「ママ、パパ、これなーに?」
「お、これ……昔父さんが俺によく買ってきてくれたやつだな、まだあったんだ」
「じゃあ、これかう!」
「それじゃあ、しおちゃんとパパとママと、三人分買って食べましょうか?」
「うん!」
岡崎家が棚に並んでいる駄菓子を選び楽しんでいる。
そんな微笑ましい光景を少し離れた店の奥側で、羽依里と蒼は眺めていた。
「あの子、汐ちゃんって言ったっけ?とっても可愛いわね……羽未ちゃんと同じくらいかしら?」
はしゃぐ汐の様子を眺めながら、蒼がニコニコと微笑む。
「んー……確か羽未より少し年下だったと思う」
「そっか……あたしも、羽未ちゃんや汐ちゃんみたいな子供が欲しいわねぇ」
「蒼なら美人だからその気になれば引く手あまただと思うんだけどな」
その言葉に、蒼は少し顔を赤くする。
「えっ、ちょっ、だめよ……いくらあたしが魅力的だからって、あんたにはしろはってものが」
「おーい、誰も俺が相手になるとは言ってないだろうが」
「何よ、ノリが悪いわね……もう少し冗談に付き合いなさいよ」
手をチョップの形にして蒼の頭を軽く小突きながら羽依里が言うと、蒼も破顔して答える。
「ま、あんたが独り身なら悪くないとは思ったりしちゃったけど……」
「ん?なんか言ったか?」
「……あ、あぁっ、いえ、別に何も言ってないわ!」
小声で呟いた事を聞きとがめられ、思わず慌てて首を振る蒼。
「いや、しろはは幸せ者だなぁって、ちょっとね」
「?」
蒼の言葉を受けて、まるで疑問符を頭の上に浮かべているような表情の羽依里。
そんな羽依里の表情を見て、少し困ったような笑みを浮かべて蒼は続ける。
「ま、どっちにしても、あたしには当分無理よ。藍の事があるもの」
「あぁ……そうだったな」
明るく言う蒼とは対照的に、答える羽依里の表情は少し暗い。
「こらこら、何あんたが複雑な表情をしてるのよ、そういうのはむしろ立場的にあたしがするものでしょうが」
「そりゃそうだけどさ」
「……あたしにしてみれば、藍が元気になってくれた事が何より嬉しいんだから」
そう言って笑みを浮かべる蒼。
「藍ね……今、調子いい日は、店番したりもしてるの。昔じゃ考えられない快復ぶりよ」
「そうなのか……なら良かった」
「うん。だから藍の身体がもっと良くなるまでは、あたし自身の事より藍の事を優先してあげたいわ」
「そうか」
宙を見つめて嬉しそうに微笑む蒼の様子に、羽依里も笑顔を浮かべる。
「……でもさ、蒼?」
「なに?」
「お前今幾つだったっけ、そろそろ適齢期とかぶべし!?」
羽依里が何事か言い終える前に、いつの間にか削られたかき氷の山が羽依里の顔面に飛んでくる。
「あんたと同じ年ですぅー!近所のおばちゃんみたいなことを言うなぁぁ!」
「何をするんだいきなり!?」
「乙女の心をえぐろうとした罰よ!」
「乙女って……いえ、何でもありません」
何かを言おうとした羽依里だが、蒼にすごい形相で睨まれて思わず言葉を引っ込めて目をそらす。
「それに……ここのおばあちゃんも、もう歳でね。駄菓子屋を蒼ちゃんに譲りたいって凄く頼まれちゃってね。あたしと一緒になるなら、駄菓子屋を一緒にやってくれる人じゃないとね」
「蒼って、押しに弱いもんな」
「う、うるさいわね」
まだ顔に残っているかき氷の残骸を払いながら言う羽依里に、蒼は声を荒げる。
「でもまぁ、そんなおばあちゃんの頼みを聞いてあげたいって思う辺り、面倒見がよくて、気が回って優しい、蒼らしいなとは思うけどな」
「え?あっ……そ、そうかしら……えっと、ありがとう……」
急に褒めるような物言いをする羽依里に、顔を赤らめて俯く蒼。
羽依里はそんな蒼の肩をポンッと叩く。びくっとする蒼。
「……蒼」
「あっ……は、羽依里……?」
名前を呼ばれて、やや上気した顔を上げる蒼に、羽依里はにっこりと笑みを浮かべ。
「……そのちょろいとこ直さないと、いつか誰か悪いやつにだまされないかすごく心配」
「あんたねぇぇぇぇぇ!」
蒼の絶叫と謎の轟音に、駄菓子屋を楽しんでいた岡崎家の三人が思わず振り返ると、そこには全力投球し終えた投手のような格好の蒼と、顔と上半身に大量のカキ氷用の氷を付けて倒れている羽依里の姿があった。