「準備しておいてもらっておいてなんですけど、本当に良いんですか?」
「えぇ、普段は漁師の方々の手伝いをしたりしてますけど、本業は民宿運営ですから」
助手席で申し訳なさそうにしている朋也に対し、羽依里は笑って答え車に刺さったキーをひねる。
エンジンが音を立てて動き出し、羽依里と朋也、そして後部座席に座った渚と汐を乗せた車が小刻みに揺れ出す。
「歩いて散策するのも良いですけど、汐ちゃんも居ますしね」
「……じゃあ、お言葉に甘えさせてもらいます」
ちらりと汐の方を見てから、羽依里に小さく会釈する朋也。
当の汐はというと、その様子を見てきょとんとしている。
「ええと、じゃあまずは子供にとっては一番嬉しいだろう所から……良いですかね?」
「はい、お願いします」
朋也の返事を聞いた直後から、アクセルを踏み込まれた車のエンジン音が徐々に大きくなり、四人を乗せて颯爽と走りだした。
十分ほど走った後、車は一軒の店の前で停車する。
通行の邪魔にならない様に端の方に止められた車から降りた羽依里達に、夏の強い日差しが容赦なく降り注ぐ。
「ここは……駄菓子屋ですか?」
「えぇ、島で唯一の駄菓子屋です」
「おかし、いっぱいある?」
羽依里と朋也の会話を聴いて、心なしか目を輝かせて汐が二人に問い掛ける。
「うん、この店は駄菓子から土地の権利書まで何でも揃えてるからね」
「……あの……駄菓子屋、ですよね?」
「ははは。まぁ、中に入って店の看板娘に聞いてみてください」
「は、はぁ……」
おかしそうに笑う羽依里と、半信半疑な表情の朋也と渚、そして楽しそうな汐が連なって店に入ると、奥の和室から、長い水色の髪をした、駄菓子屋にはやや不釣り合いな洒落た洋服で着飾った女性が出てきた。
「いらっしゃーい……あら、羽依里じゃない」
「やぁ、蒼」
蒼と呼ばれた女性は、土間になっている商品が並べられているスペースへ、靴を履いて降りてくる。
「今日は今うちに泊まってくれてるお客さんを案内してきたんだ」
「あぁ、民宿のね。こんにちは、この駄菓子屋の看板娘の空門蒼です。よろしくね」
羽依里から事情の説明をされた蒼は、朋也達三人の方へ向き直って挨拶し、綺麗にお辞儀をする。
「どうも、岡崎朋也です」
「岡崎渚です」
「うしおです」
朋也と渚が挨拶を返し、汐がぺこりとお辞儀をして、二人の真似をして挨拶をすると、蒼の動きが止まる
「……か……か……」
「……か?」
蒼の謎の呟きに怪訝そうな表情をする一行。
「かわいいぃぃ!」
「!」
次の瞬間、蒼は汐に駆け寄り、きらきらした目で汐を間近で見つめる。
すると汐は一瞬身体をびくつかせた後、逃げる様に渚の後ろへと隠れてしまった。
「おい蒼……」
「あ、あははぁ……ごめんごめん。驚かせちゃったわね」
ジト目で見る羽依里に、苦笑いを浮かべる蒼。
「な、なんか……明るい人だな」
「そ、そうですね」
朋也と渚は思わず苦笑し、汐は渚の後ろからちらちらと蒼の方を窺っている。
「コホン……ええっと、最初に言ったように、ここは駄菓子屋……って言っても、普通の駄菓子屋とはちょっと違うわね。釣り具とか、キャンプ道具とか、何でも大体揃ってるわ」
「えっと……土地の権利書とかも?」
「あるわよ、今だと手頃な中では……山田さんちの畑が売りに出されてたわね」
「本当にあるんですか!?」
「えぇ」
蒼の説明を受け、冗談半分で朋也が聞くが、即答されて思わず渚が驚きの声を挙げ、朋也も呆気にとられる。
その様子を見て面白そうに羽依里が笑う。
「……って感じです」
「マジですか……冗談だと思ってましたよ……」
「ま、昔からこの島で続いてる駄菓子屋だしね。島に関わる大抵の物はあるわ」
「おー……おかしも、ある?」
そう言って誇らしげに胸を張る蒼。その説明を受けて、まだ渚の後ろに隠れ恐る恐るという様子ながら、感心したような声を挙げて汐が蒼に問い掛ける。
「えぇ、そりゃ駄菓子屋ですもの。今時のから古いのから、沢山揃ってるわよ。色々と見てみると良いわ……ね?」
「……うん!」
今度は怖がらせない様にと、やや距離を取り、優しい笑顔でウインクを一つして、蒼がそう言うと、汐はゆっくりと渚の後ろから出てきて、笑顔を浮かべて答えて、お菓子の置いてある棚の方へ走っていった。