父親二人による娘談義が続く中、四人を乗せた車は長閑な道を走る。
やや平地が少ない鳥白島の風景は、開けた平坦な場所よりも、坂道や、森や山に面した光景が多く、道を進むにつれて景色がころころと変わる。
車内前方で盛り上がっている話をよそに、汐の目はその次々と移り変わる外の情景に奪われていた。
「すごいね!はたけもきも、いっぱい!」
「そうですね……自然が豊かですね」
目をキラキラと輝かせながら、興奮した様子の汐に、同じく外を眺めながら笑顔で優しく答える渚。
汐と同じく、自然がしっかり息づいている島の様子を微笑ましく想っているようでもあり、また、それを見て嬉しそうに楽しそうにしている、愛する娘の姿を見て、喜んでいるようでもあった。
「……この島の皆さんは、本当にこの島を愛していらっしゃるんですね」
まるで無意識に、感じたままの気持ちが口から出たかのように、渚がぽつりと呟く。
同時に、彼女の脳裏には、自分達が住む街の事が思い出されていた。
年月を重ねる度に、開発計画や、住民の増加などで、日々変化していく自分達の街。
けれども、そこに住む人達には、そんな自分達の街を大切にする想いが確かにある……感じられる。
渚は、それと同じ物を、この島と、此処に住む人達の様子から、感じ取っていた。
「ん?……えぇ、解りますか。この島に住んでる皆、不便だなんだと文句言ったりしてますけど、この鳥白島が好きなんですよね。俺は、元々は島の外から来た人間なんですけどね……俺も、今はこの島が大好きです。良い島ですよ」
渚の呟きが偶然耳に入ったようで、御互いの娘の話で熱く朋也と語り合っていた羽依里が、そう答える。
「……色々あっても、生まれたところとか、家族で住んでるところってのは……特別で、大切ですよね」
羽依里の言葉を聞いて、少し物思いに耽ったかのような表情で、朋也が言う。
「そうですね……俺なんかは、この島と島の皆に救われたようなものですからね。やっぱり、特別で大切……ですね」
朋也の言葉に、今度は羽依里も同じような表情をして返す。
「……パパたち、こんどはむずかしいかおしてる?」
「ふふ……そうですね」
朋也が語った言葉に含まれているその想いを察し、また、朋也と同じような表情を浮かべる羽依里を見て、二人ともが、それぞれの今いる場所を大事に想っているのが伝わってきて、渚は嬉しそうに笑顔を浮かべていた。
「着きましたよ、この家が民宿です」
一軒のやや大きな古民家の玄関前で車を停めると、羽依里はそう言って車のエンジンを切った。
「荷物とかをここで降ろして、中に入って待っていてください。その後俺は車を戻してきますんで」
「はい、解りました」
そう言って羽依里、次いで朋也が車から降り、トランクの方へ積んである荷物を降ろし始める。
「しおちゃん、わたし達も行きましょうか」
「はーい!」
その様子を見て、渚と汐も車から降りる。
それとほぼ同じタイミングで、古民家の中から何やら音が聞こえ出し、次第に大きくなっていく。
「あー……」
その音を聞いて、苦笑いを浮かべる羽依里。彼が玄関の方へ目をやった瞬間、勢いよく玄関が開いて音の主が姿を現した。
「いらっしゃいませ!ようこそ『加藤家』へ!」
羽依里以外の全員の視線も声の方へ向けられると、そこには、玄関先で仁王立ちになって、朋也達の方へ大きくお辞儀をする羽未の姿があった。
「こら、羽未……家の中で走るなって言っただろ?」
「お、お客さんを待たせたら悪いじゃないですか!お父さん!」
たしなめられて少しばつが悪そうにしながらも、胸を張って正当性を主張する羽未。
「……まぁ、そういう事にしておこうか。じゃあ、俺は車を戻してくるから、お客さんを中に案内してあげてくれ」
苦笑いしつつ、本気で怒っている訳でもない様子の羽依里は、やる気満々と言った様子の羽未に仕事を頼む。
「はい、任せてください!皆さん、どうぞこちらへ!」
父親の手伝いが出来るのが嬉しいのか、少し興奮したようなはしゃいでいるような様子で、羽未が朋也達を中に案内しようとする。
その様子を見て、朋也と渚の表情にも思わず笑顔が浮かぶ。
「じゃあ、お願いしようかな」
「そうですね、よろしくお願いしますね?」
「はい!」
そんなやり取りの中、不意に汐が羽未に近づいて上目遣いに眺める。
「……おねえちゃん、よろしく?」
「お、おねえちゃん……!」
それなりに周辺の島の中でも、人口が多い方である鳥白島とはいえ、なかなか羽未より年下の子供は居ないのが現状である。
そんな中で、汐からお姉さん呼びされた羽未は、普段あまり無いシチュエーションに、恥ずかしそうに、けれどもまんざらでもない感じで、照れた様子を見せる。
「そ、そうです、羽未お姉ちゃんですよ、よろしくお願いしますね!」
「えと……うしお、です、よろしくね?」
「……きゅん」
小首を傾げながら自分の名前を言い、自己紹介をする汐の姿を見て、ときめくような擬音を口にしながら胸を抑える羽未。
「……羽未、そろそろお父さん車を戻してきたいんだけど……」
そんな微笑ましい二人の様子を眺めて笑いながら、少し困ったように羽依里が言った。