同盟上院議事録~あるいは自由惑星同盟構成国民達の戦争~   作:兵部省の小役人

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 ヴァンフリート兵は多くが危険な労働をしている。
 ヴァンフリート兵は多くが経済的に貧しい。
 ヴァンフリート兵はそれから抜け出すためにデブリを、遺体を漁っている。
 だからこそ、彼らとは肩を並べるべきで戦うべきではない。
 勇敢で悲壮で、時に命を軽くすることができるのだから。
「国防委員会査閲部演習企画課に宛てられた地上軍総監部運用連携課課員の覚書」


ヴァンフリート星域会戦にて『巡航艦ザクセン2の不運』

 

 これはヴァンフリート会戦の片隅で起きた出来事である。

 残念ながらこのエピソードは、歴史的には大した影響を及ぼさない。

 大規模な機密も、政治的な醜聞も、英雄も登場しない。強いて言えば幸運に恵まれた数十人のヴァンフリート市民が大金を手にした。

 その程度の話である。

 

 

「自走機雷です!」

 

「巡航艦ザクセン2機関部破損!」

 

「ええい!これだから小惑星帯の索敵は面倒なのだ!」

 フルカン・フォン・マウフェ少佐はたまらず舌打ちをした。

 ――何もかもがやり辛い、ミュッケンベルガー閣下は何故このような宙域を戦場に選んだのだ。決まっている。自軍の実情を知っているからだ。将帥にとってはこれは合理的な状況なのだろう。

 なにしろ全軍の3分の1が【政略的予備隊】として後方に拘置され、兵力そのものが不足している。

 叛徒は叛徒でこの地に要塞群を設置し、軍事貴族の領主を置いているらしい。その支援を受けた叛徒の艦隊は悪条件に苛まれるのは同じだがそれでも大筋は機能的に動いているようだ。何よりこの手のトラップが厄介である(事実と異なるが帝国軍上層部に向けた【翻訳】としては相応に工夫したものだと思われる。)

 

 このヴァンフリートとやらに攻め込んだ上層部を内心呪うくらいは許されるだろう。 

 

「機関部の修理は可能か」

 通信端末越しに整備班長が低調な口調で返す。

「3時間ほどあれば」

 あぁ,と意識して鷹揚にフルカンは頷いて見せた。ゴールデンバウム朝貴族は常に強くなくてはならない。侮りは即ち存在の否定だ。

 貴族としてふるまうのであれば兵下士官、平民出身の下級将校から好意的に見られたとしても、服従なき信頼は侮辱である。

 ――敵地とはいえ辺境貴族領の最底辺ですらない,人を拒絶したうらぶれた星域。その中でも主戦場から離れた小惑星帯内の小競り合いだ、叛徒すら近寄らぬだろう。鷹揚に度量を見せて戦列に合流せねばなるまい。

 貴族将校の仮面の下でフルカンは自身を慰める。”普通の会戦”ならよほど気が楽だ。畜生、だが批判はそのままカイザーへの批判になってしまう。

 気分を変えるために実務で何か小さなタスクを片付けよう、とフルカンは副長に意図的に過度に軍人的な口調で尋ねる。

「周囲の警戒を密に、伝令用のワルキューレは?」

 

「予備発電に回したいと整備班から陳情が出ております」

 

「やむを得ないか、中継衛星もここでは射出しても敵を呼び寄せるかトラップで妨害されるのが関の山‥‥復旧を最優先に、レーダー等で周囲の――」

 

「レーダーに感あり!2‥‥いえ、4隻!距離は……」

 だが観測手の叫び声がそのフルカンの心理戦術を即座に破壊した。あまりに近い。

 そして距離も異常に近い。艦隊戦ではあり得ない、あの叛徒軍の巨大な母艦に【奇襲】を受けた時くらいだろう。

 

「何故気づかなかった!」

 ――それは実質的に敗北に近い。ワルキューレによる迎撃に失敗したということだからだ。

 フルカンは脳内で駄々子のように泣きわめく時間を3秒与えた。

「小型艇です!奴ら近づくために動力を切ってやがった!」

 オーディンの下町育ちの観測手の口調ががらっぱちに戻っている。フルカンはそれを指摘(制裁)する暇もなくフルカンも叫ぶように尋ねた。

「叛徒の単座艇(スパルタニアン)か!?」

 

「光学映像を出します!」

 そこに映ったのは……

「作業艇……か?」

作業用のアームをくくりつけた不恰好な小型船だ。叛徒の軍用にしても奇妙なフォルムである。

 それが2隻ずつ、別方向から加速して迫ってくる。

 フルカンの脳は数度、会戦を経験した船乗りらしく、高速で回転する。

 ――畜生、単艦なのだぞこちらは!

 ――だからこそ、なのだろう。だがそれにしても感づかれるのが早すぎる。

 ――決まっている、機雷を撒いたのも奴らだからだ。

 ――アステロイドベルトで事前に配置され、観測、あるいは哨戒していた。

――つまりここ地に通じた小型船舶、それも戦闘向けではない。

 ――領邦軍か。

 フルカンの思考が終わるのとほぼ同時に“それら”は牙を剥いた。

 3本の熱線が艦を掠め、ザクセン2の艦橋を揺らす。

「対近接砲座破損!」

「くそっ!あれは“ワルキューレ ”の対艦ビームだ!」

 整備長が通信で喚く!、

 

「叛徒の武装ではないのか?」

「はい!違います!叛徒の単座戦闘艇のものなら余熱の被害がもう少し大きいかと!!」

 

「敵が加速!!」

 “作業艇”は突撃……そう,突撃を行っているのだ,とフルカンはようやく理解した。

 

「か,回頭はできないか!?」

 

「間に合いません!」

 

「近接防衛用のミサイルを撒け!近接防衛砲火!!」

 

 敵艦が加速し、さらに高熱の機雷モドキが射出された。ミサイルがかく乱される。

 今度は機関砲が発射しながら敵艦は相対速度を緩め、そして――

 

「は?」

 装甲服を改造したものを着込んだ男たちが射出された。巡航艦にとりついてくる。

 そしてもう一隻が――レーザー砲を艦橋に向け、チカチカと発光信号を送る。

 

「――解読しますか?」

 

「解読する前に降伏の信号を――あぁその前に」

 

 ――機関の修理は後回しにするように整備班に連絡してくれ

そしてフルカンは貴族将校としての人生に終わりを告げた。

 ザクセン2はその後、同盟軍により中破認定が出され、ヴァンフリート民主共和国に解体業務を委託。

 その機関部は修理され、工廠区画のエネルギー炉として再利用されることになった。

 この鹵獲に参加したヴァンフリート人民宇宙軍の将兵は報奨金の年金付きヴァンフリート革命闘士栄誉勲章を授与された。

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