夕飯時、民宿『加藤家』の食卓に様々な料理が並んでいる。
「魚でも肉でも大丈夫っていうから、とりあえず今日は魚にしてみたよ」
「すごいな、これは」
「しろはさん、料理の腕も凄かったです」
朋也は豪勢な魚料理に驚き、渚はしろはの料理を間近で見て、その腕の良さを興奮気味に話す。
「しろはは料理上手だからなぁ」
「おかあさんの作るご飯は、どれも美味しいんです!」
羽依里がそう言い、羽未はまるで自分の事が如く胸を張る。
「ふふふ、ありがと。皆、冷めないうちに食べてね?」
『『『いただきます!』』』
全員の声が重なる。
「……おいしい!」
まず声を上げたのは汐だった。刺身を一切れ頬張ってもぐもぐと口を動かしている。
「どれどれ……うん、確かに美味い」
「この島で今日獲れた魚の刺身だから、市販の物とは全然違うんだよ」
朋也が舌鼓を打つのを見て、自慢気に語る羽依里。
「なんで羽依里が偉そうに言うの」
そんな羽依里に苦笑いを浮かべながら突っ込みを入れるしろは。
「お二人は、とっても仲が良いんですね」
その様子を見て、ふと食事の手を止めて渚が言う。
言われて羽依里としろはは、御互いに顔を見合わせ、照れた様に答えた。
「でも、一番最初に出会った時は、最悪の出会いだったんですよ」
「そうだね。あの出会いから、まさかこんな事になるなんてね」
そう言って、同じように意味深な笑みを浮かべ、微笑み合う二人。
その表情を見た朋也は、ただの仲が良い夫婦のやり取り以上に、自身にも身に覚えがあるような、延々と二人の間で積み重ねてきた『何か』があるような、そんな、あるはずの無い懐かしい印象を受けた。
「あの……良ければ、どんな出会いだったのか、聞いても良いですか?」
朋也の横に座っていた渚が、おずおずと、でも好奇心を抑えられないという感じで聞く。
今度は二人とも苦笑いを浮かべて答えた。
「夜のプールでしろはが泳いでるところに、俺が偶然出くわして……」
「恥ずかしかったから早くどっか行ってほしくて、思わず「どすこい!」って言っちゃって……」
「どすこい、って……相撲のアレ、じゃないですよね?」
話を聞いていた朋也が疑問に思った事を尋ねる。
「あぁ、うん。えっと……確か、貴方を駆逐したい、とか、そんな意味だったっけ?」
「う、うん……そう」
意味を確認する羽依里に、昔の事だが思い出してばつが悪くなったのか、自然と目をそらして答えるしろは。
「……ど、どこをどうしたらその馴れ初めから、夫婦にまでなるんですか!?」
「えっと……色々と愛をはぐくんで?」
「そ、そんな恥ずかしい事なんで言う!?」
「いや、なんで夫婦にって言われたしさ……違ってたか?」
「あ、いや……違わ、ない、けど……」
(……羽依里さん、結構天然なのか?)
(ラブラブです……すっごいラブラブです)
さらりととんでもない事を言う羽依里に、慌てたり真っ赤になって俯くしろはを見て、朋也と渚は言葉に出さないで、胸の内に留めつつ、感想を述べる。
だが、子供達にはそんな配慮は存在しない。
「おねぇちゃんのおとうさんとおかあさん、なかよし?」
「そうですよ、とっても仲良しです!」
「ちょ、ちょっと羽未ちゃん!?」
物凄く勢いよく汐に答える羽未に慌てて声を掛けるしろは。
「そうなんだ!でも、パパとママもなかよしなんだよ!」
「え?」
「あ……」
誇らしげに語る汐。何か嫌な予感を感じ声を上げる朋也と渚。
無邪気な子供の純真な一言は、今度は話の流れを逆方向に傾けるきっかけとなる。
「そ、そういえば、岡崎さん達は、どんな馴れ初めだったの、かな?」
まだ頬を赤くしているしろはが、ややしどろもどろになりつつも、朋也と渚の方へ話を振る。
「そうだな。俺達も話したし、もし良ければ聞いてみたいな」
羽依里も何故だか楽し気にしろはの言葉に乗っかる。
「え、えぇっと……ど、どうだったっけ?」
「ど、どうでしたっけ?」
逆にあわあわとし出した朋也と渚に、とどめの一言が放たれる。
「パパとママの……なれそめ?しりたいな」
「汐!?」
「しおちゃん!?」
若干、期待を含んだ、きらきらとした目で両親を見つめる汐。
その視線を痛いほど感じ、観念した朋也が口を開く。
「……馴れ初めっていうか、出会い、っていうか……俺と渚が通ってた高校の通学路の途中の坂で、渚が「あんぱん!」って叫んでる所に出くわしたのが、出会いっていうか……」
「はい……」
語る朋也と、それに頷く渚。
一瞬時が止まったような雰囲気になる。
「え、えっと……どすこい、みたいに何か特別な意味が?」
「い、いえ!あの、食べると美味しい、餡子の入った、あんぱんです!」
「……通学路の途中で?」
「は、はい……俺もびっくりしましたけど」
完全に攻守逆転した形で、羽依里としろはが質問し、渚と朋也がそれに答える。渚は恥ずかしさのあまり、真っ赤になってしまっている。
「と、朋也くん……とても恥ずかしいです」
「諦めろ、渚。流れとは言え、汐がああ言った時点で俺達の負けだ」
「?」
当の汐は、大人達が何故恥ずかしがったり照れまくっているのかが解らず、首を傾げて眺めている。
対してその横に居る羽未は、何度もうんうんと頷きながら、ニコニコと、照れ恥ずかしがる大人達を眺めていた。
「はぁー……汐ちゃんのおとうさんとおかあさんも、うちのおとうさんとおかあさんに負けないくらい、ラブラブなんですねぇ……」
「うん!」
しばらく二組の夫婦の様子を楽しんだ後、胸の前で手を組み、目を瞑ってしみじみと言う羽未に、汐は満面の笑みで元気に答えた。