興味本位のままで創作しているため、投稿予定は未定となっています。
アナハイムの社運を賭けて製造された本機であるが、同時に歴史の闇の生き証人とも呼べる存在であった。
そして今、ゼブラゾーンでの試験運用を経て、シルエットガンダムはアナハイムの工廠に戻ってきた。
月に存在するアナハイム本社にある兵器工場。その一角の格納庫に1機のMSが安置されていた。このMSの名前はRXF-91。またの名をシルエットガンダムと言った。
元々、RXF-91はMSの小型化の開発競争で遅れをとったアナハイム社がサナリィから非合法の手段によって入手したMSのデータを基に開発されたMSである。
そして、完成したRXF-91は他のアナハイム社が開発した小型MSと共にゼブラゾーンで試験運用を行っていたが、ここで予想外のアクシデントが発生した。
未知なるMSとそれを率いる謎の集団・クロスボーン・バンガードとの遭遇と戦闘、だが、これはRXF-91の戦闘データを欲したアナハイムの上層部、地球連邦軍、クロスボーン・バンガードの三者によって予め仕組まれていたものであった。
その後、全ての出来事は事故として処理をされ、アナハイム本社に帰還したRXF-91は本社の兵器工場の格納庫に保管されることになった。
格納庫の中で佇んでいるRXF-91。そんなRXF-91を1人の男が眺めていた。この男はRXF-91の担当を務めるエンジニアであり、元々、RXF-91の担当を務めていたアイリス・オーランドの後任である。
アイスドールとも呼ばれていた若き優秀なエンジニアのアイリス、ところが、ゼブラゾーンでの一件以来、突然、アイリスはアナハイム社を辞めてしまったのだ。
アイリスだけではない。アナハイム社のテストパイロットのケビン・フォレスト、同社に出向していた連邦軍のトキオ・ランドールもそれぞれ、アナハイム社と連邦軍を辞めてしまったのだ。
優秀な若い世代が次々とアナハイム社と連邦軍を辞めていったこと、さらにセブラゾーンでの試験運用に関わったスタッフ達が何も話そうとしないこと、これらことはRXF-91に関して何かきな臭い事件が起こったことを示唆するのに十分であった。
「ついてないよなぁ……俺もお前も」
RXF-91を眺めながら嘆息するエンジニア。RXF-91に何か血生臭い一件があった以上、このMSが表舞台で活躍することはないだろう。同時にそんなMSの担当に回されたことはこのエンジニアが閑職に回されたことを意味していた。
「よお」
そんな時、エンジニアの後方から何者かが声をかけてくる。連邦軍の制服に身を包んだ長身の男、この男は連邦軍に所属する軍人であり、同時にエンジニアの長い付き合いの友人でもあった。
「何だ、お前か……」
「随分な言い草だな。浮かない顔をしているが、何か悪いことでもあったのか」
「悪いどころか最悪だ。これから、俺はこのお荷物の面倒を見なくちゃいけないんだからな」
溜め息交じりにエンジニアは言う。お払い箱となったMSの面倒、技術者としてこれほど屈辱的なものはない。
「これがRXF-91……シルエットガンダムか……」
そう言った後、じっくりとRXF-91を眺める連邦士官。何か戦闘があったのか、RXF-91は顔や胸部に損傷個所が見られるものの、修理をすれば十分に戦闘運用が可能な状態であった。
「なかなか悪くないMSだな」
「確かにな。機体性能自体は悪くない。むしろ優秀だと言っても良い。だが、こいつが日の目を見ることはないだろう」
「せっかく開発した高性能機なのに勿体ないな」
「ああ、そう思うさ。……それよりも何でお前はここに来たんだ?」
「そうだった!お前に話しておきたいことがある」
「話しておきたいこと?」
「RX-99……ネオガンダムの連邦軍への納入が白紙になったそうだぞ」
「何だと!?」
連邦士官の言葉に驚きの声を上げるエンジニア。RXF-91の開発データを用いて開発されたRX-99……通称ネオガンダムと呼ばれるMS。本来であれば、主力MSとして連邦軍に納入されるはずであった。
「おかげで今やアナハイムの工場のあちこちで新型MSの設計・開発が行われているそうだ」
エンジニアに現状を語る連邦士官。RX-99の軍への納入が白紙となった結果、RX-99に代わる次期主力MSの開発が急がれることは当然のことであった。今やアナハイム社ではポストRX-99の開発競争が起こっていたのだ。
「このMSの開発競争……お前はどうする気なんだ?」
「俺には関係のない話だな。俺はこいつの面倒を見なきゃいけないからな」
「そこだよ。お前の担当しているRXF-91を活用して、さらなるMSに生まれ変わらせるんだよ」
「何だと?お前、正気か?」
連邦士官に真意を問うエンジニア。果たしてお蔵入りになったMSにそんなことができるのか。
「ああ、正気さ。機体性能自体は悪くないって言っただろ。さらなる改良を施せば、より強力なMSに進化するはずだ。そして、俺とお前が組めばそれができるはずだ。……それでどうなんだ?」
「……」
連邦士官の提案に沈黙するエンジニア。その沈黙は同時に連邦士官の提案を受け入れたことを意味していた。こうして、2人によるRXF-91の改修案の作成が始まった。
RXF-91の格納庫付近にある研究室。彼等はコンピューターの画面に表示されたRXF-91のデータを閲覧していた。RXF-91の機体構造、カタログスペック、各種装備のデータがモニターに表示される。
「これがRXF-91についてのデータだがどう思う?」
「……率直に言おう。これからRXF-91を改修する上で今装備されているヴェスバーは不要だ」
「おい!それは本気か!?」
ばっさりと切り捨てる連邦士官に対し、驚きを隠せないエンジニア。RXF-91にとってヴェスバーは最強の火力を持つ武装であると同時に必要不可欠な装備でもあった。
「まあ、待て」
そう言ってエンジニアを宥めた後、制服の胸ポケットからデータパックを取り出す連邦士官。そして、連邦士官は取り出したデータパックを作動中の別のコンピューターに挿入する。
やがて、データパックが挿入されたコンピューターのモニターには映像が映し出される。そこには1機のMSの姿が映し出されていた。
モニターに映し出されているMSの名前はF-91、RXF-91の基となったサナリィ製のMSである。しかも、F-91はクロスボーン・バンガードと呼ばれる集団のMSと交戦していた。
「これは……」
「知り合いから貰ったサナリィのF-91の戦闘記録だ。何かの参考にと思って持ってきた」
エンジニアの問いに平然とした口調で語る連邦士官。連邦士官はF-91とクロスボーン・バンガードのMSの戦闘に立ち会った連邦軍関係者から極秘裏にF-91の戦闘記録の映像を入手していたのだ。
「これを見てみろ」
連邦士官がエンジニアに指し示す。連邦士官が指し示した先、そこではモニター内のF-91がヴェスバーを発射している姿が映し出されていた。そして、F-91の発射するヴェスバーはビームシールドを容易く貫き、さらにはコロニーの外壁さえも貫通していた。
「今のRXF-91のヴェスバーにこれだけの攻撃力があるか?」
「い、いやない……」
連邦士官の質問に呆然とした口調で答えるエンジニア。映像のF-91に装備されたヴェスバー、RXF-91に装備されたヴェスバー、両者には攻撃力の面において大きな開きがあった。
単なる攻撃力だけではない。扱い易さの面においてもRXF-91のヴェスバーはF-91のヴェスバーに及ばなかった。
「これで分かっただろう。今、RXF-91に装備されているヴェスバーは所詮オリジナルの紛い物に過ぎない。もしも、F-91のヴェスバー以上の装備がなければ、RXF-91に生き残る道はないな。後は倉庫で朽ち果てていくだけだ」
「ああ、そうだな……」
そう言って考え込むエンジニア。確かに既存のヴェスバーを撤去した上、それに代わる代替装備が必要であるが、そうそう簡単に開発できるものではない。現行のRXF-91のヴェスバーにしても、アナハイム社の優秀なエンジニア達が苦心して開発したのだ。
「ん?待てよ……」
不意にエンジニアはあることを思い出す。確かにRXF-91のヴェスバーはF-91のヴェスバーに及ばないものの、だからと言って、アナハイム社がヴェスバー以上の装備を開発することができないということにはならなかった。
「確か我が社ではF-91のヴェスバー以上の装備を開発することに成功していたはずだ」
「ああ、知っている。RX-99に装備されていたものだな」
エンジニアの言葉を聞いて思い出したように言う連邦士官。アナハイム社が開発したRX-99に装備された主力武装、正式名称はGenerative Beam Rifle Device、通称G-B.R.Dと呼ばれている装備であった。
「G-B.R.Dの技術を活用したヴェスバーを開発できないか?」
「本気でそれを言っているのか?G-B.R.Dはあれで完成された装備のはずだ。何故、わざわざヴェスバーとして導入する必要がある?」
「ああ、本気だ」
連邦士官を真っ直ぐ見据えた状態で語るエンジニア。さらにエンジニアは言葉を付け加える。
「確かにG-B.R.Dは攻撃力の面では申し分ない。さらに本体にサブフライトシステムとしての推進器やバーニアが搭載されていることも魅力的だ。だが、G-B.R.Dは携行装備としては些か大型過ぎる。あれでは敵の攻撃で破損する危険性が高いだろう」
G-B.R.Dの問題点について自分の考えを語るエンジニア。以前、RX-99の図面を閲覧した時、大型化したG-B.R.Dのサイズが気になっていたのだ。
余談であるが、エンジニアが連邦士官に指摘した事態は過去に起こっていたものであった。かつて、連邦軍のバズ・ガレムソン大佐が登場するRX-99がクロスボーン・バンガードのXM-05Bと交戦した際、一瞬の隙を突かれてG-B.R.Dを破壊されてしまったことがあった。
「それにだ……G-B.R.Dの技術を反映したヴェスバーを装備すれば、RXF-91は攻撃力面のみならず、機動力面でも大幅に向上することになる」
「成程な。火力と機動力向上の両立か……」
エンジニアの主張に感心する連邦士官。だが、新型ヴェスバーを開発する上で問題は残っている。
「だが、G-B.R.Dの技術はどうやって手に入れる?」
「その点なら問題はないさ。RX-99の軍への納入が取り消しになったのは恐らく何かワケありなんだろう。そうなれば、RX-99の開発に関わったスタッフも今頃は冷や飯食いだろう」
連邦士官に自身の思惑を語るエンジニア。今頃、RX-99の開発スタッフが閑職に追いやられているとすれば、助力を仰ぐことはそれほど難しいことではないと考えていた。
「次は機体そのものの改修だが……新型のヴェスバーを装備することで機動力が向上するとなれば、機体本体にはそれに見合った装甲の追加が必要だな」
「そうだな」
エンジニアの同調する連邦士官。RXF-91のフレームにはRGM-109のものが使用されている。言い換えれば、RXF-91の基礎骨格は他の小型MSと大差なかった。
元々、RXF-91は最大機動した場合、機動の負荷に耐えられずに機体そのものが分解する危険性を孕んでいた。機動力を今まで以上に向上させるとなれば、RXF-91の追加装甲は必須事項であった。
「それでどこの部分の装甲を増強するつもりだ」
「まずはコックピットのある胸部だな。それから被弾しやすい肩部だ。装甲を追加する箇所を限定することで機体の重量化をできるだけ防ぐつもりだ」
連邦士官に説明するエンジニア。MSにとって重要な箇所のみを装甲を増強することにより、機体の耐久性を高めると同時に過度の重量化を防止しようと考えていた。
「やれやれ、元々、RXF-91は軽量化された小型MSだったはずなのに重装化させることになるとはな」
自分達の行為に苦笑しているエンジニア。本来、MSの小型化・軽量化を目的として開発されたRXF-91。だが、今、自分達のしようとしていることは機体の重装備化であった。これから、RXF-91は辿ろうとしている道は本来のコンセプトに逆行するものであった。
「仕方がないさ。それにRXF-91はサナリィのF-91と比較した場合、機体の軽量化という面では劣っている。それならば、違う面でこの機体の持ち味を出すしかないだろう」
そう言ってエンジニアを励ます連邦士官。そして、エンジニアと連邦士官はRXF-91の改修案について、さらに内容を深めていくのであった。
RXF-91の担当エンジニアとその友人の連邦士官によって提出されたRXF-91の改修案。その後、この改修案はさらなる練り直しを経て採用されることになり、同時にRXF-91自身にも改修案に沿った改修が施されることになった。
こうして、改修を経て生まれ変わったRXF-91。形式番号もRXF-91Aに改められ、別称もシルエットガンダム改と呼ばれるようになった。
その後、RXF-91Aはアナハイム社が小型MSを開発する上で必要なデータを収集のために運用されたと言う。だが、RXF-91A自身が歴史の表舞台に登場することはなかった。何故ならば、RXF-91そのものが歴史の闇に生きる影のガンダムであるからであった。
了
お世話になります。疾風のナイトです。
今回の作品は機動戦士ガンダム シルエットフォーミュラ91」を題材にしています。特に漫画版「機動戦士ガンダム シルエットフォーミュラ91」の後日談の位置づけになります。
プラモデルの小説では、大破したシルエットガンダムがシルエットガンダム改に改修されましたが、漫画版ではシルエットガンダム改に改修されることなく物語が終わりました。
「漫画版でシルエットガンダム改に改良されていたら?」という妄想を小説に投影しています。
最後になりますが、今後ともどうぞ、よろしくお願いします。