんな羽依里の表情を見て何かを感じ取ったのか、朋也も何かを懐かしむような眼をして小さく頷く。

それぞれが思い思いに何事か思い出し、また考え、少しの間沈黙が降りた後、不意に朋也が羽依里の方へ向き直り口を開く。

「それにしても、羽依里さんと空門さんのやり取りはなんだか凄くかみ合ってましたよね。まるでコントか何かかと思ってしまいましたよ」

「あ、あぁ……あれは大体いつものやり取りなんです、恥ずかしい所を見られてしまいましたね」

照れたような苦笑いを浮かべつつ、けれども満更でも無さそうな感じで答える羽依里。

「あいつはあんな感じで誰とでもすぐ仲良くなるし、裏表がない……って言うか、嘘が付けない性格って感じなんで、周りの皆も、あいつの事を嫌ってる人間の方が少ないですしね」

「うしおも、そらかどさん、すきだよー?」

それまで外を眺めていて、まるで話に興味を持っていなかったかのような汐が、急に三人の方へ振り返って言う。

「空門さん、良い人でしたよね、しおちゃん」

「うん!」

渚に微笑みながら撫でられ、元気よく満面の笑みで返事をして頷く汐。

その様子を見て羽依里と朋也も思わず笑みを浮かべる。

「まぁ、よく蒼とあんなやり取りしてると、夫婦漫才だーなんて買い物に来てる子供達に冷やかされて、真っ赤になって子供を追いかけまわしたりするくらい、蒼も子供っぽいところあるんですけどね?」

「そ、そうなんですか……意外と活発な方なんですね」

少し意地悪く笑って言う羽依里とは対照的に、さすがに同じような反応をするのは蒼に失礼だと思ったのか、苦笑し答える朋也。

「……多分、それは子供っぽいんじゃなくて、むしろ逆だと思うんですけどね……」

店での羽依里と蒼のやり取りや、蒼が羽依里を見る時の目や表情を思い返しながら、渚は困ったような笑みを浮かべつつ、男性二人には聴こえないような小さな声のトーンで、ぽつりと呟くのだった。

 

 

 


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