※今回ほうれん草は出ないし爆発もしません。
「はーいよーいスタート」
そんなルーティンを呟いて、早速と幕末にログイン。さくっとログイン天誅を捌いて金目のモノと予備の刀を強奪し、ログボを確認して城下町エリアを歩いていると、なんとなく団子が食べたくなったのでお店に向かうことにした。
NPCが居るのと『針千本』の気配が感じられないので安心して購入して長椅子に座る。味はんにゃぴ……正直美味とは言えないですが、VRゲームはだいたいそんなもんなので多少はね?
「──あれ?
「君は──『鮮血』の
「ハルですけど……!?」
「ん? 間違ったかな……」
ウソだよ(偽MUR)
団子を食べてる私に近寄ってきたのは、殺戮……ではなく『銭鳴』ハルちゃん。
私が
「ハルちゃん、一応聞いておくけど、君は私の中身が男なの理解してるよね?」
「それが地声なのは分かりますが」
「なのに私の事『
「ガワが可愛いなら問題ないのでは?」
「アハン……(Tehu)」
これが
「ままええわ。折角だし団子食べたら? おじさんが奢ってあげるよゲッヘッヘ……」
「どうせ天誅して手に入れたアイテム売ったんでしょ……タダなら食べますけど」
ストンと隣に座って注文を取るハルちゃん。それと渾身のおじさんRPを無視するのは普通に傷付くのでやめるんだ。
「ハルちゃんはこういう菓子類好きなの?」
「まぁね、特にみたらし。おはぎならきな粉かな~、砂糖醤油に付けた餅も好きだけど」
「はぇ~、私もみたらし好きだぜ。おはぎならつぶ餡たっぷりの奴だけど……昔のアニメのせいで一時期針の混入を警戒したなぁ」
「それ知ってる! なんだっけ……『ツクツクボウシのなく頃に』……?」
「予想の斜め上の間違え方やめろ」
タイトルはタイトルでもセミの種類で間違えた人見たの初めてだわ。
そんな会話も程々に、改めて注文したやつとハルちゃんの団子が届いて食べ進める。
幕末にしては嫌に平和だなぁ等と考えているが、これフラグでもないんだよね。
屋根の上と来れば……アイツか。3個連なる最後のみたらし団子を一口で食べ、投擲武器にもなる串をピンッと弾いて地面に落とす。
一瞬、静寂。
二本目の団子を手に取ったハルちゃんがこちらを見た──瞬間、向かいの家の奥から、屋根を跨いで団子屋へと無数の何かが降り注ぐ。
「ぐえーっ!?」
ハルちゃんを横に蹴飛ばして、私もまた反対に倒れるように距離を取ると、長椅子とその周辺にスココココン! と幾つもの刃物が突き刺さった。打刀、小太刀、鉈、短刀などが私とハルちゃんが座っていた位置を貫いている。
「私の団子ーっ!!」
「また奢るから!」
ずしゃあっと地面を転がり、砂まみれになった団子は無情にもポリゴンとなって消滅する。
立ち上がり見上げた先にいたのは、腰に幾つもの
「よく避ける」
「やはり『刀雨』だったか……」
「そういうお前は『レトロゲーマー』か。あとついでに『銭鳴』」
「つ、ついで……!?」
片手でインベントリを操作しながらそう言う男性プレイヤー、『刀雨』グラビ帝。二つ名の由来は読んで字のごとく、リスキルや闇討ちでかき集めた刀剣をぶん投げてくるからである。
なんでも物理学関係に強いらしく、奴は落下の軌道を計算して投げているのだ。
「二つ名持ち同士、やることはひとつ」
「──仕方ない、やるぞハルちゃん」
「えっ私も戦う流れなんですこれ」
だって私たち……仲間だろ?
えっお嬢? 瞬間瞬間を必死にイキってる線香花火がなんですって?
──ともかく、装備を入れ換えているグラビ帝を見つつ刀を抜き、ついでにその辺に突き刺さっている短刀を二本回収する。私に習い慌てて刀を抜いたハルちゃんを一瞥し、グラビ帝は腰の鞘にある刀の鯉口を切りながらポツリと言った。
「レトロゲーマー、あんたの動画は全部見てるし広告入れて高評価もしてあるぜ」
「そりゃどう──もっ!」
ひゅひゅん、と飛んできた刀を片手の短刀二本を投げて迎撃する。
接近しながら打刀を引き抜いて壁に突き刺し、それを足場にして屋根に着地。グラビ帝と相対すると、ハルちゃんが後ろから追いかけて登ろうとしているのを尻目に口を開く。
「いざ──
──天誅」
屋根の上にて、刀を煌めかせ──激突。高速インベントリ操作で適当な刃物を取り出し、グラビ帝の投げる刀剣とかち合わせる。
空中でぶつかり衝突し運動エネルギーを失ったそれらが地面へと落下する。
後ろで屋根にようやく登ってきたハルちゃんに向けて飛来する小太刀を腰の鞘を振って打ち落とし、二対一の状況を作る。私とハルちゃんを見てグラビ帝が取った行動は──逃走。
「おっ、待てゐ!」
「うわっ屋根の上歩きづらっ」
「悪いが直接戦闘は苦手でね」
そう言いながらグラビ帝は後ろを見ずに宙に刀を投げそのまま走るが、投げられた刀は放物線を描き、追従する私とハルちゃんに直撃するコースで落下してきた。
「──チッ!」
「うわわわっ!」
刀を振って、ガギィと音を立てて落ちてきた刀を弾く。後ろでもハルちゃんがなんとか弾いていた。グラビ帝は隣の家に向かって跳躍しながら、頭と足を天地逆に向けつつ私たち目掛けて両手に束のように掴んでいた短刀を投擲する。
「あ、ぶ、ねぇっ!!」
「ぎゃ────っ!!」
握っていた打刀を投げて一部を散らし、羽織を脱いで短刀の軌道上に投げ付ける。
短刀のうち数本は羽織に突き刺さり地面に諸とも落下したが、残りは背後のハルちゃんに殺到し──うわ避けたすげぇ。
軟体生物というか、まるで猫ちゃんみたいだぁ……
グラビ帝と同じように隣の家の屋根に飛びながらインベントリ操作で刀を取り出し、カッカッカッと下駄が瓦を叩く音を聴く。
──ぶっちゃけ、奴の
よって、グラビ帝の全力を引き出しつつハルちゃんと一緒にぶっ倒します。そもそも二対一じゃんだって? それはそれ、これはこれ。
「──『刀雨』! 全力で来な!」
「──いいだろう……!!」
「──私は帰りたい」
徳川様逃げては駄目ですよ。
たかがゲーム、されどゲーム。負ければ全てを失う以上、幕末における賭けは基本的に全額ベットがデフォルトなのである。
とうとう逃げることをやめたのか立ち止まったグラビ帝は、なにやら帯をその手に握っており──家の裏手に延びているそれを引っ張り手繰り寄せると、現れたのは大量の刀の鞘を無理やり一纏めにした……なに、この……なに。
「えっなにそれは……」
「幕末もまたVRという特性上、実際に出来ることは大体再現できる。あとはSTRを上げてしまえば──投げられるっ!!」
「ちょっ、
なるほど、つまりは無限一刀流か。頭ミフネかよ……と言っている暇はない。
鞘から射出されたように天へとすっ飛んだ大量の──何本あるかも数えるのが馬鹿らしい刀が不規則に降り注ぐ。こいつ……ランダム性を上げて避けづらくさせてやがる……!
「本日の天気はァ! 晴れ時々剣林弾雨!」
「ここで仕留める──ハルちゃん!」
「場違い感凄いけど天誅ーッ!!」
屋根の瓦を貫き砕き直ぐ側に突き刺さる刀の雨を避け、既に第二射──次の刀の束を振りかぶるグラビ帝に肉薄する。刀の間合いに入る頃には既に投げられており、グラビ帝の体は私の跳び蹴りで空中に投げ出された。
「ぐおっ──!」
「そっ首叩っ切る!」
追従して跳躍し、空中のグラビ帝に追い付かんと加速する。しかし、グラビ帝はその手に投擲用の小太刀を握っていた。
「空中で避けられるか? レトロゲーマー!」
「──ふ、グラビ帝……いや、刀雨。お前さん、あの子の二つ名を忘れたのか?」
「なに──づっ!?」
バチィン! と、突如として飛来した何かが、小太刀を振りかぶるグラビ帝の手に直撃する。天を見上げれば降り注ぐ幾つもの刀。その視界の奥で、避けるか逃げるかしか出来なかった少女──『銭鳴』ハルが、その指で小銭を弾いたのだ。
「漁夫の利は、好みじゃないけどね」
「────見事」
「ストナ──! サアァン──シャイイン!!」
縦一文字に一閃。
落下の勢いが加わった一撃は、『刀雨』グラビ帝の体を両断した。着地した私は地面に次々と突き刺さる刀の雨を横目に呟く。
「──虎眼流に流れ星なる秘剣あり」
「
「幕末は真ゲッターみたいなもんやし」
幕末において数では圧倒的に劣る維新志士達が使った手段でね、まずは飛んで逃げるんじゃ。正確には逃げるフリをするんだよ。
敵は当然追ってくるけど個人差で
そして斬られる寸前で幕末オープンゲット。その後に幕末ゲッターチェンジで合体し、力づくで一人ずつ一掃するという技だ。
冗談みたいだけどこれ意外と使えるんだよね。
「いつだって維新志士の若い命は、
「あなた維新志士じゃないでしょ」
一拍置いて落ちてきたグラビ帝の死体と多少の回復アイテムが散らばるが──思ったより刀のドロップが無かった。おそらく攻撃にほとんどを注ぎ込んでいたのだろう。
「はぁ……なんかどっと疲れた。私そろそろログアウトするけど、
「私は……どうだろ。もう何人かに喧嘩売ってから派手に爆発しておこうかな」
「なんで?」
人生太く短くって言うじゃん?
導火線もそれくらいで丁度良いのさ。
「……まあいいや、それじゃあね
「ハルちゃん?」
言葉が不自然に途切れ、不審に思い振り返る。
すると、ずるり……とハルちゃんの胴体から上が滑り落ちるように地面へと落下した。その背後に、錆光を振り抜いた──レイドボスさんが立っていてギラギラとした目を私に向けている。
「ジオン……じゃなくてハルちゃんーっ!」
「やっと会えた。会えたね。早くやろ」
「そういえば前回から日付空いてたな」
もしかしてあれからずっと決着つける為に徘徊していたのか……!? どうする、体力はほぼ満タンだけど疲労感があるしさっさとリスポーンして終わらせて寝たい所さんなんだけど。
──わざと負けるか。
「……あほくさ」
耐久値が減少している手元の刀を捨てて、近くに刺さっている刀を引き抜く。わざと、負ける? そんなことをしていいのは、詰みセーブをしたと気付いて萎えたときだけです。わざと負けるなんて、そんなもんあほくせーんです。
「──負ける前提で戦うなんてナンセンス。全力を以て、全霊を出しきり、本気で挑む。掛け金は何時だって────全額ベット!」
「──いいね」
ギィ、と、レイドボスさんの口角が歪む。地面に刺さる幾つもの刀剣を避け、稲妻が如くギザギザと直角に動く。レイドボスさんの錆光は鍔迫り合いすら許容しない必殺の剣。
しかして、幸いにも
「シィィィッ!!」
縦横斜めと刀を振るい、避けるレイドボスさんが返す刀で錆光を振って私の握る打刀を半ばから両断する。それを横に投げ捨てて別の一振りを引き抜き、ガンガン行こうぜと攻めて行く。
どうせ自分の物では無いためにどんどん刀を使い潰します。下から掬うように刺さっている刀身を叩いて跳ね飛ばし、片手で太刀を引き抜きつつ逆手で振るう。それすらも避けるレイドボスさんに、小太刀を投げてから別の打刀を浮かせて柄頭を思い切り叩いて勢いよく飛ばす。
──全部避けるやつがあるか!
「不規則。いいね。次、次、次」
「ええい欲しがりめ!」
その辺に武器が落ちてるこのシチュエーション、まるで
──うががががーっ!(木々の隙間からマスケット銃でヘッドショットされた記憶が甦る音)
「ギア上げてくぞオラァ!!」
ギア上『げ』ての部分でダンッと踏み込む。
打刀を上段から振り下ろし、避けられるのを見越して右足を刺さった小太刀に向けて蹴りながら引き抜き、足に引っ掻けてハイキックと同時に刀身を顔面に叩き込まんとする。
「──ふぅん。面白いね、こうかな」
「は────お、ごぇ」
ハイキックを体を反らして避けたレイドボスさんが、ひゅん、ひゅっ、と錆光を振るう。空気を裂いて迫る鋭い切っ先をなんとか避けた私の腹に、不意にずどんと何かが突き刺さる。
それは器用にもレイドボスさんが足の指で握っていた短刀だった。ヤクザキックのような前蹴りのリーチに加わった短刀の刃先が深々と腹にめりこみ、体力が減少して行くのがわかる。
「く……ぉあっ!!」
「しぶといね」
「ぎっ」
肩でタックルするように突き放して短刀を腹から抜き投げ捨て、打ち合う度にポキポキと両断される打刀の残骸を捨てては地面から抜く。
しかして数字で言えば一回りほどステータスに差がある以上、持久戦ではいずれ私が負ける。悔しいが、単純なプレイスキルの時点で私にはレイドボスさんに勝つ見込みは無かったのだ。
ギャリリリッ! と音を立てて手に握っていた小太刀と錆光の間で火花が散り、もう抜かせねえとばかりに蹴り飛ばされて『刀雨』がばら蒔いた刀の墓場から引き離される。
「……あー、くそ、もう手札がねーです」
「──結構楽しかった。またやろ」
「それは普通に嫌です……」
折れた錆光を取り換えながら接近してくるレイドボスさんを横目に、インベントリから花火玉を取り出して足元に並べる。
「ん?」
「どうせ死ぬなら派手に逝きてぇ……という事で、悪役RPの真髄を見せてやろう……!」
火打石を取り出して、導火線に当たるようにカシュッカシュッと擦り火花を飛ばす。
引火するのを確認してから、項垂れるように首を下に向けてレイドボスさんに言う。
「爆発する前に──やれい!!」
「──派手だね」
「ふん……この私がやられようと、やがて第二第三の私がいつか必ず、貴様の体に一太刀浴びせてみせるだろう……っ!!」
「ん。待ってる」
きらりと錆光の鈍い反射光が顔に当たる。導火線が半ばまで燃え尽きた辺りで、レイドボスさんが私の首を撥ね飛ばした。
「夜は焼肉っしょー! ぐわあああああッ!!」
直後、断末魔を掻き消すような爆発音。
まるで特撮のラストのように、負けた私の死体は木っ端微塵に吹き飛んだのだった。
──後から聞いた話だが、ちょっと期待していたレイドボスさんへの爆破ダメージは見た感じ0だったらしい。……泣けるぜ。
『刀雨』グラビ帝
・かき集めた刀剣を屋根からぶん投げてくる今回の敵役。物理学関係に強く、落下の軌道を計算しながら投げるためかなり厄介。
『銭鳴』ハル
・指で銭を飛ばしたり指を鳴らして猫騙しをしたり反響音をソナーのように使える今回の被害者。グラビ帝と
『レイドボス』ユラ
・前回の続きを