──辻斬・
不意打ち闇討ち騙し討ち、爆殺暗殺謀殺復讐から報復制裁まで何でもござれの多種多様な殺意をこれでもかとぶつけられるPvP推奨ゲーム──それが通称『幕末』の正体だ。
ログインの隙を狙って天誅。
ログボ確認の隙を縫い天誅。
特に理由はないけど天誅。
経験値足りないから天誅。
謂れの無い怨みから天誅。
サイコパスしか居ねーのかって程に言語機能を殺傷力に変換している連中ばかりのおおよそ初心者に優しくしようと考える者は居ないゲームだが、ログイン天誅で辞めるようなら大丈夫。「やり返してやる」と考えてからが本番なので。
──そこまでやって罪悪感は無いのか? ないです。だって天がやれって言ったから。
そんなエリートぼっち専用ゲーム『辻斬・狂想曲:オンライン』、みんなもやろう! ウチも……やってるんやからさ(暗黒微笑)
などと言いつつ、機器を被って早速起動。これは、しがないRTA走者の一幕──。
……要するに次のRTA走る前の準備運動として体を慣らそうってだけです。
……はーいよーいスタート(食い気味)
──幕末江戸をモチーフにした箱庭型オープンワールドの一角を、二人の少女が歩いていた。
片や長身長髪、10人中9人は美人だと評価するような美少女。片や低身長の長髪、だいたい同じ評価をされそうな
背低い方は私だよ(迫真ネカマ部)
「そういえばさあ、君の名前の『RTA』って語源があるの? なんか変な名前だけど」
「私としてはお嬢の『
私RTA走者だから、『
「なにそれ」
「昔から流行ってるジャンル」
RTA知らんのか……と思ったけど、パソコンとかいうレトロ機器でレトロゲームのRTAやってんの古今東西探しても私含めて片手で数え足りちゃうからまあ、多少(の知識不足)はね?
「──それで、わざわざ僕と共闘結んで何しようってのさ。あいつ(くいっ)にリベンジするの手伝ってくれるの?」
「レイドボスさん倒そうかなって」
「僕フレに呼ばれたから帰るね^^」
「おっ、待てゐ!」
踵を返して全力ダッシュで逃げようとしたお嬢の脚にタックルを食らわせて転ばせる。
える知ってるか、軸足の膝を無理やり曲げると人は転ぶ(あたりまえ体操)
「
「いや誰だって逃げるからね!?」
「何をそんな嫌がるのか……まあ確かに『倒す』は言いすぎたかもしれない」
「とか言いながら膝を可動域越える方に曲げるの止めてくれっていててててて!!」
だってお嬢が逃げようとするから……。ヒールホールドで押さえつけられているお嬢は地面をタップして降参の意を示す。
「今は祝日とはいえ平日の昼手前なのでランカー勢はほとんど居ないけど、さっき風の噂でレイドボスさんが居るのは確認してるんだよね。そこで私とお嬢で、一太刀浴びせるなどをして良い勝負をするわけですよ」
「……だから?」
「めっちゃ正当にイキれるよ」
「特にメリットじゃなくない?」
でも普段からお嬢イキってるじゃん。べらべら喋ってるうちに後ろからケツ掘られてる──じゃなくてバッサリ天誅されてるじゃん。
「じゃあ勝てたらラーメン奢ってあげる」
「味卵とチャーシューは?」
「好きなだけ盛って良いぞ」
「何をぐずぐずしてるんだ、行くよ
「お嬢さぁ、手に掘削機でも付いてるの?」
ウキウキで立ち上がるお嬢は、私を置いて歩いて行く。それに追従して隣を歩きながら、二人で作戦を練りつつ城下町エリアへと向かった。
──城下町エリアのど真ん中に、ポツンと少年が一人。美形ゆえに見方によってはショタというよりロリに見えるが、私のネカマセンサーがショタ判定を下しているので男だろう。
「なんだよネカマセンサーって……」
「孤島で培われた杵柄ってやつよ」
「はぁ……シ
「シャンフロねぇ。私やってないんだよね」
「えぇ、勿体ない」
シャンフロ。シャングリラ・フロンティア。プレイ人数三千万人超えの神ゲー。……らしいけど、私はプレイしていないんですよねー。
多分そういう方向に現を抜かしてたら『レトロゲーマー』なんて呼ばれてないのよ。
「僕は元々向こうでPKやってたんだけど、色々あって辞めてからとあるクランの外道にこのゲーム勧められてさ」
「そいつに人の心は無いのか?」
「この間のイベントでも酷い目に遭ったよ」
「へぇ、そいつイベントに居たんだ。私はイベントの時は逆にプレイしなくなるから、上手いことすれ違ったのかな?」
私は平日の夕方や土日にどっぷり且つわりとガッツリ幕末をプレイしてるけど、件の外道某はイベントの時にしか出てこないらしいので私とタイミングが合わないのだろう。
イベント時はんにゃっぴ……なんでか知らないけどよく狙われるんですよね。あと皆して殺気立ってるから雰囲気がね……。
「その外道ってシャンフロだとなにやってるの? 見た目はどんなん?」
「鳥頭でー、体に傷があってー、半裸でー、体に亀裂が入って炎が溢れてー、電気を纏って超高速移動する。あとたまに鮭頭になる」
「私いまモンスターの説明されたの?」
「プレイヤーの説明をした筈だけど?」
今の説明のどこにプレイヤー要素があったんだ……シャンフロってそうなのー?
「あとこの前も、人間の限界を超えた速度で空中で五芒星を描きながら巨大ドラゴンの角へし折ってたらしいよ。僕は見てないけど」
「やはりモンスターなのでは?」
「プレイヤー……だよ、うん」
ちょっと不安そうにしてんじゃねえよ! 本物の人切りのクセに弱音吐きやがってよ、明朝の日差しのように(逆ちんちん亭)
──などと言いつつ、インベントリから刀を取り出して腰に吊るしてレイドボスさんの前に躍り出た。私とお嬢の姿を視認すると、その男受けしそうな顔に反した無機質な瞳を向けてくる。
「それじゃあ手筈通りに動いてよ、お嬢」
「
帯刀した柄に手を添える──わかりやすいまでの挑発をしつつ、更に接近し、レイドボスさんの意識が自身の腰の刀に向いた瞬間。
「──いざ、散ッ!」
お嬢は路地裏に、私だけがレイドボスさんに接近する。目測10メートルで遮蔽物は無し。
レイドボスさんは確実に刀ではなくリボルバーを引き抜くだろうが──と考え、残り数メートルの所で突如として真横の家屋から一人のプレイヤーが飛び出してくる。NPCを経験値にするついでにレイドボスさんから隠れていたのだろう。
「──女子供とて容赦はせん! 悪く思うな天ちゅ「金的ぃー!!」けぴゅ」
擬音で言うなら『ズドン!』あるいは『ドゴォ!』か。私が美少女アバターを利用する理由の一つは一般的心理で「子供を、しかも女の子を殴るなんて……」という躊躇いを作れるからだが、もう一つは……小柄ゆえに狙いやすいのだ。
男という生物学上の明確な急所を。
ゲーム内で股間へのダメージによる痛みまで再現しているのは孤島くらいだろうが、
『殴られて発生したダメージ』以上に、『股間を殴られた』という事実が重要なのだ。
結果として、目の前のプレイヤー兄貴は私のグーパンチで面白いくらいに隙を晒している。なんならレイドボスさんも僅かに内股になっている。わかるよ……(マリア様)
「その隙が命取り──天誅!」
「おぎょっ」
プレイヤー兄貴が握っている打刀とは別の脇差し二振りを腰から奪い取り、膝を足場に跳躍して首に突き刺す。頭上で逆立ちしたままブレイクダンスするように体を捻り、プレイヤー兄貴の首を切り離して体力を全損させた。
ちなみにリアルで男の股間にグーパンチなんてしたら最悪の場合生殖機能壊れちゃ^~うので、しないようにしようね。
では改めて戦闘開始。
ゆっくりプレイヤー兄貴をサッカーボールのようにレイドボスさんに蹴り飛ばし、まだ使える脇差し二振りを手に走る。
レイドボスさんは生首──ゆっくり兄貴を避け、右手で刀の柄を握りつつ、接近してくる私に左手で掴んだリボルバーを向けた。
そして発砲。
「弾避けのコツは──」
目線、銃口、引き金の指っ!
引き金が引かれるギリギリまで銃口と相手の目線を気にして、最終的にどこに弾が飛んで来るかを予測して射線から体を外す!
「へえ、いいね、やるね」
ダン!ダン!ダン! と連続して更に3発。
2発を避けて、かわし切れない1発が来そうな辺りに脇差しを添える。刀身の腹に直撃して、左手の脇差しが砕け散った。ついでに右手の脇差しを5発目を発砲しようとしているレイドボスさんの左手に投擲してリボルバーを弾く。
そのまま肉薄すると、柄から離した右手でもう一丁のリボルバーを掴んで発砲される。
咄嗟に肘で銃口を逸らして顔を狙ったそれをずらすが、破裂音が鼓膜を叩いた。
「貫手ぇ!!」
貫手をレイドボスさんの首に放つも、体を横に反らして避けられ──
「ア゜ーッ!(内なるひで)」
刹那の判断で勢い良く首を曲げて回避。感覚的に右の耳たぶが吹き飛んだと思うけど、その程度で動揺するほどやわではない。
……け、ど、も。まさかあの一瞬でメニュー操作をして三丁目を取り出すとは。確か得物を握りながら小指で操作も出来るんでしたっけ。
「……はぇ~」
「うん、うん。いいね」
『レイドボスさんがあなたの動きをいいねしました』ってか。まああの「いいね」は「意外と避けるなあ」のいいねだろうけど。
尤も、私とてタダでレイドボスさんのオモチャにされるつもりもない。お嬢の仕込みが済むまでの時間稼ぎと誘導はこなさせていただく。
とんとんとステップを踏んで距離を取りつつ、左手を鞘に添えて親指を鍔に置いた。
「もっといける? いけるよね」
「はい? ──────ぉ」
ホルスターにリボルバーを納めたレイドボスさんは、左手で刀の鯉口を切り……ぞわりと背筋に濃密なまでに『死』が過った。
ほぼ精髄反射で右に跳び────ぴっ、と
「……やべーい」
「早くいこう。早く。早く」
なんてことはない。私が視認できない速度で接近し、抜刀した。それだけ。避けなければ私は今頃『り/た』になっていたことでしょう。
まさか、アバターの状態ですらついしてしまう
錆びきった刀身の獲物──錆光の鈍い反射光がほんの一瞬煌めくのを合図に、8割の勘と2割の経験で避けて行きましょう。
レイドボスさんは見た目のわりにかなりステータスが高いので、距離を取ったら先程のような超速接近&居合が飛んで来ます。
だから、避けながら例の場所に向かう必要があったんですね。錆光はクリティカルが発生すると例え鉄板だろうが紙を破くより容易く切断して見せるため、刀で防ぐのは悪手です。
逆にクリティカルではない攻撃になると即座に破損するのでわざと腕を叩き付けてクリティカル発生をずらして破壊するテクニックがありますが、私の成功率は3割ほどなのでやりません。
レイドボスさんの腕がぶれ、ひゅんと一閃飛んで来る。半歩下がり、上半身をずらし、もはや『線』としか言えない錆光による攻撃を避ける。こうして見ると、かませ扱いされがちな糸使いのワイヤー攻撃ってシャレにならないっすね。
ザリザリと摺り足で地面を擦りながら半歩ずつ下がり、レイドボスさんの当たれば最後な煉獄を捌いて行く。
例の場所に近付くのを気取られないようにしつつ、お嬢が来るのを待ち──きた、きた、来てんだろ! 待ちかねたぞ、少年!(乙女座)
「釜蓋天誅ァーッ!!」
そんな声と共に、上から影が落ちてくる。ゴウ! と空気を押し出して、超重量と共に、一人の少女が落下してきた。
「……それだけ?」
「失敗するのは折り込み済み!」
「隠れろお嬢!」
ズン……! と地面に釜の蓋が突き刺さった。ゲーム内の数少ない破壊不可オブジェクトであるそれをバックステップで互いに避け、レイドボスさんと私たちの間に隙間を作る。蓋の裏に隠れて、私とお嬢は感動的な再会を果たした。
「仕込みは? というか来るの遅すぎでしょなぁに油売ってたのさ」
「君らの戦いに首を突っ込めない他の連中が僕を狙ってきてたんだよ!」
ヒューッ、モテモテじゃん。
可愛いね♡ 仕事しろ(切実)
「まあ全員返り討ちにしたし、倉庫は開けておいたよ。レイドボスの後ろ数メートルが目標だし必要な銃もその辺に落としておいた」
「完璧だな……ここまでチャート通りだとガバが恐いぜ。私この手の前科あるからさ」
「変なこと言わないでよ」
こないだ好感度でガバったり想定外のキャラ登場とかやらかしたからさぁ……。
長話をしているとレイドボスさんが痺れを切らすので、お嬢にアイコンタクト。頷いたのを確認して、同時に腰の鞘から刀を抜く。
「──最終ラウンド行くぞぉぉぉぉぉ!!」
「ラーメン味卵チャーシュー特盛ぃぃ!!」
「……らーめん?」
掛け声に見せかけた欲望を叫ぶのはレイドボスさんですら困惑するのでNG
ともあれ両サイドから飛び出し、同時に仕掛け──ると見せかけて私だけ急ブレーキをかける。二人まとめて切り捨てる算段を立てていたのだろう錆光の軌道は、小柄の私と長身のお嬢を両断するために逆袈裟に振るわれていた。
「先ず一本!」
「──へえ」
本来ならまず私を切り裂いていた錆光をクリティカルにならない角度で受け止めたお嬢の刀とかち合い、錆光は呆気なく砕け散る。
インベントリから別の錆光を取り出す速度が早かろうが……私が組み付く方が速いッ!
「悪質タックル!」
「うっ」
小柄同士で威力に欠けるがしかしてタックルを食らわせれば隙は作れる。
ただし問題はここから。レイドボスさんは刀一本にリボルバー二丁のオールラウンダーだが──ここに格闘技術も加わるのだ。
──レイドボスさんは倒れず、踏み留まる。いやちょっとうせやろ
「おごぉ!?」
勢いが削げた瞬間に膝が腹にめり込む。
更にもう一発めり込み、ついでに後頭部へと肘打ちが入ってスタンする。服の背中を掴まれて横に転がされ、お嬢が駆け寄りつつレイドボスさんに斬りかかるも、既にメニュー操作で二振り目の錆光が装備されて抜刀していた。
「不味っつっつぅお」
なんて? と無意識に聞き返しそうになるお嬢の声。風切り音しか聞こえない『線』の斬撃をギリギリの所で避けているようだった。
私もRTAやってる時はちょくちょくそんな声が出るので小馬鹿には出来ない。
「……あ、これ行けるな。
──お嬢時間稼ぎよろ!」
「ああああああ!?!?」
やるなら今しかない。立ち上がってレイドボスさんとお嬢の横をすり抜け、何故か城下町中央に点在する眼前の倉庫に向かう。
「それ貸して」
「あば」
家屋の近くに置かれていた桶に突っ込まれていた火縄銃を取ろうとしていたプレイヤーの両腕を切断し、返す刀で首を飛ばす。
誰に撃とうとしていたのか知らないが既に導火線に火が点けられており、あとは引き金を引くだけ。狙うは一点、花火倉庫の中!!
「もろとも消し飛べ──!」
発砲。そして即座に踵を返して脱兎の如く逃げる。止まるんじゃない! 犬のように駆け巡るんだ! 兎なのか犬なのかハッキリしろ。
遅れて聞こえてきた鼓膜どころか全身を叩くような破裂音と衝撃。ボン!だのドーン!だのと派手に火薬が爆発している。
逃げてきた私──の後ろの花火倉庫を見て、レイドボスさんは一瞬だけ硬直する。
その隙に左腕がパージされたお嬢を掴んで……ほんの十数秒の間にもう死にかけてるとかもう少し頑張ろうか……雑念混じりに地面に突き刺さった釜蓋の後ろに隠れ、直後、一際大きな爆発音と共に熱と衝撃が辺りにバラマキされた。
被害総額は110弱でしょうね……。
「……っあー死ぬかと思ったァ!」
「全くだよ…………なにその頭」
「アフロ。ってあちちちちち」
異
「これでレイドボスも倒せたのかな」
「げほっ、いやぁ、倒せてなかったらもう策がないので逃げるしかないっすね」
「銃で爆破出来なかったらどうしてたのさ」
「松明投げ込めばいいじゃん」
「なにがなんでも爆殺するつもりなのか……」
レイドボスさんを倒すためだけに花火倉庫爆破。まあ
「…………ん?」
──他のプレイヤー……?
「あ!(小林製薬)」
「えっちょっとなんなの」
「……多分倒せてない」
「は?」
釜蓋の向こうの煙が晴れて行く。私の推測が正しければ、レイドボスさんは倒せていない。
基本的に『俺達の勇者』込みの100人規模でも倒せるかどうか怪しい人を我々二人で倒せるとも思っていないがそういう話ではない。
プレイヤーの死体は消えるまでにタイムラグがあり、消えるまでなら文字通りの肉盾にすら利用できたりする。塵も積もればなんとやら。あの場に居た数人のプレイヤーの体力を素早く全損させて積み重ねた死体の裏に隠れたとしたら──
「僕はレイドボスが爆風すら切断出来るとか言われても信じられるよ」
「やりそうっていうかやれそうだけど怖いこと言わないでくれます……?」
固唾を飲んで煙の向こうを見守る。完全に晴れきった先にあったのは、辺り一面が消し飛んだ焼け野原と、死体の山を足場に私たちを見下ろす多少はダメージが入っているレイドボスさん。
「──これ無理だぞ」
「…………化物じゃん」
だからレイドボスなんて呼ばれてるんだよなぁ……。いやしかしこれ目測でも体力3割減ってないでしょ、なんちゅう判断力じゃ。
たんっと地面に降り立ち、左手にリボルバーを、右手に錆光を握るレイドボスさんは、小柄な見た目に反してギラギラとした殺意を向けてくる。その瞳孔はかっ開いていた。
「こうなったら
「卑劣な作戦はやめろ」
と言いながら、釜蓋から身を乗り出して刀を構える。どうせ天誅されるなら最後までみっともなくあがいてやらんこともない。なぁに両腕が切断されても柄を咥えて振ればよいのだ。
「いざ、南無三──! ……お?」
両足に力を入れて地面を蹴ろうとした瞬間、レイドボスさんは動きを止めた。こちらに注意を向けながらメニューを開いて何かを確認している。時間か? 確かにそろそろ正午だけども。
「…………ここまで」
「はい?」
「お昼ごはん。そろそろ時間」
「あー、はぁ、なるほど」
微妙にラップを刻むな。とか突っ込んだら首が飛びそうなので黙っておく。どことなくムッとしているような気がするレイドボスさんは、私とお嬢をじっと見て一言呟いてから消え行く死体の山を足場にその場から消えた。
「またやろ」
「あまりにも嫌すぎる……」
「僕たち完全に狙われたね」
「しかしご飯が理由とは案外レイドボスさんも可愛いところがあるんだなぁ」
「そうだね。僕なんて食事の時間すっぽかすから自炊しろって怒られてるのに」
「自業自得なんだよなぁ」
私ですら妹と二人で当番制にしてるっていうのにこのイキりお嬢様と来たら……。
「しかし不完全燃焼って感じの顔だったね。辺りは完全燃焼してるけど」
「おっ、上手いじゃん。味卵一個」
「えっもしかしてラーメンのトッピングの数ってそれで決まる感じなの?」
「それでもいいけど?」
「勘弁してよ……」
あははうふふと笑い合う。はぇ~……まるでハッピーエンドみたいだぁ……。まあ、本当の地獄はここからなんですけどね初見さん。
「──おどりゃレトロゲーマー! 京極!」
「うわ出た」
「ほら来た」
刀とは別に鍬を肩に担いだ男プレイヤー、『
鍬に乗せた花火で遠距離攻撃をしてくるやべーやつにして──何を隠そうこいつが花火の補給をしている場所が花火倉庫なのである。
そして今しがたそこは爆発した。音を察知してやってくるとかコンゴウかなんか?
「俺の花火倉庫を爆破しやがったすっとこどっこいはどっちだオラァン!?」
「いや君のじゃないでしょ」
「こいつがやりました」
「…………え?」
フラバンにツッコミを入れたお嬢を速攻で売ると、お嬢は間を置いて私を見る。
なんですかその目は……まるで私を味方だと思っているような顔はやめなされ。
「ほぉー、そうかお前か
「──!? いやいやいやいや、僕じゃないけど!? 実行犯はこいつ!」
「だったらテメーの足元にあるそれはなんだぁ? 決定的な証拠じゃねえか……」
「足元?」
指差したフラバンの指を辿り自分の足元を見るお嬢は──
『銃で爆破出来なかったらどうしてたのさ』
『松明投げ込めばいいじゃん』
「っ──!! 既に用意していた……!?」
「
「意義あり!」
「却下!」
モンテ族並のスピード裁判やめろ。
松明からフラバン、そして私を見ようとしたお嬢は、荒げた声を尻すぼみさせる。
「
「レトロゲーマーならお前が足元を見た隙に逃げたぞ。さあ京極……覚悟しろ」
残念私はもう居ない。
残された左腕が無いお嬢と、意気揚々と手持ちの花火に点火して鍬に乗せるフラバン。
裏切り? とんでもない。パーティ申請をしたわけでもないのだから、フレンドリーファイヤだってされるし、隙を見せれば後ろから刺される。これは元々そういうゲームなんだよ。
──だから、土壇場で裏切られないように、お嬢に信頼される必要があったんですね。
「──
「
「ふーざーけーるーなー!!!」
「消し飛びやがれぇぇぇ!!!」
長屋エリアまで逃げて部屋に押し入りセーブとログアウトをする寸前、お嬢の叫び声と花火の爆発音が聞こえたが、きっと気のせいだろう。許せお嬢、ラーメン自体は今度ちゃんと奢るから。
──ヘッドギアを頭から外すと、意識と思考、視界が現実世界に戻ってくる。
まだちょっと膝蹴りと肘打ちの鈍いダメージが残っているような気がするけど、孤島をぶっ通しでプレイしてた時の後遺症程ではない。
切れ味が鈍い石斧で腕を切断された時の痛みと、なんとか生き延びた際の幻肢痛が響き、ログアウトしたのに激痛に苛まれた時は流石に暫くプレイを控えたものだ。
腕があるのに腕を切断された痛みがジクジクと残り続けるあの感覚は言葉にし難い。
他にも手頃な大きさの石で顔面を殴られたり拳銃が頬の肉を内側から吹き飛ばす時の痛みが残ってて固形物食えなかったことありましたねぇ! 今思えばだいぶ危うかったんやなって。
「──ふぃー、準備運動にしては暴れすぎたな……RTA始める前に水分補給しないと」
本人ですら忘れそうになっていたけど、レイドボスさんに喧嘩を売ったのはこれから始める別ゲーのRTAの為にVRに体を慣らすためだったのだ。つまり負ける前提で動いていたわけです。なんか上手いこといい勝負出来ちゃってたけど。
お嬢には悪いことをしたけどまあ、『騙して悪いが』をしなかった私はまだ良心があるということで。ゲームで悪人プレイって苦手なんですよね。選択肢があると必ず善人プレイしがち。
「こりゃ暫くログインできないな」
個人用のDMに鬼のようにメッセージが溜まっていくのを見ながら独りごつ。
ラーメン奢るって言っちゃったし、お嬢をこっちに呼ぶか私が京都に向かうかと考えながらタブレットを机に置いて部屋を出る。
──水分補給とゲームソフトの入れ替えを済ませて、ゲーム内での録画の準備も終わらせ、チャートを頭の中で反芻させる。妹は遊びに出掛けてるし、夕方まで戻ってこないとなれば、それまでには終わらせられるだろうと想定。
「さて……やるかあ」
ヘッドギアを被り直し、数十年前に完結した漫画原作の最新ゲームのフルダイブVR版という中々に混沌としているジャンルを起動。
意識が再度電脳世界に飛ぶ、夢を見る直前のような感覚を覚えながら、寝言かあるいはうわ言のように──言葉が口を衝いて出る。
「──はーいよーいスタート」
そして、RTAが始まった。
『レトロゲーマー』『黒い
・
本作の主人公にしてまちカドまぞくRTAとがっこうぐらしRTAの走者。城下町の花火倉庫を爆破してレイドボスを倒そうとしたが失敗。
昼食を理由に見逃されたあと、
・
本作の被害者。龍宮院という有名な家の娘でリアル剣道少女。実力はあるのだが幕末では上の下。言動がイキり気味で調子に乗っては痛い目に遭っている。原作ではランカー同士の戦いに突っ込まされて長屋ごと爆破された。
『
・フラバン
本作の被害者。鍬で花火をぶん投げてくるやべーやつ。リアルではミリタリーオタクだが幕末の妖力に誘われてしまっている。
花火倉庫爆破の罪を擦り付けられた京極を追い回すが、暫くの間犯人が違うことには気付かなかった。気付いていたとしても、それはそれとしてとりあえず京極を狙うだろう。
『レイドボス』
・ユラ
幕末世界最強のショタであり、原作主人公にすら幕末のエンジン下で勝てる気がしないと言わしめた堂々のランキング一位保持者。いわゆるサヴァン症候群的な人で、特定の分野(VRゲーム)にのみ天才的才能を発揮できるタイプ。