夏の強い日差しに照り付けられながら、一隻のフェリーが、鳥白島の港へ入港していく。
完全に停泊したフェリーから、乗客が次々と降りてくる。
夏の休暇等をこの島で過ごそうと予定している人間が多いのか、その人数は普段よりも幾分か多かった。
その乗客の群れに混ざるようにして、朋也達の姿もあった。
「ふー……ようやくついたな」
「今までにない位の長旅でしたね」
「ねこさん!」
家からこの島まで来るのにだいぶ距離と時間がかかり、やや疲れ気味の朋也と渚とは対照的に、港のあちこちに寝転がっている猫を見つけた汐は、疲れが吹き飛んだ様子で、ニコニコと満面の笑みを浮かべながら猫に近づいていく。
「汐は元気だなぁ」
「船の中でも、ずっと外を見てはしゃいでいましたよね」
汐のはしゃぐ様子を、笑って眺める二人。
そんな二人の元に、一人の男性が近づいていく。
「あの、失礼ですけど、岡崎さん……ですか?」
男は少し緊張気味に、朋也と渚、そして汐を交互に見ながら、朋也に尋ねてきた。
「え?は、はい……そうですけど」
声を掛けられた朋也も、見知らぬ男性から急に名前を言われて、若干緊張した感じで答える
「あぁ、良かった。親子連れが他に居なかったから多分そうだろうと思ったんですけどね。あ、俺は民宿『加藤家』の鷹原羽依里です」
「あ、今回お世話になる民宿の……」
「今日からしばらく、よろしくお願いします」
その男……羽依里の説明に、二人は緊張を解き、朋也は笑みを浮かべ、渚は軽く会釈をして答える。
「はい、この島を存分に楽しんでいってください。じゃあ、近くに迎えの車を停めてあるんでちょっと待っててください」
羽依里も笑顔で答えて、駐車場の方へ歩いていく。
二人がその後ろ姿を見送っていると、楽しそうにはしゃぐ声が聞こえてきた。
「ねこさん、かわいいねー!」
朋也と渚が視線を向けると、そこには、一匹の猫を抱きかかえながら、猫に囲まれている、全身猫の毛だらけになった汐の笑顔があった。
「あー……」
「民宿に着いたら、お着換えしないとですね……」
汐の、微笑ましくも少し困った姿に、苦笑を浮かべながら御互いに顔を見合わせる朋也と渚だった。
「な、なんか、すいません」
「あはは、大丈夫ですよ。この島は猫が多いですからね」
申し訳なさそうに謝る朋也と、全然気にしていないという様子で答え笑う羽依里。
羽依里の運転する、やや車内が広めの軽自動車には、助手席に朋也が座り、渚と猫の毛だらけの汐が、後部座席に並んで座っている。
「しおちゃん、あとでお着換えしましょうね」
「はーい……」
少し困ったような表情で言う渚に、汐は少ししょんぼりとした感じで返事をした。
「娘さん、おいくつなんですか?」
そんな汐の様子をバックミラー越しに見ながら、羽依里が隣に座る朋也に聞く
「今年で5歳です」
「じゃあ、来年小学校ですか……一番可愛くて、一番大変な時ですね」
「はは、そうなんですよ。活発過ぎて大変で……誰に似たんだか」
そう言いながら笑う朋也だったが、言葉とは裏腹に、その表情は我が子の成長を嬉しく思う雰囲気にあふれていた。
「実はうちにも娘がいましてね。歳は汐ちゃんより上なんですが、うちの子もなかなかおてんばに育ってしまいまして」
朋也のそんな様子を見ながら、破顔しつつ羽依里も自分の娘の事を語る。
「……パパたち、たのしそうだね?」
「ふふふ、そうですね」
朋也が汐の事を話せば、羽依里も羽未の事を語る。
言葉では困っただの手を焼くだのと言いつつ、朗らかに楽し気に語り合うその様は、まるで愛娘の自慢合戦をしているようで、民宿までの車中は、とても和やかで明るい雰囲気で、時間が過ぎていった。