同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~   作:兵部省の小役人

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「白兵突撃とは地形、戦力評価、士気統制、機動力、あらゆる点において最大の注意を払ったうえで慎重に決行されるものであらねばならぬ。決して偶然の結果に大きな期待をかけ、敢えて危険を冒して実施されるものであってはならない」
――装甲擲弾兵総監部オフレッサー査閲部長の訓令(帝国歴474年)

「カイザーと天空の秩序が加護を確信し、全軍突撃せよ」
――フォン・ゴードン元帥(帝国歴360年、大親征軍後方鎮撫総司令部、ヴァンフリート星域ハルツーム要塞攻略戦において)



【著名な戦闘】ヴァンフリート4=2防衛戦(8)~タバル・ヒルの戦い(下)~

 なぜこんなことになってしまったのだろう――ゴルツ男爵はフラフラと”突撃”を行いながら考えていた。

 自分は選ばれた生まれの筈であった。コルネリアス”親征帝”により実力で選ばれた貴族の末裔だ。それなのに――

 

「い‥‥嫌だ!もう嫌だぁぁ!!」

 目をかけていた農奴管理を任せていた家宰の三男坊が悲鳴を上げて逃げ出し――後方からわざとらしく派手な音を立てて重レーザーが”ゴルツ男爵領軍”の背後を薙いだ。

 

「進め、進め――いいから、進めぇ!」

 

 引退間近の元侍従が遠征の”引退箔付”に出征するからと馳せ参じただけなのに――ゴルツ男爵は崩れかけた兵達を 咤しながらぐるぐると考え続け――胸に焼けるような痛みが走った。

 

 

「‥‥え?」

 短く構え、油断なく構えていた戦斧が何故か思い通りに動かない、何故だ、と視線を向けると何かがぶら下がっている、見慣れている筈だ、それは――自身の利き腕であった。

 右手を見る、薄い大気を埋めるかのように血が勢いよく噴き出していた、悲鳴を上げようとする、声の代わりにゴボリ、と塩辛い何かが口の中からこぼれ出る――彼の胸はブラスターで焼かれていた。

 

 ゴルツ男爵領陸戦隊は緒戦の混乱による失態を恥じ、皇帝陛下への忠誠を新たに先鋒を志願し――叛徒の強固な防衛を突破するべく勇壮に玉砕した。

「敵侵入!歩哨にあたっていた分隊は壊滅状態です!クソッ!断崖を登ってきやがった!!」

 エルヴィング隊の侵入から数分後、本部ではオペレーターがようやく裏返った声を上げている。

「遂に侵入が始まったか。敵は特殊部隊だ!あわてず武装牧師隊を回せ!

ここでつぶせば大戦果だ!」

 幕僚長がオペレーターの動揺を跳ね返す。

「正面より報告が――」

 

「閣下。前衛陣地、”二之関”より後退を開始します!!”三之関”を抜かれたら本営です!」

 

「旅団長閣下」

 基地司令部からの派遣参謀が囁く。彼は大夏天民国軍ではなく同盟常備地上軍の将校である。彼の役目はフォルベック少将以下防衛司令部の計画と前線の現実をすり合わせることだ。

「クレーベル中佐達の後退の目途について報告が来たら我々も退いてよいかと」

 

 ”転進保証人”の傘下は大変だ、とチェン准将は呻く。

 フォルベックの得意戦術は複層陣地による多層防衛、転進を繰り返し最後の最後に叩き潰す、というものだ。

 畢竟、楽をできる戦というものはないがとりわけ前衛を担うのであればこの手の作戦は神経を使うものである。

 

「クレーベル中佐に撤退の許可を、我々もここを捨てるぞ」

 チェンはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。

「――連中を押し返して、悠々とな。各隊――”二之関”防衛隊に伝達!”三之関”も放棄する!速やかに本陣に兵力を結集させよ!本営を前進させ護衛中隊も出す、白兵戦を覚悟せよ!」

 派遣参謀と大夏天民国軍の参謀が目を剝いた。

「危険です、閣下!」

「基地主力に合流するためにも戦力の温存が必要です!」

 だからこそだ、と手を振る。

「敵の目的は兵力の分散だ、防衛兵力が延びきれば設備が整っていようと浸透される。

であればまとめて相手をし、一歩も通さぬと覚悟を決めることだな!」

 

「西方の防空砲台大破ァ!対空防御火力20%低下!敵部隊捕捉の報告アリ!」

「慌てるな!所詮は捨てる陣地、被害の復旧は後だ!着実に叩き出せい!正面は一兵たりとも引き抜くな!」

「遵命!」

 銅鑼が鳴り響き、下士官と兵が駆け回る。

「白兵戦準備ィィィ!!!」

吕讷堡!(リューネブルク!)呂来!!呂来!!(奴が来るぞ!奴が来るぞ!)

 

 やがて、装甲擲弾兵達が雪崩れ込んでくる。だが機先を制すかのように塹壕から槍を構えた大夏の兵達が飛び出し、迎え撃つ。

「えぇい!死ねぇ!墨家兵法!長槍桂林陣!!」

 白兵戦を避ける為の長槍による3方向からの刺突、戦術的卓抜を示すかのようであった。

「焦るな!穂先を受け流せ!」

 リューネブルク子飼いの師団は冷静であった。そして冷静に対応できるということは――精鋭と呼ぶに足る練度を持った白兵戦部隊である、ということである。

 堅守を誇りとする正墨旗軍の兵法を白兵戦の技術を”信頼”した戦術で強引に突破してゆく。

 

「うわぁぁぁ!無茶苦茶だ!」

 若い兵が悲鳴を上げる。無理もない、数で上回り半包囲で連携した槍の刺突。それをただ戦斧と体裁きでかいくぐり、襲い掛かってくるのだから。 

 

 堅牢な槍衾をこじ開ける装甲擲弾兵を連弩から放たれた矢が貫く。

 

「白兵戦の専門でないものは連弩の周りを固めろ!動けるものは全員出撃せよ!

我等の本陣を敵に落とされるは、恥辱の限りよ!」

 

「小癪なぁ!」

 装甲擲弾兵は空気式擲弾発射機を放つ。連弩が一つ沈黙するが代償に彼も胸を貫かれ、倒れ伏す。

「突破しろ!連携して前へ進め!」

「通すな!!通すな!!」

 双方の理想からかけ離れ――なおかつ想定された悪い状況、混戦状態へと陥った。そしてゼッフル粒子下での火力は大夏側が優勢であった。

「ッ!ここは」

 リューネブルク直卒の中尉は目を見張った。古風な大天幕はがらんと片づけられた後であった。

 引き連れていた部隊は30人から十数人に目減りしている。それだけひどい戦であった。

 そこには装甲服越しでもわかる小太りの男が一人。そしてその周りを固める数名の男たち。

 来い、とでもいうかのように背もたれのない小さなベンチのような椅子に座ったまま手をちょいちょい、と動かした。

「なめやがって!」

 打ちかかると同時に男の座る椅子は跳ね上がり、足を払った。

「グワっ!」

 装甲服を纏っていても予想外の方向からの衝撃には弱い。戦斧は見当違いのところへ突き刺さる。 

「噴っ!」

 腰掛けていた椅子を斧を構える腕に“被せた”

「ハイっ!ハイっ!噴ッ!」

手首を“外された”不運な兵の戦斧は“ぬるり”と丸い男の掌中に移り

「ガフッ!?」

 そのまま奪った相手に“返却”された。

 

「ウォッ!?」

 愛用の斧を腹から生やした戦友が倒れ伏すのを見て包囲していた者たちが怯む。

「ひるむなぁ!」

 打ちかかるが今度は戦斧の柄を椅子ががっちりと押さえ込み、肘関節を椅子の脚が絡める。

「ウォッ!?」

 巨体が空中でグルリと回る、回りたくないのに関節と装甲の構造で自分もグルリと――

「憤覇ッ!!」

「~~ッ!!!」

 天幕を突き破り精兵は吹き飛ばされた。低重力であることを活かした絶技である。

「クッ……クソッ!かかれ!かかれ!」

 だが彼らは即座に薙ぎ倒された。

「旅団長閣下!ここは我らにお任せを!!」

 聖輪武装牧師隊が駆けつけたのだ。

 旅団長が無言で指差す先へ彼らはかけてゆく。

 この時点でエルビング男爵達の撤退により趨勢は決したのである。

 

 しかしながらそれはあくまで本陣の防衛においての話である。

 

 

「閣下」

 幕僚長がかけよる。

「状況は」

 リューネブルクは返り血を浴びながらも冷徹さを保っている。

「主力の後退はほぼ完了しております。前衛陣地の設備は破壊しました、もうまもなく“夜”がきます。連中の塹壕で戦う真似はしたくありませんな、このままでは酷い消耗戦だ」

 

「重火力隊は?」

 

「前進し、築城も終えています。またキチジ・パスも敵部隊が後退し、動かせる重火力隊の設置を進めています」

 リューネブルクは満足そうにうなずく。

「よろしい、火力陣地まで下がる。各連隊長に達せ」

 

 

「再編を終えたら次は陥落――いや、次はありますかな?」

 

「敵は馬鹿ではない、あそこで一戦勝利を得た上で捨てたのだ。ここももう捨てるだろうな」

 

「追撃なさりませんか?」

 

「この本陣に何を置き土産にするか――」

 左様でしょうな、と幕僚長は頷いた。

 

 自分の頭が冷えているか確かめたらしい、と分かるとリューネブルクも片頬を釣り上げた。

「こんな星だ、頭は冷えているさ」

 幕僚長は声をあげて笑った。彼は逆亡命者ではなく、オーディンの富豪の生れであり、リューネブルクと異なり諧謔を好む楽天的な男であった。

 

 

「所詮は地方軍と思っておりましたが」

 だがそういった時には先程までの笑いの残滓は消え去っている。 

 軍人としてはリューネブルクが准将の任に就いて最初の一年は苦労した運営を二年間安定的に補佐し続けた男である。

 たかが七千にも満たない兵力でこれほど粘られるとは思ってもいなかったのだろう。

 

「地方軍だとも三十年以上激戦区の、な」

 

 幕僚長は溜息をついた。イゼルローン要塞による安定から三十年、貴族将校の大量死と偉大なるオトフリート”節制帝”改革からも三十年。

 領地持ち貴族は中枢官衙から半端者は追い出され、領地軍は予備役として安寧を貪るようになり、直轄領軍は貴族に抑え込まれていた直轄領の名士や商人層が入り込み権力争いへ至っている。

 

「苦労しますな」

「あぁ苦労するとも、誰かの住まう土地に攻め込むと言うことは常に苦労が伴うものだ」

 そしてこの様子では金髪の孺子もそうだ、あ奴も地上戦の現実を思い知らされるだろう。

 

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